---ルミナ(ルミナリア・アークス・フランシスク)---
聖シュルール協和国戦乙女聖騎士隊隊長である私ですら、パニック状態に陥っていた。他の聖騎士隊の隊長達も神官、司祭達さえも。突然闇の巨大魔法が、この聖シュルール教会治癒士ギルド本部に撃ち込まれたのだ。崩れる建物…教皇様の部屋へ急いで向かう。
「ルミナ、一緒に来て」
元上司のカトリーヌ様に声を掛けられた。
「はい」
エレベーターで地下へと向かう。地下ダンジョンで何かが起きたのか?急いでダンジョン内に走り込んだのだが、いつもと違う雰囲気で私達は足を止めた。瘴気がまるで感じられない。これって…
「やはり…ダンジョンが攻略されたようだわ」
膝から崩れる様に蹲ったカトリーヌ様。
「あの闇の魔法は、たぶんダンジョンの奥にいる魔物の攻撃だと思われるわ。それもあんな巨大なのは…断末魔の最後の叫びだと思う。誰かが、このダンジョンを極秘理に完全攻略したんだわ」
難航不落のアンデッドダンジョン。下に行くほどに瘴気の濃度が濃くなり、幻覚幻聴になやまされ、同士討ちにもなりかねないらしい。
「誰が一体…何の目的で…」
「思い当たる節があります。先日、冒険者ギルド本部で1個小隊の聖騎士が殲滅された。その隊を指揮していた神官は悪徳治癒士からの陳情を受け、無認可の治療士を処罰する為に出向いたそうなのよ。冒険者ギルドが言うには、まったくのえん罪で、斬り殺されそうになり、騎士達が返り討ちにあったと…」
1個小隊の聖騎士が返り討ちに?何者だ?治癒士の技量ではない
「その者は何者なんですか?」
「冒険者ギルドランクA+…その者の行為は冒険者としてのヒーラー行為から逸脱していないと言われたわ。確かに、冒険者のヒーラー職は治癒士ギルドに入会はしていないけど…」
治癒士とヒーラーの線引きは難しい。
「その彼と対談しないとダメだわね」
カトリーヌ様の顔は苦笑いしているようだった。
---ケン---
マインに軽い本が欲しいと言われた。この世界の本はどれも重い。装丁は革張りで,下手したら金細工が施されていたり、まして中身は羊皮紙の束だし。
「わら半紙ならある。あと鉛筆もどきもある。お前が本でも作るか?」
アイテムボックスからわら半紙の束と鉛筆もどきと米糊を取り出し、マインに手渡した。
「印刷は出来ないの?」
「ガリ版刷りなら準備中で、インクを開発中だよ」
煙突掃除や竹炭を作る際に出る煤を膠で練って作っているのだが、粘度調整で手間取っている。後、インクを塗るローラーの開発も途中である。
「手伝うから作って!」
「じゃ、スポンジの代用になりそうな物を探してくれ。ヘチマで代用したんだが、目が粗すぎてなぁ…」
インクの塗り作業でムラがでていた。
「紙ももっとちゃんとしたヤツを開発して」
「じゃ、メアリに繊維が細かくてしなやかな木材が無いか調べて貰ってくれ」
印刷出来ると、帳簿用の統一規格な用紙が作れるよなぁ。それはあったらアイリスの仕事が軽減しそうだ。
◇
アイリスのチョコレート事業は大当たりだった。王都で人気の商品となり、他国への輸出も始めた。そんな忙しいご時勢に、王都から宣伝部長との誉れが高いアイリスの母親がやってきた。
メルリス・レゼ・アルメリア。現アルメリア公爵夫人で、ターニャによると、剣を持つと人が変わるといわれている。触らぬ神になんとやららしい。娘をちゃん呼びすることから、アイリスを溺愛しているのだろうね。逆らってはダメな人物である。
「アイリスちゃんに用じゃなくて、ケンに用があるのよね」
う~ん、アイリスの悪役面は、こいつの遺伝か?結構な悪役面で俺を見つめている。
「俺の部屋でいいですか?」
「勿論よ。商談だから、応接間じゃ無理よ」
アイリス達に聞かれたくない結構ヤバい商談のようだ。
「ふ~ん、トリプルサイズのベッドなのね~」
って、俺の部屋に入るなり、俺の寝床のチェックしているよ。この人…
「毎晩、4Pしているの?」
ガチャ!
「あっ、失礼しました」
お茶の用意をしていたウェンディの手元が狂ったのか、茶器同士がぶつかり、音が響いたようだ。
「それよか、商談は何?」
「カカオって、媚薬効果あるんでしょ?」
「多少は…」
「あなたの濃縮技術で、濃厚な媚薬を作れない?セット販売すれば大ヒット間違いなしよ!」
それは簡易マッサージ器1号と2号とセットで売るってことですか?純情なアイリスの母親がこんなんでいいんですか?
「どう?悪い話じゃないでしょ?」
まぁ、良い儲け話だと思うが、公爵夫人の顔は悪人顔である。誰かのスキャンダルネタでも作るつもりか?アイリスがこの人の娘だと思うと、とても心配になる。
「じゃ、出来上がったら、私の元に持って来なさい。いい?アイリスちゃんには内緒よ。じゃ、よろしく~」
って、部屋を出て行った。アイリス母。勿論内緒ですよ。言える訳無いでしょ?
「ウェンディ…聞こえなかったよな?」
「はい。私は何も聞いていません。でも…あの…実験は私でお願いします」
真っ赤な顔でモジモジしながらウェンディがそう言った。まぁ、アイリス、カタリナで実験は怖いよなぁ。ウェンディでも充分怖いんだが…毎晩、俺が寝た後で、三人で何かをしているみたいである。なんだろうか?まぁ、朝になると怠いけどスッキリしているので、気にしないようにしているけど。