---ディアナ・クレスター---
我が家は代々、悪人顔の家系である。そのせいで、『王国を裏から支配する、悪の帝王家系』と思われていて、長女の私ですら『社交界きっての悪女』と言われている。そんな私に、正義を志す若き国王、ジューク・ド・レイル・エルグランドから一通の通達が届いた。
『名付きの上級側室として後宮入りせよ』
と…悪女である私を後宮に入れて、どうにかしようと言うのだろうか?拷問責め?それとも見世物にするのか?不安ばかりが先走る。そんな私に父が救いの手を差し伸べてくれた。
「海外留学中で、直ぐには対応出来ないことにする。お前は冒険者ギルドへ自ら向かい、ケンという冒険者に保護して貰え」
1通の書状を渡され、私付きのメイドであるリタと共に、馬車に乗せられ、裏口から旅立った。
◇
「報酬は?」
ケンと言う冒険者がギルドマスターに訊いた。ギルドマスターは視線で私を指している。つまりは後宮より、この冒険者の妻か愛人になれば、安全ということなのだろうか?
彼に引き渡されてから驚きの連続である。遣い手の少ない転移術を使え、一瞬で知らない国に転移していた。
「ここはタスメリア国アルメリア公爵領だ。たぶん、知らない国だろ?俺もお前の住んでいた国を知らないし」
着いた場所は見た事の無い様式のお屋敷だった。冒険者って、お屋敷に住めるんだと感心したり。
「まずは、ここでの暮らしに慣れろ。基本、働かないヤツに飯は無いからな」
彼は冒険で身を立てているのでは無かった。商会を持ち、自ら運営し、この公爵領の統治に尽力していた。この人は何者なんだ?
---ケン---
「今度の子も訳ありなの?」
「後宮逃れで俺に預けるって。知らない貴族なんだけど…」
受け取った書状をアイリスに見せる。
「あぁ、クレスター伯かぁ。そこなら、お爺様が知っていたはずです」
アイリスの祖父の知り合いみたいだ。そうなると、戦闘バカ系か?
「報酬が娘自体なんだけど…」
「貴族ルールだとそういうものよ。娘は政治の駒であり、宝でもあるんだから。娘を報酬に出すって、一番の宝を差し出すのに等しい行為なのよ」
って、アイリス。
「だけど…」
本末転倒だろうに。後宮逃れで、俺の嫁って…俺は金庫では無い。記憶に残っていないが、青汁がないと理性の無い野獣になるって話だし。
「ケンには理解出来ないと思うけど、返却は争いの元。貰っておきなさい」
貴族ルールは未だに馴染めない。どうするかな。
◇
領都の再開発計画の第二弾に頭を悩ませる。
「領都に隣接するエリアをもらっていいか?」
アイリスにお伺いを立てておく。
「いいですけど、何をされるんですか?」
「戦力増強の為の誘致だよ。冒険者ギルド本部、錬金術師ギルド本部、商業ギルド本部を、この地に引っ越して貰うのさ」
各ギルド本部のある領地に戦争を仕掛けるバカは少ないはずだ。領都には教皇の認定教会もあるし。冒険者と聖騎士を敵に回すバカがいるとも思えない。いるとすれば、この国の第二王子くらいだろう。
「勝算はあるの?」
「錬金術師ギルド本部と冒険者ギルド本部は、既に内定済みだよ」
引っ越しは、建物ごと転移させる約束である。身食いが二人に、魔力底なしが二人いるので、魔力的には問題は無い。俺が発現させる魔方陣に魔力を叩き込んで貰えば、手間無しである。
「それぞれのギルマスに、乾燥機能付き温水洗浄便座のプレゼンをしたんだよ。そうしたら、見事喰い付いたと言うか」
「あぁ…この世界に於いて、欲しい魔導具第一位商品よねぇ。さすが、商業ギルドランクAの商会会頭だわ」
嬉しそうな顔のアイリス。喜んで貰えたので、良しにしておこう。
それぞれのギルド建屋の図面を見て、引っ越し先に印を付け、下水道工事を行っておく。それぞれ地下1階は倉庫として使うらしいので、地下2階に浄化槽を設置して、そのまま下水道に流すように設計をして、マイルの土魔法で基礎部分の建築を行って貰った。魔物の腸で作ったパイプは気持ちが悪いってことで、鉄筋コンクリートの配管に変えた。錬成術で工夫したら出来たので、そのまま採用されたのだ。勿論、今まで設置した分も交換済みである。
「今度から青汁は、自領で買えるんですね」
今まで、冒険者ギルド自体が無かったから、これで近場で買える。俺でなくても買える。
「そうなるな」
「毎朝、ギルド本部で飲んでくださいね」
日課にすれば飲み忘れも減るかぁ。