俺は沖野。スピカのトレーナーを務めている。
今日は有馬で大怪我を負ったキサラギクレナイというウマ娘のお見舞いに来ている。
というのも、実はクレナイがスピカ所属というのを、俺は昨日の今日まで知らなかった。丁度クレナイのケガの原因がシューズでは?となり、じゃあ所属チームはどこだ、装備のチェックをするトレーナーは誰だと言うので俺の名前が浮上。突然調査に呼び出され、そこで俺がクレナイの担当トレーナーになっていることがわかった。
確かに言われると、クレナイがトゥインクルシリーズに出始めたころ、チームの俺の机の上に名前だけおかせてくれというようなメモを見た気がする。だが、言い訳をするとあの時はトラブルが重なっていてすぐにメモの存在なんかを忘れてしまったし、そのメモ自体どこに行ったか分からなくなって、完全に忘れてしまっていた。
理事長やシンボリルドルフなんかには、クレナイがそれを望んでいた。あなたの責任ではないといわれはしたが、だからと言って俺が知らずに忘れてほったらかしにして一人にしてしまっていたのは変わらない事実である。
結局、当時のシューズに不備はなく、蹄鉄もしっかりと埋め込まれていた。削れ具合も問題なし。有馬の芝にも不具合はなかったので、完全に原因のない事故で片が付いた。
調査の後、シューズは一応トレーナーである俺の手元に戻り、クレナイに渡すこととなった。手元に来たシューズを見ると、しっかりと手入れがされている。蹄鉄にも手が加えられている。多分鍛冶するとこも自分でやっている。俺にはこんなことできない。ほかのウマ娘も、打ち付けることはできても鍛冶までやれる奴はいないと思う。一人でこれだけの手入れをし、そして自分に合ったトレーニングを計画し、かといって遊びや休息も怠らない。多分、今トレセン学園にいるどのトレーナーよりも一番トレーナーらしい、そして一番トレーニングしているウマ娘だと思う。そしてクレナイは、以前トウカイテイオーがけがをしたとき、親身になって世話や復活の手助けをしてくれた。
防げなかった事故とは言え、担当トレーナーなら真っ先にお見舞いしなければいけないのにそれも怠り、他人に言われるまでクレナイの所属に気づかず、一人にさせた。本当に俺はトレーナー失格だと思う。テイオーが世話になった恩も全く返せていないのに、この始末だしな。クレナイに合わせる顔がない。
とは言え、落ち込んでいる姿を他のウマ娘に見せて不安にさせるわけにはいかない。それに、あの有馬でクレナイとトップを競っていたオウカ。彼女がレースの後、トレーニングはできるものの、いざレースとなると、当時のクレナイの惨状がフラッシュバックしてしまい、まともに走れなくなっている。クレナイの悲報、いやまだ死んではいないが、それを聞いて帰国してきたサイレンススズカのおかげで少しずつ走れるようにはなってきているが、今不安を彼女にだけは見せるわけにはいかない。
その日はカラ元気を振り絞ってスピカのウマ娘に指導をした。幸い、ゴールドシップがこちらの思いを感じてくれたおかげで何とかなった。
次の日、トウカイテイオーがクレナイのお見舞いに行きたいと言い出した。ケガをしたときに色々診てもらった恩を今こそ返したいらしい。俺もクレナイにシューズを届けなければならないと思っていたので、テイオーと一緒にお見舞いに行くことにした。
だが、まさか。丁度病室の扉をノックしようとしたら、中から話し声が聞こえてくるとは。そしてその内容が、あまりにも想像を絶するものであるとは、この時は知る由もなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ボクはトウカイテイオー。無敵のテイオー様だ。
実はボクは、今までに何度か怪我をしている。ケガをしては這い上がり、最後の復活戦の有馬ではしっかりと勝利をおさめられた。この時にボクの助けになったのが、キサラギクレナイというウマ娘だったんだ。
クレナイは僕に付きっ切りでいてくれて、それこそボクが退部しようとしたときも一緒に相談に乗ってくれた。しばらくトレーニングできなくて遊びたいってときも一緒に遊んでくれた。
一緒にはちみつを飲んで、カラオケに行って、クレープを食べて、クレーンゲームをして。それで、最後にボクの足が治ろうというころ、一緒に並走しようと言い出した。
色々とあおられたボクはクレナイと並走。だんだん言葉で煽りながらスピードを上げてくクレナイに、ボクが必死についていく。それで限界ぎりぎりまで走ったら、いつの間にかもっと走りたい。まだまだ走り続けたいって気持ちが沸き上がっちゃった。
そのあとはスピカのみんなの元に戻り、必死のトレーニング。たまにクレナイもトレーニングを指導してくれて、その結果復活戦の有馬で大勝利を決めることができた。
そんなクレナイがけがをした。それも大怪我だった。だからこそ、今こそボクがクレナイに恩返しをする時だ。
そう思って、トレーナーにクレナイのお見舞いに行きたいと言った。丁度トレーナーもお見舞いに行くところだったから、二人でお見舞いすることにした。
まだ食べ物は食べられないらしいから、クレナイのでかい人形をお土産に持った。
トレーナーと二人で病室の前に来た時、中からクレナイの声が聞こえてきた。それをつい聞いてしまったボクは、頭の中が真っ白になって、持ってきたお土産も落としてしまった。