ここ最近迷いの竹林にも暑さが感じ始めていた。
しかし例によって永遠亭は適温で保たれており、激しく動かなければ汗をかくことはないだろう。
そんな中、永遠亭のある庭にて永琳、てゐ、梟の三人が輝夜によって集合していた。
「因幡殿、これは何の集まりかな」
「.....姫さんが集合かけたんだ」
「姫様が?」
「あー、嫌な予感しかしないよ」
そんな事を話していると、輝夜が部屋から出てくる。
永琳と梟は地面に膝をつけて頭を下げるが、てゐは頭をポリポリとかきながら彼女を見る。
「皆、ご苦労様」
「姫、お呼びでしょうか」
「ねぇ、永琳。もうすぐ夏がやって来るわね」
「そうですね、あと一ヶ月程でもっと夏らしくなるでしょう」
「夏といえば何が食べたい?」
「え?」
永琳は突然の質問に困惑するも、即座に答える。
「冷奴や...そうめん等でしょうか」
「そうね...それもいいけど...夏だから冷たい食べ物って言うのもそろそろ飽きてきたの」
「で、では熱い食べ物が食べたいと」
「そうなのよ」
「となると...」
すると輝夜は庭に出て来て、永琳の顔を両手で包み満面の笑顔で答える。
「鍋が食べたいわ」
「な、鍋」
「そう、お鍋」
「し、しかしお鍋といっても」
「そうねぇ...猪のお肉を使った鍋が食べたいわ」
「猪の...ですか?」
「そう」
輝夜はワクワクしながら部屋に戻っていくと、永琳、てゐ、梟は三人で話し合う。
「さて、忙しくなるわよ。野菜はてゐにお願いするわ。あとここの守りもウサギ達に頼んでおいて」
「はいよ」
「猪は...今は狩時じゃないけど何とかして狩ってくるしかないわね」
すると永琳は梟の方を見る。
「梟さん、私と一緒に来てくれるかしら。怪我がまだ痛むなら...」
「構いませぬ」
「よかった。じゃあ出掛けましょうか」
永琳は弓と矢筒を背負い、胸当てを装備して梟と共にあるウサギの後をついていく。
てゐによるとこのウサギが竹林の外まで案内するらしい。
「姫様のお願いには困ったものね」
「いつもああなのか」
「梟さんが来てからは弁えてたのか少なかったのだけど...」
「少ない...?ということは」
「貴方が修行とか行っている間に何回かあったわ。その度に私とてゐで解決してたの」
「...前の願いは何だったのだ」
「.....『ほうとう食べたい』だったわ」
「...願いはいつも食べ物なのか」
「大体ね」
二人は竹林を出ると、梟は隣にいる永琳を凝視していた。
なぜなら永琳は竹林を歩いていた時とは違い帽子を被って鎧を着て、別人のような格好をしていたのだ。
「永琳殿」
「何かしら」
「...その格好は」
「気にしないでちょうだい」
「.....」
「なるべく見られたくないのよ」
「...逆に目立つと思うが」
「人間とか妖怪なら別に良いのだけども...」
すると梟はかつてここに来たばかりの時に輝夜が話していたことを思い出す。
「まさか...貴方もあそこに追われているのですかな」
梟は上を向くと、永琳は一瞬驚くが心の中で納得したのか話始める。
「姫様から聞いたのね」
「...安心せよ。誰にも言うつもりはない」
「当然ね。もし他の人に言ってたらその眉間に矢を一本貫通させてやるわ」
「...それは恐ろしい話ですな」
「...さて、猪狩りにそこらの山にでも行こうかしらね」
「居れば良いのですが」
「そこは安心なさい。薬師の本領を見せてあげる」
二人は山道を上り、しばらく歩くと辺りの風景は完全に森の中となる。
そして梟が獣道や足跡を見つける。
「永琳殿、足音を見つけた」
「ならこの辺にしようかしらね」
永琳はその場で屈むと、懐から液体が入っている瓶を取り出し地面に液体を垂らす。
「これでよし」
「...今のは何の水ですかな」
「これで獣が寄ってくる筈よ」
すると永琳は近くにある大きな木の上に軽く飛び上がり、梟も彼女についていく。
「その装備でよく飛べますな」
「私だってその位できるわ」
永琳と梟は息を潜め、動物が寄り付くのを待つ。
二人はしばらく見張っていたが、木の下の光景に梟は驚いていた。
永琳が垂らした液体の回りに数百はいるだろう山の動物が群がっていたのだ。
しかも全員目がおかしい。
「永琳殿、一体何を使ったのか説明してもらえますかな」
「.....」
永琳は梟と目を合わせようとせず、あらぬ方向を向いている。
「.....」
「...いや、あのね」
「.....」
「...効果は...あったじゃない...だから...うん」
「.....そうですな。しかしあれほどいても猪は居らぬな」
「困ったわね...」
永琳は木から降りようとすると、梟が手を彼女の前に出し止める。
「?」
「静かに...何か大きな足音が」
梟が指差す方向には、他の動物達の何十倍も体重がある巨大な猪が現れたのだ。
その獰猛な殺気に他の動物達は全力で山の奥へと逃げていく。
「これは...大きいな」
「突然変異って奴かしら」
「如何しますかな」
「.....まぁ食べきれない分は保存食にするって案もあるけど」
「では」
「...仕方ないわね」
二人はお互いに頷くと、まず梟が刀を抜いて巨大猪の前に降り立つ。
「さぁこちらだ」
梟は刀を構えゆっくりと移動し、巨大猪も梟の存在に気づいて警戒する。
永琳は梟が猪を引き付けている間に、弓を構え矢を放つ。
しかし野生の勘というものなのか、猪は永琳の放った矢に気づいて大きく動いて避ける。
「!」
猪は永琳を睨むと、彼女のいる木へ突っ込み始めた。
「永琳殿!」
梟は火薬を持ち出し、猪の前にばらまく。
爆音と火花が起こると、猪は大きく怯み後ろに下がる。
梟は刀を構えて猪の体を斬ろうとするが、分厚い毛皮と脂肪でうまく斬れずに刀を逸らされる。
「こやつ...」
猪は梟目掛けて突っ込むが、彼は高く跳躍して猪の後ろに回り込む。
「まさに猪突猛進」
梟は後ろから斬ろうとするも、猪は後ろ足を力強く蹴りあげる。
彼は足を弾き、力強く刀を振り下ろした。
「むん!」
梟の長い刀は猪の尻を深く切り裂き、血を大量に吹き出した。
しかし猪は突然の勢いよく走り、木々を薙ぎ倒しながら奥へと逃げる。
「逃がさんぞ」
梟は追おうとするが、永琳が矢を連続で放ち猪の後ろ足に命中。
猪は勢いよく転んでしまうも、立て直して走り続ける。
「あれだけ傷を負ってもまだ走るなんてね」
「しかし最早助からん」
「そうね...」
すると猪は迂回して来たのかこちらを向いて二人を睨んでいた。
「最後の抵抗って奴かしら」
「永琳殿」
「大丈夫よ」
永琳は弓を構え、矢筒から三本の矢を取り出す。
「来なさい」
猪は永琳目掛けて走り出す。
すると永琳はまず第一の矢を放つと、猪の眉間に矢は刺さる。
しかし猪は止まらず、永琳は第二の矢を放つ。
第二の矢は第一の矢を貫きさらに刃は奥深くへと突き刺さる。
永琳は第三の矢を放とうとするが、彼女の目の前で猪は勢いを失い倒れてしまう。
「...」
「お見事」
永琳は矢を矢筒にしまい、梟の方を見て頷く。
梟は刀を猪の耳から勢いよく突き刺し、瞼を閉じさせゆっくりと引き抜く。
猪の呼吸は止まり、死に絶えた。
「さて、解体するわよ」
「結構な量になりますな」
「全部持ってくわ」
「...重くなりますが」
「猪さんに悪いじゃない」
「...」
すると梟は小刀を永琳に渡し、皮を切り始める。
「う~ん美味しいわ」
「それは何よりです姫様」
今日の永遠亭の夕食はウサギ少女達全員を呼び出し、猪鍋の大宴会となった。
てゐも大量の野菜の入手はもちろんやり遂げたが、どこから調達したのか酒も大量に運びこまれ永遠亭はどんちゃん騒ぎとなる。
「いやぁ、食って飲んでるかい姫さん」
「ちょっとてゐ、姫様の前でしょ」
「構わないわ永琳。ええ、いっぱい食べてるわ」
「そりゃよかったよ!あははは!」
どうやらてゐは既に酔っぱらいになっているようだ。
「梟の旦那も食べてる?」
「隅っこで食べてるわ。ほら」
輝夜は部屋の隅を指差すと、そこには梟が誰にも悟られぬよう気を沈めて鍋を食べている。
「梟の旦那ぁ!なぁーにでかい図体して小さくなってんのさ!」
てゐはお酒片手に梟の方へ歩いていく。
そんな二人を見ていると、輝夜は思わず笑みがこぼれる。
「仲良いわね、あの二人」
「まったく...てゐったら」
「永琳はお酒飲まないの?」
「頂いてますよ」
永琳はお猪口に注がれているお酒を飲み干すと、ため息をついててゐと梟を見る。
「梟さんもここに馴染みましたね」
「そうね」
輝夜も箸を置いてお猪口にあるお酒を飲み干すと、永琳の方を見て笑顔になる。
「ねぇ、永琳」
「はい?」
「フグ食べたい」
その言葉を聞いた永琳の酔いは完全に覚めてしまった。
UA4000突破!ありがとうございます!
あと本編も7-8話くらいで終われればいいかなと思ってます。外伝もありますのでお楽しみに。
どうか最後まで『梟の羽休め』をよろしくお願いします。