純情ハートとウマ娘(凍結) 作:ゲーミング
なのに、私は一体何をしているのだろう。
……答えは、出ない。
新人は走っていた。
その日のトレーニングはもう終わっておりトウカイテイオー達ウマ娘を寮へ帰した後に。
彼はたった一人トレーナー室へ走っていた。
乱雑に扉を開け、机の上に置いてあるノートパソコンを開く。
キーボードを叩く音はやや強く、何時もならしない音がトレーナー室へと響く。
額に滲んだ汗も気にせずに打ち続けたキーボードの音が止んだ。
「……何処を調べてもトレセンの事件が出て来ない。オグリキャップは何で競走で弱くなる、あの後は単独で走らせて、今のトウカイテイオーのタイムを5秒も縮めたんだぞ……!」
競走ではトウカイテイオーが一着を取り、マヤノトップガンは二着、そうして5秒遅れてオグリキャップが三着に入る。
その繰り返しが初め行われ、当初予定していたトレーニングを少し変え、坂道トレーニングは完全に一人一人やらせた結果、競走ではトウカイテイオーより5秒以上遅れていたが、単独ならトウカイテイオーより10秒早かったのだ。
これはおかしい、競走——つまりレース中に遅くなりトレーニング中の一人行動では早くなるなんて、あがり症でもこうはならないだろう。
なら何故?それはきっと過去の事件が原因だろうと新人トレーナーはアタリをつけた。
事実それは正しいが、焦りに焦った新人は検索方法の間違いに気付かない。
その頃のオグリキャップは中央では名は知られて居らず、メイクデビューですら最下位を取ってしまったウマ娘なのだから『トレセン学園オグリキャップ事件』等とワードを変えても出て来ない。
そもそもがトレセン学園の噂となっている時点で、その事件自体有耶無耶になっていると気付くべきだった。
けれど焦りに焦った新人の脳裏にはもうオグリキャップの事しか考えられなかった。
どうしたらいい、どうすればいい、原因をもっと知りたい。
そんな想いに駆られてしまっていた。
新人トレーナーは今朝抱いた覚悟は無意味だったと思いたくはなかったのだ。
そんな中トレーナー室に一人のウマ娘がやって来た。
それに新人トレーナーは気付かない。
「オグリキャップ、オグリキャップ、オグリキャップ……っ!」
足音がトレーナー室に響くが、それでも気付かなかった。
「……トレーナー」
「!?」
漸く声を掛けられ気付き、居る筈が無いウマ娘に目を見開いた。
「少し、私の話をしようと思って……此処に来たんだが……迷惑、だったろうか?」
オグリキャップだった、申し訳無さそうな表情に垂れてしまった耳。
新人トレーナーは呼吸が止まった。
◆❖◇◇❖◆
机を挟んで二人は向かい合っていたが、新人はオグリキャップの目を見れなかった。
言葉は無かった、時間にして5分、新人が震える手付きでウマ娘に初めて振る舞うコーヒーを用意した時間以外トレーナー室に音は響かなかった。
白い湯気が立ち、嫌に口の中に唾液が溜まっていた。
「……私の事は、どれくらい知っているだろうか」
沈黙を破ったのはオグリキャップ、その瞳は何処か強く新人の瞳を見ていた。
「え、ぁ……っ……デビュー前の、ウマ娘が怪我して、走れなくて、トレーナーが辞めて……そのチームにオグリキャップが居た事……ぁの、それだけしか……知らなくて……」
緊張していた、口の中に溜まった唾液を呑み込み、必死に口から音を出すが上手く出来なかった。
新人トレーナーは心が弱過ぎた。
元々新人トレーナーが前髪を下ろして他人と視線が交わらない様にしているのは、ダメな自分を見た相手の瞳を見たくないから。
瞳は言葉より失意を強く映すから、新人はその視線に耐えられなかったのだ、だから先に拒絶する事で自分が傷付かない様にした。
そんな事をしても、何も好転しないと言うのに。
「……私は地方の産まれだ、元々足が弱かったんだが、母が毎日マッサージ等をしてくれたお陰で走る事が出来るようになった。地方で名が知れた私だったが、中央ではそうでも無いらしく、周りの人達が皆私に言ったんだ」
ポツリと零されるオグリキャップの過去?
「
為に此処に来た」
それはある意味では新人と対極の位置に居た。
新人は周りに期待された事など実の両親と妹を除けば皆無であり、他の人間からは何時だって邪魔者扱いを受けて来たから。
「走るのは好きだった。何も考えずに自由に走り、振り返れば何時だって母さんが笑ってくれたし、カサマツのトレセンでは友人達が居た。だから、私は決めたんだ。夢を叶えたい、私に夢を見てくれた人達や自分を見せてくれた夢を叶える為に私は此処で走ろうと」
その家族ですら、新人に期待はして居らず何時だって逃げ道だけを用意して来た。
「……それなのに私は失敗した。それから私は走る事が楽しめなくなった。何度も帰ろうと思ったし、実際帰る為の準備もしてあるんだ」
その言葉に新人は俯いていた顔を上げた。
オグリキャップの笑顔を初めて見た瞬間だった。
唖然とした、何せ笑顔だと言うのにオグリキャップの瞳は何一つ輝いて居なかったのだから。
そしてこんな話をさせた自分に酷く失望していた。
何が支えるなのかと、夢を諦めてしまおうとしている彼女に何をするかも分かっていない自分が、何故そんな事を考えてしまったのかと。
堪らなく
「だからトレーナー。私の事は気にしないで欲しい。もう私は走らないから、だから——」
「うるせぇ!」
新人の座っていた椅子が倒れた。
机の上に置かれていたコーヒーの入ったコップは倒れ、新人の手を熱していた。
「トレーナー、手が」
「ふざ、けんなぁ!」
「っ……」
火傷した新人の手を取ろうと伸ばしたが、それは他ならぬ新人が手を振るい弾いた。
「ゆめ、夢なんだろ!そんな簡単にあき、諦めんなよ!デビューに失敗したから、とか、関係無いだろ!」
「……トレーナー」
オグリキャップの瞳に光は無かった。
ただ冷たい眼差しが新人の瞳に突き刺さる。
「私が簡単に諦めたように、そう見えるんだな」
その言葉を呟いてオグリキャップもまた立ち上がってしまう。
薄らと涙を滲ませた瞳で。
「あの日見た表情が離れない!分かるか?皆が失望した顔が、カサマツからやって来た期待の新人ウマ娘。それが私だった。それなのに私はカサマツに居る、故郷の人達の夢を、私自身が見た夢さえ叶える事が出来なかったんだ!」
デビュー戦で最下位を取ってしまったオグリキャップは、その日から悩んでしまった。
トレーニングを行って居ても前程熱が入らず、あんなに美味しいと感じていた食事でさえ喉を上手く通らなかったからだ。
オグリキャップは苦しんでいた。
怪我をしたウマ娘に、良かれと思ってしていた行動が、彼女自身を追い詰めていた事に気付かされた日から。
新人の黒いスーツの襟を掴み、胸元に頭を擦り付ける。
「トレーナーは!トレーナーは、私の、私の走りを見て勧誘をしてくれた……その事自体は嬉しかった、嬉しかったんだ……まだ私に夢を見てくれる。私なんかで夢を見てくれるんだと……だからこのチームに入った、けれどやっぱりダメだった、私はもう……走れない……っ」
吐き出した想いに、新人は何も言えなかった。
「……オグリキャップ」
「…………なんだ」
「……約束しよう」
「……なにを」
俯いていたオグリキャップが顔を上げる。
見上げた先には前髪の隙間から見えた新人の真っ黒な瞳だった。
「オグリキャップ、君の
「……やり、なおす……?」
「君が結果を残せなかったのは、全力を出せなかったから。だからそれをどうにかしてもう一度此処で走ろう。それでもダメだったら……悲しいし寂しいけれど見送る。だから……っ……だから」
「夢を、諦めないで……!」
この日新人トレーナーの新たな目標が決まった。
オグリキャップのメイクデビューを成功させる。
オグリキャップの育成目標
①メイクデビューに出走しよう(前トレーナーが達成済)
New→②クラシック級に出走する(メイクデビューのやり直し)
②が失敗するとオグリキャップは実家に帰ってしまう。
メイクデビューを経験してしまって居るので、他のレースでオグリキャップのメイクデビューを行います。
オグリキャップの夢を叶えさせる為に、新人トレーナーが頑張る話。
新人トレーナーの妹ウマ娘予測アンケート
-
1番人気ライスシャワー
-
2番人気キタサンブラック
-
同じく2番人気メジロドーベル
-
大穴カレンチャン