梟の羽休め   作:ポン酢おじや

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大忍び 梟

かつて戦乱の世にて国盗り戦を仕掛けた葦名家に助力し、田村家との戦にて最も貢献したと言われる平田家。

 

国盗りを成した後、葦名家当主であり剣聖と謳われた葦名一心は家臣達に褒美を与えた。

 

一心は平田の者達に土地と屋敷を与えた。人々はそこを『平田屋敷』と呼んだ。

広い土地にいくつも造られた美しい屋敷、そこから見える自然が作り出した神秘ともいえる景色。

それらを見て人々は、平田家がいかに巨大で、名家であるかを感じていた。

 

しかし国盗り戦から十数年後

 

その美しい景色や屋敷の全てがうわばみの重蔵率いる野盗達によって火に包まれ、民や屋敷の者達は女子供例外なく非情な運命を迎えた。

 

だがその裏では、ある忍びの手引きによってこの事件が引き起こされたことは誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平田屋敷に残っていた侍達をほぼ全滅させ、この事件の首謀者達は主殿前の広場にて集まっていた。

まず今回の襲撃にて多くの部下を引き連れ、屋敷を荒らし回った『うわばみの重蔵』

平田屋敷襲撃の立案者であり、重蔵の雇用主として参加した内府お抱えの忍び集団『孤影衆 槍足の正長』

 

そして現在葦名家に仕え、国盗り戦の参加は勿論数々の暗殺や陽動、撹乱等を完璧に成し遂げ、元はぐれ忍びであるが同業者からは『大忍び』と恐れられる男。

 

『梟』である。

忍びに似合わぬ大柄な体に足元近くまで編まれた長く白い髪、鳥蓑を羽織り背中にはその体格に合った大太刀を背負う姿は、名前の通り梟を思わせる。

 

梟の姿を見ると、孤影衆の正長は話し出す。

 

「...これで平田家も終わりだな」

「.....」

「しかし梟よ。何故平田家を裏切ったのだ?お主にとって平田家は味方である筈だろうに」

 

梟は正長の疑う目を見て、ゆっくりと話し出す。

 

「...我が主、葦名一心は既に病に犯され、長くは持ちませぬ...それならば早々に次の主を決めなくてはと思い行動したまで」

「その主とやらは我々孤影衆の事か?」

「.....」

 

梟は答えない。

「...まぁよい。我々としては葦名家でも有数の戦力であった平田家を潰せれば文句はない。ご苦労であったな梟よ。報酬は何がよいか」

「.....」

 

正長は何も言わない梟に、何か納得した様子でゆっくりと頷いた。

 

「成る程、葦名家が滅んだ暁には貴様を我々孤影衆として迎えよう」

「ありがたく存じます」

 

すると梟は屋敷の方へと歩き始めた。

 

「何処へ行く」

「まだ残党が残っているか、確めまする」

梟は刀を鞘から抜き、屋敷へ入っていった。

 

 

「.....正就、後は頼むぞ」

「ははっ」

 

正長は後ろにいた孤影衆の一人に話すと、平田屋敷の入り口へ走り去った。

 

正就は燃える平田屋敷を見て、一人呟く。

 

「平田屋敷...存外に容易かったな...梟の手引きも中々のものではないか」

 

すると酒を飲んでいるうわばみの重蔵が、不機嫌そうに話す。

 

「...オレは、好かねえなぁ。あの爺は、どうにも胡散臭えや」

 

重蔵は持っている酒壺の中身を飲み干していく。

 

「あれは、外道...ド外道だぜ、正就さんよぉ...」

 

重蔵はそういうが、正就は気にせず話す。

 

「まあ、我慢しろ。いかに企もうと所詮は田舎のはぐれ忍び。何ができることもあるまい」

「ゲエエエップ...ケッ...オレは、銭と酒さえ都合してもらえりゃあ、文句はねえさ」

 

平田屋敷を燃やす炎から出る煙は星輝く空を曇らせ、その様子はまるで葦名家の未来に暗雲が立ち込めている事を予感させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梟は屋敷の最奥にある隠し扉を開き、ゆっくりと階段を降りていく。

 

そして降りきったその瞬間、隠し仏殿の扉から大きな物音と共に砂煙が現れる。

 

その煙の中に梟が忍びとして育て、血は繋がっていない息子『狼』が立っていた。

 

梟はゆっくりと刀を鞘から抜き、その息子の背中を突き刺した。

 

「!!」

 

梟はゆっくりと刀を引き抜き狼はその場で倒れ、上から落ちてきた木材に潰されてしまった。

 

「.....お蝶を殺ったか」

 

梟は刀の血を払い、鞘にしまう。

この隠し仏殿は自分と同じ忍びであり、若い頃からの知り合いである『まぼろしお蝶』との集合場所であった。

ここで梟はお蝶の竜胤に関する情報を聞く筈だったのだが、彼女は何処にもいない。

そして肝心の九郎すら居なかった。

 

だが辺りにはお蝶が使っていたクナイが大量に落ちており、狼との激戦がここで起こっていたと予想するには容易かった。

梟は柱に刺さっているクナイを一本引き抜いて、じっと見つめた。

 

「.....薄井の森での修行も倅には通じず...か」

 

梟はクナイを強く握りしめ、パキンと折ってしまう。

 

「.....最早ここに用はあるまい」

 

梟は折れたクナイを放り投げてから隠し仏殿から出て、抜け道を使い平田屋敷から脱出した。

 

彼はこの平田屋敷にて多くの味方からは死んだと思わせており、生きていることを悟られないためしばらく世間から隠れなければならなかった。

梟は事前に隠れる場所を調査しており、そこへ向かうため燃える平田屋敷を後にする。

 

 

 

 

 

 




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