純情ハートとウマ娘(凍結)   作:ゲーミング

21 / 128
 オグリキャップと友人、ゲートイン。


 次回予告のサブタイなんてアテにならんのよ()


第二十話

 待ちに待った審判の日がやって来た。

 

 天候は曇り、バ場状態は現在良バ場、降水確率30%。

 出走ウマ娘、9名。

 

 オグリキャップ、外枠8番。

 サイレンススズカ、内枠1番。

 距離、芝1600m。

 

 

 見てしまえば別になんて事も無い普通のレース。

 けれど僕もオグリキャップもこのレースに全てを賭けている。

 夢を賭けている。

 

 そんなに知名度は無いレースかも知れない、サイレンススズカ以外と競り合わないかも知れない。

 

 けれど、不安は募っていく。

 僕の仕掛けた博打は今日、この日、レースの最中にしか行われない。

 恐らく成功してもトレーナー失格と言われるかも知れない。

 というか正直もう言われていた、どうしても直前に言うんですか、と笑顔で怒られた。

 

 オグリキャップからも、何を言われるか分からない。

 

 だけどこれしか無いと思ったから。

 チーム『流れ星』のメンバーは全員観戦席へと送った。

 そんな中僕は一人で待っている、博打の種を。

 

 

「……レースに間に合えば良いんだけど……」

 

 トレセンから少し離れてしまった競バ場の為、待っているモノが時間までに来るか、それが一番不安だった。

 

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 とうとうやって来た。

 私の出走するレースが、私の最後になるかも知れないレースが。

 

 一人、控え室で時間を待つ。

 パドックにはもう出た、聞こえて来たのは『誰?』等の疑問の声。

 当たり前だと、分かってはいる。

 ……分かってはいたけれど、やはり辛い。

 

「……もう、そろそろだろうか……」

 

 そろそろ控え室を出ようと重たくなった腰を上げる。

 私が扉を開く前に、控え室の扉が開かれた。

 

「よっ、応援に来たで、オグリ!」

 

「……タマ」

 

 少し背の低いウマ娘、私の友人である()()()()()()がそこに居た。

 

「なんや、鳩が豆鉄砲食らった顔しおってからに」

 

「い、いや。その、なんで……」

 

「そら決まっとるやん!」

 

「待ちに待ったオグリちゃんのレースですからね〜。」

 

「クリーク!ウチのセリフを取ったらあかん!」

 

 タマの後ろには私と同期である()()()()()()()()がそこに居た。

 私のレースだから見に来てくれた……か。

 どうしようか、どうだろうか。

 

「……胸が……」

 

「あ?なんやオグリなんや?あ?」

 

「違う、そうじゃない」

 

 何で胸と言っただけでタマは私を睨むんだ……?

 

「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて、ね?」

 

「はぁ……何でウチが宥められとんねん。まぁええわ、ウチらが言いに来たんのや一つだけやし」

 

「……言いに来た?」

 

「頑張りや、オグリキャップ」

 

「…………」

 

「んじゃ、あんま邪魔しとると悪いから、そろそろお暇するわ」

 

 頑張りや……頑張れ……か。

 そうだ、負けていい勝負なんて何処にも無いんだから。

 頑張って一着を取らなければ、必ず一着を……。

 

「……オグリちゃん」

 

「っ、なんだクリーク」

 

「頑張るのも大事ですけど、一番はオグリちゃんが楽しむ事ですからね。忘れないでください」

 

 そう言って笑顔で控え室を出て行くクリークを、その背中を見て私は熱くなった胸をもう一度押さえる。

 ……楽しむ、頑張って、楽しむ。

 

「……トレーナー」

 

 タマやクリークが応援に来てくれて、とても嬉しかった。

 2人が去った後、幾つかの足音が聞こえてきた、もうレースの時間だろう。

 

 ……トレーナーは来ないのだろうか。

 いや、きっと観客席に居るのだろう。

 ……観客席、に……。

 

『私はもう走れないのに』

 

「……行こう」

 

 強く頭を振る。

 頭の中が冷たく、冷めていく(覚めていく)

 

 私はもう大丈夫、大丈夫だ。

 

 意を決して扉を開く。

 そこには——。

 

「トレーナー……」

 

「……オグリキャップ」

 

 そこには、トレーナーが居た。

 

「トレーナー、私は……」

 

 直前まで聞こえて来た声に、どうしても耳を塞げなくて。

 俯いてしまう、トレーナーの顔が見れない。

 私は……。

 

「下を向かないで」

 

「……トレーナー」

 

「下を向いてたら()()()()()()()()()()

 

「……背中……」

 

「オグリキャップが追い抜く背中。レースの最後は誰の背中もオグリキャップの目には映らない。ただゴールだけが見えるんだ……だから、下を向かないで……走ろう」

 

「……私は、一着を取る」

 

「うん。チーム全員で見てる」

 

「……」

 

 私は何も答えられない。

 けれど、トレーナーの期待に応えたいと思った。

 だから私は、顔を上げて——。

 

「……行ってきます」

 

「行ってらっしゃい、オグリキャップ」

 

 トレーナーと言葉を交わして、ターフへと足を進めたんだ。

 

 

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 

 私とサイレンススズカは同じ高等部だが、彼女との面識はほとんど無い。

 

『始まってまいりました、本日のレースは芝1600m。出走ウマ娘は9名です!』

 

『天気は崩れてしまいましたね。これがどうレースに影響するのか、少し心配です』

 

 降水確率30%とは何だったのか、割と土砂降りになっている。

 バ場状態は良くない、不良とまではいかないが、重バ場になっているだろう。

 けれど関係無い、走って勝つだけなんだから。

 

 故郷の人達の為に、トレーナーの為に。

 

 私の、夢の為に。

 

『今回の1番人気はこの子、サイレンススズカ』

 

『いい仕上がりですね、今日も大逃げを見せてくれそうです』

 

 逃がさない。

 

『2番人気は○○です、ついこの間メイクデビューを果たした期待の新人ウマ娘。メイクデビューは2着と5バ身差という結果で勝っているのもあり、この人気です。どんな走りを見せてくれるのか、楽しみです』

 

 静かに深呼吸を繰り返す。

 下は向かない、下は向かない。

 最後に見えるのは誰も居ない風景、私が背中を見せる番。

 

『さぁ、各ウマ娘ゲートイン完了。出走準備整いました』

 

 

 私は一着を取る、取らなければならない。

 頑張れ、頑張る、死ぬ気で、必死に。

 

 最速で、最短に、真っ直ぐを。

 胸が熱い、鼓動が鳴り止まない、気を抜くと走り出してしまいそうだ。

 

 身体は冷えていくのに、胸の熱は熱くなり続けている。

 

 ゲートは、まだ開かないのか。

 

 

「……私が、一着に……」

 

 

 

 ゲートが、開いた。

 

 

 

 

 




 ユメヲカケロ

新人トレーナーの妹ウマ娘予測アンケート

  • 1番人気ライスシャワー
  • 2番人気キタサンブラック
  • 同じく2番人気メジロドーベル
  • 大穴カレンチャン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。