「しかし、貴様まさかこんな手段でレースに出るとはな・・・」
「いいじゃないの、理事共の要求は満たしたんだし」
生徒会室で優雅に紅茶を飲みながらエアグルーヴ、ルドルフ会長と話をするクレナイ。
「しかし、名前貸しとはな」
「ああ、最初君からそれを聞いた時には目を見開いたぞ」
「だって、これくらいしかみんなが幸せになる道はないもの」
クレナイが建てた悪だくみとは、書類上チームに所属していることにして、実際のトレーニングは自力で行うというものだった。チームに所属しないとレースには出られない。が、チームに所属するとトレーナーの指導を受けないといけない。クレナイが拒んでいたのは指導を受けることで、理事が望んでいたのはチームに入ることよりレースに出ることであったため、一応チームには所属するもののトレーナーからの指導は受けず一人でやるということで理事長との間で話がついていた。その結果出たメイクデビューでは見事に圧勝。Make debut!で初センターを飾った。所属チームはスピカ。現在は海外にいるサイレンススズカを筆頭に、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ウオッカ、ゴールドシップ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、オウカを有する強力なチームである。トレーナーは沖野トレーナー。これ以上メンバーを増やす事は考えておらず、クレナイに声はかけていなかったトレーナーである。
どこのチームにするかを考えた際、どうせならと以前トウカイテイオーの治療の件で交流があったスピカを選んだ、というわけだ。
「一応確認だが、ちゃんとトレーナーには話がついているんだろうな」
「ええ。チームの部屋のトレーナーの机の上にメモを置いてきたから大丈夫よ。ど真ん中に置いてきたから、あれで見えなかったらもう知らない」
「おいおい・・・」
本当に大丈夫か心配になるが、まあクレナイなら大丈夫だろうと結論をつけるルドルフ。
「今帰ったぞ・・・ってなんであんたがここにいるんだ」
「お帰りなさい、ブライアン」
と、ここで会長からの仕事を終えたナリタブライアンが部屋に入る。
「今日は私も生徒会のお手伝いよ。みんなで仕事終わらせたから、お茶会しているの」
「ああ、そうだ。クレナイがいるとほんと早く終わるからな」
と笑顔をクレナイに向けるシンボリルドルフ。君も早く座って休むといいとブライアンに告げ、そのまま4人でのお茶会に突入する。
「しかしクレナイ、君は本当に速いな。実はあの時、生徒会のメンバーと君が何位になるか予想したんだが、みんな一着の予想で予想にならなかったぞ」
「ああ、本当だ。ここで貴様をもっと導けるトレーナーがいたらと思うと、悔しくてかなわん」
「まあ仕方ないわよ。トレーナーも人材不足なんだし。どこかの職業と一緒で、優秀な人程逃げてくブラックって有名だもの」
生徒会の手伝いをして知ったことだが、トレセン学園のトレーナーは人材不足だ。というのも、平日朝から夜まで担当ウマ娘のトレーニング。土日は試合となり、下手すれば24hいつでもトレーニングできます、トレーニングメニュー考えられますなんて職場。学校の先生なんかと同じく時間外労働当たり前の超絶ブラック、愛がないとやっていけないなんてまことしやかに言われている。当然まともな人は辞め、愛があるか心と体がもつ人しかトレーナーとして残らない。そうなれば、優秀な人は自然と少なくなる。もちろんまったくいないというわけではないが、クレナイのお眼鏡にかなう人はいなかった。
「この辺りも何とかしたいんだがな・・・」
「私たちのトレーニングを見るとなるとこればっかりは仕方ないでしょう」
「ところで、君はこの後どの路線に進むんだ?」
「ああ、私も気になるな。貴様はオークスかダービーか、とても気になる」
ルドルフとグルーヴが身を乗り出してくる。ブライアンも気にならないという顔をしているが、耳がぴくぴくと動いて気になっているようだ。
「私はダービーを選ぶつもりよ。やっぱりダービーウマ娘の称号は欲しいし。でも、本当ならダービーもオークスも全部ほしいから、どちらかというのは残念なところね」
「全ての勝利と称号を、だったか? 君の目標通りで本当に君らしいな」
「まあ、あんたならダービーも、その先の有馬も間違いないだろう。気が早い奴らはこのまま行ってURAファイナルズでうまぴょいセンターとかいってるやつもいるしな」
「ほんと気が早いわね・・・。ウマ娘に絶対なんてないでしょうに」
「・・・それを私の前で言われると、ちょっと複雑だな」
そのウマ娘には絶対があるなんて言われたこともあるシンボリルドルフが何とも言えない顔をする。
「まあ、今のまま行けば問題ないでしょう。今年はもちろん、ダービーからその先の天皇賞関連まで、全部かっさらってうまぴょいセンターも踊ってみせるわね」
「ああ、これからの活躍も楽しみにしてるよ。と、そうそう。また生徒からトレーニングの指導の要望が来ていてね。もし手が空いているなら、そちらもやってくれると助かる」
「ほんと、私って好かれてるわねぇ」
遠い目をしながらそう答えるクレナイであった。
その後のクレナイは、生徒のトレーニングをこなし、自身のトレーニングやレースもこなし、ハードワークに思えつつもしっかり心身のリフレッシュは怠らず、結果として最初に言われていたように知名度をぐんぐん上げていくのであった。