平田屋敷から脱出し既に3日経っていた。
梟は森の中を進み、街道は避けて人に会わぬよう行動している。
彼はある場所を目指していた。
東にある妖怪が住まう土地だ。
勿論妖怪などいる筈がないと梟は知っていたが、この時代で妖怪がいると言われる場所など気味悪がられ誰も近づかないだろう。
身を隠すにはもってこいの場所だ。
梟は太い木の枝に座り、懐から栄養価のある食べ物を擂り潰して固めた兵糧丸を取り出し少し噛る。
「.....あと少しか」
梟は高い木から見える景色を見て、目的の土地までの距離を測る。
といっても彼もその土地についてよくは知らない。
同業者でもその土地を知っている者は誰も居なかったので、ならば安心だろうとそこを目指しているだけである。
もしかしたら野盗の住み処かもしれないし、忍びの村があるかもしれない。
それは行ってみないとわからなかった。
梟は立ち上がると別の木へと飛んで、なるべく地面に足をつけないよう移動していった。
移動して1日経ったであろうか
梟は久しぶりに地面に足を下ろし、ゆっくりと歩き始める。
「ふぅむ.....」
梟の目の前に広がっていたのは、昼にも関わらず薄暗い竹林であった。
「ここまでの竹は中々お目にかかれぬのぅ」
梟は竹林に生えている竹に触ると、固く立派な竹だと直ぐに見抜いた。
それが辺りに何百と生えている。
「...この薄暗さも身を隠すには都合がいい」
梟はその竹林にゆっくりと足を踏み入れた。
しばらく歩いていると、梟は辺り全ての光景が同じに見えてしまうという不思議な感覚に陥っていた。
「...人の気配無し...いい隠れ蓑だ」
すると梟は慌てる様子もなくその場に座り、少し休み始める。
平田屋敷から4日ずっと移動していたのだ。
忍びとは言え少し疲れが溜まっていたのか、それとも年齢のせいかはわからないが梟は竹を背もたれに少し寝てしまう。
梟は夢を見ていた。
薄井の森にて若い頃のお蝶と共に修行しており、
彼は剣術を、
彼女は幻術を学んでいた。
そして終わると、共に火を囲んで薄井の森にいる惑わす獣達を警戒した。
そうして二人は鍛えられてきた。
梟にとってお蝶は友以上の関係と言えるが、二人は忍びでありいつか敵同士になるかもしれない。
その時が来れば相手を躊躇なく殺すだろう。
端から見れば奇妙とも言える関係なのだろうが、二人にとってはこれが普通であった。
今だ梟の記憶には残っている。
修行を終えた時、友人として彼女と最後の酒を酌み交わした時の事を
梟は目をゆっくりと開ける。
彼は手で目を押さえる。
どうやら長い時間眠っていたようで、辺りはさらに暗く不気味な霧すら漂っていた。
目の前で焚いていた火は既に消え、足元ですら普通の人の目では見えないだろう。
しかし彼は忍びであり、暗闇での仕事が多いため直ぐに目が慣れていく。
そうなるように修行したためだ。
梟はゆっくりと音を立てずに立ち上がり、消えた焚き火を始末してその場で高く飛び上がり竹の上へと移動する。
すると焚き火をした辺りに、二匹のウサギがやって来た。
「...丁度いい、食料として頂くか」
梟は懐から手裏剣を二枚取り出す。
「ダメだよ」
梟はすぐに声のする方向へと振り向く。
そこには自分と同じように竹の上に登っている幼い少女がいた。
その少女は癖毛の短めな黒髪と、ふわふわな兎の耳、尻尾を持っており、服は桃色で、裾に赤い縫い目、半袖であり膝まで長さのある服を着用していた。
梟は竹から手を離し、地面に降りる。
すると少女も地面に降りて、梟の前に立つ。
見たこともない服装や耳、それにこの竹から軽々と降りたところから見るにかなりの運動神経を持つだろう。
彼も長く生きたがこんな少女など見たことがなかった。
「何者だ」
梟はそう少女に言い放つと、彼女はまず足元にいた二匹のウサギを逃がした。
「ほら逃げな。知らない人に近づいちゃダメだよ」
ウサギ達は竹林の奥へと行ってしまった。
「あの兎の飼い主か」
「飼い主とはちょっと違うなぁ...けど食べられちゃ他のウサギが悲しんじゃうからね」
「悲しむ...?兎がか」
「そうだよ」
梟は持っていた手裏剣をしまい、少女に背を向ける。
「何処へいくの?」
「関係のないことだ」
「この竹林からは出られないよ」
「迷いやすい場所は何度も経験しておる...心配は無用だ」
「わかってないなぁ。ここは迷いやすいんじゃない...確実に
「...どういう意味かな」
少女は不気味な笑顔を浮かべる。
「言葉通りの意味だよ。ここは客人を絶対に迷わせるんだ。絶対にね」
「.....」
梟は目の前の少女が話す言葉が信じられなかった。
「どうやら冗談が好きらしいな」
「冗談じゃないよ」
「ではな」
梟は少女の忠告を無視して竹林の奥へと向かう。
彼女は彼に聞こえるような大声で叫ぶ。
「すぐに本当だってわかるさ!」
野生のフクロウってウサギ食べるんですかね...