純情ハートとウマ娘(凍結)   作:ゲーミング

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 その日は正しく運命の日だった。
 


prologue『星と空と芝』

 朝、目が覚めた時には過ごし易い日だと思っていたが今日はそんな事も無い日になった。

 

「……あちぃ……」

 

 長く伸ばし目線を完全に隠した前髪、頬を流れる一筋所の騒ぎでは無い汗。

 精一杯背伸びをして着込んで居るスーツは、未だに着られてる感が拭えない。

 更には中に着ているTシャツは勿論Yシャツすら背中に張り付く始末。

 汗が止まらなかった。

 

 眼前に広がるのは思い思いに過ごしているウマ娘達。

 時は放課後、担当ウマ娘も居なければチームメンバーも居ない為に完全フリーな僕を除けばここから少しづつ皆忙しくなってくる時間帯、詰まり逆に言えば暇そうにしてるウマ娘が居たら勧誘の対象に出来る。

 ……放課後一時間前からスタンバっててもうバテ始めてるけど。

 

 瞬間目の前にウマ娘が通り掛かる。

 チャンスをモノにしなければ……!

 

……あの、良かったら僕のチームに入りませんか?今なら一番初めにチームに入ってくれたって事で僕の実家から送られてくる人参なんかをプレゼントしま……す……

 

 急いで早口で話したけれどか細い声じゃ聞こえないよね。

 知ってた、知ってたよ。

 涙が出そうだ。

 

 取り敢えず頭に過った自己嫌悪を拭う為に右を見る、そうするとウマ娘、更に左見てウマ娘、もう一度右見てウマ娘、次いでに後方も見る。

 

「おめーホントに話し掛けるの下手くそだなぁ。そんなんだからスルメの飲み込むタイミングが分からないトレーナーランキング一位なんだよ。分かってるのかこの事実の重さをよぉ?」

 

 振り向けば絶対にソコに耳が無いのに耳あてを着けたウマ娘『ゴールドシップ』がそこに居た。

 

「……ゴルシだってスルメの飲み込むタイミング掴めないとか言ってたじゃん」

 

「アタシはアレから特訓したんだよ!今じゃ碁石も噛み砕けるくらいには顎力有るんだぜ!おめーもそれくらい強い顎力付けようぜぇ新人トレーナー!ゴルシちゃんが手伝ってやっからさー!」

 

 一体どんな会話だろう。

 炎天下という訳じゃない、それなのに汗が止まらずに出るのは緊張しているから。

 その緊張を和らげる為に話し掛けてくれているのなら逆効果だと言えば良いのだろうか。

 

 僕は昔から女の子と話すのが苦手だった。

 僕の目から見て女の子は何時もキラキラしていて、可愛くてカッコイイ人達ばかりだったから。

 

「あ、そうそうこの間よ?お前と初めてあった公園にまた一人で行ったんだけどよ〜、お前の座って黄昏てたベンチ無くなってたんだぜ?事実上お前の尻がベンチにとって最後の尻だった訳だけど、どんな気持ち?」

 

 崇拝していたと言っても過言では無いんじゃ無いだろうか。

 

「それとなそれとな?ここ最近ゴルシちゃんまた身長伸びたんだぜ?どれくらい伸びたと思う?そう!2ミリ伸びてたんだぜー!成長期ってすげーよな!よな!でもアタシそんな歳だったっけ?自分の歳覚えてねぇんだよなぁ。別に覚えてる必要はねぇんだけどな?」

 

 いつの間にか女の子と話していない時間が過ぎ、彼此三年がたった頃流石に不味いと思い用事以外で外に出たが誰とも話す事は無かった。

 

 いや、今僕の右隣を歩いているゴールドシップとは話したが、あんな物は会話とは言わない。

 最早脅迫に近い何かだった。

 

「おいてめー人の話聞いてんのか?」

 

「……聞いてる聞いてる。なんだっけ、ゴルシの所属してるチームの名前の由来の話だっけ?」

 

「んな話はしてねーよ!?……あ、いや待てよ話したかもな……一昨日くらいに」

 

 …………ゴールドシップ、略称はゴルシ。

 身長は175cmと高めで顔が良く身体付き(体重値)も良い美少女。

 けれど中身はこんな感じで結構残念系なウマ娘。

 一度火が着けばかなり速い脚を持って居るのは知っているし、此奴とは話してても別にキョドったりしないから楽なんだけど、如何せん真面目に話してると脳が拒否反応を示して来るからどうすればいいのか分からなくなる。

 

「んでよー、この間トレーナーとオセロやったんだけどな?滅茶苦茶弱くてよー。しょうがねぇからオセロで将棋してたんだよ、そしたら勝率は半々になって良い感じだった。おめーもやろうぜオセロ将棋!」

 

「何でボードゲームとボードゲームを掛けて意味の分からないボードゲームのような何かに変質させてるのさ……」

 

 こんな奴だもん、仕方ないよ。

 

 僕は新人トレーナー、このトレセン学園に所属して未だ一月は経っている。

 それだけの時間を費やして話し掛けたウマ娘は……なんと三人。

 一人目は皇帝と名高いシンボリルドルフさん。

 学園に入った際に理事長とたづなさん、そして先輩トレーナーさん達以外で会話した数少ないウマ娘。

 二人目にゴルシ。

 三人目はついさっき話し掛けたけど声が届かなかったあの子。

 

 話した内容なんて、内容がないようなものだった。

 内容が、ないようだ。

 ……ふふっ。

 

「こわ、なに急に笑い始めてんだお前」

 

「ゴルシよりマシ」

 

「はぁん!?喧嘩売ってんのか!?良いぜ買ってやるよ!喧嘩三点セット6900円の奴を今なら新人トレーナー価格で7000円で買ってやるからよ!……高ぇよなぁ、何で新人トレーナー価格で100円上がってんだ?」

 

「ノリと勢いで生きてるゴルシだから大丈夫」

 

「そうだな!ノリは大事だからな!アタシは何時も液体の奴とスティック状の奴持ち歩いてんだけどな?じっくり時間掛けないと液体の奴は綺麗に付かないからそんなに消耗してねぇんだけど、スティック状の奴は凄いんだぜ。何せ早くて綺麗雑に使える。お前の為に実はスティックノリ一本余計に持ち歩いてんだ、やるよ」

 

 そうして手渡されるスティックノリ。

 キャップを開けると『ゴ』と掘られていた。

 

「……要らないよ?」

 

「何!?お前液体ノリ派なのか……?仕事遅そうな顔してるもんなぁ……丁寧にやるのと遅くやるのは違うからな?ホントに大変だったらゴルシちゃんが手伝ってあげなくもない……かも知れないんだからね!」

 

 そう言ってまた手渡された液体ノリ。

 蓋の所に『ゴ』と書かれていた。

 

「……要らないからね?」

 

「なんだおめー、まさかセロハン派なのか?辞めとけ辞めとけ。彼奴らは応急処置には使えるけど付き合いが悪いからな、固定するのには使い辛いのが特徴って奴だ。」

 

「……それもまた、違う気がするんだけど……」

 

「……お前ガムテ派なのか?それとも両面派?」

 

「何でくっ付ける物で派閥が有るんだよ!?派閥争いなんて無いでしょ!?」

 

「おま、お前!あの血みどろのスティックVS液体の争いを知らねぇのか!?」

 

「知らないよ!?というかセロハンとガムテと両面どこ行ったんだよ!!」

 

「アタシの生まれ故郷ゴルゴル星に置いて来た」

 

「何処だよゴルゴル星はよォ!!この慣れない環境で必死こいてチームに入ってくれそうなウマ娘探してるのに横からノリのどうでも良い話聞かされてる僕が滅ぼしてやるからよぉ!!」

 

 余りの暑さについ声を荒らげてしまい、周りにいたウマ娘達がビックリして離れて行く。

 あぁ、今日はもうダメそう。

 勧誘しようとしてもココ最近は逃げられちゃうんだよね、悲しい。

 

「はいラップ」

 

 神妙な顔してどっから出してきたのかラップを渡される。

 これで何すりゃ良いんだ、顔に巻いてオシャレでもすればいいのか?

 そうしたら僕のチームに入ってくれそうなウマ娘が寄ってくるんだろうか巫山戯んなアホルシ。

 

「ラップ渡されても何するか分かんないんだけど」

 

「ふぉっふぉっふぉっ……ラップ越しに空を見るとな、ワシの母星ゴルゴル星が見えるんじゃよ」

 

「へぇ……肉眼で見れるって事は他の星より大きいのかな……いやまだ太陽登ってるし見たら目が死ぬわバカルシ」

 

「おっとそりゃ行けねぇ、危うく新人トレーナーの目に寝ても醒めてもアタシが思い浮かぶ様になっちまう所だったぜ……ふぅ、ホントに危なかったなぁ」

 

「……ボク、オウチ、カエル」

 

「おう、アタシもそろそろトレーナー室行ってトレーニング受けてくらぁ……あ、そうだ」

 

「……なに?まだ何かあるの?」

 

「リギルがチームメンバー募集してたろ?アレの選抜レース今日だから、それで落ちた子に声掛けりゃもしかしたらチームに入ってくれっかもよー」

 

「……真面目に考えて真面目に答えるなよ怖いよゴールドシップ……」

 

 ヒラヒラと手を振りながら背中で語る彼女の姿は、正直かっこよかった。

 

 でもポケットに突っ込まれたスティックノリと液体ノリ更にはラップとかも有るんだけど、回収はしないんだろうか……。

 

 

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 チーム『リギル』かの『皇帝』シンボリルドルフを初めとし『女帝』や『怪物』等の強者が揃っている。

 今日はそんなチームがメンバー募集しているということでウマ娘達が集まり選抜レースを行うのだ。

 そんな中僕は取り敢えず落ち着いて見れる場所を探し、見付け座り込んでいるのが現状と言った所だ。

 

 

 チーム『リギル』のトレーナーであるお花さんとは軽く話したりもしたし、一度だけ一緒にご飯を食べに行ったりもした。

 その際にトレーナーとして何が求められるか等の忠告を受けたりしたが、もう一人のトレーナーであるチーム『スピカ』の先輩(アニメトレーナー)からは、ウマ娘達が楽しんで全力で走る。それをサポートすればいい。

 

 と言うアドバイスも貰っている。

 正直何方もかっこよかったし、今の所の目標でもある。

 

「……見ない顔も有る。転入生か何かかな。僕の記憶力が乏しい訳じゃないと思うし」

 

 自慢だけど記憶力は良い方だ。

 絶対記憶能力に近いモノを持っているから。

 

 目に付いたのは遠目でも分かる艶やかな黒い髪に、前髪は白く、紫色の瞳はキラキラと輝いていた。

 

 

「……あの子、良いなぁ」

 

 何故か惹かれる物が有り、付いため息と共に吐き出す願望。

 僕のチーム『流れ星』には誰も来てくれていない。

 

 というか『リギル』とか『スピカ』とか意味が分からないんだよやたら難しそうな片仮名で名前を付けるじゃ無いよ厨二病どもが!

 

 先輩やお花さんにチーム名の由来を聞いたら星座を形作る一際輝く星の名前らしいから、僕はどんな星でも構わない。

 ただ、人々を——僕を魅せてくれるウマ娘が集い、星座の星達とは違う煌めく一閃を見せてくれるウマ娘を、僕は探していた。

 

 結果としては、そんな物に構っていられる程のんびりとしてられないという事実だけ残ったが。

 

「なーに黄昏てるのお兄さん?」

 

 選抜レースが始まった所で、ふと横から話し掛けられた。

 

「……ち、チームメンバーのかん、勧誘しようとしてて、リギルの選抜参加って事はフリーって事で、レース終わりに勧誘したくて……」

 

「ふーん、じゃあお兄さんが今噂になってる幽霊さんかぁ」

 

「幽霊!?」

 

 思わず勢い良く隣に首を振り向かせ、首の骨が鳴るが、気にしない。

 隣に座っていたウマ娘を見て、咄嗟に息を詰まらせた。

 

「そうそう!夕暮れ時辺りになるとトレーニング終わりに全身黒い服着た幽霊が話し掛けて来るって噂!所でお兄さんは何で口開いたまま閉じてないの?お腹すいた?」

 

「お、おま、おままま、まま」

 

「まま!?違うよ!ボクお兄さんの事産んだ覚えは無いもん!」

 

「僕も君に産んでもらった記憶は無いなぁ!違う、そうじゃない!君、君は!」

 

「ん?あ、そっか自己紹介してなかったよね。ボクの名前はトウカイテイオー。未来の絶対無敗の三冠ウマ娘、トウカイテイオーだよ!」

 

 トウカイテイオー。

 今年入学して来た期待のウマ娘ランキング上位のウマ娘にして、トレセン生徒会長シンボリルドルフと仲が良いと書かれるウマ娘。

 特徴的なのは足腰の柔らかさであり、コース取りから最後のスパートへの移行等開ければキリが無くなる程の強味がある。

 

 現在チーム無所属にして、先輩トレーナーが時々勧誘しているウマ娘。

 お花さんも見掛けたら勧誘するレベルだそうだし、入学して学園最強チームに勧誘されてるのに入らない理由も分からなかった。

 

 そんなウマ娘が今目の前に居る。

 僕も勧誘しない手は無い……のだが。

 

「君は何で此処に?その、選抜レースが見たいならこんな所じゃなくて、もっと近くで見れると思う……んだけど」

 

「んー?ボクはねぇ、カイチョーが走るかなーと思って来たんだけど、カイチョー走らなさそうだったんだよね。仕方ないから周りを見てたらこんな所で選抜レース見ようとしてる人が居たからさ、話し掛けに来たって訳!」

 

 本当に皇帝シンボリルドルフの事が好きなんだなこの子は。

 青い瞳をキラキラ輝かせながら話していたが、途中で暗くなったし。

 

「……スピカに勧誘されてるらしいけど、断ってるのは何で?リギルに入りたいの?でもそれだったら選抜レースに参加するんじゃ……」

 

 不意に沸いた疑問。

 元気良し、才能良し、オマケに愛嬌もあると来た。

 なんでこんな子が未だに無所属なのかが疑問になる程。

 話の流れは悪いし雑な会話かも知れないけれど、僕は頑張って話してる。

 吃ったりしない、噛んだりもしない、精一杯話をする事が、きっと今一番僕に必要な事だと思った。

 

「うーん……カイチョーに追い付いて、ボクはカイチョーの前を走りたいんだよね」

 

「……それは、皇帝を超える……って事?」

 

「うん!だから絶対無敗の三冠ウマ娘になる。それがきっとボクの目標の第一歩だから!」

 

 随分と大きな第一歩。

 けれど皇帝シンボリルドルフを超える為にはそのレベルが要求されるのかも知れない。

 でもそれなら尚更リギルに入りそうな感じだし、先輩トレーナーのスピカに入るのも面白そうだ。

 

 それなのに、何で?

 

 夕暮れ時、オレンジ色の夕日が芝を明るく照らす。

 各バゲートインを完了しており、今にでも走り出す勢いだった。

 

「ボクはね——」

 

 ゲートが開かれ、一斉に走り出すウマ娘達、その中には僕が目を付けた転入生らしきウマ娘も居たけれど。

 

 皆真剣な表情をしていた。

 リギルに入る、このレースで一着を取る、憧れのあの人と同じチームに、前は譲らない、私が一番になる。

 

 遠目からでも分かるウマ娘達が抱えている思いに、堪らず、トウカイテイオーが話す言葉を待たずに、僕は自分の夢の一端を思い出した。

 

 

「伝説を作って見たい」

 

 

 幼い頃に見た有マ記念。

 人気投票と実力で全てのウマ娘達の上位十名が選ばれるレース。

 あの時に思った、僕もソコに入りたい。

 

 始まりの夢、それはウマ娘になりたいだった。

 けれどそれは叶わぬ夢だと思い知らされた。

 子供心に憧れたけど、何せ僕は人間で、男だったから。

 

 ウマ娘になる為に色々と頑張ったが、結局無駄になった。

 

 だから、夢は変わり『自分の担当したウマ娘全員を有マ記念に出走させたい』と言う夢に書き変わった。

 

 その夢の為に僕は様々なモノを犠牲にして勉強をして知識を深めて、使える物は全て使ってトレーナー専門の学校を首席で卒業後にこのトレセン学園に入った。

 

 僕の人生の九割九部九厘己の夢の為に突き進んだのだ。

 後悔は無い、後悔なんて無い、後悔をしたら最後今まで切り捨てたモノが僕を潰す。

 それが分かっていたから。

 

「……良いね、伝説かぁ」

 

「……え、あ、ご、ごめんなさい!トウカイテイオーさんが話してたのに、きゅ、急に話しちゃって!」

 

「んーん!気にしてないし、何より面白そうだねお兄さんの夢!」

 

 そう言っていつの間にか僕の隣に座っていたトウカイテイオーが立ち上がる。

 それとほぼ同時に選抜レースが終わり、最後の最後、転入生が驚異的な追い上げを見せてくれた。

 

「お兄さんの夢は伝説作る事かぁ……良いね、うん。すっごくいい!じゃあさ……」

 

 誰が一着かは見えなかった。

 だって、夕日に照らされたトウカイテイオーが、彼女が。

 

「ボクの事も伝説に出来る?」

 

 とても綺麗な笑顔をしていて、呼吸すら出来なかったのだから。

 

 

 

PrologNo.1、伝説の始まり




新人トレーナーステータス
身のこなしB
忍耐力C
コミュ力F+
賢さSS(F)

夢の為に人生の殆どを捧げた

因みに初めては夜景の見える高層ホテルのスイートでお互いの馴れ初めを話したり他愛ない会話をしてうまぴょい。
尚本作でそれが叶う事は無い模様(どうせみんなうまぴょいされる)
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