死神の黙示録   作:瑠威

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  いつだって彼女を見つけるのは──
  ──手を引いてくれるのは彼だった
  


第9話

  

  左横髪だけがバッサリと肩上まで切られている私の髪。私の好きな人──彼が好みの女性はストレートロングだと言っていたから、それを聞いた日からコツコツの頑張って伸ばしていた。

 

  1歩1歩、地面を踏みしめる度に、地面にひらりと落ちていく髪を見て、本当にバッサリといっちゃったなあと思う。

 

  左だけ髪が短いなんて、傍から見たら歪だろう。私だってそう思う。他所様に見られるのは凄く恥ずかしいけれど、ベルに啖呵を切った手前、今更ヴァリアー城に帰る勇気も無く、私は現在、ヴァリアー城から片道3時間程かかる街へと降りていた。

 

  ぶっちゃけ言うと、こんな都心部の街に1人で来たことは初めてで、帰ろうにも道が分からないため帰れない。

 

  ヴァリアーの誰かに助けを求めようにも、そもそも幹部たちの携帯番号を私は知らないし、というか任務前にいつも無線が支給されるので、携帯自体持っていないというかなりの緊急事態である。勢いで飛び出して来たがために、お金ももちろん持っていないので、無一文だ。

 

  完全に詰んだなあと思う。ここに来る道中、本部の人達を気絶させてしまったので、スクアーロがカンカンに怒ってるに違いない。

 

  折角最近、元気が出てきて、それでもって私にも少しずつではあるけれど、スクアーロから話しかけてくれるようになったのに…これじゃあ振り出しに戻っちゃうかもなあと青い空を見ながら思った。…帰れるだけマシか。

 

 

「はあ、キレイな空だなー」

 

 

  とぼとぼと見慣れない街を見ながら歩いていく。暫くすると、大きな広場に出た。

 

  この街を象徴するかのような大きな噴水。その噴水の前では待ち合わせをしているのか、疎らに人がいて、カップルが話し込んだりもしていた。

 

  私1人だけ、この場に取り残されたような気がした。

 

  街を出歩いている人間の大半は、家族とお出かけ、または友人、恋人で、1人で歩いているなんて数少ない。

 

  私はその数少ないうちの1人で、なんというか…街に1人で出たのが初めてだったからかは分からないけれど、とてつもない虚無感と寂しさが胸を覆った。

 

  噴水の前に座り込む。

  自分であそこから出てきた筈なのに、何故か泣きたくなった。

 

  …スクアーロ、怒ってるかな。多分、怒ってるよね。きっと私の代わりに本部の人に怒られてるかもしれない。

 

  ベルに嫌いって言っちゃった。髪なんかを切られたぐらいで、あんなに怒っちゃって、凄く大人気ない。ベルは人に執着することないから、もう私の事要らないって言うかな。

 

  なんだろう。今、私はナイーブで、不安が私を覆い込む。やだ、暗い、寂しい、悲しい。

 

  ──彼に、会いたい

 

  私の好きな人は、彼はいつも私を救ってくれる。

  父が家に全く帰ってこなくて、それでも家で悲しそうな顔をして父を待ち続ける母が見ていられなくて、私はいつも家を出た。

 

  遅くなると母が心配するから、早めに帰るように心がけていたけれど、その当時、私は友達なんか誰一人いなくて、家の近くの草原でずっとぼーと時を過ごしていた。

 

  声をかけてくれたのは、彼からだった。どうやら私の家に用があったようで、噂程度に聞いてた私に興味を彼が持ったらしい。

 

  1人でどうしてあんなところいたんだよ、って聞かれて、遊ぶ相手がいないからと答えれば、ぼっちと揶揄われたりもした。

 

  けれど、不思議とそれが嫌じゃなくて、まるで友達との掛け合いのようなあれが出来たことに、凄く興奮して、嬉しくて、笑えば彼は笑った方が可愛いじゃん、と優しく頭を撫でてくれた。

 

  それから彼は、暇が出来た時は私に逢いに来てくれた。時にはお友達を連れてきてくれたこともあったし、彼の職場に足を運んだことも何度もあった。

 

  気がつけば、私は彼に恋に落ちていて、それを母に指摘された時、何故だか分からないけれど、更に幸福な気持ちに包まれたのを今でも覚えている。

 

  1度告白をしたことがあったけれど、子供だからと打ち合っては貰えず、日常会話の中から聞き出した彼の理想の女性に近づけるよう、日々努力をしていた。

 

  それは彼に逢えなくなっても、続けていた。だからこそ、この髪が落ちていく場面をスローモーションで見た時、絶望してしまったのだ。

 

  ベルは私の5歳下なんだから、私が大人にならないといけないのに。彼も、大人な女性がいいと言っていたし、こんなことで腹を立てる女をきっと好きになってくれる筈がないんだ。

 

  でも、ちょっとだけ、この状況が嬉しいと思っちゃったりもしている。

  私には友達がいなかったから。歳の近い子が周りにいなくて、学校に行っても大人に囲まれていた弊害からか、クラスの皆と打ち解けることは出来ず、やはりぼっち生活を満喫していた。

 

  だから、この喧嘩みたいな、状況が少し嬉しい。私が謝ってベルが許してくれるかは分からないというこのヒヤヒヤ感はもう二度と味わいたくはないけれど、それでも青春みたいなこの感じを1度でも味わえたことはきっと成長に繋がる。

 

 

「おい、体調でも悪いのか?」

 

 

  体操座りをして蹲っていたら、肩を揺さぶられた。見上げると、心配そうな顔をしたベルがいて、目を見開いた。

 

 

「…マーモンの、幻覚…?」

「は? なわけねーじゃん」

 

 

  オレ本物だし、と不機嫌そうにベルは言った。それが信じられなくて、ベルの頬を引っ張ってみれば、割かし痛そうな反応をした後、ナイフをチラつかせて来たので多分本物…だと思う。確証は無い。

 

 

「…なんで、ベルが、ここに…?」

「…それは……」

 

 

  さっきの態度とは一変して、モゴモゴと口を動かすベル。スクアーロに何処か遠くの場所にでも私を捨ててこいとでも命じられた? …いや、もしそうであれば、ベルがこんなに狼狽えることはないだろう。

 

  …では、何故?

 

 

「……それ」

 

 

  ベルはバッサリと切れた私の左横髪を指さした。これ?と私は慣れない酷く短い髪をもつ。

 

 

「悪かった」

「え…?」

「だから! 悪かったって言ってんの!」

 

 

  謝る態度ではない。

  けれど、基本的にオレ様なベルが自発的に謝ることなんて早々になくて、だからこれはとてもとても珍しいことで。

 

 

「…キレイな空だけど槍でも降るのかしら?」

 

 

  だから凄く不安になった。

 

  私の言葉を聞いたベルはカチンときたのか、口元がピクピクと動いている。折角、珍しくベルが謝ってくれているのに、私はとても失礼な反応だ。だから私もごめんなさいと謝った。

 

 

「…なんでお前が謝んの?」

「今さっきの反応、後…ベルに嫌いって言ったことにたいして、私も謝るわ。ごめんなさい」

「別に、いいけど」

 

 

  ふふふと私は笑った。

  どうやらベルは私の反応が気になるようで、少しビクビクとしていた。だいぶ、嫌い効果が効いているらしい。

 

 

「ねぇ、ベル。頼みがあるの」

 

「…本当に良かったのかよ」

 

 

  街を抜けて、ヴァリアー城に帰るために絶対に通らないといけない森で。私はベルに髪を切って貰った。

 

  肩上一直線に揃えられた私の髪は、どれほどベルが器用なのかが物語っている。

 

 

「うん。だって、ずっとあんな不恰好でいるわけにもいかないでしょう?」

「それは、そーだけどさ」

 

 

  責任を感じてるのかどうかは分からないけど、さっきからずっとベルは落ち込んでいて、本当に明日にでも台風とか嵐とかヴァリアー一斉に風邪が流行るとか、不吉なことが起きそうだ。

 

 

「ねぇ、ベル。私、髪長い方と短い方どっちが似合ってる?」

「ん? …オレは短い方が好きかな」

「じゃあ、切って正解だ」

 

 

  実を言うと、私は彼にロングは似合わないとバッサリ言われていた。彼の好みの女性になりたくて頑張っていたけれど、彼の目ではどうやら私はロングが似合わないように映っていたらしく、鬱陶しいから切れと催促されていたのだ。

 

  それをベルに言えば、一瞬固まった後に、怒り出した。

 

 

「それを早く言えっての!!」

「あはは、ごめん」

「…ったく、悩んでた時間と金返せよ」

「……お金?」

 

 

  一体、お金がどうしたのだろうか? 私がいない間になにかしたのかな? もしかして本部から賠償金とか言われてる? え、そうだったらヤバいよね?

 

 

「ま、被害は全部スクアーロに行ってるし、やっぱり返さなくていーや」

「え、私、この短時間ですごいスクアーロに迷惑かけてるわよね!? 幾ら? 幾らあげればいいかな!?」

 

 

  別に気にしなくていーってと言うベルはもうすっかりいつもの調子だ。アワアワとしている私を置いて、ベルはいつもの調子で先を行く。けれど、数歩したら止まって、ベルは振り返った。

 

 

「でも確かに、お前のあの長ったらしい髪が視界にチラチラ入ってくんの邪魔くせーって思ってたから、それぐらいが丁度いいかもな♪」

 

  ──『似合ってるぜ』

 

  声には出さなかったけど、最後確かにこうベルは口パクで言った。

  …全く、素直じゃないんだから。

 

  ニヤニヤして帰ったら、やっぱりスクアーロにドヤされました。もうこれからは、下手に本部の人を刺激しませんとスクアーロに誓い、反省文もみっちりどっしりと書いて提出した。

 

  …量が多くて暇人かと怒鳴られた時はキレそうになったけど、堪えたよ。誰か褒めて?

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