いろんなウマ娘短編   作:球磨猫

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幾つかの特殊タグを使用していますが、自分のスマホでうまく機能していないものがありました。ストーリー上の問題は特にはありませんが、もし宜しければPCの方で読んでいただければ更に楽しめるかな?と思います。(スマホ全般でで機能するかが分かっていないので…)


拝啓、初恋の君へさようなら。2度目の恋にありがとう。

 

自分がタキオンと出会ったのは、4月の初め。

トレセン学園に新人トレーナーとして入って数日のことだった。

当時、自分のような新人のトレーナーが専属のウマ娘を持つことなどはほぼなく、優秀なトレーナーやチームの元でサブトレーナーとして勉強させてもらうのが一般的だった。自分も例に漏れずどこのチームで勉強させて貰おうかと考えていた時に出会ったのが、アグネスタキオンだった。

 

最初に会った時はまぁ、タキオンらしい出会い方だった。

なんせ目を覚ましたら保健室で椅子に縛られてたんだから。そのあと少し話して実験台にされそうになったりしたが…その時は無事?に終わった。

その後も不思議なことに彼女の実験台にされそうになったり彼女の実験に巻き込まれたり………。まぁ何かと縁があった。

それからしばらくして、自分もチームリギルの元でサブトレーナーとして勉強させてもらう事が決まったのだが。

ある日、当時の会長であるシンボリルドルフに話しかけられた。

「今日の6時頃、何も言わずグラウンドに来てほしい。」

急な話だったし理由も分からなかったが、あの皇帝がわざわざ自分だけに伝えに来たからと、素直に向かってみたのだ。

 

自分がタキオンの走ったレースで1番好きなものは何かと聞かれたら、今でもこう答える。

デビュー前、芝2000m右回りのトレセン学園グラウンド。走者はタキオンと皇帝で観客は自分だけの、小さな小さな模擬レース。

 

あの時見た彼女の走りに、限界の向こう側を追い求めるその姿に。

超光速の粒子(アグネスタキオン)という光に自分は魅せられていたのだ。

 

「あぁ、あの時の君の瞳はとても狂気的な色を宿していた。」

 

レースが終わった後、ルドルフと話していた彼女に駆け寄り、モルモットにでもなんでもなってやる。だから君の限界の向こう側を共に見たい。そんな言葉をかけていた。

今になるとバカなことをしたと思う。なんせ自分は資格を持っているとはいえその年入ったばかりの新人なのだ。下手をすれば教官の行うトレーニングの方が良いことまであり得る。

 

「まったくだよ。何の薬かも確かめずに3本も飲み干すんだから」

 

無事?に彼女のトレーナー兼モルモットとなってからは忙しく短い日々だった。

トレーニングメニューを決め、ライバルやレース場のデータを集めたりモルモットとして実験に付き合ったりその被害者に謝ったり後始末をしたり…。

トレーニングに来ない日もしょっちゅうあった。今では彼女の足が弱い為だとわかっているが当時はなぜ来ないのか、自分のメニューの何が気に入らないのかと四苦八苦していた。

 

1年が過ぎ、2年が過ぎ、3年目の有馬記念を超え、URA決勝を勝ち取り……。

本当にあっという間の日々だった。

 

「あぁ、本当にあっという間だったとも」

 

有馬記念優勝、そしてURAファイナルの初代優勝者。

この称号はアグネスタキオンというウマ娘を一躍有名にした。(元々色々な意味で有名だったとはいえ)

当然、それは彼女のトレーナーだった自分にも言えることで。

彼女と出会って4年目の春、何人かの子が担当になって欲しいと自分の元に来ることがあった。当初は断っていたものの、理事長の熱意とタキオンからの賛同もあり結局は2〜3人の担当を受け持つことに。

 

 

それから半年ほど経って4年目の秋。

担当が増えれば当然1人に接する時間は減る。それはタキオンへも例に漏れず、贔屓にしていたとはいえ会う機会も以前と比べれば減っていた。

 

今に思えばこの頃から様子が変だったのだとわかる。練習に来る回数も実験台にされる回数も減り、以前のように彼女1人で考えることが多くなっていた。

冬頃になれば普段は話さない様な相手とも話し何かを調べている印象があった。

 

「…………」

 

自分はタキオンを信頼しているから。彼女が話さないなら話してくれるまで待とう。そんなことを考えていた当時の自分を殴りに行きたい。

 

「その信頼は嬉しいんだけどねぇ…。」

 

その年のクリスマスの日、彼女に誘われてデートをした。

恐らくまた実験なんだろうなとは考えはしたが……。純粋に楽しかった。

だけとも。恐らくこの日が自分がタキオンと別れることになる日だったのだろう。

デートコースは彼女が考えたにしては随分と甘い物だった。朝早くに集合し、水族館に。昼はショッピングを楽しみ、カフェでカップル限定メニューを頼む。そのまま遊び倒し、夜にはイルミネーションを2人で見る。ベタではあるがそれは、"恋人"と共に過ごすクリスマスの様な。………いや、きっと彼女はそのつもりだったのだろう。

 

一通りのデートを終えた後、彼女に感想を聞かれた。楽しかった、嬉しかった、ドキドキした。そんなありきたりな___しかし、心の底から思ったことを伝える。彼女は異性としても魅力的だったし、自分にも少なからずその欲はある。だからこそ小っ恥ずかしくなり思わず言ってしまったのだ。

 

 

ところで、データはちゃんと取れた?

 

「まったく。私も鈍いとは思っていたが、君はそれ以上の鈍感さだよ」

 

その言葉を聞いた彼女はほんの一瞬悲しそうな、寂しそうな顔を見せ。

しかし直ぐにいつもの調子で返事をした。

 

 

あぁ、しっかり取れたとも。充分過ぎる程に、ね。

「結局、私の勘違いだったとはいえあの時は仕方ないだろう?なんせ君の反応と言ったら酷いものだからねぇ」

 

 

 

彼女がトレセン学園を___自分の元を去ることを伝えられたのは5年目の冬。有馬記念を終えた後のことだった。

彼女のもう一つの研究である「プランB」を本格的に進めるために海外に拠点を移すのだという。

それも今月にはもう向かうのだと。

それを聞いた時、頭の中が真っ白になった。何を言ったかなんて覚えていないが、引き留めることを言ったわけではないのは確かだろう。

 

そして気が付けば………家で同じ布団で寝ていた。

お互い服は着ていたし、彼女自身がそういったことはしていないと否定していたので恐らくは、眠くなった私を布団まで運び、そのまま一緒の布団に潜り込んだのだろう。

……なぜそこまでの記憶がないのかが疑問だが、まぁタキオンだから、と慣れてしまっていた。

「…あの時はすまなかったね、トレーナー君。」

 

 

___________________________________________

 

 

彼女が12月に去り、年が明ける。4月になり、新しい生徒たちが入ってくる。

新しくまた数人の担当が増え、その子たちを育てる。好成績を残せた子がいた。2冠を果たした子がいた。才能がなく、それでも諦めず努力し、G1を駆けた子がいた。負けた子がいた。勝った子がいた。けがで引退した子がいた。才能という実力差に挫折し、学園を去った子がいた…。

 

1年、2年、5年と月日がたつ。しかし___

 

 

自分の心にはどこか欠けてしまった様な、小さな穴が空いてしまった様な感覚が残り続けた。

例えば、眠気覚ましにコーヒーを淹れるとき。

 

「例えば、一息ついて紅茶を淹れる時。」

 

例えば、食堂で昼食を食べる時。

 

「例えば、食材をミキサーにかける時。」

 

例えば、トレーニングを始める時。

 

「例えば、新薬の実験をしようとする時。」

 

例えば___彼女達の走りを見ている時。

 

「例えば___限界の向こう側を追い求めている時。」

 

そんなふとした瞬間に、何処か寂しさを感じた。

「そんなふとした瞬間に、何処か寂しさを感じた。」

 

きっかけならわかる。恐らくタキオンがいなくなったことだと。

でも、何故?

ずっとずっと頭の中に残り続けていた。

 

 

その引っ掛かりが取れたのはとあるウマ娘を担当した時のこと。

とあるG1レースの後の夕方、彼女に呼び出された。

「私、トレーナーさんのことが好きです。私と付き合ってください、恋人として。」

 

彼女から何かしらの感情を向けられていたのは(こういった形とは思わなかったが)知っていた。自分自身も少なからず好意的に思っていたし、そろそろ人生のパートナーを決めてもいい年齢。

 

 

でもその答えはいくら経っても口から出ることは無かった。

 

何か間違っているような気がして。何か大切なことに気づいていない気がして。どうにも言葉が出てくることはなかった。

 

「………やっぱり、そうなんですね。」

 

無言なのを否定ととらえたのか、彼女はそう切り出してきた。

 

「トレーナーさんに好きな人がいるのは知っていました。」

「だってトレーナーさん、時々私以外の誰かを見つめてるんですもん。私と二人っきりの時とかでも。」

「きっとその人もウマ娘で、トレーナーさんの担当だった子なんでしょうね。」

 

自分に……好きな人が……?

 

「……そっか、もしかして藪蛇だったかな? もう、本当に鈍いんですからトレーナーさんは。」

「ならせめて気づいてあげてください。その子のためにも、トレーナーさんの気持ちに。そうじゃないと私、泣いちゃいますよ?」

 

 

例えば、眠気覚ましにコーヒーを淹れるとき。タキオンは紅茶だったなと思い出す。

 

「例えば、一息ついて紅茶を淹れるとき。君はコーヒーだったなと思い出す。」

 

例えば、食堂で昼食を食べる時、タキオンの為に弁当を用意していたのを思い出す。

 

「例えば、食材をミキサーにかける時、君の用意した弁当の味を思い出す。」

 

例えば、トレーニングを始める時、今日はちゃんと来ているかと探してしまう。

「例えば、新薬の実験をしようとする時、実験台にする為の人を探してしまう。」

 

例えば___彼女達の走りを見ている時。

 

「例えば___限界の向こう側を追い求めている時。」

 

隣に君がいた事を思い出す。

「隣に君がいた事を思い出す。」

 

あぁ、何故今気がついてしまったんだろうか。

「あぁ、何故あの時の私は意気地ないのだろうね。」

何故、今わかってしまったんだろうか。

「あの時、君に嫌われる勇気があれば。」

 

 

一度過ぎ去ってしまった時計の針は戻らないというのに。

 

 

 

___________________________________________

 

 

それから、幾許かの年月が過ぎる。

自分はトレーナーを引退して教官となり、トレセン学園の裏方に回った。

過去の名声は薄れても、彼女との思い出は薄れることはなく。

初恋は終われど想いは残る。女々しいとは思う。でも もし 再び君に会えたなら。

その時は君に、もう一度___

 

 

「あ、教官さん。お客さんが来てらっしゃいますよ。」

 

 

___春、それは出会いと始まりの季節。

 

 

「アンタが私のトレーナーね?」

 

 

___桜が咲かす、祝福の花吹雪

 

 

「やぁ、久しぶりだねぇモルモット兼トレーナー兼助手君。もうスカーレットには会ってるんだろう?」

 

 

___仄かに香るは紅茶の味

 

 

「もう私とスカーレット以外に渡す気はないからな!!」

 

 

___きっとそれは、2人を結ぶ紅い糸(2人が歩んだ軌跡の跡)

 

 

もちろん、よろこんで。

 

 

 

 

___拝啓、初恋の君へさようなら。2度目の恋にありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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