人化したしさっそく街へ!…とやりたいところだけど、私たちには致命的なものがない。
異世界語がわからないのだ。
これじゃあ蜘蛛さんが目標にしている美味しいものも食べれそうにない。
異世界の食文化を堪能できない。
だから人の言語を理解するために街中の日常会話を盗み聞きしよう。
そう蜘蛛さんとの話し合いで決まった。
どう盗み聞きするか、そこが問題だ。
五感大強化でいくら耳が良くなったとはいえ、街の外から会話が聞こえるわけがない。
蜘蛛さんとそのことでも話し合った結果、3つの案が出た。
1つ、街中に糸を張り巡らせ、糸電話の要領で盗み聞き。
2つ、隠密系スキルで潜伏し、直接盗み聞き。
3つ、堂々と盗み聞き。
1つ目は中々良い案だと思う。
私たちの存在を気づかせず、異世界語を学んでいく。
ただ、感知系スキルが高い人にはその糸の存在に気づいてしまう可能性がある。
そうなった場合その糸は何によって作られたのか調査が始まって、私たちの存在に気づく。
それが領主に知らされ、何の目的があってやったのか調査される。
私たちは異世界語がまだ分からずあたふた。
転移で逃げる。
きっとこうなる。
2つ目も良い案だと思う。
存在に気づかず異世界語ラーニング。
こちらも感知系スキルがあると気づかれてしまう可能性がある。
その場合職を聞かれる。
私たちは異世界語がまだ分からずあたふた。
転移で逃げる。
これもこうなる。
3は隠れず堂々とやるから怪しまれることは無いと思う。
でも蜘蛛さん凄い美人さんだし、ナンパとかされそう。
いや、ナンパの話を聞けばある程度言葉が分かるかもしれない。
案外良いかもね。
「蜘蛛さん、どうする?」
「私は2かな。異世界の街を歩いてみたい。」
「観光目的じゃないよ。」
「せっかく異世界に転生したんだからさ、観光の1つや2つはしたくない?」
「その前に言語を覚えないと。」
「街中を歩いて道中の人の話を盗み聞きすればいいじゃん。」
「んーそれ3じゃない?」
「じゃあ3で。」
「……分かった、3ね。」
というわけで3の堂々と盗み聞きに決まった。
街中を歩いて、周りの人達の会話を聞いて異世界言語ラーニング。
こそこそしないから怪しまれない。
完璧な作戦だね。
さて、街中を歩くということは人らしい姿をしていないといけない。
というか怪しい姿をしてはいけない。
私は全身に不気味な赤黒い模様、蜘蛛さんは瞳の中にそれぞれ4つの瞳がある。
蜘蛛さんの眼はかなりの人外。
そのため眼を閉じなければいけない。
眼を閉じながら街中を歩くのは怪しいけど、瞳4つの眼を見られるよりかマシだ。
私は模様が出来る限り見えないように、黒い服を作った。
赤黒いからチラッと見えても気にならないはず。
指先まで模様があるからそれを隠す為に服の袖を長めにしている。
というか指が完全に隠れてる。
どこかで聞いた萌え袖ってやつだね。
手袋でも良かったんだけど、蜘蛛さんがそれを止めた。
もし龍化する時に脱ぐのが面倒臭くなるからやめておけって。
どうやらファンタジーで有りがちな服も変身する仕様ではないらしい。
それは人化の時に服が現れなかったのが物語っている。
万里眼で街を見る。
果物屋とかお菓子屋とか、蜘蛛さんが好きそうなものがあるね。
まぁ、この世界のお金持ってないから買えないけど。
言語が分かる様になったらお金を稼いだほうがいいかな。
ちょうど異世界でお馴染み冒険者協会があるから、そこで冒険者になるのも良いかもね。
私たちのステータス平均40000だし、依頼に魔王討伐が来ない限り大丈夫でしょ。
というか私たちって人化してないと討伐される側だよね。
今まで会った人のステータスは平均500くらいで、一番高かったのは魔法能力で4桁いってたおじさんかな。
もしあのおじさんが人類の最高勢力とかだったら人間に負けることはないだろうけど、ひょっとしたら勇者とかがステータス5桁台かもしれない。
実際に会ってみないと分からないね。
人族に紛れるのは世界の常識を知るいい機会になるはず。
私たちが知ってるこの世界の情報は、崩壊しかけなことと世界はシステムというもので動いていることだけ。
全部禁忌の情報だね。
つまり私たちは知ってはいけない情報だけを知っていることになる。
中々極端。
やってきました、街です。
言葉が分からないから名前が分からないね。
大きさは普通ぐらいかな。
この世界で初めての街だからこの街が大きいのか分からない。
現在私たちがいるのは路地裏。
バレないように転移して入りたかったから、人がいない路地裏に転移した。
さてと、叡智で近くの人を感知。
出来るだけ人通りが少ないところから出たい。
ん、こっちの方向だと人が少ないね。
こっから出よう。
「あ。」
「どうしたの蜘蛛さん。」
「靴履いてない。」
「あ。」
忘れてた……。
人化するまで靴なんて履いて来なかったから靴を履くっていう言葉すら忘れてたよ。
糸で作るか。
神織糸なら作れる。
便利だね。
蜘蛛さんは白いブーツ、私は黒いブーツ。
全体的に白い蜘蛛さんと全体的に黒い私。
真逆だね。
真逆の色をした私たちは人通りの少ない道に顔を出す。
叡智でわかってるけど一応左右を確認してから、体を路地裏から出す。
「……異世界だわー。」
そういう蜘蛛さんの目の先には鎧を纏った騎士らしき人が街を歩いていた。
たしかに異世界っぽい格好してる。
腰にぶらさげてる剣も、オモチャではなく本物の剣だろう。
まぁ、多分その剣で斬りつけられてもノーダメージだけどね。
それでも人を斬るぐらいなら出来るだろうし、あの人の前では悪い事なんて出来ないね。
捕まったら首を斬られそうだし。
あの人がそこに居るだけで犯罪の抑止力になる。
あれはおそらくこの世界の警察かな。
おっとそんなことより言語の習得だ。
耳をすましてみる。
そうすると男同士の会話が聞こえてきた。
内容はまったく分からない。
ここから近くの店で話してるみたいだ。
ちょっと万里眼で会話の様子をご拝見。
んー?
女性の店員さんを見ながら話してるね。
その店員さんも結構な美人さんだ。
あの人綺麗だよな、とか話してるのかな。
「………やっぱ糸を張り巡らせて、街中の会話を盗み聞きしたほうが良かったかもしれない。」
「なんで?」
「迅速に言語を習得するには多くの会話が必要、だけど耳だと聞こえる範囲が狭いから得られる会話が少ない。でも糸なら街中の会話を拾える。」
「…なるほどね。でも感知系スキルが高い人にバレちゃうかもよ?」
「それもう…お祈りしかない。」
「えー。」
「大丈夫、もしバレても経験値にすれば良い。」
「街を滅ぼすの?その時は根岸さんをどうするの?」
「…………いや別に滅ぼすわけじゃない。討伐に来た冒険者とかを倒すだけ。」
「んー…討伐?今の蜘蛛さん人型だしそれは無いんじゃないかな。」
「それもそっか。なんか魔物でいる気分だったわ。」
「大丈夫?」
「街を滅ぼすなんて言い出した人よりかは大丈夫。」
「…あれは自然と口から出ちゃった言葉だから本心じゃないよ。」
「それの方が怖いわ!」
ほんとに自然と出ちゃった言葉だから。
本心では街を滅ぼしたいなんて思ってるわけないじゃん。
私はそんなに危険な生物じゃないよ。
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あれからちょっと話し合って、役割分担をすることになった。
蜘蛛さんは糸から伝わってきた会話を聞く担当。
私は図書館とか行って、文字を知る担当。
街中に糸を張り終え、私は本を読み漁って文字の解読をしようとしたが、ここで問題発生。
本がある場所が分からない。
というわけで万里眼で街中捜索。
どこだどこだと探していたら、赤ちゃんが本を読み漁っているのを発見した。
……ん?赤ちゃんが本を読む?
おかしくない?
赤ちゃんって本読めたっけ。
というかここはどこだ。
あ、ここは領主さんの家か。
となるとこの赤ちゃんは根岸さんか!
根岸さんも、この世界の文字を知ろうと頑張ってるんだなぁ……。
んー…ん?
根岸さんは私たちと同じ転生者だから、日本にいた記憶があるはず。
赤ちゃんが本を読んで文字を知ろうとしてるからね、少なくとも前世の記憶があるのは確か。
ちょっとここは根岸さんに話しかけるべきかな?
そうすればこの世界の言語について、早く知ることが出来るかも。
そうと決まればさっそく行ってみよう。
『蜘蛛さん、私根岸さんのところに行ってくるね。』
『はいよ。』
『蜘蛛さんも行く?』
『いや良いよ、話せそうにない。』
『ん?どういうこと?』
『私コミュ障だからさ……。』
『私と元気良く話せてるじゃん。大丈夫だよ。』
『いやーそのータニシちゃんだと何故か話せてさー…なんというか気楽?なんだよね。』
『んーよく分からないけどよく分かったよ。私だけで行くね。』
『うん。』
えーっと転移しても大丈夫かな?
うーん……。
やめておこう。
それで騒ぎになったら根岸さんにも迷惑だろうし。
それじゃあどうやって入ろう?
こっそり入り込もうかな。
隠密のスキルはカンスト、迷彩のスキルはLV5だ。
無音もカンストしてるし気づかれないはず。
これで気づかれたら、その人を褒め称えよう。
……いやこれもバレたら騒ぎになるじゃん。
やっぱ転移にしようかな。
転移による空間の歪みを感知するには高度な探知能力が必要だ。
そんな人がこの街にいたら、今頃街中に張り巡らされた糸の存在に気づいてパニックを起こしてるよ。
蜘蛛さんの報告によれば、パニックになってる人は居ないみたいだからね。
万里眼で街中探しても居なかったし、きっと大丈夫。
それじゃあ早速根岸さんのところに転移。
おーここが今世の根岸さんのお宅ですか。
広いねー。
「ら……え?…あ………。」
あ、もの凄い根岸さんビックリしてる。
前世で同じクラスメートだった人が突然現れたら、そりゃこんな反応するよね。
「根岸さん…だよね?イエスなら頷いて。」
根岸さんが頷く。
「突然来てごめんね。根岸さんと話したかったからここに来たんだけど……今話せる?」
「らいよ……んり。」
「無理?」
頷く。
「えーっとじゃあ……根岸さんってスキルポイント沢山あったよね。それで念話を取ってくれないかな?」
「すいうおうんと……なに。」
「えー…スキルポイントっていうのは…スキルが取れるポイントだよ。詳しくは後でね。」
根岸さんは頷き、少しの間黙る。
私は根岸さんを鑑定し、念話のスキルがあることを確認する。
「それじゃ念話を使って。念話をするって念じれば出来るよ。」
『…あーあー……これでいい?』
「そうそう、出来てる出来てる。」
『…さっそく聞きたいことがあるんだけど良い?』
「ん?どうぞ。」
『…なんであなたは前世と同じ姿をしているの?』
「んー…なんでだろうね?元は魔物で人化したらこうなった、かな?」
『元は…魔物…?』
「そうそう、魔物だよ。聞いたことはあるでしょ?」
『ええ、まぁ…。』
根岸さんが動揺しているね。
元クラスメートが転生したら魔物になってて人化したら前世の姿になっていた。
そんなこと言われれば誰だってそうなるか。
「こんな姿をしてる魔物、見たことあるでしょ?」
私はコミカルな煙と共に人化を解く。
服が邪魔なので念力でどける。
私のタニシ形態を見て、根岸さんは驚く。
『それはあの時の!!じゃ、じゃあ、あ、あの一緒にいた蜘蛛はなんなの?同じ転生者なの?』
「うん。転生者だよ。」
『誰!?』
「若葉姫色さん。」
『!!』
根岸さんがまたまた驚く。
まぁ、あの美人さんが蜘蛛に転生してるなんて思わないよね。
私だって初めて会った時ホントかどうか分からなかったもん。
すぐに信じたけどね。
私は再度人化し、素早く着替えて根岸さんの前で座り込む。
『じゃあ若葉は、この近くにいるの?』
「うん、いるよ。」
『………。』
黙り込む根岸さん。
『…そういえばあんた、私に何か用があって来たの?』
「あ、そうだ。そうだったね。思い出したよ。根岸さん、私に異世界語教えて!」
『シッ!内緒でここにいるから静かにして!』
「あ、ごめんね。」
『いいわよ別に。それで?異世界語を教えてってどういうこと?』
「そのまんまの意味だよ。私たちは今まで魔物として生きてたから人の言葉を知らないんだよね。だから教えてほしいの。」
『ああ、そういうこと。苦労してるのね。』
「苦労ねー………うん、してるね。」
というか苦労しかしてない気がする。
迷宮にいた時はあのスキルレベルが足りない、このスキルレベルが足りないで悩んでたっけ。
エルロー大迷宮の思い出を振り返ってあの頃より今は成長したんだなと感動してると、根岸さんからの返事が来る。
『良いわ、この世界の言葉教えてあげる。その代わり、1つ条件があるわ。』
「え?何?お金は払えないよ?」
『違うわよ……これから私のことを前世の名前で呼ばないでほしいの。』
「ん?それだけ?」
『そう、それだけ。』
「ならいいよ、ソフィアさん。…これで良い?」
『ええ。それじゃ、さっそく始めましょう。』
こうして根岸さん改めソフィアさんによる異世界言語講座が始まった。
ソフィアさんの講座を聞いて1つ思ったことがある。
ソフィアさん、教えるのちょっと下手だ。
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=突然のクラスメート=
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↑なんか書き方が違う気がする……。