---セイ---
一息ついた。いつの間にか意識が飛んでいたようだ。ここは研究所の私の部屋…朝日が差し込んでいる。もう朝だ。あれ?いつ寝たんだっけ?記憶が混乱している。ふと、横を見ると…なんで、ここに…あれ?応接間で会っていたはず。ここにいるってことは、私が誘い込んだってことであろう。
自分の身体をチェックすると全裸であった。下腹部に違和感がある。手で確認してみると、全身から冷や汗が吹き出し、思い出した。所長がやっちゃいけないことをして、彼がキレて、私は必死に命乞いをしたんだ。なんでもするから助けてと…その結果である。なんで、こんなことに…性欲を減衰する薬を常用していたはずの彼なのに…
あっ!そう言えば、昨日は青汁を飲んでいない。ジョッキに注いだアレを飲み干す前に、所長がやらかしたんだ…ベッドから抜け出すと、下腹部に妙な感覚がある。何かが流れる出る様な…ドンだけ溜めていたんだ、この男は…
ベッドで寝るあの男の表情は、どこか満足げに見えた。
◇
シャワーで全身を洗い流し、服を着て、部屋を出るが、いつもと雰囲気が違う。窓から見える風景は、どこか殺風景で、妙に色彩が無い気がする。薬草が枯れた花壇。木々は枯れ、小動物達が地面に落ちている。所長の行為は、彼の怒りに触れたのだろうか。その代償は大きいようだ。
応接間に向かうと、所長らしきミイラがソファに座っていた。白髪なんかなかった頭髪だったのだが、真っ白であり、体内の水分が全部抜け出たのか、足下の床はビショビショに濡れていた。
これが、彼の怒りの力なのか。いや、青汁で抑えていない彼の本来の力と言った方が良いのか?
「えっ!」
後ろから誰かに抱きつかれた。いや、誰かは分かっている。彼しかいない。抱きかかえられて、私の部屋に連れ込まれた。
翌日、シャワーを浴びずに、応接間に行き、ジョッキに青汁を注いで、部屋に戻った。漏斗とスポイトを使って、彼の口の中に青汁を滴下させていく。これで、理性が戻るだろう。いやそうで有って欲しい。このままでは、私が疲労でダウンしてしまうだろう。前世では未体験だったけど、大人の行為って、思ったよりも体力を使うのね。
お昼頃にはジョッキに注がれた青汁を、彼に総て飲ませる事に成功した。これで安心か?シャワーを浴びよう。昨日も出し切ったのか、今朝の下腹部はゴワゴワ程度で済んだようだ。。
「おはよう」
シャワーから出ると彼に挨拶された。あんなにも激しかったのに、まるで覚えていないのか?その上、私は全裸であったのだが、彼は私に見向きもせずにシャワー室に消えていった。ここまで性欲って減衰するんだ。物体X、恐るべし…
「ねぇ、なんで、誰もいないんだ?俺達以外、まるで生き物の気配を感じないんだけど。セイって研究所に一人暮らし?」
シャワー室から出てきた彼がそんなことを言う。下手に怒らせるとマズい。でも、事実を認識して貰わないと。
「覚えていないの?」
「う~ん…とてもスッキリした記憶しか無い。なんで、こんなにスッキリしているんだ、俺…」
それはそうでしょう。あんなに盛大に排出すれば、
「あなたが、したのよ」
---ケン---
セイが俺を真っ直ぐに見つめて言った。
「あなたが、したのよ」
何を?記憶を思い出す。薄らと感覚的な物を思い出す。セイは俺の手を引き、所長と会った応接間に連れて行った。そこには変わり果てた姿の所長がいた。あぁ~、思い出した。コイツらは俺に敵対行為をしたんだ。
「そうだ!許可無く、俺のステイタスを鑑定したんだ。俺のレベルが1なのを良いことに」
怒りがこみ上げて来た。爆発する前に、自ら青汁をジョッキに注ぎ、一気に飲み干した。飲むことで怒りの限界値までも上がる気がするのだ。
「あっ!もしかして、俺はセイに何かをしたのか?」
謎のスッキリ感の正体に思い当たった俺。青汁のデメリットが無い状態だとしたら…
「青汁を飲まないあなたは危険ってことがわかったわ」
つまりは、そういうことをしてしまったのだろう。
「ねぇ、あなたは何をしたの?どこまでの範囲が影響を受けたの?」
それは『威圧』の上位バージョンの威力ってことだな。
「わからない。初めて使ったから。まさか、共同研究の場で敵対行為をされるなんて思わなかったから、咄嗟に…」
---セイ----
彼の使ったスキルは『畏怖』…彼的には『威圧』の上位バージョンだと言うけど、生死に関わるクリティカルな精神ダメージ攻撃のようだった。試しに瞬間的に使ってくれた。そして、彼が検証をしてくれたのだ。
「このスキルは危険だな。ここ一番に使おう」
って…意識が飛び、気が付くとシャワー室で彼が私を洗ってくれていた。
「全身の穴という穴から体液とかが漏れていたぞ」
私の女性としての尊厳は、彼の前で脆くも崩れ去ったようだ。
「誰にも見られたく無い姿を見られたんですから、責任を取ってくださいよ!」
「すまん、側室になるけど…」
まぁ、婚約者が既に4人もいるものね。
その後、二人で被害状況を見て回った。王城敷地内は全滅、王都はセーフであったが、王城にいた王族、貴族、騎士達はほぼ全滅であった。どうするんだ、この国は?
フであったが、王城にいた王族、貴族、騎士達はほぼ全滅であった。どうするんだ、この国は?
「隣国と併合するか?」
隣国?確か…フリージア王国でしたっけ?それって、未来のあなたの国じゃないの?
---アイーリャ・フォン・タスメリア---
各大陸に散っていた密偵の一人から連絡が届いた。スランタニア王国が、隣国であるフリージア王国の次期王配に敵対行為をし、滅ぼされたと…次期王配って、あの男だ。アイリスの婚約者の平民…密偵からの情報では、フリージア王国から兵は一兵卒も進撃していなかったそうだ。続報では、あの男が単独で王城だけを落としたと言う。建物の損傷は無く、ただ植物と生物だけが死に絶えていたそうだ。
「アルフレッドは、どう思う?」
第一王子である孫に訊いた。
「彼は転移術を使えるのでしょう。色々な大陸を縦横無尽に飛び回っているようです」
転移術だと無属性魔法だ。遣い手が僅かな上、防御する方法は無い。
「敵にしてはダメです。彼一人で、国一つを奪えるのですよ」
メルリスの目から見てヤバいのが三人いると言っていた。彼クラスが後二人いるのか。
「アルフレッド、王妃と第二王子を早急に失脚させるわよ。アイリスに害が及ぶと、この国も終わる」
「えぇ…そう思います」
---ケン----
セイと共に帰ってきた。忘れていた。青汁のデメリットを彼女達は知ってしまったことを…その晩から、夕食時に青汁を飲むことが禁止されたのだった。
翌日、青汁を飲んで体力を補充し、スランタニア王国で起きた事をアイリスとプライドに話した。
「まぁ、敵対行為をしたんだから、落とすのはいいけど、フリージア王国への負担が凄いことにならないですか?」
プライドに訊かれた。
「トップがすげ替えられるだけだし、スランタニア王国の貴族が治めるなら、譲れば良い」
統治はしたいヤツがすれば良い。
「そうなると鑑定防止策が要りますね」
アイリスが心配そうに俺に言った。
「セイに訊いたら、相手よりレベルが高ければ、防止できるそうだ。当分、スランタニア王国の森で、魔物狩りをしてレベルをあげてくるよ」
騎士団の代わりに魔物を殲滅させて来ようと思う。ステイタスを確認すると、大量殺戮をしたおかげか、レベルが予想外に上がっていたのは、内緒にしておくか。
「で、セイさんは5人目の婚約者ですか?」
アイリスに訊かれた。
「すまない。青汁を飲まないと、あんなことになるなんて…」
「セイさんに訊きましたよ。溜まり過ぎていただけって。これからは適度に抜いてくださいね」
アイリスの目が輝いたように見えたのは気のせいだろうか?