梟の羽休め   作:ポン酢おじや

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孤影の長

再び永遠亭に雪が降っており、ウサギ達も正月に向けてゆったりと準備をしていた。

 

梟は刀の手入れをしていると、竹林からただならぬ殺気を感じとる。

 

「...」

 

梟は装備を整え、刀を背負うとバレないように永遠亭の壁を乗り越え竹林に向かって走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梟は殺気のする方へ竹林を走り抜き、刀を抜いて辺りを警戒する。

 

そしてしばらく走ると、殺気の根元らしき場所に辿り着く。

 

しかしそこには誰も居らず、刀を構えたまま周りを見渡す。

 

すると奥から木の箱を背負い、少し汚れた服を着た老人が現れる。

 

「...おや?どうなされた、刀など抜いて」

「あ、いや...」

 

 梟は殺気が目の前の老人から放たれてはないとわかると、刀を鞘にしまい老人に一礼する。

 

「これは失礼した」

「いやいや、それよりもどうなさったので」

「...いや、何でもござらぬ」

「...そうですが。では」

 

老人は梟の隣を通りすぎると、竹林の奥へと向かう。

 

「...?」

 

梟は竹林から感じる殺気が消えていることに気づく。

その瞬間梟は何か危険を感じとり、刀を抜いて後ろを向く。

 

すると先程の老人が待っていなかった筈の刀を構え、彼の喉を突こうとする。

 

「ぬうっ!!」

 

梟は何とか刀で攻撃を弾き、老人はすぐに彼から距離をとった。

そして老人から放たれる殺気は、竹林で感じたものと一緒であった。

 

「流石『大忍び』...今の一撃をかわすか」

「何者か」

「我が同胞が世話になったな」

 

すると老人は人間とは思えぬ跳躍をし、梟の頭目掛けて踵落としを仕掛ける。

 

梟は刀で防ぐことは危険と察知し、前転して避ける。

 

「これは...」

「わからぬか」

梟は足をまるで刀のように使う戦い方を知っていた。

 

「孤影衆...!しかしお主のような老齢の者など...」

 

梟はその時、正就から聞いた話を思い出す。

 

『孤影衆の長である織部正綱様から...お前の事について聞かれたのだ』

 

梟は体全体から冷や汗が出てくる。

何せ目の前にいる老人は、忍びの世界でも有名な孤影衆、それを仕切る伝説の忍びかもしれないのだ。

 

「.....お名前をお聞かせ願おうか」

「忍びに名を聞くなど愚の骨頂。察しがついているのではないかな?」

「...孤影衆、織部正綱殿...ですかな」

 

老人は刀を木の箱にしまうと、梟に笑顔を向ける。

 

「ご名答。初めて会うな、梟殿」

「まさかこんなところで鬼と呼ばれる正綱に会えるとは」

「それはこちらも言いたい。こんな田舎も田舎...いや、魔境とも言えるほどの場所で大忍びが隠れ住んでいるとは思っておらんかったよ」

正綱は腰を叩きながら、木箱を椅子の代わりにして座る。

 

「さぁて、何から話そうかね」

 

梟は正綱が座って武器を持っていなくても刀をしまわない。

彼には隙がなく、まるで常に武器を喉元に突きつけられている感覚がしているのだ。

 

「まず二年前の平田屋敷の件...あれは見事であったな。息子の正長や正就も珍しく褒めておった」

「...恐れ入りまする」

「葦名衆を多く抱えてた屋敷をどう落とそうと悩んでいたが...お主が全て解決してくれた」

 

正綱は顔をポリポリとかいている。

 

「しかしその後の行動がいささか不可解でな」

「...儂は平田屋敷にて討死したという事にした為...何処かに身を隠す必要がありました」

「それがここか」

「...それより何故ここに儂がいるとわかったのです?誰にも言うたつもりはありませぬが」

「正就がよく一人で行動しておるのでな。疑うようで悪かったが動向を探っていたのよ」

「...」

 

 梟は内心やはり正就と関わったのは間違いかと後悔する。

 

「あやつもまだまだ甘い。孤影衆としての戦技は立派なのだが...どうも味方と一度信じると疑うことを知らん。信用できるが...重要な情報は伝えられん」

「.....」

「さて、梟殿。わしがこんなわけのわからん竹林まで足を運んだのは...お主にあることを問いただそうと思ってな」

「.....」

「正就を取り込んで...何を為そうとしておる?何を企んでおる?」

 

その正綱の問いに、梟は彼の前に屈んで答える。

 

 

 

 

 

 

「企むなど、滅相も」

 

 

 

 

 

 

 

梟の答えに正綱は黙ったまま話を聞く。

 

「儂ははぐれ忍び...家臣でも、兵士でもありません。ただの雇われでございます」

「.....」

「もうすぐ戦乱の世は終わるでしょう。そうなれば戦は無くなり、平穏が訪れ、はぐれ忍びは行く宛を失います。ならば今のうちに天下統一目前の内府に儂を雇っていただきたく、行動したまで」

「...まぁ、わからなくもないが」

「しかし、ただのはぐれ忍びが簡単に雇ってもらえるとは思えません。平田屋敷を攻める際に助力したとは言え...内府には既に孤影衆という忍びも居りますからな。そこで儂は...」

 

梟は顔を上げて正綱の目をジッと見る。

 

「平田家、そして更に葦名家の当主 葦名弦一郎の首を手土産にしようと思っておりました」

「!ほう...」

 

正綱は少し驚くと、梟は続けて話し出す。

 

「死んだ事にしたのも、その方が弦一郎に近づけると判断したまで」

「...怪物の一心はどうする」

「正就殿と組んだ理由はそれでございます。儂は死んだ身であるため、あまり詳しく情報を得られません。下手に情報屋に近づけば足がつく可能性がありますからな。そこで正就殿と組んで一心の情報を得ようとしていました」

「...一心の病の情報か?」

「はい」

「...こうは考えないかな梟殿。一心が死ねば...お主は必要ないと。あれが死ねば内府に、孤影衆に恐れるものはない。葦名家は我々だけで対処できる」

すると梟は少し笑い、正綱を見る。

 

「確かに...だがその前に葦名城は自然を利用した難攻不落の要塞であることをお忘れか。あそこは城を囲むことも出来ず、道が狭い故に大量の兵を送れませぬ」

「ふぅむ...」

 

正綱は頭をかきながら話を聞く。

 

「天然の要塞ゆえに水の断絶も難しく、食料もここ最近は大豊作の為多く確保しています。更に『国盗り戦の葦名衆』の結束は固く、籠絡も不可能。これでは一心が前戦にいないとはいえ、落とすのにどれだけの犠牲が出るとお思いですかな?」

「...」

「他にも葦名には寄鷹衆も居ります。孤影衆程の実力は無いとは言え...侵入は誰一人許さぬでしょう」

「寄鷹か」

「さらに言えば...葦名弦一郎は一心程ではないものの、かなりの武芸達者な若造です。孤影衆とて撃ち取るのは容易ではない。しかし...儂に任せて貰えれば孤影衆を城内部に案内できる上に」

 

梟はニヤリと口角を上げて、正綱に堂々と話す。

 

「葦名城への安全な抜け道、攻める為に必要な物、弱点、人材、全てを教えましょう。二十年葦名に居ましたからな...その上で弦一郎の首を差し上げまする」

 

正綱は梟の言葉に笑い出す。

 

「...くくく、成る程成る程。面白い」

「如何ですかな、正綱殿」

「...よかろう、乗ってやる。見事弦一郎の首を持ってきた暁には...梟殿に内府にて相応の地位と土地を与えよう」

「ありがたき幸せ」

「しかし覚えておけ...梟」

 

正綱は立ち上がり、木箱を背負うと梟に近づく。

 

「裏切りは許さん。お主はもちろん周りの者も報復を受けてもらう」

「構いませぬ」

 

正綱は笑顔で梟に背を向け、手を振った。

 

「会えて嬉しかったぞ大忍び」

「...お待ちくだされ、ここは侵入者を確実に迷わせる場所。案内なければ出ることは出来ませぬ」

「あぁ心配するな。ここについては大体理解できたからな」

「!」

「では、一心が死んだらまた会おうぞ...正就にもよろしくな」

 

そう言うと正綱は竹林の奥へと消えていった。

 

 

「.....」

 

 

梟は後ろを向くと、小さく口笛を鳴らす。

 

「もういない」

 

すると近くの竹の後ろから、てゐが顔を出した。

 

「や、やぁ梟の旦那」

「.....聞いたか」

「あ、いや...」

「.....聞いてしまったか」

「だ、誰にも言わないよ?」

 

梟は刀を握りしめると、てゐは尻を地面につけてしまう。

 

「い、いや、あのね...」

 

しかし梟は刀を背負っている鞘にしまう。

 

「斬ると思うたか?」

「へ?」

 

呆然のてゐに、梟は彼女の頭に軽く手を乗せる。

 

「よいか、あの男については忘れるようにな」

「う、うん」

「他言無用だぞ」

「わ、わかってるよ」

「...よし、では戻ろう。儂だけでは帰れぬのでな」

二人は永遠亭へとゆっくり歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竹林の外では、孤影衆が十人以上屈んで長の帰りを待っていた。

 

すると正綱が竹林からでると、一斉に全員が頭を下げる。

 

「お帰りなさいませ」

「苦労」

「梟は何と」

「...一応葦名攻めに使えそうだが...」

「では...」

「.....」

「奴を孤影衆に迎え入れるので?」

「.....いや、奴はまだ何か隠しておる。弦一郎の首が欲しくて死んだと世間に伝えなくても、奴に近づく方法は他にある筈だ。それに...ふっ、何がはぐれ忍びは行く宛を失うだ。奴の腕ならば内府どころかあらゆる大名が欲しがるだろうに」

 

孤影衆の一人が正綱に紫色の羽織をかける。

 

「正就は何処だ」

「ここに」

 

孤影衆の中から正就が立ち上がり、正綱の前に屈む。

 

「梟から何か聞いておらぬか」

「いえ、どうにかして内府に取り立てて貰えないかと話すばかりです」

「...そうか。何故梟と繋がっていることを黙っていた」

「.....梟を利用すれば葦名攻略に役立つと思い...しかし有益な情報をまだ得てはいませんでしたので」

「...正就、帰ったらお前に頼みたいことがある。やってくれるな?」

「ははっ」

「では帰るぞ」

 

正綱を先頭に孤影衆はついていく。

 

正就は正綱の後ろ姿を見て、冷や汗をかいていた。

 

(ば、ばれなかったようだな...梟も上手くかわしたようだ...)

 

孤影衆はその場から風のように消え、本部へと戻っていった。

 

 

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