ブルーローズをそばにおく   作:蒼月柊

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第二話 意志とメンタル

 放課後の集合場所を決めて、ライスシャワーとはすぐに別れる。トレーニングの後のため、授業前には身だしなみを整える時間が必要だろう。

 

 俺はライスシャワーに記入してもらうための書類を作成する。後は、予定通りにトレーニングの論文を読み漁り、時間が来るのを待った。

 

     ⭐︎

 

 放課後になると、学園は熱気にあふれる。もちろん、ウマ娘とトレーナーの練習があるからだが、俺は落ち着ける場所にライスシャワーとの待ち合わせをした。

 

 その場所は学園内ではなく、駅近くの裏道にある。偶然見つけたカフェ『祭』だった。

 

 マスターのこだわりで、夏祭りが終わる静かで切ない感傷を思い起こさせる内装の店だ。メニューも祭りの定番であるチョコバナナや綿飴、りんご飴をイメージしたスイーツが用意されている。アラカルトも焼きそばやイカ焼きなど用意されているが、俺は食べたことがない。

 

 そんな店に、俺はライスシャワーを呼び出した。

 

 だいぶ馴染みとなったマスターに賄賂を渡し、貸切にした店内ですることはライスシャワーをよく知ることだ。

 

 ライスシャワーがどうして夢を持つに至ったのかを始めとして、とにかくあらゆる情報を得てからトレーニングのメニューを作成していきたい。

 

 そう思って、俺はアイスココアをストローでかき混ぜながら、ライスシャワーを待った。

 

 ドアにつけられたベルが控えめに鳴る。ライスシャワーは本当にゆっくりとドアを開けたようだった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 マスターはライスシャワーを俺の席まで案内した。

 

「それではごゆっくり」

 

 いつもよりも作り物めいた笑顔のマスターはそのまま姿を消す。

 

「あ、あの」

 

「どうした?」

 

「どうして、このお店を?」

 

 緊張しているようで、オドオドとライスシャワーは尋ねる。できる限り、その緊張を解せるように、俺はおどけることにした。

 

「惚れた女性を誘うのに、これ以上ない場所だと思ったんだが、ダメだったか?」

 

「ひゃひゃい⁉︎ ほ、ほれひゃ⁉︎」

 

 一気に熟したりんごのように赤くなったライスシャワーは呂律が回らないままに、言葉を続けようとする。その様子は可愛らしいものだが、我ながら失敗したことを自覚した。

 

「その、ちょっとしたジョークのつもりだったんだ。だが、うん、君ならそういう反応をするとわかっていたはずなのに、すまない」

 

 頭を下げるが、ライスシャワーがとても戸惑っていることがわかる。おそらく、俺から何か言わないとこのままだろう。

 

 許しを得ていないが、俺は頭を上げ、一つ提案をすることにした。

 

「詫びと言ってはなんだが、今日、君が外で食べるものは俺が負担しよう」

 

「え、そんな」

 

 冷静さを取り戻したようで、ライスシャワーは申し訳なさそうに俺を見た。

 

「ほんとにいいんですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

「たとえば、このスイーツ全部だとしても?」

 

 なんか不穏なワードが入った気がするが、男に二言はない。

 

「いいぞ」

 

 俺がそう言うと、ライスシャワーはぱぁっと光が射したような笑顔を見せてくれる。

 

「ありがとうございます!」

 

 ライスシャワーはメニューのスイーツのページを開き、目を輝かせながらぶつぶつ言葉をこぼす。

 

「どれから食べよう。りんご飴もある! うわぁ、りんごを使ったスイーツがこんなにたくさん!」

 

 これは選択肢を間違えた気がする。まさか、こんな小学生と言っても通じるような身長の子が大食らいなんて、誰も思うわけがないじゃないか。

 

 いや、現金は足りないだろうが、クレジットカードなら問題ないはずだ。

 

 少し冷や汗をかいている間に、ライスシャワーは食べる順番を決めたらしい。マスターを呼んで、スイーツのメニューを一通り頼んでいた。と同時に、食べる順番を伝えているようで、この順番通りに持ってきてくれるようにお願いもしている。

 

 少し引きつったようなマスターが俺を見るが、俺はうなずくことしかできない。

 

 俺はアイスココアのおかわりを頼み、いよいよ本題に入ることにした。

 

「ライスシャワー」

 

 俺が真面目な雰囲気になったことを察してくれたのだろう。ライスシャワーも笑みを潜めて俺を見る。

 

「まずは君のことを知りたい。君の夢、その夢を志すきっかけ、自分が思う現状の性格、君のすべてを俺は知りたい。それが、俺たちが行う初日のトレーニングだ」

 

「はい!」

 

 俺はアイスココアのグラスを退け、テーブルにノートを広げる。お気に入りのダークブルーの消えるインクのボールペンを構えて、俺は質問を開始する。

 

「まずは、君の夢を、ゆっくりでいい、自分の言葉で聞かせてほしい」

 

「ライスは、しあわせの青いバラになりたいんです」

 

「なるほど。もっと詳しく聞かせてほしい」

 

「きっかけは、『しあわせの青いバラ』っていう絵本を読んだことでした。青いバラのようにみんなを幸せにしたいって思ったんです。そして、お母さまがレースに連れていってくれて、周りの人がみんな、めいっぱいの笑顔で応援して、応援していた子が勝ったらとても幸せそうにしていて、それでライスもその子みたいな、みんなを幸せにできるウマ娘になりたいって」

 

 俺はしっかりノートに書き記す。帰りにライスシャワーの言う絵本を買うことにした。

 

「やっぱり、とてもいい夢だな」

 

「本当ですか!」

 

「きっと君は幸せにできる。そのために俺は支えるよ」

 

「ありがとうございます! トレーニング、頑張ります!」

 

 やる気が満々のライスシャワーを見る。現状では、やる気もあって、自分でメニューを考える頭もある。朝の自主トレーニングを見る限り、スタミナもありそうだ。根性もあるだろう。

 

 俺はライスシャワーのことを少し自信のない優等生だと思っている。

 

「それじゃ、次に自分の性格について、自分が思うことを聞かせてほしい」

 

「ライスは、周りを不幸にしてしまうダメな子だと」

 

「それはどうして?」

 

 言い切らせないために、俺は口を挟む。確かに自信はなさそうだが、幸せにしたいという子が周りを不幸にしていると言い切ってほしくない。

 

 少し目を丸くしたライスシャワーだったが、俺の目を見て少し視線を下にした。

 

「いつも赤信号にしちゃうし、みんなが楽しみにしていたイベントも雨で中止にしちゃうし」

 

「それは、ただの偶然なんじゃ」

 

 ライスシャワーはすごい勢いで首を横に振る。

 

「だって、ライスのせいで、運動会はいつも雨だったし、卒業旅行も雨だったんだよ? 行きも帰りもバスは渋滞に捕まっちゃうし」

 

 どうやら、本心で自分のせいだと思っているようだった。口調が敬語じゃなくなっていることからも、だいぶ深い傷になっているのだろう。

 

「わかった。仮にそうだとしてもだ。君はその状態をそのままにしたくないんだろ?」

 

「はい……」

 

 さっきまでの元気はどこかへ行ってしまったようだ。あまり励ますような言葉を知らない俺だが、どうにか絞り出す。

 

「君は優しい子だな」

 

「ライスが?」

 

「ああ。君の夢は自分のためだけじゃなくって、他の人のための夢だ。そして、今を悲観的に捉えているのに、斜に構えたところがない。そんな子が優しくなくてなんというんだ?」

 

 ライスシャワーは何も言わずに、俺を見ていた。

 

 俺はどうにか言葉を選ぶ。

 

「トレーナーがつく前という状況で、君はトレーニングをしてきた。きっと昨日の今日で一番にバ場へ来るということはいつも一番に来ていたんだろう。それだけでも、君は心が強い」

 

「ら、ライスは強くなんか」

 

「君のいう心というのは、おそらく競技に必要なメンタルなんだろう。でも、ここでいう心が強いというのは、ライスシャワーというウマ娘が本来持つ心が強いってことだ。意志が強いと言い換えてもいい」

 

「意志が強い」

 

 くりかえすライスシャワーに畳みかけるよう、俺は言葉を続ける。

 

「この意志が強いっていうのは才能があるということだ。チャンスがあって、それを掴むことができれば、君の夢は近づいていくだろう。ただ、そのチャンスを掴むときに、悲観的な性格ではいけない。性格が言葉に表れて、その言葉を発するたびにチャンスを掴むために必要な一歩が足りなくなってしまう。そして、この一歩というのが君が気にしている競技に必要なメンタルってやつだ」

 

 少し長く語ってしまったので、一口ココアを飲む。

 

「トレーナーさんはライスが夢を叶えられると思いますか?」

 

 唐突な質問だったが、俺は即答する。

 

「叶えられる。ライスシャワー一人で叶えられないとしても、叶えるまで俺は君を支える」

 

 じっとライスシャワーの瞳を見つめる。俺はもう何も言わない。次はライスシャワーの言葉が必要だった。

 

「……改めて、よろしくお願いします! また逃げてしまうかもしれないけれど、でもライスはもう諦めたくありません!」

 

「ああ! 一緒に頑張ろう! さて、もう今日のトレーニングはおしまいにして、スイーツを楽しもう!」

 

「はい!」

 

 そして、俺たちはたらふくスイーツを食べた。ライスシャワーがりんごを好きな理由も聞いて、とても楽しい時間だった。

 

 だったのだが、代金を見て目を疑った。

 

「マスター、これは適正価格か?」

 

「当たり前だろうが」

 

 ぶっきらぼうに言うマスターに、少し不安げに俺を見つめるライスシャワー。

 

 もう引くことができない俺はライスシャワーを先に外へ出した。

 

「すまないが、クレジットカードを担保にするからツケにしてくれ」

 

「クレジットカードを他人へ譲渡するのは規約違反だろうが!」

 

 マスターは呆れた目で俺を見て、ため息を一つ吐いた。

 

「クレジットカードはいいから、次に来るときに払ってくれ」

 

「恩に着るよ」

 

 マスターにしっしっと手で払われた俺は店を出る。心配そうにしているライスシャワーがすぐに俺へ近寄ってきた。

 

「大丈夫でしたか? ライスがあんなに食べなければ」

 

「いいんだよ。男に二言はないし、男に見栄を張らせてくれ」

 

「でも……」

 

「さ、帰ろう。明日から大変なんだから、早く寝ること」

 

「は、はい!」

 

 そうして俺はライスシャワーを寮へ送り、少しまた出かける。ライスシャワーの夢のきっかけになった絵本『しあわせの青いバラ』を買い、読み、そしてライスシャワーへの考察を深める。その上で、明日の朝練習のメニューを考えて、シャワーを浴び、俺は寝袋を持ってバ場へと移動した。

 

 風が避けられそうな場所で寝袋を広げて、眠りに就く。

 

 こうでもしないとライスシャワーの朝練習に遅れてしまうと思ったのだが、次の日、俺の予想通りの時間にやってきたライスシャワーに怒られてしまうのだった。




遅くなってしまってごめんなさい! お気に入り登録も感想もありがとうございます!
今後も不定期になってしまうと思いますが、できる限りがんばります!

次からいよいよレースに入るのですが、この小説はあくまでトレーナーとライスシャワーの関係に重きを置いているので、あまり期待しないでもらえると嬉しいです(予防線)

ちなみに、今日で51回ライスシャワーを育成しているのですが、一回も温泉旅行券を引けていません!
高校からの友人は推しのウマ娘と温泉に行ったらしいので、嫉妬で吐きそうです。
……お願いだから、引いてください。
それとも俺が嫌われているのでしょうかね……
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