掛け違えたボタン
---セイ---
気が付くと、医務室らしき場所にいた。所長が心配そうに私を見下ろしていた。
「セイ…大丈夫か?」
なんでこんな場所にいるんだっけ?記憶を呼び覚ます。そうだ!
「彼は召喚された牧之原研くんでした。で、彼は今どこに?」
確か、首に誰かの手が…私は落とされたのか?なんで?混乱する私の記憶…
「我が国に行ったようだ。そこでたぶん…王子に連れて行かれたもう一人の女性の姿を見たのだろう。突然の爆発で、一瞬にして後宮が消えたそうだ。その後、研究所からモエの姿が消えたそうだ」
国から魔術的な伝書鳩が飛んできたそうだ。彼は後宮で何を見た?ちょっと待って、王子に連れて行かれたもう一人がって。まさか後宮に…なんで?
「なんでですか?彼女は聖女候補だったんですよね??なんで、後宮に…」
「王子が性欲に負けたらしい。聖女候補はもう一人いるからって…」
「酷い…」
王子の性欲のはけ口の為に、日本から異世界に拉致されたの?酷すぎる。でも…
「彼がエリクサーを完成させていたら、身体も心も健康になりませんか?」
「それはどうだろうか?壊れた精神は治らないし、死んだ精神は戻らない。薬で治せるのは肉体だけだ。後宮は精神を蝕み易いからね。まして聖女として召喚されて、そんな場所に閉じ込められたら…」
後宮からは生きて出る事が出来ないそうだ。死んでも病死、事故死で無いと出られないとも。大抵は不審死で、後宮で埋葬らしい。
その日、護衛として付いて来てくれた第三騎士団と共に、私達は帰国の途に着いた。
◇
後宮だったという建物は残っていなかった。瓦礫すらない、完全消去状態である。目の前には更地が広がり、惨たらしい死体すら無い。目撃者によると、爆発音だけ盛大で、炎が上がらなかったそうだ。建物は粉雪のように舞い上がり、消え去ったと言う。考えられるのは粉塵爆発だ。石組みレンガ組の建物を微粒子レベルまで分解させて粉塵を造り出し…
問題は事件の起きた前日、私は彼らと会っていた。とても1日か2日で移動出来る距離では無い。
「たぶん、空間操作術の一つ、転移術を使ったのだろう」
空間操作術は無属性魔法に分類され、遣い手は珍しいそうだ。そうなると、彼は聖者では無く、無属性魔法の遣い手だったのか?
「幸い、人的被害は無いようだ。いや、その日、後宮に行っていた第一王子だけが行方不明らしい」
きっと王子も細胞レベルに分解され粉塵の一部になったのだろう。何かを見つけた彼の怒りに触れたのだろうか?
---ケン---
アイリスがティアラを気を遣い、お土産の箱の中に、プライドの手紙を混入させたらしい。冒険者ギルド本部からのクエストで、ティアラ・ロイヤル・アイビー王女一行の護衛依頼が出されていた。目的地はここで、国絡みの案件を受けないことにしている俺は拒否して帰って来た。
「アイリス、どうするんだ?面倒な事になったぞ」
「どうしましょうね。良かれと思って実行してしまったの。本当にごめんなさい」
謝って済むなら戦争は起きないぞ。
「プライドはどうしたい?」
当事者に訊いてみた。一番簡単なのはプライドを連れ帰ることだが、その場合、もう二度とお持ち帰りは出来ないだろう。あの国がプライドを手放すとは思えない。予知能力でプライドが国を滅ぼすと見えていたはずなのに、プライドを好きな様に生きさせた王族達。それは前世の記憶を持つ、彼女にとって、重荷になり苦痛になり、将来の不安しか無かったそうだ。
「私はあなたと一生を終えたい。あの国以外の場所で…」
目に涙を溜め、俺の腕に縋るプライド。
「ティアラは王位継承者だから、お持ち帰り出来ないし…どうするかな?」
片道半年くらいの旅程を任せられる冒険者って、いないだろうな。海を渡らないといけないから、天候によっては、もっと掛かるだろうし。
「ティアラって、1年以上も王都から出られるのか?」
「王位継承者だし、難しいかな」
じゃ、ここまでは辿り着けないってことで。転移術を持つ隼人には受けるなよと言ってある。受けたら敵認定だとも言ってあるので、転移でここまで来られるヤツはいないだろう。
「じゃ、通常営業だな。プライドは、俺達と冒険者三昧をして貰うよ」
ラスボス並の戦闘能力持つプライドが居れば、スーパーチーターのマイルと共に目立ってくれ、俺はモブになれるだろうな。
「了解」
やっと会えた萌は静の件でヒッキーになっていた。部屋から出て来ない。日本に帰りたいと、ホームシック状態とも言える。しかし、帰る方法は現状は無い。
魔法に詳しい国ってどこだ?