天才(自称)
──4月。入学式。バスの中、窓越しに満開の桜を眺めている世界一のイケメンは俺こと流川快斗。
そんな俺は今、高度育成高等学校という東京の埋立地にある日本政府が作り上げた──希望する進学、就職先にほぼ100%応える学校と名高い学校へバスで向かっている。もちろん、そんな名高い学校の受験に受かった俺は天才であり、俺に勝てるのは俺だけである。……あれ?中学校の時、俺はテストでいつも2位だった気がする……けどきっと気のせいだなうん俺が負けるなんてありえない。
つまり俺の負けだ。1位だった田中君許してくらさい。
「席を譲ってあげようと思わないの?」
は?だまれこのクソカスが。愚民が俺様に話しかけてんじゃねえよ。
俺は突然聞こえてきた声をボロクソに批判し、犯人を探そうと混んできたバス内を見渡す。
「そこの君、おばあさんが困ってるのが見えないの?」
……俺はついに犯人を見つけた。優先席にどっかりと座る金髪のガタイのいい高校生……の真横に立つ年老いた婆さん……の隣に立つOLの女性が犯人だった。女性は金髪の高校生に話しかけていただけらしい。
……いや、そもそも俺に話しかけてきてないじゃん。俺勘違いして勝手にキレてただけじゃん。いやキレてないけどもじゃん。
「実にクレイジーな質問だね。何故この私が老婆に席を譲らないといけないんだい?まさか、私が座っている優先席はお年寄りに譲るのが当然とか言い出さないだろうね?……優先席は優先席であって、それに法的な義務は存在しない。この場をどう動くかは私が全て決めることだ」
金髪の男は女性にそう言い返し、女性も図星だったのか少し言葉に詰まる。
「おい、そこの金髪。さっきから屁理屈ばっかりこねやがって……うるさいから黙れよ。愚民が俺様の耳を汚すな」
俺がそう言いながらOLの女性を守るように立つと、みんなが俺をヒーローを見る目で見てくる。……最後の一言で少し軽蔑された気がしなくもないが。
……ふっ、やっぱりいい事をするのは気持ちがいいな。この金髪の愚民も婆さんに席を譲ればいいものを……馬鹿が。
「……私は高円寺コンツェルンの息子だ」
「おれがぐみんでしたすみませんゆるしてくださいなんでもしますから」
先ほどまで俺をヒーローみたいに見ていたバス内の乗客は今、俺をゴミを見る目で見ていた。こいつカスッ……そんな幻聴が聞こえてきそうだ。
……いや仕方ないじゃん!ねえ!だってさ、この目の前の金髪はあの高円寺だぞ?このままだと俺はいつか社会的に潰される。くそぉ、高校生になったからって調子こいてふざけて愚民とか言わなきゃよかったぁぁああ………。
「あの……私も流石にそこの人程言う気はないけど、お姉さんの言う通りだとは思うな」
その時、高円寺と同じ制服の美少女が立ち上がり、そう言った。……そして今気づいたけど、制服から見るに俺はどうやら高円寺と同じ高校らしい。……はい俺の高校生活は終わりを告げました。……まだ始まってすらないんけど?ははっ……。
て言うか何気に今立ち上がった美少女、俺の方向いた時俺をゴミを見るような目で見てた気がしたんけど?……いやでも、いかにも優しい人間ですよ感あるし気のせいか?……いや、気のせいじゃないな。……何故なら俺は天才だからだ。……あの美少女はきっとメンヘラかドSだ!
……さて、俺の無意味な名推理は置いといて……俺はここで高円寺を庇う!そうすればきっと高円寺に許してもらえるはずだ……!
「おうおうおうおう?ゴラお前ふざけんなよ?あの高円寺コンツェルンの息子様に喧嘩売ろうってか?ああん?」
俺の天才的な三下ムーブを見たバスの乗客はもはや俺を人として認識していなかった。多分、人の皮を被った害虫か何かだと思ってるんだろうな。
「……っていう劇をやるんだよな!なぁ?二人とも」
「え、え……?」
「は、は、ははははは。……君、実に面白いじゃないか。正直、狂人の類かと疑ったよ」
このままじゃ乗客に駆除されかねないと判断した俺は行動に出た。今までのを全て一つの劇だったことにし、オールフィクションって事にするのだ。勿論、その策で助かるのは俺だけ、つまり高円寺と美少女は協力する意味がない。だが、本当にそうだろうか。あの高円寺コンツェルンの息子に対して、OLの女性はある意味失礼を働いている。そしてもし、高円寺の両親が子供大好き人間だった場合、彼女は高円寺グループに消される可能性があるのだ。……そしてもし、それにあの美少女が気づけるほどの頭を持っていれば……
「う、うん!そうだね。乗客中の皆さん!そしておばあさんとOLのお姉さん。劇の練習に巻き込んでしまってすみませんでした!」
……そう、こうなる。よくやった、パーフェクトだ名も知らぬ美少女。……あの美少女は優しい。ここで全てを劇という事にすればOLのお姉さんが消されなくなる可能性に気づいたのだ。クズとは大違いだぜ。
……このまま高円寺が合意しなくても俺と美少女、二人の主張があればゴリ押しで全て劇だった、という事にできる。これにて解決……となればいいんだがそう簡単にはいかない……筈だった。……本当のところ、あの美少女は少しだけ頭が足りなかった。この場合、もしここで全てを無かった事にしたところで、全てが終わった後に高円寺次第でOLのお姉さんは消されるし、美少女も消されるし、俺も消される可能性があった。つまりこれはOLと美少女を巻き込んだ完全な賭け……だが、何故か高円寺は今、笑っている。賭けに勝ったぜ。多分俺たちを消すことはしないって事なんだろう。
「……いやあさっきは申し訳ないね。そこの老婆、席に座るがいい」
高円寺がそう言って席を譲り、俺たちの評価は普通のちょっと下ぐらいに戻った。……そりゃそうだよな。側から見たら俺たちバスで劇始めた頭沸いてる連中だし。
……俺は高円寺に消される問題を後回しにして乗客から駆除される問題を解決しようと思ってたわけだけど……なんか同時に二つとも解決したっぽいよな?……流石俺、天才だ。
「……少し興味が湧いた。シルバーボーイ、名前は?」
突然、高円寺が小声で喋りだす。一体誰に話しかけてるんだろうな俺じゃないよな俺じゃないって信じてる……いやこれ俺の方向いてるし俺だわ。
「……田中太郎」
……悪いな中学時代俺よりテストの点が高かった田中。一度も話した事ないけど、お前はきっといい奴だったよいや俺よりテストの点良かったから悪いやつか。なら売ってもいいよな。
「……もし君が偽名を使ってるんだとしたら私は君を──」
「……さんの次にテストの点が高い流川快斗デス!」
……くそぉ!消される可能性があるから俺よりテストの点が高かった田中太郎を名乗って逃げようとしたのに。
「……あの、ちなみにシルバーボーイってのはなにでございましょうか?」
「……君の目は珍しい銀色だからそう呼んだだけさ。あと、快斗ボーイ。君は特別に私に敬語をつけなくても構わない」
……聞いたか?おいオラ聞いたか?あの高円寺コンツェルンの息子が俺に敬語使わなくていい、だとよ?はい、勝った。やっぱ媚売りは大事なんだなって。
……これって気に入られたって事だよな?え?流石に俺をもうすぐ消すから多少の無礼は許してやろう、とか思ってないよな?……やべえ、唐突にすげえ怖くなってきた。
「了解だ、高円寺。じゃあいつかまた会う日まで」
俺はそう言いながら、丁度高度育成高等学校に着いたバスを降りる。ちなみに俺はもう高円寺と会う気は一切ない。怖いし。……高円寺、永遠にさようなら……
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