──転生者と一概に言っても複数のタイプがいる。
まず前世の記憶をどれだけ引き継げているか。自分の名前だけというタイプと、他の知識も引き継げているタイプ。
次に原作と呼ばれるものがある世界に転生したタイプと、全く知らない世界に転生するタイプ。
そして神様から特典を貰っているタイプと、貰っていないタイプ。
他にもいろいろあるが、大まかにはこれくらいだと私は思っている。
さて、じゃあ私はというと……
廊下を素早く、けれど落ち着いて歩く。慌ててはいけない。
そう、目的地に近付くにつれて耳に届く騒音が大きくなっていっても、決して慌てては……
コンコンコンコンッ
「失礼します! 師匠、この騒音はいった、い……」
大きな扉を開け、大図書館へと入った私の目に映り込んできたのは多くの本棚と本。
ただしそのほとんどが倒れ、巻き散っていて……
「な、な、な……なんじゃこりゃ~~!!」
誰だ!? 誰がやった!?
師匠……なわけがない。師匠がこんな暴れるわけがないし、そもそもこんな光景を見たら「本は大切にしなさい!」と怒る方だ。
じゃあこあ? ぶつかっちゃって倒しちゃったならありえそうだけど、これは一度ぶつかってできたものじゃない。明らかに何かが暴れてできた状況だ。
それに床や絨毯、壁にあるこの焦げ跡は間違いなく……
「あ~…美鈴の馬鹿……いや私も忘れて別の指示を出しちゃったけど……」
門番がいない開けられた門など、どうぞ入ってくださいと言っているようなものだ。
そしてこの
頭に浮かぶのは白黒の衣装を着た箒に乗る少女であり、
──同時に人里にいた頃のまだ幼い彼女の姿も浮かんだ。
「はぁ……会いたくないなぁ」
そう言いながらしまっていたとんがり帽子を被り、箒に乗る。
そう思っていたとしても、まだまだ聞こえる騒音の方向に箒を進めるしか選択肢はなかったから。
道中、本の山に埋もれ片足だけが出ているこあこと小悪魔を発見した。足の靴から誰なのか判断したけど、なんとか引き抜いてみたら間違ってなかった。気絶してるけど。
『小悪魔』。ロングストレートの赤い髪。白いシャツに黒のベストとロングスカート、赤いネクタイというのが彼女の基本スタイル。種族は力の弱い悪魔だから小悪魔で、その特徴である蝙蝠のような羽が頭の左右に小さく、背中に大きく付いている。師匠は小悪魔って種族名で呼んでてそれが個体名ではないんだけど、本名を教えてくれないから私も『こあ』って愛称で呼んでいる。この大図書館の主とも言える私の師匠の使い魔で、司書の役割を与えられている。私や美鈴とは仕えてる主は違うけれど、ここに住む従者として、家族として仲が良くできていると思う。
「こあ。起きてこあ。状況を説明してほしいから起きて」
「きゅう……」
「…ダメだ起きない。……放置しよう」
揺らしても起きない。いっそ手に持つ箒で殴れば起きるだろうかと思ったけど、それはやめておこう。いくら相手が人間より丈夫な妖怪とはいえ、親しい相手に不必要な暴力は避けたい。
というわけで放置。状況は自分の目で見に行けばいいんだからね。
そう思ってこあをその場に置いて再び箒を飛ばす。
騒音が近い。そして近付くにつれて少しの会話も聞こえてくる。
声は二人分。片方は師匠だ。そしてもう片方は、あの頃よりも成長しているせいで少し変わっているけれど、やはり彼女の……
音はなるべく立てないようそっと床へ降りて、陰からこっそりと覗く。
やはり戦っているのは師匠と彼女だ。
『パチュリー・ノーレッジ』。こちらもロングの紫髪の先を赤と青のリボンで纏めていて、紫色のゆったりとした服と同色のモブキャップみたいな帽子を被っている。種族は『魔法使い』で、種族としての性か本が好きでこの大図書館の主と呼ばれるくらいここにずっといる。本当の所有者である紅魔館の主とは親友の間柄で、互いに愛称で呼び合うほど。私にとっては魔法を教えてくれる師なので『師匠』と呼んでいる。
そしてもう一人の名前は──
「──ごほっごほっ!」
「はっ、師匠!?」
耳に届いた咳込む音。それがそこらの人のだったら気にもしないけど、それは何度も聞いた、けれど聞き慣れることがない音だから。すぐに反応して空を飛ぶ師匠を見る。
…ふらふらだ。もう弾幕を張ることもできていない。ずっと咳き込んでいる。
元々広すぎて掃除が行き届いていない場所だ。そんなところで暴れれば埃が舞い、師匠にとって最悪の環境になる。
あぁ……これはもう弾幕勝負どころじゃないな。なら邪魔したっていい。これで怒られたって知るもんか。私は私がやりたいようにやる。
彼女はまだ相手の異変に気付いていない。それもそうだ、彼女は師匠のことを知らない。だからただの咳だと思って今を絶好のチャンスとしてスペルカードを発動しようとしている。
その前に助ける。その為に素早く箒に乗り、弾幕が飛ぶ中へ飛び込む。
弾幕は
一直線に、師匠のもとへ。
そして……
「師匠!」
「ヒューッヒューッヒューッヒューッ」
今にも落ちそうな師匠の体を横抱きでキャッチし、そのまま弾幕の外へ。
…軽い。いくら栄養やエネルギーを魔力で代用しているとはいえ、この軽さはいかがなものか。脂肪がないからじゃないな。その胸部にある二つのかたまりは大きいし。筋肉の無さか……?
って、そう考えてる場合じゃない。
「師匠、これを」
「ありがごほっごぼっ」
「無理して喋らないでください。今はとにかく発作を止めるのが最優先です」
ポケットから携帯していた吸引薬を取り出し師匠の口へ近づけ吸ってもらう。いつも通りならこれで発作が治まってくれるはずだ。
「お、おい? どういうことだぜこれは……」
「…申し訳ありません。この方は喘息を患っておりまして、時折こうして発作を起こしてしまうことがあるのです」
ようやくこちらに何かがあったことに気付いた彼女が近付いた気配がする。背を向けているから目で確認はしてないけど。
彼女の問いには、ここでの立場にふさわしい口調で答えることにした。
「そうか。それで、勝負は続行できるのか?」
「…無理でしょう。しばらく安静にさせなければなりませんから」
「なら勝負を放棄ってことで私の勝ちだな!」
「…まあ、それも仕方な──」
「だ……だめ、よ……あいつの勝ちに、しちゃ……」
「しかし師匠、これ以上の無理は禁物です」
勝者を彼女に譲ろうとして、それを師匠は遮った。
だが相手はあの主人公だ。不調のまま勝てる相手じゃない。それにこのまま続けるのはあまり許容できない。
「な、ら……あなたが、戦いなさい……」
「……私が?」
「えぇ……あなたは、私の弟子…でしょう……なら私の代わりに、戦いなさい……」
「……畏まりました、師匠」
薬を服用したからといってすぐに元気になるわけじゃない。だからまだ少し苦しそうで話すのも辛そうで、そんな姿で言われたら断れるわけがなかった。
それに弟子として、もとより師匠の頼み事を断る気もなかった。
師匠をなるべく安全な場所に寝かせる。能力を発動させ師匠を覆うことも忘れない。
これでとりあえずはいい。そのうちこあが気がついてこっちに来るだろうし。
さて、
「そういうわけで続きは私が受けますが、よろしいですか?」
「ああ、いいぜ。……ってお前、どこかで見たことが……」
「どうも、こんにちは」
ようやく彼女を正面から見ることで、お互いにお互いの顔が見える。
そこでようやく彼女は私が誰なのか感づき始めて。
私は被っていた水色と白のとんがり帽子を取り、一礼。
私の頭上で揺れる二つの白いリボン。
彼女の三つ編みを飾る一つの白いリボン。
「初めましてか久しぶりか。貴女はどちらがいい? 『