純情ハートとウマ娘(凍結)   作:ゲーミング

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 ギリギリ……アウトー!!!


第九十一話

 最近料理が楽しいと知った。正確には料理を手伝い初めて3日目を迎え、煮物とか色々作ったけれど、キャベツの千切りをやってる時が1番楽しかった。テイオーとマヤノに手際の良さに驚かれたし、何故か来ていたバクシンオーにバクシンバクシン叫ばれてた。その声に釣られてオグリが来てつまみ食いしてたし、ゴルシがスマホで写真撮ってたし。

 

 なんだお前ら、見世物じゃないよ。と言いそうになったけれど、支配人さんに絶賛されて気分が良くなっちゃって何も言えなくなってた。

 

 因みに流れ星のLINEグループに僕が千切りキャベツを作っている所が動画として流されたので、ゴルシのお腹にバクシンオーの踵が突き刺さってた写真を送り付けてやった。その結果が。

 

「寝てる奴の写真とかいい度胸してんじゃねぇか!」

 

「わ、私の寝相あんなに酷くありませんよ!?」

 

 と言う抗議を受けたんだけど、100%リアルなので残念でした主にバクシンオー。寝てる云々は確かにそうだと思いつつ、バクシンオーの面白寝相を投下し続けた。その日1日バクシンオーが拗ねて喋ってくれなかったのがちょっと寂しかった。

 

「いや自業自得だよバカ」

 

「何も言葉が出て来ないよ……」

 

「いや謝罪は出しとけよ」

 

「ごめんなさい」

 

 そうこうして夏合宿も残り1週間になって行った。2ヶ月と少しの夏合宿を終えたら、菊花賞に向けての調整をオグリと行い、必ず勝つ。何と言われようが、僕のオグリにクラシック最強を取ってもらうんだ。

 3日後には夏祭りも有り、最後まで予定たっぷりな夏合宿になりそうだ。色々と初めに考えていた夏合宿から遠ざかってしまったけれど、概ね成功なんじゃないだろうか。

 1番の成果はバクシンオーが1800mを息切れしつつも、決してバテずに最高速度を維持したまま走り切った所だと思ってる。その次にマヤノとオグリだ。ウイニングライブ用のハチマキとか作っといた方が良いかな。凄い今更だけど。

 明日(未来)への期待感と、止まらない足に少しだけ戸惑いつつも旅館の、自室の窓から空を見上げた。厚い雲に覆われ、切れた場所は無く、ただ覆い隠す様な雲だった。そして、辛いと言うか後味が悪いと言うか、女将さんもまた帰って来て居ない事が相まって、ほんの少し精神が揺れていた。

 

「新人さん」

 

 聞きたい様な、聞きたく無い様な声がして、空を見上げる瞳に瞼の(とばり)を下ろした。

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 意外というか旅館で会っていた時の和服では無く、洋服で僕の前に現れた女将さんに、何と声を返すか迷っていた。おかえりって言うのも違う気がするし、何しに来たの?って言ったら話は出来るだろうけどそれは女将さんが答えてくれたらだから。この場合何て言ったら良いんだろう。お兄ちゃんを助けてくれ我が妹よ……ダメだ、アイツも確か僕と同じでコミュ力よわよわじゃん……。

 

「何も聞かないんですね」

 

 痺れを切らした様で女将さんから話し掛けられた。いやどうやって聞こうか考えてたんです、別に興味が無かったとか、そう言うんじゃ無いです、ホントです。

 

「……中央に」

 

「中央に?」

 

「正確には、トレセン学園に行っていました」

 

「……それで?」

 

「……秋川理事長と会う事が出来て、色々とお話をしました。その結果……」

 

 顔を見て話さないのは失礼だよね、とか思いつつ振り返ると、今にも泣きそうな程歪んだ顔がそこには有って、彼女にとってどうしようも無い現実を突き付けられたのだと、そう感じられた。

 あぁ、漸く分かったかもしれない。僕が女将さんの事が好きになれない理由。

 

 ()()()()()()()()()()()()()。今は夏合宿に集中出来る様に色々な事を切り捨てているけれど、多分後で後悔して色々苛まれるのを自覚してる。この人も多分トレーナーになる為に色々な物を切り捨てて、それを見て貰えなかった人なのかも知れない。

 

「……トレーナーに、なる事は出来ないと、ハッキリ……」

 

「…………ウマ娘は好き?」

 

「……良く、分かりません」

 

「好きな、レースは?」

 

「それも……良く、分かりません」

 

「じゃあ、トレーナーになって叶えたい夢は?」

 

「……分かりません」

 

 迷子になった子供が、そこに居た。それと同時に僕の胸は締め上げられた感覚で今にも停められてしまいそうだった。

 僕はウマ娘に憧れて好きになった。彼女はお母さんに見て貰いたくてウマ娘に興味を持った。僕はウマ娘に成りたいと言う夢が叶わない事を知って、偶々目にした有マ記念を見てせめてキラキラしたウマ娘達の近くに居たいと思ってトレーナーに成りたいと思った。彼女には興味を持った程度で好きなレース何てものを選ぶ理由が無かったんだ。

 

 トレーナーになると言う夢を叶えた先が分からなくなった時に、僕はゴルシと出会い、その先を得た。

 けれど彼女には何も無かった。最低だ、僕はどうしてこんな所に居なきゃ行けないんだろう。今すぐこの部屋から飛び出したい。だって、だって容易に想像出来てしまうんだ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。僕はいったい彼女に何を言えば良いんだろう。軽い慰めなんかじゃ救われない、ただ背中を押されたんじゃ前に進めない。面倒な所だけ似てるんだな、なんて思いながら時間だけが無常に過ぎて行った。

 

 

 

 

 でも、たった一つだけ言えるかも知れない事は確かにあったんだ。でも、それを言ったら僕はもう強い自分で居られなくなる気がして、怖くて言えなかった。

 そうして僕は自分の()を守る為に1人の少女を見送った。

 

 あぁ、どうしようもなく———モヤモヤするんだ———。




 感想欄で女将さん奇妙な果(以下略)になってない?とか最高に不穏な事書かれて作者は一体なんだと思われてるのか小一時間問い詰めたくなった。

 皆感想、お気に入り登録、評価ありがとうねぇ!
 
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