純情ハートとウマ娘(凍結)   作:ゲーミングラーメンほうれん草増し増し

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 トレーナー同士の戦い、友★情、そしてチーム。


第二十五話

 ゴルシから出された勧誘問題について、その日の内に先輩と話し合いが設けられた。

 理由は簡単、今後どうしていくか、だ。

 

「ゴルシの勧誘に関しては、まぁお前ら2人が仲良いのは知ってるし任せられるとも思う。けど引き抜く為とは言えメジロ家のお嬢様を勧誘しなきゃいけないってのは、問題アリじゃねぇか……?」

 

「……ゴルシに掻き乱されるのは何時もの事です……でも今日は本当にすいませんでした。事前に話しもせずに乗り込んでしまって」

 

「吃驚したぜ……まぁ次からは気を付けろ……てか基本引き抜きってのは相手のウマ娘とトレーナー両方に了承を得なきゃ基本はやっちゃダメだ。ウマ娘の事も、そのウマ娘を育てようとしていたトレーナーの事も考えて行動するように」

 

「ごめんなさい」

 

 先輩の言葉は正論で、基本引き抜きというのは、ウマ娘とトレーナー両方に確認をしなきゃいけない事だ。

 今回は色々早とちりして僕がやらかしてしまったけれど、先輩じゃ無かったら大事になっていた可能性もある。

 

 それこそ、未だに先輩やおハナさん以外と録に話をしていない僕だから、他のトレーナーに邪険にされればそれこそトレセン学園での居場所は無くなる。

 そういった事から身を守る為にも先輩は僕に説教をしてくれていた。

 

 ——歳を取ると説教をしてくれる人が少なくなると、スクールで先生が言ってたっけ。

 そう言った思考をしている中、ふと気になり僕は先輩に声を掛けた。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

「サイレンススズカさんの勧誘の際はどうしたんですか?」

 

 サイレンススズカさんは確か元は『リギル』、詰まりおハナさんのチームメンバーであり、担当ウマ娘だった。

 先輩の事だからちゃんと話し合いをしたんだろうけど、どうしても気になってしまった。

 それに僕はどうやら勧誘が苦手らしいし、今後の課題として恐らくトレーナーとして一生付き纏う問題になりそうだから。

 

「……俺のチームはな、初めの勧誘が成功して、その時にゴルシと他2人のウマ娘が居たんだが、俺の指導……っていうかトレーニング方針と合わなくて辞めちまってな。ゴルシは残ってくれたんだがどうにも気分が腐っちまって……そんな時にスズカの走りを見て、俺のチームに入って欲しくて勧誘したんだ」

 

 初耳だった、ゴルシは初期メンバーだったんだ。

 その頃は頑張ってポスターとか描いて貼り付けて、後は何とか声掛けようとしてたけど、上手くできなくて不貞腐れてた頃だ。

 今の状況を過去の僕が見たらなんて言うだろう?

 

「勿論スズカの気持ちも聞いた、おハナさんにも話した。その結果がリギルに所属していた頃最後のレースだ。あいつは走るのが好きなんだ、そして先頭の景色を心から求めてる」

 

「だから俺は大逃げって言う選択肢をスズカに見せた、その結果が今のスズカだ。これからも彼奴は速く、そして強くなる。俺はそう確信してる。おハナさんも俺にスズカを託してくれたからな。その分まで俺が導いてやりたい、スズカの走りをもっとみたいとも思ってる」

 

「……凄いですね、やっぱり先輩は凄い人です」

 

 本当に楽しそうに、嬉しそうに話す先輩の顔を見ると、何故か顔が熱くなってくる。

 不思議と頬が緩んで、僕まで嬉しい気持ちになるんだ。

 やっぱり先輩は凄い人だった。

 

「でも俺からすればお前だって凄い奴なんだぞ?」

 

「……僕がですか?」

 

「おう、なんてったってあのトウカイテイオーやマヤノトップガンの勧誘に成功してるし、オグリキャップを立ち直らせた。新人トレーナーとしては最高の実績じゃないか?初めの頃は色々と上手くいかなくておハナさんに怒られてたのは知ってるが、それでもお前は頑張った。そんなお前だから俺もゴルシを任せていいと思う」

 

「……先輩……」

 

「てもゴールドシップは俺のチームメンバーだからな。手放す気は無い!つまり……」

 

「……メジロ家の御令嬢の勧誘を成功させた方が勝ち……って事ですか?」

 

「そうなるな。メジロマックイーンは完全に巻き込まれた側だが、彼奴も原石だ。磨けば光る……そしてその磨くのは俺がやりたいとも思ってる。彼奴の走りで俺も夢を見たいからな」

 

 これは2度目の勝負。

 1度目は僕の所為で負けた、オグリを勝たせてあげられなかった。

 でも2度目は譲りたくない、負けたくない。

 例え後々メジロマックイーンに、ゴルシを引き抜く為に勧誘した事で詰られても僕は逃げ出さない。

 

 もう、決めたから。

 

「……そう言えば勧誘の期限聞いてませんでしたけど、そこら辺はどうなんでしょう?」

 

「……そう言えば……彼奴ホントに適当だな!?」

 

「だってゴールドシップですからね……」

 

 後でゴルシに聞かなきゃ。

 

 

 今日はもうメジロマックイーンの選抜レースの録画を先輩と2人で見て、お互い寮の部屋に戻った。

 

 

 正直に言えば、メジロマックイーンの走りは本当に凄いと思ったんだ。

 長距離なのに他のウマ娘達と比べてスパートを掛ける位置が速く、それでいてバテている様子も無かった。

 微かに汗は流していたけれど、優雅と言う一言で終わらせるには勿体ないと思う程、様になっていたから。

 

 でも不思議な事に、初めてオグリの走りを見た時ほどの感動や胸の高鳴りはなかった。

 直で見ていないからなのかな……?

 

 今はまだ答えは出ない。

 

 

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 

 ゴールドシップに確認した所勧誘期間は一週間という事に決まった。

 地味に長いのか短いのか分からないけれど、コレもゴルシなりの気遣いか何かなんだろう。

 1日だけとか言われなくて良かった。

 

 先輩と話し合い、お互いの勧誘が被らないように時間を調節し——。

 

「めじ、メジロマックイーンさん!」

 

「……なんでしょうか?」

 

「ぼく、僕のチームに」

 

「申し訳ございませんが、お断りさせていただきますわ」

 

 あえなく撃沈。

 

「マックイーン!俺のチーム『スピカ』に来ないか?今ならニンジンも付けて」

 

「お断りしますわ」

 

 こんな感じの勧誘が2日、3日と時を重ねていき。

 

 気付けば6日目になった。

 先輩と話し合いをして決めた時間なんて、最早お互い譲り合う事は無かった。

 何せしんどい事に、メジロマックイーンはしっかり話を聞いて断って来るから、お互いの説得時間が長引く。

 そのお陰で決めた時間をオーバーするのは基本となっていた。

 

「……新人」

 

「なんでしょう……先輩」

 

「マックイーンの勧誘……手応えはあったか……?」

 

「……あったら先輩と2人並んでベンチになんて座ってません」

 

「そう、だよなぁ……」

 

 太陽が空を夕焼け色に染める頃、僕と先輩は2人してベンチに座り足を投げていた。

 横から何かを噛み砕く音が聞こえてくるけれど、特に気にならない。

 僕はバクシンオーから借りたカチューシャを取り外し、前髪を下ろしてベンチに身体を預ける。

 

「……そう言えばお前髪上げるようになってたな」

 

「今更ですね、まぁ、そうです。バクシンオーがカチューシャくれたので……使わないのも勿体無いと思って」

 

「髪上げると結構可愛い顔してんだな」

 

「……いきなり何言ってるんですか?かわ、可愛くなんてありませんから」

 

「はは、わり。俺疲れてんだな……そろそろトレーニングに戻るわ。また明日な」

 

「……はい、また明日」

 

 そう言って先輩はポケットから新しい飴を2つ取りだし、1つは自分の口の中へ、もう1つは僕に手渡ししてくれた。

 飴の色は透き通る緑色だった。

 

「……緑はターフの色……」

 

 渡された飴を夕陽に翳して見れば、見えて来るのはトウカイテイオーやマヤノトップガン達の走り。

 トウカイテイオーのスパート、マヤノトップガンの逃げ、オグリの差し、そしてバクシンオーの爆進。

 作戦は被ったりするけれど、皆違う走りをする。

 そんな彼女達を見ていると、とても楽しくて僕自身も走りたくなってくる。

 

「あぁ、トレーナーここに居たのか」

 

 そうして頭の中に刻まれた記憶を思い出していると、背後から、ベンチの後ろから声を掛けられる。

 聞き覚えのある声を、オグリだ。

 

「オグリ……ごめん、数分のつもりが気付いたらこんなに時間経ってて」

 

「いや、大丈夫だ。それよりも勧誘は上手く行きそうか?」

 

「……ぜんっぜん?」

 

「……余裕そうに見えるな、少なくとも私と初めて会った時のトレーナーと比べると、随分余裕がありそうだ」

 

「そう見えるって事は、多少は変われたって事かな……」

 

 嫌な想像が付き纏う時は、兎に角何か行動する様になった。

 悩んでいて、立ち止まっていても何も変わらない。

 何かをする為には歩かなきゃいけない、ダメな自分で居たくなかったから必死に変わろうと思った。

 

 根本は変わらない、未だに人の目は怖いし偶に噛むし吃る。

 けど、それでも僕の話を聞いてくれる人が居る。

 僕の事を見てくれる人が居てくれる、それだけで頑張れそうな気がしたから。

 

「オグリ」

 

「なんだ?お腹が空いたのなら」

 

「違うよ?……僕は変われてる?」

 

 不思議とオグリに聞きたかった。

 オグリなら正直に言ってくれると思ったから。

 横目でいつの間にか隣に座っていたオグリを見ると、顎に手を添えて真剣そうな顔で考え込んでいるオグリが見えた。

 

「……前髪を上げているし、変われてるんじゃ無いだろうか?」

 

「……ふっ、ふふふ、あはは」

 

「ん……そんなに笑う事だったか……?私は、これでも真剣に考えたんだ……」

 

「ごめんね……そうだよね。前髪を上げれてる時点で少しは変わってるよね。ありがとうオグリ」

 

「……どういたしまして、なのか?」

 

「……うん、どういたしまして、だよ」

 

 期限は明日。

 そこで勧誘出来なければ引き抜きは失敗。

 

 でも何となくメジロマックイーンの走りに魅了されなかった理由が分かってきたし、僕はきっと——。

 

「トレーニングに戻ろっか。そろそろトウカイテイオーやマヤノトップガンに怒られそうだし」

 

「そうだな。私がトレーナーを探しに来たのも、あの2人がトレーナーの帰りが遅いと言っていたからだからな」

 

「明後日からはしっかりトレーニングやるからね!楽しみにしててねオグリ」

 

「……あぁ、楽しみにしている。やはりトレーナーとトレーニングをしたいと、私も思うからな」

 

 そう言って立ち上がるオグリは振り返り、僕に手を差し出す。

 前髪をカチューシャで上げて、オグリの手を掴み立ち上がる。

 

 明日は明日で僕は頑張るけれど、今は今で頑張ろう。

 だって、1番大事なのはきっと『今』の筈だから。

 

 

 何度勧誘が失敗しても、諦めない。

 ゴルシが出したこの勧誘の意味も、最善の行動も分からないけれど。

 それでも僕はオグリと、トウカイテイオー達と歩いて行く。

 

 

 

 僕達は『チーム』だから。

 

 

「そうだ、トウカイテイオーとマヤノトップガンのメイクデビューはどうしよう」

 

「取り敢えず私に勝てる様になったらだな」

 

「……それは随分先だと思うよ?」

 

「そうなのか?……そうなのか」

 

 隣を歩いて、首を傾げるオグリが可笑しくて、笑みがこぼれた。




 新人くんを説教してくれる有難い方々、先輩(アニメ)とおハナさんか大好きです。
 どうも、先行と追い込み以外の育成がド下手くそなほうれん草ラーメンです。

 マックイーンをもっと喋らせたいのに全然喋らせられない。
 次回で沢山喋らせるけど、キャラ解釈大丈夫かな。
 お嬢様キャラ書いた事殆ど無いから不安。

 次回第二十六話。
 新人の選択、そして想い。
 お楽しみに。

新人トレーナーの妹ウマ娘予測アンケート

  • 1番人気ライスシャワー
  • 2番人気キタサンブラック
  • 同じく2番人気メジロドーベル
  • 大穴カレンチャン

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