純情ハートとウマ娘(凍結) 作:ゲーミング
次回予告のサブタイなんてアテにならんのよ()
待ちに待った審判の日がやって来た。
天候は曇り、バ場状態は現在良バ場、降水確率30%。
出走ウマ娘、9名。
オグリキャップ、外枠8番。
サイレンススズカ、内枠1番。
距離、芝1600m。
見てしまえば別になんて事も無い普通のレース。
けれど僕もオグリキャップもこのレースに全てを賭けている。
夢を賭けている。
そんなに知名度は無いレースかも知れない、サイレンススズカ以外と競り合わないかも知れない。
けれど、不安は募っていく。
僕の仕掛けた博打は今日、この日、レースの最中にしか行われない。
恐らく成功してもトレーナー失格と言われるかも知れない。
というか正直もう言われていた、どうしても直前に言うんですか、と笑顔で怒られた。
オグリキャップからも、何を言われるか分からない。
だけどこれしか無いと思ったから。
チーム『流れ星』のメンバーは全員観戦席へと送った。
そんな中僕は一人で待っている、博打の種を。
「……レースに間に合えば良いんだけど……」
トレセンから少し離れてしまった競バ場の為、待っているモノが時間までに来るか、それが一番不安だった。
◆❖◇◇❖◆
とうとうやって来た。
私の出走するレースが、私の最後になるかも知れないレースが。
一人、控え室で時間を待つ。
パドックにはもう出た、聞こえて来たのは『誰?』等の疑問の声。
当たり前だと、分かってはいる。
……分かってはいたけれど、やはり辛い。
「……もう、そろそろだろうか……」
そろそろ控え室を出ようと重たくなった腰を上げる。
私が扉を開く前に、控え室の扉が開かれた。
「よっ、応援に来たで、オグリ!」
「……タマ」
少し背の低いウマ娘、私の友人である
「なんや、鳩が豆鉄砲食らった顔しおってからに」
「い、いや。その、なんで……」
「そら決まっとるやん!」
「待ちに待ったオグリちゃんのレースですからね〜。」
「クリーク!ウチのセリフを取ったらあかん!」
タマの後ろには私と同期である
私のレースだから見に来てくれた……か。
どうしようか、どうだろうか。
「……胸が……」
「あ?なんやオグリなんや?あ?」
「違う、そうじゃない」
何で胸と言っただけでタマは私を睨むんだ……?
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて、ね?」
「はぁ……何でウチが宥められとんねん。まぁええわ、ウチらが言いに来たんのや一つだけやし」
「……言いに来た?」
「頑張りや、オグリキャップ」
「…………」
「んじゃ、あんま邪魔しとると悪いから、そろそろお暇するわ」
頑張りや……頑張れ……か。
そうだ、負けていい勝負なんて何処にも無いんだから。
頑張って一着を取らなければ、必ず一着を……。
「……オグリちゃん」
「っ、なんだクリーク」
「頑張るのも大事ですけど、一番はオグリちゃんが楽しむ事ですからね。忘れないでください」
そう言って笑顔で控え室を出て行くクリークを、その背中を見て私は熱くなった胸をもう一度押さえる。
……楽しむ、頑張って、楽しむ。
「……トレーナー」
タマやクリークが応援に来てくれて、とても嬉しかった。
2人が去った後、幾つかの足音が聞こえてきた、もうレースの時間だろう。
……トレーナーは来ないのだろうか。
いや、きっと観客席に居るのだろう。
……観客席、に……。
『私はもう走れないのに』
「……行こう」
強く頭を振る。
頭の中が冷たく、
私はもう大丈夫、大丈夫だ。
意を決して扉を開く。
そこには——。
「トレーナー……」
「……オグリキャップ」
そこには、トレーナーが居た。
「トレーナー、私は……」
直前まで聞こえて来た声に、どうしても耳を塞げなくて。
俯いてしまう、トレーナーの顔が見れない。
私は……。
「下を向かないで」
「……トレーナー」
「下を向いてたら
「……背中……」
「オグリキャップが追い抜く背中。レースの最後は誰の背中もオグリキャップの目には映らない。ただゴールだけが見えるんだ……だから、下を向かないで……走ろう」
「……私は、一着を取る」
「うん。チーム全員で見てる」
「……」
私は何も答えられない。
けれど、トレーナーの期待に応えたいと思った。
だから私は、顔を上げて——。
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい、オグリキャップ」
トレーナーと言葉を交わして、ターフへと足を進めたんだ。
◆❖◇◇❖◆
私とサイレンススズカは同じ高等部だが、彼女との面識はほとんど無い。
『始まってまいりました、本日のレースは芝1600m。出走ウマ娘は9名です!』
『天気は崩れてしまいましたね。これがどうレースに影響するのか、少し心配です』
降水確率30%とは何だったのか、割と土砂降りになっている。
バ場状態は良くない、不良とまではいかないが、重バ場になっているだろう。
けれど関係無い、走って勝つだけなんだから。
故郷の人達の為に、トレーナーの為に。
私の、夢の為に。
『今回の1番人気はこの子、サイレンススズカ』
『いい仕上がりですね、今日も大逃げを見せてくれそうです』
逃がさない。
『2番人気は○○です、ついこの間メイクデビューを果たした期待の新人ウマ娘。メイクデビューは2着と5バ身差という結果で勝っているのもあり、この人気です。どんな走りを見せてくれるのか、楽しみです』
静かに深呼吸を繰り返す。
下は向かない、下は向かない。
最後に見えるのは誰も居ない風景、私が背中を見せる番。
『さぁ、各ウマ娘ゲートイン完了。出走準備整いました』
私は一着を取る、取らなければならない。
頑張れ、頑張る、死ぬ気で、必死に。
最速で、最短に、真っ直ぐを。
胸が熱い、鼓動が鳴り止まない、気を抜くと走り出してしまいそうだ。
身体は冷えていくのに、胸の熱は熱くなり続けている。
ゲートは、まだ開かないのか。
「……私が、一着に……」
ゲートが、開いた。
ユメヲカケロ
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