---ケン---
あの新薬が効いたのか、アルベルティーナが意識を取り戻した。
「くさぁぁぁぁ~」
が、第一声である。まぁ、そうなるか。目覚めた彼女に、コレまでの経緯とこれからを知らせておく。
「ここに住まないと、危険が一杯なんですね。そうか、完治は出来ないまでも、軽減は出来るんですね」
「魔力留の発生原因が分からないと、完治させられない。現状、ここには同じ身食いの者が十名近く、住んでいたりする。アルベルはどうする?」
「う~ん…ここって日本人の転生者が多いんですよね。出来れば、ここに住みたいけど、王様が許してくれるかな」
王位継承者の証である王家の瞳と言われる目を持っているアルベルティーナ。王家が簡単に手放すとは思えないらしい。
「患者さんファーストだから、王家の言い分は聞かない。そうだ、君の義弟君に会って、君の置かれている状況を聞いてきた」
アルベルティーナに骨ツボを手渡した。
「これって、お父様の?」
「そうだ。霊廟に保管すると、また盗難されるかもしれないから、ここの君の部屋に安置しておくと良い」
アルベルティーナの義弟と義母と話し合った結果、ここにアルベルティーナを住まわせる方向になった。ここなら、王家からの茶々入れは無いと思うし。あったら、潰すだけだな。
「あと、うちの公都に君の商会の本店を置いて貰う」
アルベルティーナはラティッチェのローズ商会の商会長だそうだ。
「あの…公都に住めますか?」
「もう少し、症状が和らげばね」
「呼んで欲しい人がいます」
「義弟、義母を含めて領民ごと、アルメリア公国に転移させてある。場所は公都から馬車で1時間の距離だよ。ラティッチェ市って名称にしてある」
「ありがとうございます…」
骨ツボを抱き締めて泣き崩れていくアルベルティーナ。
---アルベルティーナ・フォン・サンディス---
商会の名義名がサンディス姓にしてしまったので、この名前で生きる事になった。まぁ、ただのアルベルティーナとして生きていくだけだな。体調の変化に対応しやすいように、私は侍女のアンナと公都に住む事にした。私の体調に変化があれば、私の影であるレイヴンが冒険者ギルド本部経由で別邸に知らせてくれることになっている。
「ここは住みやすいですね」
まだベッド生活の私。侍女のアンナが身の回りの世話をしてくれている。
「そうなの?」
私は別邸とこの部屋しか知らない。。まだ公都の散策には出られていない。別邸では畳に布団を敷いていたのだが、アンナが和室の扱いに慣れていないので、現在住んでいるマンションは和室も洋室もある部屋である。
流石は公国のトップ陣に元日本人の転生者が多い為か、日本の住環境を再現してくれていた。洗浄乾燥便座付きの水洗トイレ、シャワー完備、ゆったり寛げるバスタブがある風呂場、システムキッチン、畳に押し入れ…和食の給食などなど。行政区などの食事はセントラルキッチンで調理する関係で、住民には有料であるが宅配弁当が配達されるそうだ。味噌汁に焼き魚に卵かけご飯…アンナが卵かけご飯に面を喰らい、箸に手こずっている。
「なんで、お嬢様は平気なんですか?」
「慣れかな?」
別邸での慣れってことにしてある。実際、元日本人の人口密度の高い別邸だったので、食事は和食中心で箸で食べる生活であった。一番の驚きは、別邸での公用語は日本語であったことか。
それにしても、領地ごと転移って、凄い荒技だよね。きっと、王家は驚いているだろうな。ラティッチェ領にはもう誰も住んでいないんだから。公都に商業ギルド本部がある為、本店移転の影響は少なかった。まさか公都にアズータ商会の本店があるとは…毎日アンナにチョコレート菓子を買ってきて貰っている。
「エチゴヤの本店と、最近流行りだしたミツゴシ商会の本店も、公都にあるんですよ」
別邸で知ったこと。アズータ商会、エチゴヤ、ミツゴシ商会は、アルメリア公国の国営企業に近いってこと。ローズ商会も準国営企業にしてくれるみたいだ。国営企業になると、エチゴヤの通運事業を利用でき、遠方の国々への配達が可能になるそうだ。実際、アズータ商会はチョコレート菓子の通販を世界規模で行っているし。
この前、ミツゴシ商会からスパイダーシルクを融通してもらい、義母様のドレスをローズ商会で作ってプレゼントしたら、凄く喜んでくれた。グループ企業間の取引は無理の無い範囲で融通してくれるそうだ。
---ガンダルフ・フォン・フォルトゥナ---
「どうだ?アルベルティーナの行方は分かったか?」
アルベルティーナの行方を捜させている諜報員のリーダーに訊いた。
「申し訳ありません、依然として不明ですが、ローズ商会の本店がアルメリア公国の公都に移転したことから、そこにいると思われます」
孫娘であるアルベルティーナが離宮から消えた。王が教皇公認の聖者を魔王と呼んだことの報復だったらしい。なんと浅はかな言動だろうか。しかもその相手は、ゴユラン国を短時間で征服した勢力が味方らしい。あまり責っ付くと、この国すら落とされる危機があるそうだ。
「見つけ次第、穏便にアルベルティーナを連れて帰ってこい」
「そう言いますが、アルメリア公国は遠いのです。まだ、誰もアルメリア公国の領内に到達していないようです」
船を乗り継いで行くしか無い大陸にある国。そんな遠くから隣国を攻め落としたのか。全く戦争の予兆も、戦争自体も感知出来なかった。どうやって移動したんだ?
「冒険者ギルドからの情報ですと、アルメリア公国の戦力には転移術遣いが数名いるそうです」
転移術だと…そんな夢物語にしか登場しない魔法が使えるのか。それならば、納得であるが、それは脅威である。ダイレクトに玉間に転移をして王を殺害することが可能ではないか。
「分かっている戦力はSランクの冒険者パーティーが2、Aランクの冒険者パーティーが1で、勇者、聖女が含まれているそうです」
勇者と聖女が加担しているのか?魔王相手でも勝てる戦力じゃ無いか。う~ん…
「厄介なことに、アルメリア公国は聖シュルール協和国、フリージア王国と同盟を結んでいるそうです」
ケンカを売るには危険な相手だな。穏便にアルベルティーナを連れ帰らないと、この国は消えるな。