---ケン---
商業ギルド本部のギルマスから掘り出し物クラスの人材がいると聞いた。
「魔導具師なんだが、結婚式の前日に婚約破棄されたそうなんだよ」
悪役令嬢か?
「魔導具界のサラブレッドなんだが、環境が良くないみたいだ。どうかな?」
どうかなって、俺がパトロンになれってことか?
「彼女自体はドライヤーを発明し、父親は給湯器を、祖父は魔導ランタンを発明したんだよ」
どれも、別邸で使っている。勿論、俺やマイルが作った物だが。
「力になって貰えないか?」
「公都に連れてきていいのか?」
「あぁ、彼女が望めばだが…」
彼女?女性なのか…悪役令嬢の可能性が高いなぁ。
◇
翌日、本部のギルドマスターと共に、件の女性が婚約破棄の手続きをしている商業ギルドの支部へと向かった。彼女を見たのだが、魂が二重になっている。間違いなく転生者だろう。なんとか助けて上げたいなぁ。
手続きが終わったのか、男性が部屋から飛びだして行った。その部屋に三人で押し掛けた。
「ダリヤ嬢、お疲れ様でした」
支部のマスターがそう彼女に告げた。怪訝な表情で俺達を見つめている彼女。
「心機一転出来る話を持って来ましたよ。こちらは商業ギルド本部のグランドマスターで、隣にいらっしゃるのは、アルメリア公国に本店があるエチゴヤの商会長殿だ。君をスカウトしに来たそうだよ」
「スカウトですか?」
「そうだよ。君のこだわっている緑の塔と共に、引っ越さないか?新天地の新しい環境で、魔導具を作り続けて欲しいんだ」
怪訝な表情は崩れない。
「君の思い入れのある緑の塔を、俺達の領土にまるまる転移させる。魔導具作りや、古代の魔導具の研究をして欲しいんだよ」
彼女の目の前にゴユラン国からせしめた古代の魔導具を置いた。
「これは…」
「失われた技術が使われているかもしれない。公都には魔導具のプロが居なくて、研究が出来ないんだ。協力してくれないか?」
怪訝な表情は崩れ、興味を持った表情になり、古代の魔導具を調べている。
「君、転生者だろ?」
彼女の耳元で、囁く様に伝えた。はっとして表情で俺を見た彼女。
---ダリヤ・ロセッティ---
運命的な出会いをした日に、彼の転移術で、アルメリア公国の行政区に緑の塔と共に転移した。凄い、敷地まるごと転移出来るんだ。
「取り敢えず、今日は別邸においで。日本を味わって欲しい」
彼は私と同じ元日本人だった。いや、今もかもしれない。彼は私と違い、この世界に召喚されたそうだ。彼の言う別邸へ一緒に転移した。そこには元日本人が集まっていた。こんなに多くの元日本人が、この世界にはいたんだ。畳敷きの部屋に案内され、イグサもどきの臭いを嗅いだ。押し入れを開けると、そこに布団一式が入っていた。
「今日は布団で寝るといい。希望があれば、緑の塔に和室を作っても良いよ」
「本当ですか。作って貰おうかな?」
「ここに住んでもいいし、行政区にある和式の寮に住んでもいいよ。選択するのは君だよ」
問題は食事だな。
「食事はどうなりますか?」
「緑の塔の場合は自炊か宅配弁当、寮の場合は作り置きのバイキング形式、ここなら出来たての和食が食べられる。実際、転生者のほぼ全員がここで暮らし、朝になると王都に出勤していく」
緑の塔は仕事場である。ならば、ここに住んで出勤もありかな。
---イルマ・ヌヴォラーリ---
正式に婚約破棄をした翌日、緑の塔を訪ねたのだが、塔のあった場所は更地になっていた。ダリヤはどこに行ったんだ?幼なじみの私を置いて…何も言わずに…商業ギルドを訪ねて、ダリヤの行方を訊いた。
ダリヤは、昨日引っ越しをしたそうだ。緑の塔ごと…はぁ?塔をどうやって引っ越ししたんだ?頭の中に疑問符が埋めていく。
「魔導師の転移術で塔と一緒に、新天地に転移していったよ」
転移術って、お伽噺の中の事で無く、実際に存在したのか。って、
「どこにですか?」
「アルメリア公国の公都だよ」
アルメリア公国の公都って、商業ギルド本部がある場所だったわねぇ。ここからは船を乗り継いで、1ヶ月くらいかな。
「連絡は取れますか?」
「手紙であれば、届けられる」
じゃ、手紙を書こう。私も一緒に生きたい。ダリヤを一人になんかさせられないよ。幼なじみとしては…