大盛りです。
近頃エルロー大迷宮に出没している謎の魔物の正体を突き止め、可能であれば手懐けよ。
できなければ抹殺せよ。
上層部からそんな任務を任された。
私はそれを受けた時、こう思った。
こんな時期にそんな任務を受けてしまうとは、運が悪い。
つい最近子供が生まれたと言うのにそんな任務を受けることになれば、誰だってそう思うだろう。
しかもこれから我が子を見るために家に帰ろうとした時にだ。
そもそもなぜこんな任務を受けることになったのか、事の始まりはエルロー大迷宮入口付近にある小国、オウツ国から支援要請が送られてきたことだ。
聞けば最近、エルロー大迷宮での魔物の遭遇率が増えているらしい。
エルロー大迷宮は大陸から大陸を繋ぐ唯一の手段。
転移陣はあるにはあるが使えるのは金持ちか重要人物だけだ。
一般市民には使えない。
だから別の大陸に行くには何日もかけてエルロー大迷宮を通過する必要がある。
そのエルロー大迷宮での魔物の遭遇率の増加、大迷宮を通る者からしたらたまったものじゃない。
それにただ数が増えたのではなく、まるで何かから逃げるように大量の魔物が入口付近に迫ってきているそうだ。
オウツ国は小国だ。
自国防衛で手一杯な武力。
大迷宮の捜査は難しい。
しかしこのまま放置すれば大迷宮から大量の魔物が溢れ出し、領域に侵入してくる可能性がある。
そこでしかたなく我が帝国に支援要請をした。
我が帝国はこれを快諾。
元貴族の次男三男で作った部隊を派遣し、大迷宮の調査をさせた。
元貴族の次男三男でもその実力は他の部隊と変わらない。
異変の原因を突き止め、帰ってくると皆期待していた。
確かに部隊は期待通り原因を突き止め、帰ってきた。
しかしその部隊は余裕綽々の姿では無く、汗水垂らし息を乱しまくった、まるでとてつもなく恐ろしいものに出会ったかのような姿をしていた。
彼らの報告によると、見たことがない蜘蛛の魔物とまったく未知の魔物に出会ったそうだ。
それを見た瞬間、たとえ全員でかかっても虫でも払うかのように殺られるほどの力を感じたという。
あれは化け物だ、人類が歯向かっていい魔物じゃないと。
その報告に、最初は「何を馬鹿なことを」と鼻で笑っていたが、冒険者の中で人を救う蜘蛛型の魔物と下層に住むエルローゲーレイシューに酷似した魔物が出現したという噂が広まり、その魔物の存在が本当である可能性が出てきた。
エルローゲーレイシュー。
下層と極稀に上層で発見される魔物だ。
全ステータスが1桁台で、2つのスキルという非常に弱いFランクの魔物だ。
しかしこの種族の恐ろしいところは進化にある。
進化する度に危険度が跳ね上がるのだ。
進化による危険度の差が大きい種族といえばタラテクト種の魔物もそうだが、エルローゲーレイシューはそれより上をいく。
特に2段階進化を重ねると大量に眷属を産めるようになり、危険度が規模によるが最悪Bランクになる。
最も被害を出したのはグレイザーエンペラーで、大迷宮のみならず外にまで眷属が出てき、数多くの人が食い殺されたそうだ。
最終的には勇者が討伐に向かい、被害を出しながらも討伐できたらしい。
今回の報告で出た未知の魔物というのは恐らくエルローゲーレイシューの進化系だろう。
小型の蜘蛛型の魔物と同じ大きさだったこともあり、その魔物はクイーンに進化する前の種、グレイザーだと言われているが、報告書には全身が赤黒く不気味な模様があったらしい。
冒険者の噂でも報告書とほぼ同じ容姿した魔物が冒険者を助けたとか。
もし本当にいたとしたらそれは大問題だ。
例のない進化をしたゲーレイシュー族なんて放置するわけにはいかない。
蜘蛛型の魔物も見たことがない種族だったらしく、これで2体の未知の魔物が出現していることになる。
そしてそれを私は可能であれば手懐けなければならない。
確かに人を助けるというのならそれをするほどの知能があり、人に対して敵対的ではない可能性がある。
それでも手懐けるなんて無理だ。
調教のスキルは、契約に魔物が同意してくれるか力でねじ伏せなければならない。
魔物は基本的に契約に同意してくれることは無い。
かといって知能があり、魔物が恐れて大移動をするほどの魔物を力でねじ伏せられるかと言われればかなり難しい。
「あーまったく、儂を迷宮探索などさせおって、ついてないのう。」
私の隣には帝国が誇る大魔法使い、ロナント様。
彼は非常に優秀な魔法使いだが、その性格に難がある。
命令無視は当たり前で自由奔放で自分勝手な性格。
普段は気さくで面白い方なのだが、たとえ戦場でもその態度を変えないから困る。
「ロナント様。相手がSランクの場合、貴方のような戦力が必要なのです。」
「わかっとるよ。まぁ、儂が居れば何が来ようとも安泰よ。大船に乗った気分でおれ。」
ロナント様は自信満々な発言をする。
その顔は自分は負けないと信じて疑わない顔だ。
しかし自惚れるなとは言えない。
それは彼の立場が自分より上だからというわけではなく、自惚れても良いほど彼は実力があるのだ。
それこそ、人類最高の魔法使いと言われるほどには。
頼もしくはあるが、あの性格はどうにかならないものか。
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「その未知の魔物に出会った場所というのは、ここで間違いないんじゃな?」
「はい、そうです。」
「ふむ。」
大通路と呼ばれる大きな通路に私たちは来ていた。
ここで探索隊は例の魔物達に出会ったそうだが、何もいない。
それもそうだ。
目撃例が上がってから時間が経っている。
巣も張っていないのに移動しない方がおかしい。
ドォォン………
「ん?なんじゃ?」
突然、どこからか音が聞こえる。
その音は巨大な何かが地を砕いた音に聞こえた。
衝撃が体を伝ってくる。
ドォォン……ドォン……
「あちらの方から音が聞こえていますね。あちらは……下層に繋がる縦穴がある場所ですね。おそらく強大な魔物が戦っているのではないでしょうか?」
案内人が音のする方向に指をさしながら言う。
大迷宮の下層は人類が到達したことは殆ど無い。
命がけで探索した冒険者によると、Bランク級の魔物がゴロゴロいたのだとか。
これほどの振動、恐らくSランクの魔物が何かと戦っているのだろう。
音がやまないことから少し戦いが長引いているのだろうか。
「どうしますか。」
案内人の1人が私に聞いてくる。
どうするか、私達の任務は未知の蜘蛛型の魔物と未知のゲーレイシュー族の手懐けまたは討伐だ。
この音の正体は下層に住むSランクの魔物だろう。
そして今回狙っている魔物も推定Sランク。
もしかしたら例の魔物は下層の魔物と争っているかもしれない。
例の魔物は小型のためこの音の正体ではないのは確か。
恐らく地龍と戦っているのではないだろうか。
……よし、下層の様子を見て例の魔物が襲われているか見つからなかった場合、それで今回の調査は終わりにしよう。
そのことを調査隊に伝えるとやっと帰れると安堵の言葉を口にしていた。
帰ると決まったわけではないのだが…まぁいいだろう。
かれこれ10日以上も迷宮内にいるのだ。
これくらいなら許してもいいだろう。
案内人の指示に従って下層へと続く縦穴に着く。
自分の真下から地を揺らす轟音が響き渡る。
この下に、Sランクの魔物がいる。
そう思うだけで背中に冷たいものが流れる。
大丈夫だ。
ここにはロナント様がいる。
たとえSランクであろうとも撃退してくれる。
この方にはそれほどの実力があるのだ。
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと縦穴を覗く。
その時、下から何か巨大なものが近づいてきているのが見えた。
咄嗟に体を反り、すぐ目の前で音も無く巨大な何かが通過する。
そしてその正体がすぐに魔物だと気付いたときには遅かった。
その魔物は5つの眼を持つ龍だった。
よく見るとその頭に白い蜘蛛の魔物が乗っている。
嗚呼、駄目だ、勝てない。
見るだけで気を保つのが難しい。
それほどの恐怖を感じる。
「か、鑑定!」
ロナント様が鑑定を使う。
鑑定のスキルは相手に不快感を与えてしまうため、安易に使用して良いものではない。
特に今の状況こそ絶対に使ってはいけない場面だろう。
しかし使ってしまった。
私も、使ってしまった。
死ぬ前にこの死神の力を知ってみたかったからだ。
『終焉の龍 ゼル・ゾロフ LV8
ステータス
HP:25770/25770(緑)
MP:17011/17011(青)
SP:12239/17739(黄)
:11360/18160(赤)
平均攻撃能力:15662
平均防御能力:25401
平均魔法能力:18036
平均抵抗能力:28675
平均速度能力:15580』
『ザナ・ホロワ LV8 名前 なし
ステータス
HP:11080/11080(緑)
MP:19891/19891(青)
SP:7406/7406(黄)
:7850/7850(赤)
平均攻撃能力:7305
平均防御能力:7115
平均魔法能力:17137
平均抵抗能力:17264
平均速度能力:12472 』
ははは。
これは……予想以上だ。
Sランクなんかじゃない。
神話級…オーバーSランクの化け物だ。
それが2体?
まったく何の冗談だ。
悪夢なら早く覚めてくれ。
「な、なんというステータス…!…ま、魔導の極み…!」
魔導の極み……。
ロナント様は例の魔物のステータスに着目したようだ。
それ以外にも未知のスキルがわんさかある。
特に不死だ。
効果は文字通り死ななくなるスキルだろう。
死ななくなるなんて……どうすればいいんだ。
このスキルがある時点で任務を遂行なんて出来っこない。
報告書にあったゲーレイシュー族の魔物が見当たらないが、恐らく目の前にいる終焉の龍がそれだろう。
龍化なんてスキルがあるからな。
しかもあの蜘蛛型の魔物にもあるときた。
嗚呼…こんなの……あんまりだ。
そんなとき不思議なことが起こった。
『鑑定が妨害されました』
突然、こんな文字が出てきたのだ。
鑑定の妨害……。
そんなことは聞いたことは無いが、相手は神話級の魔物だ。
人間の常識など、簡単にぶち壊せるだろう。
「ああそんな!…もっと!もっと見せてくだされ!」
「う、うわああああ!!」
発狂したように声を上げるロナント様とあまりの恐怖で叫びながら突撃する調査隊隊員。
なってない構えのまま突撃するが、うっとうめき声を上げ倒れる。
鑑定によると……死んでいる。
なんだ?何をした?
分からないが未知の攻撃をしたのはよく分かった。
「うっ!!」「アガッ!」「アァ!」
まただ。
今度は3人殺られた。
「ひいぃぃぃぃ!」「に、逃げろ!!」「勝てるわけがない!」
3人があまりの恐怖で逃げていく。
彼らを責めることは出来ない。
私だって逃げたい。
でも、そんなこと許されない。
白い蜘蛛の魔物が龍の頭から降りてくる。
ただ近づいてきただけなのに意識が飛びそうになる。
恐怖で頭の中が逃げることだけになる。
しかしただ走って逃げるだけじゃ駄目だ。
転移だ。
それしかない。
未だに狂っているロナント様を殴り正気に戻す。
強力な召喚獣を召喚し、足止めを命ずる。
調査隊にロナント様をお守りするように命令する。
キレコークが風魔法を白い蜘蛛に当てる。
まるで効果がない。
スイテンが水竜のスキルで攻撃する。
まるで効果がない。
フェべルートが鋭い爪で攻撃する。
爪が届く前にフェべルートは真っ二つになった。
あの鎌のような前足で攻撃したのだろうが、まったく見えなかった。
ロックタートルが前に出る。
未知の攻撃でステータスが凄まじいスピードで減っていき、死骸になる。
白い蜘蛛が風魔法を放ち、キレコークを吹き飛ばす。
キレコークは壁に叩きつけられ口から内臓が飛び出し、壁のシミになった。
スイテンは壁から生えてきた槍に貫かれその命を散らした。
「ば、はかな!スキル無しで魔法を使うじゃと!?」
ロナント様がそれを見て驚く。
スキルも無しで攻撃するなんて聞いたことがない。
こんなの無茶苦茶だ。
私はさらに召喚獣を召喚する。
一瞬1秒でもいい、少しでも時間を稼いでくれ!
白い蜘蛛は最初は様子を見ていたが召喚獣達が攻撃を始めるとあの鋭い鎌で切り刻まれていった。
後ろにいる龍も、風魔法や土魔法で召喚獣と調査隊の命を奪っている。
何人か未知の攻撃で殺られている。
いつあの攻撃が私に向かうのか、まったく予想がつかない。
目に見えない攻撃なんて防ぎようがない。
ちらっとロナント様を見る。
転移の準備が終わるまであとちょっとと言ったところか。
調査隊はほぼ壊滅状態。
ここにいるのはロナント様と私、そして2人の隊員だけだ。
「アガッ!」「アッ!」
………私とロナント様だけになってしまった。
せめてロナント様だけでも!
懐から取り出したMP回復剤を飲み干し、投げ捨てる。
もはや手持ちの魔物は少ない。
それでもやらなければ、次の瞬間には死んでいるのかもしれない。
出した魔物達は白い悪夢に襲いかかったが風魔法で散らされた。
もう手持ちの魔物はいない。
その時、悪夢が恐ろしい魔法を展開し黒い槍を放つ。
私は咄嗟にロナント様を押し、槍が直撃して体の半分が消し飛ぶ。
五感がなくなってくるのを感じる。
消えていく意識の中でロナント様が何かを叫び、赤く染まった視界が変わる。
どうやら転移は成功したらしい。
「ゴフッ…ロナン……ト……さ…」
「喋るでない。」
どこか半身に温かいものを感じる。
治療魔法か……。
手持ちの魔物はいなくなり、部隊は壊滅。
神話級2体にしては被害は少ないほうだろう。
私の頭の中にいくつか疑問が浮かんだ。
神話級の魔物が2体現れたなど、信じてもらえるのだろうか。
この目で見た忘れたくとも忘れられないあの異常なステータスを、信じてもらえるだろうか。
私は、家に帰れるのだろうか。
生まれるらしい我が子を、私は見ることができるのだろうか。
なぜかどの疑問も、負の予想だけが頭に浮かぶ。
信じてもらえず、家に帰れず、我が子も見ることもできない。
そんな考えが。
色々タニシ関連を突っ込みましたが原作のキャラ視点なもんで原作ママな部分が多々ありです。