「梟の旦那ぁ!」
「む」
梟はいきなり引き戸が力強く開いたことに驚くが、てゐは彼の反応は気にせず奥にある刀を掴む。
「刀借りるよぉ!」
「!?」
梟の返答を聞かずにてゐは刀を持って出ていってしまった。
「妖忌さん!持ってきたよ」
てゐは玄関で待っていた妖忌に梟の刀を渡すと、彼はてゐに軽く一礼してゆっくりと刀を鞘から抜いた。
「では、拝見...ううむ、これは見事に真ん中から折れたな」
「どうかな」
「...てゐ殿、基本的な事だが...折れた刀はまず直せん」
「え!?そうなの!?」
「折れた刀身を脇差しにする事などは出来るがな...くっつけることは無理だ」
「そ、そんなぁ」
「それにこの刀...よく使い込まれ研がれてきたのだろう。刀としてはかなり痩せている...これではたとえ折れてなかったとしても修理は難しい」
「そ、そっか...なんか溶かしてもう一度打ち直せばどうにかなると思ってたけど」
「刀はそれほど簡単なものではない。たとえてゐ殿の言う通りに打ち直しても見た目は刀のような物が出来るだけ...これでは新調した方がいいかもしれぬ」
「うう...」
「役に立てなくてすまない」
妖忌は刀を鞘に戻し、てゐに返した。
彼女は肩を落とし、どうするかと悩む。
「仕方ない...梟の旦那にそう伝えるよ」
「...いや、待ってくれてゐ殿」
「え?」
てゐは妖忌を見ると、彼は腕を組んで何か思い出そうと考えている。
すると思い出したのか、てゐにある妖怪の話をし始めた。
「これは噂であるが...最近見た目は子供でもいい腕を持つ鍛治妖怪がいると聞いたぞ」
「鍛治?けど折れた刀は」
「普通は直せぬが...妖怪の鍛治屋ならばもしかすれば」
「直せるのかい?」
「可能性は低い...しかもその妖怪の居場所はわからぬ」
「この辺りにいるならすぐわかるけど...竹林の外となると話は別だねぇ...」
「儂も噂程度なのでなぁ」
「うーん、わかった。後は私の方で何とかしてみるよ」
てゐは梟の部屋へ向かおうとすると、妖忌に肩を掴まれる。
「てゐ殿、待たれよ」
「?」
「その鍛治屋探し、儂も手伝わせて貰おう」
「え、けど...」
「いつもここには世話になっている。いずれ恩を返したいと思っていた」
「いいのかなぁ...まぁいっか」
「では、永琳殿から薬を貰い西行寺に届けたら探ってみよう」
「私も探してみる」
すると妖忌は首を横に振る。
「いや、てゐ殿はこの竹林から出ない方がいい」
「え、何で?」
「最近この辺りには日の本各地の妖怪が集まっている...中には手練れや危険な妖もおるからな。言いにくいが、てゐ殿は妖怪として実力が...」
「ははは、わかってる...わかってるさ。それに大丈夫!私だって長生きしてるんだ。危険な妖怪には近づかないし、逃げ足だって自信あるよ」
「ううむ...」
「それよりもこの事は永琳には内密にね。バレたら小言言われちゃうよ」
二人が話していると、永琳が後ろから薬をもって現れる。
直ぐ様二人は他人のフリをして、妖忌は永琳に対応する。
「妖忌さん、お待たせ」
「!ああ、いつもすみませんなぁ。お代はこれで」
「はい、確かに」
「では永琳殿、てゐ殿。いずれまた」
妖忌は玄関から出て、門から永遠亭から去っていく。
「てゐ、何の話をしてたの?」
「いやぁ?特になにも」
「...それ梟さんの刀よね」
「え!?あ、うん」
「何で貴方が持ってるのよ」
「いや、あの剣士さんにこの刀の価値はどのくらいか聞きたくてね」
「それ折れてるじゃない。価値はないんじゃない?」
「そう言われたよ」
すると永琳は溜め息をついて、梟の部屋へと歩き始める。
「さて、梟さんの状態見てくるわ」
「行ってらっしゃーい」
てゐは永琳の姿が見えなくなると、刀を背負って縄で縛り静かに永琳亭から抜け出す。
そして門の外に出ると、全力疾走で永琳亭から離れていく。
「さぁて、その鍛治妖怪とやらは何処にいるかな!」
てゐの姿はあっという間に消えていった。
竹林の外に辿り着くと、てゐは背筋を伸ばし始める。
「んーーーっ...っはぁ!いやー絶景だね...って寒っ!」
この辺りは街道も無く、人の手も入っていない自然そのままである。
「さて、とりあえず辺りを探索するかな」
日もそろそろ落ち始める時間になるが、てゐは妖怪一匹とも出会わず歩き回っていた。
「...寒くなってきたなぁ」
するとてゐはとある古い廃村に偶然辿り着き、ボロボロの家に入って座る。
そして火を起こして、持ってきた握り飯を食べ始めた。
「はぁやれやれ、今日は収穫なしか」
てゐは食べ終わり結んである縄をほどいて、刀を横に置くと目を閉じて眠り始めた。
「そこのウサギさん」
てゐはすぐに起き上がり、刀を持って警戒する。
「誰だい!」
てゐのすぐ近くに座っていたのは、ボロボロの服を着ている紫色の髪をした少女だった。
そして胸には巨大な目があり、てゐの顔をジッと見つめている。
「あんたは...それにその目は...覚妖怪か」
「ご名答です。貴方は因幡てゐさんですか...あぁ、あのすぐ迷う竹林に住んでいるのですね」
「う、本当に心が読めるんだね」
覚妖怪はニコリと笑うと、後ろにもう一人誰か居ることにてゐが気づく。
覚妖怪と同じようにボロボロの服で薄緑色の髪をしており、胸に巨大な目があった。
「?そいつは?」
「私の妹です」
「姉妹か...覚妖怪だから苦労してきただろうね」
「.....」
「それで、私に用かい」
「実はこの辺りで寝床を探してまして...ようやくここを見つけた所貴方が居ましてね。そこで...」
「ああ構わないよ。一緒にいた方が安心さ」
覚妖怪は頭を下げると、後ろにいた妹も姉を真似て頭を下げた。
「ありがとうございます」
「あ、そうだ」
「子供の鍛治屋ですか...噂は知ってはいますが。ああ成る程、その鍛治屋に貴方の...いえ、梟さんという方の刀を直して貰おうと」
「は、話が早くて助かるね」
「しかし残念です。私はその鍛治屋さんの居場所は知りません...」
「そっか...なら知ってそうな奴は」
「生憎人からも妖怪からも避けられる身なので、知り合いはいません」
「あ、そりゃ悪いこと聞いたね」
てゐはどうしたものかと考えていると、覚妖怪の後ろにいる妹が話始める。
「ウサギさん」
「ん?」
「鍛治屋さん...知ってる」
「え!?そうなのかい!?」
てゐが覚妖怪の妹に顔を近づけると、彼女は驚いて姉の背中に隠れる。
「あ、ごめんごめん。驚かしちゃったね」
「...」
「お話ししてあげなさい」
「うん...一昨日一緒に遊んだ子が...鍛治が出来るって言ってた」
「こりゃ思わぬところに情報が落ちてたねぇ...!それで、その遊んだ子は何処にいたんだい?」
「えっと.....墓地にいたよ」
「墓地?」
すると覚妖怪が代わりに話始める。
「一昨日ここから数里先にある名前がない墓地で一晩過ごしまして。私は食料を探していたので見てはいませんが...そんな子供いたかしら」
「いたよお姉ちゃん」
「その子の名前は?」
「無いって言ってた」
てゐはその事を聞くと、持ってきてある握り飯を覚妖怪の妹の前に差し出す。
「ありがとうね。これ、食べな」
覚妖怪の妹は差し出された握り飯を貰い、姉を見るとゆっくりと頷いたので食べ始める。
「いい食べっぷりじゃないか」
「すみません」
「情報貰ったからね、当然さ」