ブルーローズをそばにおく   作:蒼月柊

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02. 雨の日

 雨が降る平日の昼、俺とライスは同じ部屋で仕事をしていた。

 

 俺の正面にあるモニターが映しているテキストは次回作の習作だ。どうしてか、トレーナー時代からの付き合いとなる雑誌記者に、俺とライスの伝記を依頼されたのがきっかけだった。

 

 ありがたいことに伝記はそれなりの評価を受け、そこから叙情のある文章で読みやすいと文芸編集者に小説を書いてみないかともちかけられた。

 

 当時は、十数年は何もしなくても生きていけるだけの貯蓄があるとはいえ、次の仕事が決まっていなかったこともあり、物は試しと人生で初めての小説を書いてみることにした。

 

 すると、この小説がトゥインクルシリーズのファンである大御所作家に大絶賛され、知る人ぞ知る作家としての地位を確立することになった。

 

 それからは、専業作家としてやっているのだが、まさかライスも作家になるとは思いもしなかった。

 

 今、ライスの目の前には液晶タブレットが置かれている。画面をのぞきこめば、絵本の世界が広がっていることだろう。

 

 ライスの場合は公募での受賞デビューだった。幼い頃から好きな絵本を自分自身でも描いてみたくなったのがきっかけと聞いている。

 

 どちらの仕事も家でできるものだ。だから、片時も離れたくない俺とライスにはぴったりの職だと思う。

 

 特に、今日のような雨の日は、愛する者が近くにいる安心感に加えて、静寂に響く雨の音がより心を落ち着かせてくれる。

 

 なかなか先の展開が思いつかない場合など、読み合い、考えることができるのもよい。

 

「どうかした?」

 

 指が止まっている俺に気づいたようで、ライスがいつもの優しい声で気遣ってくれる。

 

 俺は少し苦笑いで答えた。

 

「いつも通り、煮詰まってな」

 

「あなたはいつも考えすぎなんだよ」

 

 ライスは近づいてきて、後ろから腕を回す。変わらないライスの香りがふわりと広がる。温もりと心音に、癒されていく。

 

「ライスだって、考えすぎるだろ?」

 

「えへへ、一緒だね」

 

 体を俺に預けてくるライスの腕を引き、膝に座らせる。そして、今度は俺がライスを抱きしめた。

 

「ライスは温かいなあ」

 

「あなたも温かいよ」

 

 俺の手を取り、ライスは頬に当てる。吸いつく肌が気持ちよい。

 

「読んでもいい?」

 

「もちろん」

 

 ゆっくり一文一文を味わうライスの様子を見ながら、自分でもどこが悪いのかを考える。

 

 といっても指が止まる理由は大抵一つだ。何を書くか決まっていない場合に、よく指が止まる。

 

 そして、大抵そういう箇所はプロットで決まっていない場合が多い。シーンとシーンをつなぐイベントなどは、前のシーンに影響されるためプロットが固められないのだ。

 

 というわけで、俺はどんなイベントが前と後のシーンをつなぐのに相応しいかを考えている。

 

 歯に力を入れながら考えていると、ライスが俺の顔を見上げていた。

 

「読み終わったよ」

 

「どうだった?」

 

「とても落ち着く作品だね」

 

「やっぱりそうか……」

 

 頭の中ではもっと爽快感のあるイメージがあるのだが、文で表現しようとするといまいち盛り上がりに欠けるのは自分でもわかっていた。

 

「ライスは好きだよ?」

 

「ありがとう」

 

 ライスの頭を撫でると、「えへへ」と笑ってくれる。その愛らしさに心が癒されながらも、頭を回す。

 

 それでもけっきょくは、何もよいアイデアは出てこなかった。

 

「ライスはどう?」

 

「まあ、順調だよ。締切までには時間もあるし」

 

 俺が立ち上がるのを察してか、ライスが膝から退く。俺は立ち上がり、台所に立った。

 

「何を飲む?」

 

「ありがとう。それじゃ、ホットココアを」

 

 以前、互いのものを選び買ったマグカップを取り出し、軽く洗ってからココアを作る。牛乳を電子レンジで温め、ココアを溶かすだけで完成だ。

 

「お待たせ」

 

「ありがとう」

 

 小さな口から息を吹きかけて冷まそうとするライスを眺めながら、俺は一口飲み机に置く。

 

 そのままもう一度、仕事に向かおうとすると、ライスに呼びかけられた。

 

「今日はさ、もう一緒にいない?」

 

 両手を広げて、俺を待つライスに、俺はうなずいた。

 

「それもいいかな。どうせ、考えても何も思いつかない」

 

「やった」

 

 ライスは俺の胸に飛びこみ、ぎゅうっと抱きしめてくる。俺もお返しとばかりに抱きしめた。

 

「幸せだな」

 

 ライスの言葉に、俺も同意だった。心が温かくなることを幸せと言わずに何と言うのだろう。

 

 顔を上げたライスが、じっと俺の顔を見つめる。

 

「本当に、幸せなんだよ」

 

「俺もだよ」

 

「えへへ」

 

 こうして毎日がすぎていく。それでも、ライスと一緒にいるだけで本当に幸せだった。

 

 それはライスが俺にとっての青いバラだからなのだろう。

 

 そんなことを想う日常も、大切な一ページだった。 




というわけで、トレーナーを辞めてからの二人の職業紹介でした。

こう、お家デートっていいよね。
特別なことをせずとも、そばにいるだけで満たされる関係性が特にいい。

ヤンデレ要素?
奴は死んだよ……
いや、本当に申し訳ないとは思っているんです!
ただね、性格が内向きなタイプであるライスシャワーがトレーナーに病んだらこうなると思うんだよなぁ。
限界まで自分の中に世間一般的には悪感情である嫉妬心を溜め込んで、限界を迎えると強硬手段(犯罪行為を厭わなくなる)をも用いて一時的(期間は理性と嫉妬心のせめぎ合いの結果決まる)に恋愛対象を自分のものにしようとする、みたいな感じで。

まあ、ヤンデレを描くためにプロローグを除いて九話も用いて、ヤンデレ要素が三話(しかも、一話目と三話目はジャブにもならない程度の展開)は少ないと言われても仕方がないと思う。
俺ももっと書こうとは思っていたのだけれどなあ。
完結優先で勢いで書いていたところがあるので、指が勝手に展開を変えやがったのです。全部指が悪い。

はい。失礼しました。
そんな小説ではありますが、評価を入れてくださった方、感想を送ってくださる方、お気に入り登録をしてくださる方、そして、今もなお読んでくださっている貴方。
本当にありがとうございます!

いつ更新できるかは分からないですが、もう少しだけ結婚後の話は書いていきたいと思っていますので、なにとぞよろしくお願いいたします! それでは!
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