純情ハートとウマ娘(凍結) 作:ゲーミング
夏合宿前の閑話。
今朝起きたらたづなさんからメッセージが届いていた。内容としては夏合宿についての事だった、色々と話す事があるとの事で呼び出され、僕は理事長室へと向かっていた。
オグリとも仲直り出来たし、テイオーやマヤノにも許して貰えたし、今度お財布が暖かくなったらスイーツパラダイスに行くって約束もしたし。なんだか嬉しい。今日の天気も良いし、なんだか幸先が良い感じがする。取り敢えず理事長室前に来た。擦れ違うウマ娘達にはちゃんと会釈も出来た。ホントに幸先良い。
「新人です、失礼します」
数回扉を叩いてから理事長室へと入って行く。
「おはようございます新人さん」
「歓迎!おはようだ新人トレーナーくん!」
「おはようございますたづなさん、理事長」
中に居たのはやっぱりというか、居てもらわなきゃ困るたづなさんと、ここ最近は余り顔合わせが出来て居なかった理事長が居た。理事長も多忙な方だから毎日理事長室に居るかって聞かれると、居ないんだよね。色々話し合いとかがあるらしくて。
「あの、夏合宿の件で来ました」
「はい、取り敢えず座ってください」
たづなさんに言われ、理事長室に置かれているソファーに腰を下ろした。すっごいふかふかなんだよねこのソファー、正直寮のベッドよりコッチの方が寝やすい説もあると思う。
「新人!」
「え、あっ、はい!」
座った瞬間に理事長に名前を呼ばれて咄嗟に立ち上がる。そんな僕にたづなさんは苦笑いを浮かべながら、そのまま座っていて良いと肩を抑えて座らされる。僕の前には理事長が立っていて、小さな身体だけど堂々としていてカッコよく見えた。
「たづなから話は聞いた!」
「……はい」
「
「ありがとうございます。すいません、我儘を言ってしまっ」
「条件!」
「て……はい?」
「これは契約と捉えて貰っても良い。たづな」
「はい、新人さん、今回の特例ですが、色々と条件があります。条件は全て夏合宿後にクリアして頂きます。ここまでは大丈夫ですね?」
「……はい」
分かっていたとは言わないけれど、やっぱり何かしらが起こるとは思ってた。今回の夏合宿は新人トレーナーである僕の我儘であり、本来ならば僕は自分の力で周りとの人間関係や金銭的な問題を解決しなければならなかったが、それが出来なかった為にこうした処置を取ってもらって居るのだから。
理事長の目が細められるのを見て、硬い唾を飲み込んだ。
「契約!一つ貴方、新人トレーナーはこれから夏合宿において我々トレセン学園理事長である私秋川やよいと、理事長秘書の駿川たづなの2人から出される条件を解決する事!これが契約書だ!」
そう言って出されたのは1枚の紙。内容を読まずに取り敢えずサインを書くであろう場所を見ると、既にたづなさんと理事長の名前が直筆で書かれており、その横には印鑑……じゃない拇印!?が、押され、押されてるぅ!?これ、コレってヤバいんじゃ……。
「読破!さぁ、契約書を読み上げろ!」
「……私、新人トレーナーは自身の不始末に付き夏合宿を行えないので、トレセン学園理事長である秋川やよい様と理事長秘書の駿川たづな様両名の出す条件を飲む事で、夏合宿に掛かる費用等を肩代わりして頂きます……条件は……ぁ」
「刮目!これが私に出来る新人に対する最大の援助だ!」
そうして理事長は1つ銀色のアタッシュケースを出して来た。中身見るの怖い、けど取り敢えず見なきゃ……。
「……あの」
銀色のアタッシュケースに入っていたのは沢山の諭吉さんだった。言葉が出ない、胸の奥が早鐘を鳴らしており、呼吸が荒くなる。僕の口は今、荒い呼吸をする為だけに存在していた。
「容認!さぁ、それを踏まえて読み上げて見るといい」
初めの部分から重たい文章が書かれており、その次の項目である条件を読み上げようとしたが、僕の舌は動かなかった。だって書いてある事が可笑しいんだもん!なんだコレ!?
「どうかしました?」
「……あの、これ……」
「うふふ……さぁ、読み上げてください新人さん」
「……えっと、まず一つ、夏合宿終了後のGIレースである菊花賞で1着を取らせる事……ふ、二つ目は今年開催されるGIレースである秋の天皇賞で1着を取る事、三つ目は……年終わりのGIレース有マ記念に出走する事……よ、四つ目は、四つ目は……」
「ふふ」
「……こ、今年かは来年末まで毎月のお給料10%カット……」
「四つ目に関してはごめんなさい新人さん、私が自分の私財を投じても良かったんですけど、理事長が自分で払いたいと言っていて払った分を毎月のお給料カットという事で支払わせる……との事ですから」
「還元!何もかもやって貰えると思ったら間違いだ!必ず何かしらの対価が無ければ投資は出来ない。新人、最低でもこの4つが条件だ。今からでも辞めていいんだぞ」
そう言って僕の前に座っていた理事長は立ち上がり、理事長室に置かれている机を通り過ぎ、扇子を広げて窓の外を見ていた。
書いてある事は、正直出来なくもない……とは思う。けどコレをオグリ達に言わなきゃ行けないってのが中々堪える。何せ出走レースが出走レースだ。GI、しかもクラシックの終着点である菊花賞に出走する事、オグリや勿論バクシンオーは皐月やダービーに出て居ない状態での出走になる。世間からどんな目で見れるか、分かったものじゃ無かった。
菊花賞に出走するウマ娘達は皆クラシックの三冠を狙っての出走だ、それはクラシックに上がったウマ娘達全員が目指す物……だけれど、オグリが復帰した頃には既に皐月は終わり、未勝利状態のオグリではそもそもGIであるダービーには出走出来なかった。けれどGIIIなどでは結果を残し、一応GIに出る条件はクリアしてるとは言え、他のGIと大きく意味が違う菊花賞にいきなり出走させるのは気が引けてしまった。
バクシンオーは殆どが1着か2着を取っていた為に、一応皐月賞には出ていたが、最下位と言う結果で終わってしまっていた。昔見たバクシンオーの記録に書いてあった1度だけ中距離を走った時のレースが皐月賞だったんだ。
そして天皇賞・秋は菊花賞と日程が近く、基本的に天皇賞・春と秋の2つを取る為にクラシックでは余り選ばれない。けれど僕の担当しているウマ娘で中距離遠距離が走れるのはオグリだけ。とんでもなく大きな負担になると思うし、正直断りたかったけれど。
「……新人さん」
「は、はい」
「……正直かなりキツい条件だとは思います。けれど貴方1人を特別扱いしてしまうと、余計に貴方の噂が酷くなってしまうんです。なので今回の件としては
無茶を言ったつもりはあった、覚悟はしていたつもりだったけれど、甘かった。学園のツートップである2人に頼ると言う事は、実質的に僕が周りのトレーナー達に睨まれるって事だ。だから理事長はこんな契約書まで作った。表にはきっと出ないだろうけど、これは約束なんだ。
もう一度開かれたアタッシュケースに目をやる。恐らく全部は使わないけれど、それでも新人トレーナーが持つ事の出来る金額は余裕で超えていた。給料10%カットは、このアタッシュケースの中身の諭吉さんの
やりますと言うのは簡単だけど、実際に条件をクリアするのは僕のウマ娘達であり、即答はできなかった。僕1人の判断じゃ無理だったから。
「……担当しているウマ娘達との話し合いで決めても良いですか?」
「承知!返事は今日の夕方だ!条件を飲み、そのケースを受け取るも良し、受け取らずに何とかするも良し。新人、夢を賭けろ」
「……夢を」
「良き返事を期待しているぞ!往くぞたづな」
「はい。新人さん」
「……はい」
「
そう言って2人とも出て行った。残されたのは2人の名前が書かれた契約書と、銀色のアタッシュケースだけだった。
幸先が良いと思ったらコレだよ。何が幸先良いんだばか。
昔お父さんが言っていた。夢は逃げない、夢が逃げると思ったなら自分が逃げているのだと。でもこの場合はどうなんだ、僕には判断が付かなかった。銀色のアタッシュケースの中の諭吉さんを数えてみると、意外と少なかった。底が暑くされてて、多分理事長が考えたんだろうけど、覚悟を決めろってことなんだろうね。金額は大体300万程。
僕の月給は今は30位だから、その10%カット……返済出来なくない?……まさかたづなさんが言ってた出世払いって、実質的に結果を残せば給料上げてくれるって事?……あの条件って、僕にとって立場を作ってくれる為の物だった……って事になるのかな。
「……そんなの……あーー!もう!」
理事長初めて会った時からずっと僕の後押ししてくれてたのに、なんで危険な賭けとか思ったんだよ!菊花賞はオグリにとって初めてのGIになるけど、クラシックの終着点でありそれに勝てば実質知名度が上がる。その後の天皇賞・秋は菊花賞の勢いのまま走れって事なんだ。オグリに対する不可は大きいけれど、1度話し合ってみよう。
僕は契約書と銀色のアタッシュケースを持って理事長室を後にした。廊下で僕の事を悪く言ってたトレーナーが居たけれど、おはようございますって走りながら言ってやった。もう僕の前で嫌味なんて言わせない。覚悟は決める物なんだ。
「……理事長……!」
今度お給料入ったら皆でご飯食べに行って、その後残ったお金で理事長やたづなさん達ともご飯とか食べに行きたい。この感謝の気持ちを行動と言葉で示して、絶対後悔なんてさせたくない。
僕はここに居る、トレセン学園の廊下を抜けて、僕達のチームに与えられた小さいけれど暖かい部屋へと駆け抜けて行った。
◆❖◇◇❖◆
「……で、お前は早朝からお預け食らった犬みたいに待ってたと」
「……ぅぅ……」
「威勢良く飛び出して来て時間も忘れて此処で待機してるって暇だったろ?」
「それは全然?」
「……そうか」
ゴルシが部屋に来たのは最後だったんだけど、ゴルシの言う通り早朝から待ってて割ともう疲れてる。テイオーとマヤノは半目になってて、大事な話があるなら呼べばいいのにって言うド正論を言われてしまった。オグリは何か考えていて、バクシンオーは頭の上に?マーク浮かべてる。
僕はゴルシの前で正座中だった。
「トレーナー」
「はい?」
「菊花賞と天皇賞・秋。私は出たい」
「……オグリ」
「ま、そうなるわな。バクシンオーは短距離マイルだから中距離長距離は出れねぇしアタシやテイオー達はまだクラシックに出れる資格が無い!つまり初めからオグリ以外の選択肢はなかった訳だ。理事長も良い条件出したよなぁ」
「良い条件だと?」
「短期間での連続出走って、オグリの足は大丈夫なの?」
「……正直かなり厳しいと思うよ」
「はぁ!?それがなんで良い条件になるのさ!オグリが怪我でもしたら……」
テイオーが正座をしている僕の顔の真ん前に出て来る。凄い剣幕……っぽかったけど元が可愛いからあんまり怖くはなかった。かわ、可愛いで可愛い!?ちがう、違います!僕はテイオーをそんな目で見ていませんから!
「テイオーちゃん」
「マヤノ……マヤノは良いの?もしかしたら」
「私は大丈夫だ」
そう言ってオグリは僕とテイオーの間に入る様にたった。座ってるからかも知れないけど、オグリの背中がとても大きく見えたんだ。
「理事長は私達と、そしてトレーナーの為にこの条件を出した。夢を賭けろと言っていたそうだが、私は夢を駆けたい。それに……」
「……それに?」
「菊花賞と言えば、クラシックの最強を決めるレースだ。強いウマ娘と走れる。そして私が勝つ」
「…………なんだろう、オグリなら出来そうな気がして来るんだよなぁもう!」
「ふふ、私はオグリキャップだからな」
「キメてるとこわりーけど、なーんも決まってねぇからな?自分の名前言っただけなの自覚しろ」
「ゴルシは細かいなぁ、オグリかっこよかったからいーじゃん!」
「マヤノはどっちでも良いかなぁ」
「学級委員長的にはありでした!」
「マジかよ」
「マジだよ!」
「多数決だと3対1+1って感じだねー」
ゴルシのツッコミによって話の仲間レは明後日に飛んでいって話は進んで行った。僕忘れられてない?ゴルシに目線を送ると、ピースだけ返ってきた。忘れられてなさそう。少し安心したけど、結果としてオグリは菊花賞に出る事が決まった。その次のレースも天皇賞・秋に決まった。正直不安はあるけれど、それ以上に僕は理事長達に大きな借りを作った事への申し訳なさと、それにオグリ達を巻き込んでしまった現実に飲み込まれそうだ。
「トレーナー」
「あ、はい」
「……大丈夫か?」
「僕は大丈夫だよ。オグリ」
「……?」
「夏合宿で必ず菊花賞を勝てる様にトレーニングするからね」
「…………あぁ、その期待に応えて見せよう。だから見ていてくれトレーナー」
「……ずっと見てる。君が勝利して、此処から故郷にまでオグリキャップの名前が轟くその瞬間まで。その次に出来た夢を叶えるまで、僕はずっと君を見てるから」
「……気が早いな。でも……そうだな、悪い気はしない」
「だーかーらー!ゴルシはノリが良いのにノリ悪くなったらもうゴルシには何も残んないんだって!」
「おいおいおいおい、死んだわアタシ」
「今日のトレーニングって何するんだろうね?」
「トレーナーさんの事ですから、きっとまたあの重たい蹄鉄付けてのマラソンですよ!」
そう言ってゴルシとテイオー達との会話とは別に僕とオグリの会話が始まり、そして終わった。僕の選んだ選択は皆と話し合って決める事。
僕1人の覚悟じゃなくて、チーム全体の覚悟……主にオグリだったけれど。オグリの覚悟は聞いた、なら次は僕の覚悟を伝えるんだ。
秋川理事長に——。
一先ず僕達『流れ星』の夏合宿は無事にスタートを切れそうだ。問題はその後に続くけれど、オグリやテイオー達が居れば何とか超えて行ける。そう確信していた。取り敢えず、今日のトレーニングを始めよっかな!
「じゃあみんな、今日のトレーニングだけど」
「「
「そろそろ僕泣くからね!?」
「トレーナーちゃんを慰めるのはマヤにお任せ☆」
「私全然話に付いて行けなかったんですよねー……1人で芝の上走ってましたもん」
「す、済まなかった……」
そう言えばバクシンオー前回の騒動で出て来なかった……もしかしてずっと1人で走ってたの!?
「ごめんねバクシンオー……」
「謝らないでくださいよ!?私が一人ぼっちの寂しいウマ娘みたいじゃないですかー!」
「そう言えばバクシンオー空気だったな」
「あぁあああ!学級委員長として問題が起きたら介入したかったのにぃいいい!」
部屋の中にバクシンオーの悲痛な叫びがコダマした。ごめんねバクシンオー……。
◆❖◇◇❖◆
色々な準備を終えて、新人さんの為の夏合宿予定地も何とか場所を確保しえた私こと駿川たづなは理事長室へと戻って来ました。正直今回の条件、全部理事長が決めた事なんですけど、秋川理事長は何処まで先を見通して居るのでしょうか。
初めて新人さんを面接した際も他の面接官や私の反対を押し切って採用してましたし……。
「ご苦労!お疲れ様だたづな。いつも手伝って貰ってすまないと思っている!」
「いえ、でも本当に良かったんですか?」
「疑問、何がだ?」
「……新人さんの支援の件です。私が全部やろうと思ってたのに……」
「たづな」
「はい?」
「……私は彼を見た瞬間に胸の鼓動が早くなったのを感じた。私はその勢いのまま彼を支援しているだけだ!」
そう言って『新人』と書かれた扇子を広げて大きく笑顔を浮かべる理事長を見て、なんだか今ならちょっと分かってしまう気がしました。だって新人さんは話をしてみるとタンジュンに会話慣れしていないのだと分かりますし、後は表情が結構コロコロ変わって可愛いんです。正直好きです。
「そしてたづな」
「はいはい?」
「伝言!新人の覚悟の証をついさっき渡された所なのだ。私の胸はもう破裂しそうな程加速しているッ!」
「……そんなにですか?」
「録音!聞いてくれ」
「録音してたんですか!?なんで!?」
「勿論何時でも聞き直せるようにだ!私は仮に新人がこの契約が守れなかったとしても、私は一向に構わんと思っている!寧ろそうなったら色々と出来そうだしな!」
「……どうしよう、理事長がいつにも増してエキセントリックに……」
取り敢えず渡された録音を聞いてみましょうか。楽しみ半分、ちょっと予測がつかない分不安半分って所ですけど。どんな覚悟を見せてくれるんでしょうか……!
『理事長』
『新人!良く来たな、答えは決まったか?』
『はい、今回の契約、僕達チーム流れ星全員でお受け致します』
『うむ!良い覚悟だ!』
『あと』
『どうかしたのか?』
『……お給料カットだけ許して下さいお願いします』
『……ふふ、ふはは、くっははは!良いだろう!給料カットは無しだ!元々この話に乗ると言った時点で取り止めにしようと思っていたしな!』
『ほんと!?ヤッター!』
「どうだ?」
「いや可愛いだけじゃないですかッ!!」
トレセン学園に私の声が響き渡った。というか覚悟の証って契約書にチーム全員の名前と拇印しただけですよね!?お金返ってこないのに理事長楽しそうなのどうして!いや、まぁ私も理事長の立場だったら許してますし録音してると思いますけど。
秋川理事長(1000000/100)
駿川たづな(80/100)
次回から新章シンデレラ編が入りますがエピローグはまたの機会に。あんまり長引かせるのは好きじゃない()
因みに理事長は単に新人君に一目惚れしてるだけです(暴露)
新人トレーナーの妹ウマ娘予測アンケート
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1番人気ライスシャワー
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2番人気キタサンブラック
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同じく2番人気メジロドーベル
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大穴カレンチャン