幼馴染友人TS恋愛物語   作:ワンダーS

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 妄想が形になるって、割と快感。
 
 評価くれた人ありがとね。嬉しい。





信じる

 

 昨日のニュースで放映された、女性へと変化した元男性が失踪した。

 

 可能性として真っ先に上がるのが誘拐。拉致。

 

 優希の今の外見は男だったころと比べて格段に良くなっている。それこそ、今まで見たことがないレベルに。

 

 仮に同じように変化していたとしたら、狙われても不思議ではない。

 

 そして、何より。昨日の時点で前代未聞の現象の唯一の例である。研究素材として連れていかれることも十分ありうる。

 

 ふと、その記事を見ると、投稿されたのはつい先ほどであった。

 

 日向は、すぐにリモコンを手に取り、テレビをつける。

 

 しかしニュース番組を確認していくも、それらしい情報は出てこない。

 

 少なくとも、まだテレビ関係者の方には情報が出ていないのかもしれない。もしくは、情報を意図的に止めているのか。

 どちらにせよ、この情報の正誤が明らかでない以上、うかつに動けなくなってしまったのは確かだ。

 

 そこまで考えて、日向は優希の様子をうかがう。

 

 「…なんで」

 

 呆然としてぽつりとつぶやいた優希。

 

 その声は、先ほどまでの少なくとも確かにあった余裕さえ感じさせない。

 

 次の瞬間、今まで押しとどめていた感情が爆発する。

 

 「なんで、俺がこんな目に合わないといけないんだよ!」

 

 取り乱しながら叫ぶ優希に、日向にも焦りが生じる。

 

 ただでさえ余裕の無かったところにこの追い打ちだ。こうなってしまうのも仕方がない。

 

 何とか落ち着かせなければと、日向は言葉を紡ぐ

 

 「落ち着け、優希。大丈夫だ、まだ確定したわけじゃ…」

 

 「触れるな!」

 

 焦り、つい伸ばしてしまった日向の手を優希が振り払う。

 

 その瞳には、涙が浮かんでおり。不安、困惑、そして何よりも恐怖が浮かんでいた。

 

 そこで、悪手であったことを日向は悟り、唇をかむ。

 

 一回り以上小さくなってしまった優希にとって、周りは一回り大きくなっているのと同義だ。

 そんな中、急に手を伸ばされたら、それはただ不安を助長させるだけだ。

 

 「…もう嫌だ。夢なら覚めろよ…」

 

 嗚咽交じりに言いながら。優希は膝を抱えて顔を伏せてしまう。

 

 後悔先に立たずとはこのことだ。

 

 軽率だった、優希の状態を正確に受け止めれていなかった。もっと、配慮をするべきだった。

 

 日向は、どう声をかければ良いのか分からず口をつぐむ。

 

 しかし、ここで引いてしまったら、優希は完全に折れてしまうだろう。それだけは避けなければならない。

 日向は、改めて決意を固めて話しかける。

 

 「…なぁ、優希。俺はあんまり頭がよくないからさ。お前が感じる不安がどのくらい大きいか想像もできない。」

 

 「……」

 

 顔を伏せたままの優希に、日向は言葉を選び、探りながら口にする。

 

 「だけど、支えるくらいはできる。俺ができる限り、お前の力になる。お前を絶対、傷つけたりしない。

 

  元に戻る方法だって絶対見つかる。

 

  失踪なんて俺がさせない。

 

  だから俺を信じてくれないか、優希。」 

 

 「……」

 

 説得とも呼べないような幼稚な言葉しか出てこない。しかし、どこまでも真摯に日向は優希に訴えかけた。

 

 優希から答えはない。

 

 それでも言葉が届いていると、確かに感じた。そう、信じるしかなかった。

 

 「…ホントに」

 

 顔を伏せたままで優希がぼそりと言う。

 

 日向は、黙ったまま優希の言葉を待つ。

 

 

 「…ホントに、信じてもいいのか。」

 

 「任せろ。」

 

 「じゃあ、目、閉じて。今は顔見られたくない。」

 

 「おう」

 

 内心、優希が答えてくれた事にほっとしながら、言われた通り目を閉じる。

 

 日向が目を閉じたのを確認すると。優希は立ち上がり、日向の後ろに歩くと、膝をつく。

 

 「…少し、背中貸してくれ。」

 

 「いくらでも貸してやる。」

 

 優希は、その答えに安堵すると同時に、心の緊張を解く。

 

 少しして、背中から静かな嗚咽が聞こえてくる。日向は、無言で聞こえないふりをした。

 

 

 

 

 

 「悪い、みっともないところを見せた。」

 

 「いいって、誰だってそうなるさ。それに、見えてなかったしな。」

 

 優希が落ち着いたのはそれから二十分後のことだった。顔を上げた優希は恥ずかしいのか、そっぽを向き、バツの悪そうにしている。

 

 長時間泣いたせいで目元は少し赤くなっている。

 

 それでも、先ほどまでと比べて格段に雰囲気は軽い。

 

 「でも、これからどうしよう。」

 

 「取り敢えず、変化が起きたことは隠す方向で行くしかないな。」

 

 昨日のニュースによれば、届出自体はする必要はないらしいが、それでも病院に行けば、そこから情報が漏れる可能性がある。

 

 そもそも、国が関与している場合も考えると病院は論外である。

 

 可能性が存在する以上、回避できるリスクは回避しておきたい。

 

 幸いなのが、今が夏休みで学校などに行かなくて済むことだ。

 

 問題の先送りにしかならないが、まず隠すだけなら一月半の猶予がある。

 

 しかし、周囲の住人が優希の変化に気づくことも十分ありうる。あそこまで大々的に報道されたのだ。性転換について知らない人の方が少ないだろう。

 

 つまり、優希をこのまま放置するのは得策ではない。

 

 「あ、そうか」

 

 「日向?」

 

 突然声を出した日向を不思議そうに見やる。。

 

 それに構わず、日向は続けた。

 

 「優希、うちに住まないか。」

 

 「日向の家に?」

 

 「あぁ、お前ひとりでここに残しておけない。うちなら医者みたいな人もいるし。」

 

 「…でも、迷惑をかけることになるから…」

 

 ただでさえ、迷惑をかけているのに、これ以上かけるのは気が引ける。

 

 しかし、日向はそんな優希の心情を読み取ると、首を横に振り口を開く。

 

 「心配するな、迷惑だなんて思っちゃいないさ。さっきも言ったろ、俺を信じろって。

 

  それでも気になるなら…あれだ。

 

  ラーメンの分。

  散々ツケがたまってるだろ、その清算だと思ってくれ。」

 

 そういわれると何も言えなくなってしまう。

 

 やはり日向はずるい。

 

 「…じゃあ、お願いします。」

 

 「よし、決まりだな。それじゃあ…」

 

 日向はそういうと、すぐ隣にいた優希の方を向き口を開く。

 

 「シャツ、離してもらってもいいか?」

 

 「へ?…あ、ちがッ!」

 

 自分が先ほどからずっとシャツの裾をつかんでいたことに気づいた優希は一瞬にしてその顔を朱色に染め、大げさに手を離す。

 

 弱っていたとはいえ、何をしているんだ俺は!と、心の中で叫ぶも、一度湧いた羞恥心は簡単には消えてくれない。

 

 「いつからッ!」

 

 「ん?さっきからずっと。具体的にはみっともない所見せたっつてとこからだな。」

 

 「…ぐッ、それならもっと早く言ってくれれば…」

 

 とそこまで言ったところで、優希からくぅ、と可愛らしい音が鳴る。

 

 そういえば、変化の衝撃が強すぎて今日は朝食をとっていなかった

 

 次の瞬間、優希は言いようのない羞恥に襲われる。

 男だったころは腹が鳴る程度で何とも思わなかったのに、今はどうしようもなく恥ずかしく感じた。

 

 先ほどとは比べ物にならないほど、顔を赤くして優希はついに顔を伏せて、黙ってしまう。

 

 それを見ていた日向もさすがにいたたまれなくなる。

 

 「えッと、そうだな。ラーメンでも食いに行くか。」 

 

 「…」

 

 気まずそうに言われた日向の言葉に、優希は黙ったまま頷いた。

 

 

 

 その後、優希も元に戻ったところで、いざラーメン屋へ向かおうとしたのだが。

 

 「その恰好のまま外には行けないよな。」

 

 現在優希が来ているのは、もともと着ていた男物の寝間着である。

 

 身長が縮んだこともあり、ダボダボのそれは、お世辞にも外出できる恰好とは言い難かった。

 

 ほかの服も同様であり、一度服屋に走るかと日向が考えていると。

 

 「少し待ってろ。」

 

 優希は立ち上がり、部屋の奥にあるふすまを開ける。

 

 普段布団を入れているそこは二段になっており、下の方には大きめの段ボールが二つ置いてある。

 

 段ボールを開けるとそこには、普段優希が来ている物よりも一回り小さい、見覚えのある服が何着か入っていた。

 

 「これ、お前が小学校の時に着てた服か?」

 

 「うん、なんとなくとってたんだけど。まさかまた着ることになるとは思わなかった。」

 

 感慨深げに言う優希に、日向は複雑な心境になる。

 

 そして、優希が着替えるということで、日向は玄関で待機する。

 

 「お待たせ」

 

 着替え終えた優希が出てくる。

 

 服の効果か、少し幼く見えた。

 

 改めてみると、優希が本当に美少女になってしまったのだとありありと感じさせられる。

 

 「ほら、これかぶってろ。」

 

 「わっ」

 

 感じてしまった照れくささをごまかすように、優希にかぶっていた帽子をかぶせる。

 

 「髪、邪魔だろ?それで抑えとけ。」

 

 「…ありがとう。でも、これちょっと汗臭いんだけど。」

 

 「ははっ、我慢しろ!」

 

 そう言うと、日向は一足先に外に出る。

 

 あまりの暑さに頭が茹だりそうになるが、まだ何とかなる。

 

 「おい待てよ」

 

 慌てて追いかけるように出てくる優希を待ちながら、日向はことの壮大さに目が回りそうだった。

 

 俺は親友を支え続けるのだと、改めて日向は決意する。

 

 





今回も楽しかった。

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