純情ハートとウマ娘(凍結) 作:ゲーミング
新人には子供の頃、夢があった。
それは到底叶わぬ夢、子供心に抱いた諦めざる負えない夢。
『ウマ娘になりたい』
それが新人の原点だった。
父親に連れられて行ったレース場で見たウマ娘達は誰もが煌びやかに写り、ウマ娘、引いては女性と言うモノに魅せられたのだ。
けれど所詮は泡沫の夢、儚くも美しい夢は日常を過ごして行く事に鮮やかになって行くが、新人は諦めざる負えなかった。
そうして夢を諦め、失い、虚無感に苛まれながらも新人は生きていた。
その新人が余りにも痛ましく、不毛に思えた母親が新たな夢の方向へと導いた。
それが『トレーナーになりたい』と言うモノだった。
そうして新人はトレーナーへの道を目指した。
親しかった友人など居た試しが無い、話し相手になってくれる他人などに構っている暇は無かった。
最速で最短で真っ直ぐに目標へと突き進む事を決意していた新人は、立ち止まれなかった。
けれど、その夢が目前に迫った
そうして気付く、
他人との衝突が無かった訳では無かった、学友達には散々陰口を叩かれたし、教師にすら可愛い気が無いと言われ毛嫌いされていたから。
誰かに非難された——その言葉や表情は鮮明に残る。
その瞳が怖くて他人と視線を合わせられなくなった。
話し掛けてくれた人がいた——言葉を返すも話にならなかった。
次第に誰とも話さなくなった。
それでも新人は歩み続けた。
全ては新人自身が抱いた『夢』の為に。
けれど彼は一度止まってしまった。
友人など居ない、同じ志をもつ仲間も居ない。
家族は居たけれど、それも縁は薄れつつあった。
不意に新人は自分が独りになってしまった気がして、崩れ落ちてしまった。
文字通り
独り座り込んで泣きそうになるのを歯を食いしばり、拳を握り締めたが、耐えきれなくなり彼は独り座り込んだ。
そんな時、彼の夢が増えたのだ。
『自分の担当したウマ娘達全員を有マ記念に連れて行く』と言う夢が。
なにせ、新人の夢が増えた切っ掛けは、一人のウマ娘だったのだから。
◆❖◇◇❖◆
……結局僕はトレーナーになりたいって言う夢を叶えて、その先が分からなくなった。
今迄はトレーナーになったその先を見ていたけれど、どうやらそれはウマ娘達との夢なんかじゃなくて、僕一人の夢だったらしい。
「……僕は、トレーナーにならなかった方が良かったのか……もう分かんないや」
昨日はおハナさんに怒られ、トレーニングを任せてしまった。
今日だってそうだ、なりたいモノになって、やりたい事もある筈なのにそれがままならない。
そうして僕は見知らぬウマ娘と走るオグリキャップを見続けた。
芝や土に汚れながらも必死に走るオグリキャップを見て、胸がキュッ……としまった気がした。
夕陽が照らしていたターフは次第に黒に染まりつつあったが、それでもオグリキャップやウマ娘は競走を続けていた。
僕がコレを見ていてもどうしようも無い、そう思って態々隠れていた場所から離れて行く。
結局僕はトレーナーとして何がしたかったんだろう。
学生の頃と何も変わらない、自分の事しか考えられていない。
「……助けて欲しい……僕は何をしたらいいのか……分からないんだ……」
小さく呟くも、それを拾う誰かは居ない。
トウカイテイオーも、マヤノトップガンも他のチームに混ざってトレーニングを行っているのだから。
……このまま消えてしまおうか?
そんな事を考えていた時だった。
「ぁ゛あ゛!?」
その痛み、衝撃のまま前のめりに倒れ込む。
咄嗟に痛む身体を起こして背後を振り返ると、そこに居たのは——。
「またうじうじ悩んでんのか?チビ」
「……ゴールドシップ……」
僕が唯一マトモに会話が出来てしまうウマ娘、ゴールドシップがそこに居たんだ。
「……笑いに来た?それとも、怒りに来たの?」
「いや、べっつにぃ?アタシ職務放棄する様な奴と比べるとやっぱ華のウマ娘だからさぁ、忙しいんだよねぇ」
「……だったら、なんで」
人の背中を蹴っておきながら、全く悪びれもせずに居るゴルシに少し苛ついてしまう。
なんと言ってもその顔だ、半開きにした口から舌を放り出し、全くこっちを見ていない癖にジットリとした瞳を見せて来ていた。
「お前さ、結局何のために
「……違う」
迷いは断ち切って来たんだ、悩みは置いて来た。
だからうじうじなんてしてない。
「じゃあ折角お前のチームに入ってくれた無所属ウマ娘達を他のチームに加入させる為にチーム作ったの?ウマ娘版ハローワークか何かかよ」
「……違うっ」
僕は自分の夢の為に此処に来た。
自分勝手だけど、僕が勧誘したウマ娘達を他のトレーナーに、他のチームに加入させる為に集めた訳じゃない。
「新人」
「……なに」
何時もの半笑いな顔でも無く、人を馬鹿にした様な顔でも無く。
ただひたすらに真面目な顔をしたゴールドシップ。
知っている、僕はその顔を知っている。
だって。
「お前はなんなんだよ?」
その答えはもう出ている。
簡単なんだ、単純な答え。
心から叫び出したい欲に駆られながらも——答えられなかった。
「……はぁぁ……ゴルシちゃんはさぁ、真面目な空気も実は好きなんだよ。でもさ楽しくない空気ってか、空間はホントにムリなんだよね。どれくらいムリかって言うと穴の空いてないドーナツ位ムリなんだよ。分かるかこの方程式が、あぁん?」
そう言って僕を見下ろしていたゴルシは、僕のスーツの襟を掴む。
前髪で隠しているのに、僕の瞳を真っ直ぐに見詰め離さない。
……あの時と同じ瞳。曇りはなくて真っ直ぐで。
「なに不貞腐れてんだよ、もっと
僕は、僕は……!
「……僕は、僕はねゴルシ……!」
「聞いてやるよ、何度も吃っても、噛んでも構わないから。全部アタシに言っちまえ!」
「っ……僕は、トレーナーだ!」
そうだよ、僕はトレーナーなんだ!
「トレ、トレセン学園にこっ、今年から配属された新人トレーナーにして伝説を作り出す!」
新人にして担当したウマ娘達全員が有マ記念に出れば、それは伝説になるだろう。
けれど、それはあくまで僕個人の夢なんだ。
だから——。
「僕は!
僕の襟を掴むゴルシの手を掴み、声高々に吠えた。
こんなモノはついさっき思った事で、馬鹿な男と言われればそれだけだ。
でもゴルシなら、ゴールドシップなら僕の馬鹿げた夢も目標も理想さえ聞いてくれるんだ!
だからっ!!
「ならこんなとこでうじうじしてる場合じゃねぇな!新人だけに任せておくとまたサボりそうだから手伝ってやるよ!メイクデビューももう少し先になるからな!」
「……ゴルシ……」
そう言ってゴールドシップは僕の手を掴み、立ち上がらせる。
前に立つゴルシの背は高く、僕より少し高かった。
「なんだよ?御礼なら木星に行く用に使うドーナツ分で手を打とう!」
「バカ!そんな数用意出来る訳無いだろ!そうじゃなくて、あぁ!……ありがとう……ゴールドシップ」
「……急になんだよ気持ち悪いな」
「なぁ!?い、良い感じだったろ!すな、素直に御礼を言ったんだぞ!?」
「人として当たり前だろJK」
「……じぇい、じぇいけー?」
「
「略すなよ!?原型何処だよ、頭文字しかあってないじゃん!」
ゴールドシップの隣を歩きながら、訳の分からない事を言う此奴とコレからの事を話し合う。
オグリキャップは変わって行く、いや……正しくは戻って行くのが正しいのかも知れない。
だから僕も変わらなければいけない。
だって
急には変われないけれど、それでも僕は変わって行こうと思う。
その為にも僕はトレーナーとして、一人の大人としてオグリキャップの夢を取り零さない。
必ずオグリキャップのデビューを、二回目のデビューを成功させたいと思う。
…………僕の瞳を真っ直ぐに見てくれるウマ娘、ゴールドシップに誓って。
イケメンゴールドシップ。
ゴールドシップはいいゾ……ジョウジィ……
新人トレーナー君の愛称として感想欄にて言われた『うじトレ』を広めて行きたい(うじうじトレーナーの略)
新人トレーナーの妹ウマ娘予測アンケート
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2番人気キタサンブラック
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同じく2番人気メジロドーベル
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大穴カレンチャン