---トゥーリ---
妹のマインが安心して治療出来る場所に移されることになった。心配していた治療費は要らないそうで、その代わり移住先で働いて欲しいそうだ。移住先は、ここからとても遠くの大陸にある国だそうだけど、主治医の男性が転移術を持っているそうで、一瞬で着いてしまった。先に私とマインだけが移住し、父さんと母さんは、仕事の引き継ぎが終わり次第、こちらに来る事になった。
タスメリア国アルメリア公爵領の領主様のお屋敷。そこが、移住先である。
「妹さんが日常生活できるまで、傍にいてあげてね」
領主様のご令嬢であるアイリス様は領主代行として、この地を治めているそうだ。お屋敷は領都から少し離れた行政区と呼ばれるエリアにあるそうだ。
ここでは貴族が平民の為に汗水垂らして働いているそうだ。
「領民の皆さんの納めてくれる税金で、私達貴族が暮らせるんです。ならば、その領民の為に働くのは貴族としての役目だと思うのです」
ここの貴族様達は、私達の住んでいた街の貴族様達とは違うらしい。
「志が同じ者ではないと、私の領地の行政には関われないのです」
「腹黒い貴族はケンが退治しちゃうしねぇ」
今一、アイリス様とカタリナ様の関係が分からない。後、マインの主治医のケン様の存在も分からない。ケン様曰く、平民の冒険者だと言うが、アイリス様、カタリナ様は、ケン様を慕い、尊敬しているみたいだ。
「ケン?単なる平民とは言いがたいですね。冒険者ギルドランクA+、錬金術ギルドランクS、商業ギルドランクCのスーパー平民になると思います」
錬金術師?商人?それで冒険者も熟しているのかぁ。それは凄いなぁ。
---ケン---
マインの父親のギュンターに話を聞いたが、あの国が聖女召喚をしているのかは平民では分からないと言う。マインの治療の合間に、神殿に忍び込み、聖典をコピー錬成して貰って来た。あれ?これ鍵付きかぁ~。翌日鍵をコピー錬成して来て、やっとこさ聖典を見ることが出来た。聖典の内容の精査は、マイルのナノちゃんに依頼した。日本語以外なら古代語でも読めるらしい。
マインの容体は徐々に良くなってきている。固結び状の瘤が徐々にであるが解かれている。ただ、根を詰める作業故、1日に2時間程度が限界である。マリアに頼もうと思ったら、光属性ではほどけない上、彼女には魔力の流れが見えないらしい。で、誰かいないか探すと、スーパーチーターのマイルが出来た。
「これ、大変な作業ですよね」
1時間ごとに交代して2セットずつ、ヒモ解く作業を連日行っている。
「でも、日本語で話せる幸せ、日本食が食べられる幸せが、私を幸せにしてくれてます」
笑顔のマイル。カタリナ、アイリスの転生組とも日本語で会話していた。周囲の者達には会話の内容が分からない為、結構きわどいガールズトークをしているそうだ。
◇
「ケン、私も商会を立ち上げようと思います」
アイリスがそんなことを言い始めた。俺も小さいな商会を持っている。この前『エチゴヤ』に改名したばかりである。
「何を売る?」
「領地でカカオが収穫出来るんです。それを使い、チョコレートを貴族向けに売ろうかなっと」
「いいんじゃないの。領地に特産品を持つのは良いと思うよ」
そういう俺は、ポーションが主力で、他にも様々な便利グッズを販売している。しばらくするとアイリスは、特産品販売商会の『アズータ商会』を立ち上げた。
商品として開発していたチョコが売れるレベルになってきた頃、アズータ商会の商品視察に、王都からアイリスの母親がやってきた。王都での宣伝部長らしい。
「アイリスちゃん、これ知っている?」
うっ!あれは、俺が王都でこっそり売っている怪しげなグッズでは無いか。何故、挨拶代わりにソレを取り出した?
「えっ?これはなんですか?」
アレを手に取り、アレコレ動作などを検分しているアイリス。
「コレって、簡易マッサージ器って名目なんだけど、実際に売れている理由はねぇ…ゴニョゴニョ…」
アイリスの母親が、アイリスの耳元で小声で説明し始めると、みるみる顔が真っ赤になっていった。そして涙目のアイリスが、何故か俺を見つめている。
「ねぇ、エチゴヤ商会って知っている?そこが売っているようなんだけど…」
今度はアイリスの母親が、笑顔で俺を見つめていた。
「50本ほど、優遇してくれないかなぁ?ねぇ、アイリスちゃん、頼めるかな?貴族の奥様方の間で噂の一品なのよね~」
「わかりました…ケン、後でお話があります」
アイリスには珍しく声が震えている。怒っているのかな。その夜、俺はほぼ徹夜で、件の商品のマッサージ能力を余すこと無くプレゼンテーションをアイリス、カタリナ、ウェンディに披露した。
翌朝、物を見たマイルが、
「これって、バイブ?」
「マイル、これはどこからどう見ても、簡易マッサージ器だ。コリを解すのに効果的なんだ。画期的なのは、電池の代用でゼンマイ式、魔力駆動の2タイプあるのだよ」
「それはマインちゃんのアレ解すのがアイデアかな?」
黙って、頷いた俺。当然だが、簡易マッサージ器では魔力の瘤は解せません。
◇
簡易マッサージ器の一件で、エチゴヤ商会の取り扱い品目に、アイリス、カタリナ、マイルの転生組女性の監査が入った。まさに大人の玩具さんに、女性捜査官が手入れをしている、そんなシーンのようだ。
「これって、ローター?」
マイルに訊かれた。
「いや、簡易マッサージ器2号だよ」
「これは、何ですか?」
アイリスが怪しげなポーションの瓶を眺めながら訊いてきた。
「それは、エリクサーもどきだよ」
「「「はぁ~?」」」
そんなに驚かないでも…うん?媚薬とでも思ったのか?媚薬なんか作っても、テスト出来ないだろうに。
「あくまでもどきだよ…効能は最上級ポーションよりも修復、治癒能力が上がった程度だよ。死んだ者は生き返らないので、本物では無い」
いつか作ろうとは思っているが、何を混ぜれば良いのかが、まるで見当つかない。
「これ、いくらで売るんですか?」
アイリスがマジな目つきで訊いてきた。だから、もどきだよ!
「買うヤツはいないだろ?専門ヒーラーがスカウト出来ないから、専門ヒーラーの能力を補う為、開発で努力しました。価格は決めてません」
最上級ポーションの単価が日本の価値で1億円くらいである。その上だと…
「都市部の予算並?」
「売れ無いだろ?」
「誰に使うの?」
「最上級ポーションが作れるという薬用植物研究所に、送りつけてみるとか…」
製造原価はタダに近い。殆ど俺の人件費のみである。あの青汁を濃縮しまくって、ハバネロ並唐辛子のカプサイシンを混ぜたというか。イメージはニトロである。心臓さえ再起動すれば生き返るのではという、単純妄想の産物である。
「材料は?」
マイルが興味を持った。俺は青汁の入った樽をアイテムボックスから取り出し、ジョッキに内容物を注いだ。
「「「臭いって」」」
「これを濃縮しているから、そのエリクサーもどきの臭さはこの世の地獄だよ」
ジョッキをマイルの前に置き、
「一気に飲まないと、大惨事になるぞ。舐めただけで、乙女の尊厳が無くなる程の大惨事に…」
「これは、飲めないって…」
蒼い顔のマイル。まぁ、お薦めはしない。注いだ物は樽に戻せないので、俺が一気に飲んだ。
「あぁ~、マズい!」
何度飲んでも慣れない不味さである。だけど、身体のだるさが吹き飛ぶし、実際HPとかMPが回復するのが、ステイタスの数値を見ても明らかなのだ。マインに飲ませば健康になるかな。味をどうにかしないとなぁ。
「臭さで生き返るとか?」
「いや、もどきの場合は、介助者にはマスクとゴーグルが必要」
「それ、劇薬でしょ?」
って、カタリナ。だって、劇薬刺激物が気化するからなぁ
「否定はしないが、効果は抜群だよ。細胞の再生速度が上がるし、不整脈程度なら正常になるレベル…だけど、心臓の再起動には至っていない」
「武器になるレベルなんじゃ…」
「あぁ、キズに掛かるだけで死にたくなるレベルだよ。目に入れば失明してからの超回復かな」
武器にはならない。回復薬だしな。効果は自分の身体で人体実験済みである。