指名依頼
---ケン---
野暮用を終えて戻ると、棺の中にオリヴィエがいた。
「これ、どんな状態なんですか?」
マイルに訊かれた。
「たぶん、マインと同じ身食いなんだと思う。ただ、誰かがオリヴィエに魔力の増加を抑える封印を施し、ある時期になると、その封印が解かれ、何かを身体にリロードする魔方陣も発動するようにしたようだ」
「何かって?」
「称号に『始祖魔王を葬り去った者』ってあったから、始祖魔王なんじゃ無いか?魔王って言っても悪魔王で無く、推測だけど、魔導大国を建国した最初の異世界人である魔導王のことだと思う」
アレから読み取った情報だから、推測でなくて事実である。オリヴィエは始祖の血筋で、保有魔力も膨大になる器であった。だから、依り代に選ばれたのだ。
「どうするの?」
「リミッタを外されたから、マインよりも急激に身体にダメージが入りそうだな。う~ん、青汁につけ込んでみるか?いや、青汁のお風呂に漬け込むというか。青汁なら最大MPを増加させてくれるし、身体へのダメージも自動回復してくれそうだよな?」
確信は無いが魔力を馴染ませるには良さそうな気がする。濃縮すればエリクサーになるんだし。
マイルの土魔法でモルグに湯船を作って貰い、その間、俺は冒険者ギルド本部で青汁をいつもの3倍ほど買い込み、モルグに戻った。湯船にオリヴィエを置き、首から上が潜らないように固定してから、湯船に青汁を並々と注いだ。これで大丈夫か?
◇
俺が一人になった瞬間、セイが俺に詰め寄って来た。
「ねぇ、萌ちゃんをどうしたの?」
「帰したよ。方法がわかったから、萌を帰すことにした」
「なんで言ってくれなかったんですか?お別れくらいしたかったよ~」
涙を蓄えた瞳で俺を見るセイ。
「帰還方法がちょっと問題があって、みんなには見せられなかった。誰かの魂に帰りたい者の魂を憑依させて、憑依をした者を死なすことで、魂が元の世界に帰ることが出来るらしい。だから他人の魂を取り込めるように、転生者、召喚されし者の魂は二重に見えたのだろう。この世界仕様の魂を着た本来の魂。この世界の魂を憑依させた者にあてがい、本来の魂は本来あった世界に戻れる。だから、アレはオリヴィエに憑依し、元の世界へ帰ろうとしたのかもしれない」
「その理論だと、ケン、あなたは…」
俺は俺の手で大切な存在である萌を殺し、その魂を憑依させた者を殺した。俺の手は血で汚れている。まぁ、今更であるが…
「一人で背負わなくていいんだよ」
セイが俺を優しく抱き締めた。
「『浄化』」
俺を浄化するセイ。しかし、血にまみれた俺は聖属性の『浄化』では効果は無い。魔が差したのでは無く、闇に堕ちたのだから。
「ねっ。私達は夫婦なんだから…」
こんな俺の為に、涙をこぼしてくれたセイ。それだけで、俺の心は少し救われた気がした。
---ヴェロニカ・W・フェアリーガー---
オリヴィエの婚約者の横暴により、私が人質となり、抗争相手に引き渡されることになった。当初、カサンドラ・ハーゲンドルフ公爵が人質候補であったが、神隠しにあったのか、消息不明になったことで、私にお鉢が回ってきたのだ。
「いいか?相手は、我が国よりも強大な組織である。その事を肝に刻み、我が国を護る為に出来る事をしてくれ」
って、国王様のお言葉…なんで、オリヴィエの婚約者の尻拭いをしないといけないの?沸々とアレコレ考えている間に、目隠しをされ抗争相手に引き渡された。
一瞬、浮遊感を感じると、懐かしい声が聞こえてきた。
「ヴェロニカ…なんで、あなたが旦那様の婚約者になったの?」
オリヴィアの声だ。あれ?ここはどこ?自宅である王宮にいたはずだけど…目隠しを外されると、目の前に異民族の服装を着たオリヴィエがいた。
「ここは?」
「旦那様のお屋敷です」
旦那様?オリヴィエの?あれ?それって、ジャレッド・マーフィーじゃないの?
「オリヴィエ、人質って婚約者にする者なのか?」
「貴族、王族の場合はそうですよ」
「俺、平民だよ」
はい?オリヴィエの旦那様って、平民なの?
「平民はダウトですよ。少なくても教皇候補ではあるでしょ?」
女の子がオリヴィエの旦那?に言い聞かせるように言葉を投げつけていた。
「う~ん、セイが教皇候補でいいじゃないか。俺は平民ってことで…」
「はぁ~、諦めが悪いようですね。次期王配と次期公爵補佐からは逃げられないでしょ?」
何者だ、この男…
---ケン---
最近、婚約者が増えている気がする。オリヴィエも俺の婚約者になると言う。マインと同じ身食い発症者の為、完治するまで、俺の傍にいないといけないのだった。それが刑期より長くなる可能性もあるし。それ以前に完治するのだろうか?まだマインも完治していないぞ。その結果、オリヴィエの父親と極秘理に相談をし、そのような決定になったのだった。
ヴェロニカの方は、ウェザード王国からの誠意ある慰謝料代わりと言うが、オリヴィエよりも歳上らしい。訳あり令嬢だけでなく、難あり令嬢すら集まって来ているのはどういうことだ。別に曰く付きの令嬢が好みってことでは無いんだけど、誤解をされていないか?
そうそうオリヴィエの服が着られない問題は解決した。肌襦袢なら羽織れた。肌襦袢に限らず和装ならオーケーらしいが、俺の好みの問題で肌襦袢を羽織って貰っている。この世界の理では衣服は洋服であって、和装は洋服では無いってことらしい。
萌のことは、セイがみんなに話してしまった。それによって、何かが変わるって事も無く、今日も平常運転であるけど…セイとは彼女の要望で、二人でお墓参りをしてある。
平和で穏やかな日…萌は無事に帰れただろうか?そんなことを考えていると、隼人経由で冒険者ギルド本部からの連絡が届いた。いつものメンバーで本部へと向かった。
本部には大人しそうな女性が待っていた。俺が着くと、ギルマスが目配せをし、一通の書状を俺に手渡して来た。
『問題が解決するまで預かってくれ エルグランド王国クレスター伯爵家』と…エルグランド王国ってどこだ?知らない貴族からのクエスト。面倒なことに巻き込まれそうだ。
「これ、どういうこと?」
ギルマスに訊いた。
「どこかでお前の噂を聞いて、お前に預ければ安全と判断したようだぞ」
どう安全なんだ?青汁を飲み忘れると野獣になるらしいんだけど…
「クレスター伯の話では、国王の指名で、そのお嬢様を後宮に差し出せって、命令が来たそうだ。クレスター伯的には、お嬢様を後宮に上げたく無いそうだ」
いや好き好んで後宮に娘を上げる親はいないだろう。居るとすれば、娘は政治の駒だと錯覚している貴族くらいだろう。
「俺、後宮は嫌いなんだけど…」
「最適な人選だろ?お前なら、後宮から護り切れると踏んでいるのだろう」
「報酬は?」
ギルマスの視線がお嬢様に向いた。マジかぁ~。婚約者にしろって?俺、婚約者コレクターで無いぞ。