純情ハートとウマ娘(凍結) 作:ゲーミング
新人が言っていた通り、オグリへのインタビューは新人がオグリの菊花賞への出走登録を行って1週間と経たずにやってきた。
そしてオグリへのインタビューを行う場所はトレセン学園の食堂と決められた。
「クラシック三冠の最後、菊花賞への出走を決めた理由など聞かせて頂いても大丈夫でしょうか!」
記者の一人がオグリに対して質問を投げ掛ける。新人はこの場にいなかった、トレーナーとして別の場所でインタビューを受けていた為だ。本来なら新人もオグリの傍でインタビューを受けたかったが、記者側は今回の一件で見出しとしたいのはオグリだと言う事と、トレーナーとウマ娘は別々に取材をして、別々に記事を書きたいとの理由だったからだ。
オグリのインタビューに来ていた記者達と、インタビューの表紙として使えるかも知れないと写真を撮りに来た者達、そしてオグリを見に来たウマ娘達で食堂は人混みが出来ていた。
「クラシック最強を名乗る為だ……です」
「……そ、それは……皐月とダービーに出なかった理由も尋ねても?」
「皐月とダービーは出場する事が出来なかった。……です」
「はい、はい!その理由はなんでしょうか!」
「……私がチームに所属出来て居なかったのと、勝利数が足りて居なかったから」
「でもそれって結局自分の所為ですよね?菊花賞に参加するにあたって何か考えませんでしたか?クラシック三冠路線を頑張って走ってるウマ娘に申し訳ない、とか」
「…………それでも私は菊花賞へ出走し、必ず1着を取る。それしか、私には言えない」
「……質問への答えになってないんだよなぁ」
オグリ自身、余り話すと言う行為は得意では無かったが、失礼の無いように敬語で話そうと勤めていた。余りにも拙い敬語だったが。一問一答と言う感じで進んでいたインタビューだったが、そこに
「こんどはこっちの質問もお願いしま……ってちょっと!」
そんな中だった、奥歯を噛み締めて質問への返答を考えようとしていた所に、割り込む様に入って来た記者が居た。その目は真っ直ぐにオグリを見ていた。
「まどろっこしいんだよ、俺達が聞きてぇのはどうして今になってクラシック三冠の最後である菊花賞に来たのか。ただそれだけなんだよ、他のウマ娘達を見てみろよ、皐月からダービー、そしたこの菊花を走る為に努力してきたってのに、お前はなんだ。皐月も出てねぇ、ダービーすらだ。それで菊花に出て、勝つ気でいるんだろ?その自惚れは何処から来るんだって聞きてぇんだよ」
それは新人も考えていた事であり、何一つ間違っていない質問だった。実際先程まで質問をしていた記者は黙ってしまい、横から出て来た記者に道を譲っていた。その顔は険しかったが。
睨む様に向けられる視線と、人から向けられる当然とも言える悪意を真正面からぶつけられるオグリ。インタビューの場は静まり返ったが、オグリは答えた。
「
「誰がだよ」
「
「……戦績は?」
「デビュー8着、OP2着、鳴尾記念1着、マーメイドS1着だ。……あ、です」
「……それで勝てたら奇跡なんだよ、レースに運は絡まねぇ。皆背負ってるモンがあって」
「奇跡じゃない、これは未来だ。私とトレーナーの2人で追うと決めた夢だ、クラシック三冠。叶う事なら私も其れを追いたかったが、追えなかった。だが、だが……それでも私は菊花賞に挑むと決めた!何と書かれても構わない、私を気に入らないと言うならそう言ってくれても構わない。だが、菊花賞は必ず私が貰う」
「私の名前はオグリキャップ。カサマツから中央に来たオグリキャップだ。所属チームは『流れ星』。皐月、ダービーと出走し、クラシック三冠の夢を追うウマ娘達と走る皐月もダービーも取れなかったウマ娘の名前だ!」
その場の時間が止まった。実際時間が止まるなど有り得ないが、今この瞬間はオグリの写真を撮る者も、次のインタビューを考えていた者も、菊花賞に参加する場違いとも言えるオグリを見に来ていたウマ娘達ですらオグリの放った言葉と、溢れ出る威圧感に誰もが口を閉ざした。
「……勝てよ、それだけ威勢の良い啖呵切ったんだ。それで負けましたなんて言ったら故郷のカサマツに帰るんだな」
「……そ、それは困る……と、トレーナーとまだ叶えてない夢があるんだ……」
「そこはさっきみたいに当然だ!とかで返せ!なんで最後に下手るんだお前は!……はぁ、ウチの出版社からはオグリキャップの名前を大々的に使ってやる。良い意味でも悪い意味でもな。だから気合い入れろよカサマツのオグリキャップ」
そう言って記者の一人が去って行く。この場で言う良い意味とは、オグリは冷やかしや楽観的に菊花賞に参加した訳では無く、オグリ自身にも夢がありその過程こそ飛ばしてしまったが他のウマ娘達と優劣を付けるべき程軽い想いでは無いという事が伝わった。
悪い意味とは、結局の所今回の一件で名は広まり勝っても負けても得られる物は少ないと言う意趣返しだった。
けれど確かにオグリの想いと覚悟は届き、その後のインタビューも滞りなく終わって行った。
◆❖◇◇❖◆
時は同じだが別の場所で新人もインタビューを受け、それが終わった。オグリの様な苛烈なモノは一切無く、淡々としたものだったが。
「……どうしてそこまでオグリキャップを菊花賞に出走させたがるんでしょうか?皐月やダービーを出走して居らず、菊花だけ出走すればこうなると言う事は予想が着いたのでは?」
「そうですね、ですがウマ娘であるオグリと、トレーナーである僕が決めた事です。その選択が間違っていたかどうかは皆さんの判断に任せます。けど……」
「けど?」
「オグリが勝ちます。誰がなんと言おうと僕の担当であるオグリキャップが菊花を取ります」
「……先程仰っていた約束ですか?」
「それもあります、けど1番は……」
「……1番は?」
「オグリだからですかね……ごめんなさいコレに関しては説明出来ないんです。オグリがオグリだから、菊花賞を取れると信じてるので」
苛烈さこそ無かったが、それでインタビューは終わった。
同時に新人の頭の中には自問自答が繰り返される。本当にアレで良かったのか、もっと良い方法は無かったか、そもそもオグリを皐月は間に合わずともダービーには出せたのではないか、と。
けれど堂々巡りであり、たらればの話にしかならなかった。新人の周りに人は居らず、記者達や他のトレーナー達は既に去ってしまった。たった一人で考えていた。
「酷い顔してるわね新人」
「……おハナさん……お久しぶりです」
「随分と思い切ったわね」
「まぁ……ちょっと色々あって。でも本当の理由はオグリにGI走って欲しくて……1着になったオグリが見たかったんですよ」
「そう……今日のインタビューが雑誌や新聞に載る。その間出来るだけネット関係は」
「全部みます」
「……貴方ねぇ」
「全部見て覚えます。逃げません、負けません、忘れません……この感覚……」
着ていたスーツの胸を握り、歯を食いしばる。罵詈雑言の嵐になったとしても、それすら受け止めて受け入れて覆す。オグリの夢を叶える為の道中、その全てを忘れない為に痛みと共に刻み込む。
「この……悔しくて辛い気持ちを忘れたくないから」
「…………貴方とオグリキャップの夢、私にも見せてもらうわ」
「見てて下さい、僕とオグリの夢を」
そうしてまた新人は一人になった。けれど孤独では無い。何故なら——。
「トレーナー」
「オグリ……お疲れ様」
「トレーナーもだ。意外とインタビューと言うのは悪くないな」
「……こっちはもう当分イヤだよ……」
「それもそうだな、やはり私は……」
座り込む新人の隣にオグリもまた座った、その瞬間だった。
「あ、いたいた!トレーナー!!」
「テイオーちゃんちょっとはや、凄く速くない!?」
「新人見付けた時のテイオーって短距離最強名乗れるんじゃねぇのか?」
「つまり私とライバルになるんですね!?負けませんよテイオーさん!とりゃー!!!」
「あぁ……愛すべきバカが行っちまった。なぁまや……マヤノ!?」
「マヤちんテイクオーフ☆目指すはトレーナーちゃーん♪」
「お前もか!?ちょ、アタシを置いてくんじゃねぇよ!!!」
まるで流れ星の様に現れ、そして駆けていく、否。駆けてくる。
「え、あ、え!?ちょ、待って!それ止まれな」
「受け止めヨロシクゥ!」
「よろしくお願いしまぁああす!!」
「オグリたすけあびゅ!?」
「マヤちんどーん☆」
「おっ!?」
「ゴルシちゃんがやって来たー!!」
「おも、重いよ!?ねぇ!オグリィ!たすけて!たすけてオグリ!」
星が幾つも走り出し、そして新人の元へと集まった。それを見てオグリは笑顔を浮かべ——。
「私も負けていられないな!」
「え、は、はぁ!?」
オグリもまた新人の上へと身を落としたのだった。
新人はこの日担当ウマ娘5人に乗られ、地面と心を通わせるしか出来なかったという。
本当はインタビュー前にちょっと話挟みたかったけど、あくまでテンポ良く。
この後はトレセン学園の文化祭的ですね。
スーツ姿のテイオーや、ルドルフに見惚れたのは作者だけじゃないはず。
後重たい話だと思った?残念、そこまで重たくないよ!(当社比)