---アイリス---
出張から帰ってきたケンの持ち返ったお土産が、途轍も無く重かった。聖シュルール協和国のトップである教皇と友好条約を締結して帰って来たのだ。その上、領都に建立した教会を教皇自ら認定、聖シュルール協和国から司祭が駐留することになったと言う。
王都から母が来たのは言うまでも無い。あの国と友好条約を結ぶのは難しいのだ。なんせ政治に介入はしないと断言している国だから、まさか政治的要素が強い友好条約を、締結するなどあり得ないレベルである。
「ケン!どんな手を使ったの。吐きなさない。いや、吐け!」
母がケンに迫っている。
「いや、俺とセイの認定をさせてあげたお礼だよ」
認定をさせてあげた?
「何の認定…」
恐る恐る訊いてみた。
「今代の聖者と聖女の認定だよ。ステイタスを詳細まで見せたら、認定させてくれって…」
「聖者と聖女…この国の王よりも上位の存在じゃない…」
「あぁ、黙っておけばわからないし」
暢気なことを言うケン。事の重大さが分かっていないようだ。
「何を言っているのよ!教皇が自ら認定したのでしょ?それは、全世界に宣言されるわよ」
面倒臭そうな表情の母。
「えっ!そんな大事に?あのババァ~、黙っていろって言ったのに…俺のモブ平民生活は…」
「そんなものは最初から無いの!だって、アイリスちゃんと結婚するんだからね!次期公爵補佐は決定事項だからね」
凹んだケン。詰め寄る母。なんか、面倒事にならないといいなぁ。
---アルベルト・ホーク---
あの日、難を逃れたのは所用で王城にいなかった宰相と兄である宮廷魔道師団副師団長、そして第三騎士団団長の私。あの惨事で幼なじみのヨハン、兄エアハルトの上司であるユーリ・ドレヴェスを亡くした。フリージア王国から統治権を返却され、残った我々で自治を行っている。幸い、王城の敷地に居た者だけが被害に遭っただけで済んだのだった。
「聖シュルール協和国の教皇から宣言が為されたぞ」
宰相であるドミニクが通信室から走ってきた。
「どんな宣言だ?」
教会、神殿、治癒士、聖騎士達のトップである教皇。全世界に広がる教会、神殿、治癒士ギルドのトップである。
「今代の聖者と聖女の婚姻を認めたそうだ」
聖者と聖女だって…それはセイと聖者との婚姻ってことか…
「じゃ、王城を襲ったのは聖者で、セイを浚ったのか。そして、教皇の前に連れて行き、婚姻を認めさせたと言うことか!」
「まぁ、そんな感じだろう。ただ、浚ったのか、どうかはわからない。セイとは交流があったかもしれない。アルベルト、冷静になれ!セイは今まで我が国のいいなりになるしか無かった。彼女の行ける場所はここ以外に無かったのだからな。だが、聖者という選択肢が増えたのだろう」
異世界から召喚された女性、セイ。王子の不手際で、国に愛想を尽かし、一度は国から出ようと考えていた。
「お前とセイが恋仲だったのは皆知っていた。だが、その聖者が知っていたかはわからない」
だが…俺はセイと…
---セイ---
ケンが私達と教皇の間に行った本来の目的を、後日知る事になった。そう、私との結婚さえもカモフラージュ要素があったのだった。教皇サイドを油断させ、とあるミッションを完遂する為に。
「魔導大国って国が以前あったようです。その国を建国した者が異世界人だったと記されてました」
ケンが教皇の間にあった書物を総てこっそり錬成コピーし、うちの書庫に蔵書し、マインちゃんとソフィアちゃんに調べさせていた。
「そうなるとその国の研究資料があれば、萌を帰すことが出来るかもしれないなぁ」
ケンの本来の目的はソレであった。私との結婚をダシに大それたことをしでかしていた、この男。目的の為であれば、手段を選ばないタイプなのだろう。
「どこの国が滅ぼしたんだ?」
「周辺の国で今も残っているのは、龍王国とウェザード王国です」
その国に乗り込むつもりなのか?
「場所は?」
「不明ですねぇ」
「ダメじゃん…いや、今まで行ったことの無い大陸とか島かな」
それは難しいのでは?この世界には世界地図なんて物は無い。なので、この星の全体像が分からないのだった。
「オーストラリア大陸に当たる場所とか、ムー大陸に当たる場所は行った事無いなぁ」
元いた世界基準で考えている、この男…
「いずれにしろ、行ったことが無い場所には転移出来ないし、目で見える範囲にしか転移出来ないし…そうだ!ついでにセイと新婚旅行をしよう」
また、私を巻き込むつもりか…それもついでとは、嬉しいやら悲しいやら。
「初夜は?」
カタリナに訊かれた。
「まだ…してないわよ」
する気が無いのか、この男は初夜の寝る前に青汁を飲んで、性欲を抑え込んでいた。まさか、また一気に放出する為に、溜め込んでいるのか?
「そうなると船旅かしらね」
って、アイリス。陸地伝いなら短距離転移で移動出来る。それが無理ならば、船での移動になるよね。
「いや、どこかで、グリフォンとかコカトリスとか捕まえて、騎乗するのは?」
無い無い。どこのラノベのチートカップルだ?私には無理だって…
「あぁ、それはいい手ですね」
乗る気満々のマイルちゃん。あの…私、一般人なんですよ~。