「さて、高円寺はどっか行ったし、残り20分の昼休み……寝るか」
「──おお、流川じゃないか……聞いてた限り今から暇らしいな、堀北が勉強会するからこい、って言ってたし一緒に行かないか?」
俺が睡眠を取るという素晴らしい英断をし、カフェから出ようとすると、入り口付近で綾小路……と櫛田にあった。
は?え?君たち何普通に二人で昼飯食ってるの?俺がいなくなった後一体何が……というか堀北が俺を連れてこいと言ってる、だと?……くそ、俺の安寧を邪魔させてたまるか……!
「……嘘だな!堀北はあの日、目的のために足手纏いの雑魚どもは切り捨ててやるぜ、って言ってただろうが!なのに今更勉強会?流石にそれは嘘だとしか思えないぞ?」
「……嘘じゃない。あの後色々あったんだ、というか堀北はそんな喋り方はしないだろ……」
「……いいや、嘘だな!そして綾小路は俺を図書館に誘導し、やっと二人きりになれたな、とか言いながら俺のケツを狙ってくるに決まってる!」
「……まだオレがホモだと思ってたのか……ほんとに違うからな?……」
「……ていうか流川君、私がいるの忘れてない?」
何か声が聞こえるけど気にしない気にしない。このまま綾小路が嘘をついてることにして俺は睡眠をとる!
「……はっ、見るに耐えない愚行だな綾小路。そんな見え見えの嘘をこの俺様に言うとは……その罪、贖えると思うな──」
──ブーブーブー
「堀北からのメールだ。読み上げる。『綾小路君、早く来てくれないかしら?櫛田さんもそこにいるんでしょう?もちろん櫛田さんもよ。あと、流川君も絶対に連れてきて』……」
「……い、いやまだだ。それが実は綾小路の嘘っていう可能性が──」
「──ほら、これ見ればわかるだろ」
そう言って綾小路は俺にメールを見せてくる。……はははははははは、わっとざふぁっく。
ちっ、くそ、これまじで行かなきゃダメか?……でも、協力するって堀北に言っちゃってるし、綾小路が嘘ついてると思ったから行きませんでした!って言い訳今使えなくなっちゃったし……
「…‥というか流川お前……所謂厨二病患者ってやつなのか?」
は?ふざけんな闇の炎に抱かれて消えろ。
「…‥流川君……」
櫛田が憐憫の眼差しで俺を見てくる。
……お、おいなんだよその目。やめろ、おいやめろって。くそ、このクソアマが……なんでこの俺が憐れまれなきゃいけないんだ……!
「……俺は決して厨二病なんかじゃない!それに……仮に、もし仮に俺が厨二病患者に見えたんなら、それは中学時代いつも1位だった田中太郎のせいだ……!俺は悪くない!」
「一体何をどうしたら中学時代の田中太郎って奴のせいになるんだ……?」
「しかも、誰も厨二病が悪いことなんて言ってないしね……」
櫛田、こいつ今『しね』と言ったな!?……みんなに好かれる櫛田桔梗の皮を被りながらも、さりげなく俺に暴言を吐いてくるとは………………なんとなく俺の勘違いな気もしなくもないが、俺は天才だから、勘違いなわけがない。
……てかこらそこ「愚行……ぷっ」「贖えると思うな……ふふっ」とか言いやがって綾小路と櫛田め……何俺を小馬鹿にするように笑ってやがる……く、くそ、このままでは俺に厨二病とか言う不名誉な称号をつけられてしまう……もうすでに手遅れな気がしないでもないけど。
「……ほ、ほら早く行かないと堀北に斬殺されるから早く行こうぜ!!」
「逃げたな」
「逃げたね」
うるさいぞ。
◆
図書館へ着いた俺たちを待ち構えていたのは鬼のような形相をした堀北と前に退場して行った筈の勉強会メンバーたちだった。
……相変わらず堀北は怖い。……最近気づいたことだけど、堀北は常に生理なんだろう。じゃなきゃこの俺様に怒気なんかを向けてくるはずがないからな。
……その後は綾小路から事情をある程度聞き、櫛田とのデートの代わりに釣られたという勉強会メンバーについてと堀北が色々あって赤点組は必要、と判断したということは理解した。……でも、判断をしたということは理解しても、その判断自体は全く理解できない。
赤点組の奴らが何の役に立つ?こいつらは才能がないってのに全く努力をしないんだぞ?その上、無知、無能、無価値。……百、いや千歩譲って須藤と池はいい。須藤は運動神経に秀でて、バスケを本気で取り組める集中力を持っている時点で無能じゃないし、池は社会人になった時、最も大切と言われてるコミュニケーション能力が優れているからだ。
……でもじゃあ他の奴らは?山内……こいつはもうダメだな。コミュニケーション能力はあるのかもしれないけど、池以下だし、さらに何故か顔を見てるだけでイライラしてくる。山内は今回退学しなくともいずれ絶対退学する。……そして、沖谷……こいつは……可愛いからよし!………っていう冗談……じゃないかもしれない冗談は置いといて、そもそもこいつ赤点取ってないから必要とか必要じゃない以前にわざわざ教えなくても多分大丈夫なんですよね。ははっ!
……てことはつまり、皆必要!だけど山内、てめーはダメだ!ってことか。いやこれ山内を除けば堀北の判断正解じゃん。──ま、まぁ?俺も初めから堀北の判断は合ってるってわかってましたし?もちろん、俺ほどの天才が間違えるはずなんかないですし?俺が──
「──おい、ちょっとは静かにしろよ。ぎゃーぎゃーうるせえな」
……俺の天才的な思考を遮りやがって。誰だか知らないけどお前は今日から俺の奴隷な……そう思いながら俺は唐突に声をかけてきた変質者を睨む。
「悪い悪い。問題が解けて嬉しくてさ、ちょっと騒ぎすぎた。帰納法を考えた人はフランシス・ベーコンだぜ?覚えておいて損はないからな〜」
池はその変質者にへらへらと笑いながらそう謝る。これは池が悪いな。……すまんな名前も知らないモブ変質者、勝手に奴隷にして。………………そういやそんなことよりベーコンって美味しいよな。まじで。
「あ?ひょっとしてお前らDクラスか?」
「俺たちがDクラスだから何だってんだよ。文句でもあんのか?」
「いやいや、別に文句なんてねえよ。俺はCクラスの山脇だ。よろしくな」
変質者a.k.a山脇は俺たちがDクラスと知ると否やにやにやと口元に笑みを浮かべて俺たちを見回す。
「ただこの学校が実力でクラス分けしてくれててよかったぜ。お前らみたいな底辺と一緒に勉強させられたらたんまねーからなあ」
俺はキレた。は?は?は?は?は?俺が底辺だと?ふざけんなこのゴミカスが。
「なんだ──」
「──黙れこのクズ野郎が。俺は別にクラスメイトが何と言われようとどうでもいい、だけど俺の事を侮辱することだけは絶対に許さない」
俺はキレかけた須藤の上から被せるように素晴らしい事を言う。赤点組、いや、この図書館にいる人全てが俺を見てくる……実に気持ちがいい。……ところでその視線の大半は俺を軽蔑する視線な気がするんだけど気のせいだよな?
「……大体な、お前だって所詮はCクラスだろ。AクラスならまだもCクラスて。ぷっ、自分より下がいることに安心してる弱者がよくもそんな事を……」
「……さっきから黙って聞いてりゃ不良品の分際で……」
「不良品?違うな、間違ってるぞ。クラスメイトはともかく、少なくとも俺は不良品なんかじゃない。ざ〜んね〜んでした〜俺は天才でイケメンな完璧超人なんです〜」
俺が言い終えると視線の大半が軽蔑+憐れみになった気がした。しかも、うざっ、と声が聞こえたような……いや、流石に気のせいだろう。何故なら俺は天才だからだ。
「く、くくっ。冗談はよせよ。お前みたいなのが天才なわけねえじゃねえか」
「え、何当たり前のことを今更……俺が天才なわけないじゃん」
「え、いやえ……………や、やっと認めやがったか。そうだよ。お前なんてただの不良品なんだよ!」
「は?ふざけんな誰が不良品だと?俺は天才に決まってるだろアホが」
俺が神レベルに凄い反論をすると図書館内にいる全ての人間が俺にさっきより大きな憐れみの視線を向けてくる。……わかりたくなかったけど、この視線……俺は知ってるぞ。この視線は、ついに頭がおかしくなったんだな可哀想に……という視線だ。いやふざけんな、俺の頭はおかしくなってなんかいない。
「──は?お前が自分で天才じゃないって……」
「え?何言ってんの?嘘つくのやめてくれません?この俺が自分を天才じゃないなんて言うわけないだろ」
赤点組が俺の言葉にこれでもかと言うほど首を縦に振る。
「おまっふざけん──」
「──ん、あれ〜?山脇君、君、顔真っ赤だなあ?もしかして熱〜?……それとも俺にお熱とか〜?でもごめんね、俺はノンケだから……」
「……このクソ不良品が!殴ってやる!」
「どうどう、ほら落ち着いて落ち着いて。本当に俺が好きだからって照れて暴力振るうなって〜、今時のツンデレヒロインでもそんなことしないよ」
え、本当に山脇ってホモだったのか……と恐らく一緒に勉強しに来たであろうCクラスの男子たち全員が引き気味に山脇から遠ざかる。
「──俺はホモじゃねえ!く、くそ。テスト範囲外のとこ勉強してるバカの癖に……覚えてろよ!」
同じクラスの男子に引かれたのが堪えたのか、
「さ、流石に今のはやりすぎだったんじゃないかな……」
どこから沸いたのかストロベリーブランドの美少女が突然引き気味にそう言ってくる。
「俺は悪くない」
そう、間違っていたのは俺じゃない。山脇の方だ!
「……確かに仕掛けたのは向こう側からだったけども──」
「──いいか?やられたらやり返す、俺はただ倍返ししただけだ」
「……そ、そうなんだ。……でも、ここで勉強を続けるなら大人しくやろうね」
美少女は何故か最後まで少し引き気味にそう言って帰っていった。……いや、俺がイケメンすぎて恥ずかしくなったから帰ったんだな、そうに違いない。ふはははははははっ!……はぁ、疲れた。
「ね、ねえ。さっきテスト範囲外って言ってた……よね?」
やっと邪魔者がいなくなった時、櫛田が口を開く。多分さっき山脇が吐き捨てていったセリフのことだろう。
「あ?あんなんハッタリに決まってんだろ!」
「いいえ、一概にそうとは言い切れないわ。でも、クラスによってテストが違う、なんてことは学年で統一されてるはずだからありえないし……もし、範囲が変わったとすると……Cクラスだけが何故か範囲が変わったという情報を早くに知っていた……?それか私たちDクラスだけの伝達が遅れている……?」
「──もしくはまた別のことかも知れないしな、とりあえずは先生に聞いた方がいいと思うぞ」
綾小路の提案を皆受け入れたのか、直ぐに職員室へ向かおうと立ち上がる。
「俺の昔話をしよう」
は?と皆が俺の方を向く。
「俺の中学時代の話だ──」
「ちょっと待ちなさい。何故今なの?別に今じゃなくてもいいじゃない……」
「俺の中学時代の話だ──」
「てめえの過去話なんか聞いてる場合じゃねえんだよ!おら、さっさと行くぞ!」
「俺の中学時代の話だ──」
「うん、これ多分私たちが聞いてくれるまで同じ言葉言い続けるよ。前私もやられた」
櫛田がそう言った途端俺を引きずってでも職員室へ行こうと奮闘してた赤点組の奴らが皆その場に崩れ落ちる。
「俺の中学時代の話だ──」
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