転生した。
何を馬鹿なこと、と思うだろうけど本当にした。
なぜそうなったのか詳しくは分からない。
教室でいつものように眠気に逆らえず目を閉じていたら気がつくと赤ん坊になっていた。
最初はもちろん混乱した。
夢だって思った。
でも数日経っても覚めなかったから、これは夢じゃないと分かった。
ラノベとかでよく見る、転生をしたんだって。
それを知ると私はまず喜んだ。
だってそうでしょう?
私は前世が嫌いだった。
姿も家庭も性格も。
近くにある鏡を見る。
前世のような醜い顔じゃない。
可愛らしく、将来有望な顔だ。
生まれも、金持ちである領主の家系。
喜ばないわけがない。
そのまま、また数日が経って、この世界には魔法があることが分かった。
魔法……前世ではクラスの男子が漫画の魔法を真似て、その友人が馬鹿にしか見えない魔法を喰らっていた。
それを見ていて私は馬鹿じゃねぇのって思ってたけど、その気持ち、分かる気がするわ。
魔法があるのなら、使ってみたい。
そう思ってからは、空気中にある魔力みたいなのを感知しようと頑張ってた。
最初は何もない空気をずっと見つめるだけだったけど、時間をかけていく内に力が蠢いているのがわかった。
次にその蠢く力をもっとはっきりと見れるようになって、その次にそれを操れるかやってみた。
するとどこかから日本語が聞こえてきて、魔法感知とかなんとかを手に入れたと言われた。
声が聞こえた時はそれどころじゃ無かったけど。
ある日、ラノベで有りがちなスキル、鑑定を取った。
試しに使ってみて、目で見てわかる情報しか分からなかった。
やってしまった。
役立たずのスキルを取得してしまった。
そう思い、どこか憂鬱な気分になった。
そして、なんとなく自分を鑑定してみた。
すると、『吸血鬼』なんて表記が出てきた。
そう、吸血鬼。
人じゃない。
ものによっては弱点だらけ。
ものによっては頂点に立つ。
そんな種族だって。
こんなのがバレたら、首を切られるのかもしれない。
十字架を見せつけられる?
ニンニクを食わされる?
聖なるなんたらで浄化される?
この世界の吸血鬼がどんな立場か分からないけど、人間とは敵対関係だと考えたほうが良さそう。
バレたら、死ぬ。
そこから私は、もしバレても良いように、一人で生きられるように、家にある本を読み漁った。
この世界には何かあるの?
言葉は?文字は?
スキルとは?
種族は?
図書館と言えるほど大きな書物庫で、私は全ての本を読み切る気で、血眼になりそうなほど読んだ。
読んで、読んで、読んだ。
そして今日も本を読み、知識を蓄えていたその時、突然あいつが現れた。
そいつは前世の元クラスメート。
名は篠前ゆりか。
行動が遅く、どこか眠たげな目をした女。
顔は整ってたけど、それ以上のやつがいたからあまり目立っていなかった。
それでも私のように蔑まれてはいない。
リアルホラー子、略してリホ子みたいなあだ名はつけられてない。
私と同じぐらい、いやそれ以上に地味なのに。
私はそれに嫉妬していた。
なぜだ。
なぜそう違いが出てくるんだ。
篠前がやっていることは授業中に寝る、窓を眺める、落書きをする。
どれも褒められるものではない。
それなのに。
今、私は篠前にこの世界の言語を教えている。
私が教えているのは基本会話。
こんにちはとか、元気ですかとか。
中学の英文並の内容を教えている。
でもそれじゃ足りないから、街中で拾った会話を私に聞かせて、その訳となぜその訳になるのかを教えている。
篠前は乾いたスポンジもビックリな速度で言葉を覚えていく。
多分、なにか物を覚えるスキルとか持ってるんじゃないかしら。
いや、前世でもこいつテストで普通より高めの点数を取ってたし、記憶力が結構良いのかも。
まぁ、そんなことはどうでもいいわ。
篠前に会って1週間ぐらい。
篠前はもう、この世界の言語をある程度は喋れるようになっていた。
日常会話程度なら問題無く喋れるらしい。
私はもう少しかかったから、ちょっと悔しいわね。
ま、篠前が早く喋られるようになったのは私が教えたからってことにしておきましょ。
篠前は話せるようになったから冒険者になったらしいわ。
今の所薬草取りしかやってないみたいだけどね。
冒険者といったら魔物を倒してお金を得てそうなイメージだけど、それはもう少し冒険者をやってからだって。
正直、あいつからはやべー気配がするから魔物に殺されるとか無いと思う。
というかあいつ魔物だし。
そういえば若葉は篠前と一緒にいるらしい。
今世で初めて会ったときに篠前が言っていた。
街の外で、どうやってか会話を聞いているらしい。
どうやって聞いているのか聞いてみたけど、教えてくれなかった。
後で教えるとは言ってたけど、教える気配がない。
まぁ、いいわ。
若葉が今どうしてようと私には関係ないもの。
私は目の前にいる篠前を見る。
黒く肩まで伸びた髪。
何も手入れをしていないらしいけど、フワッとしてる。
目も眠たげで私に微笑んでるから、すごく柔らかい雰囲気を出している。
それを否定するように首から横顎にかけて赤黒く太い線が二対ある。
服で見えないけど、きっと体中に模様があるのでしょうね。
……というかなんでこいつは私に向かって微笑んでるの?
あれか、私でも忘れそうになるけど私って赤ちゃんなのよね。
篠前目線だと可愛らしい赤ちゃんが見つめてくる状況。
微笑むのも分からなくもない。
でもそれって、私のことを赤ちゃん扱いっていうことでしょ?
ムカつくわ。
私は赤ちゃん扱いされて喜ぶ変態じゃないのよ。
だから微笑むのやめろって言ったら今度は慈愛に満ちた目で見てきやがった。
超ムカついたわ。
殴りかかったけど拳を掴まれた挙げ句、モニュモニュ揉まれた。
もう片方の手で殴りかかったらそっちもモニュモニュされて、しかも両手を上に上げられて強制的にバンザイさせられたわ。
頭に血が上って仕方なかったわ。
怒り過ぎて『怒』なんてスキルを取るぐらいに。
それと同時に元高校生としてのプライドが折れた気がする。
「あはは可愛いね。」
うっさい。
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最近、街が騒がしい。
一体なんだと篠前に聞いてみたら、近くで巣を作っていた若葉の存在が話題になっているらしい。
巣って何って思ったけど、そういえば若葉は蜘蛛の魔物に転生したって篠前が言ってたわね。
それで若葉がどう話題になっているのかというと、神の使いが現れたって。
は?
神の使い?
確かに若葉は顔が整ってる。
それはもう整いすぎてるって言えるぐらい。
でも神の使いは言い過ぎじゃない?
しかも今のあいつ、蜘蛛よ?
人型とはいえ、蜘蛛よ?
ちょっと頭おかしいんじゃないかしら?
そう思ってると篠前がこの街で信仰されてる宗教に神獣として蜘蛛の魔物がいる事と、最近若葉はこの街の近くにいる盗賊を倒したり死にかけの人を助けたりしており、それで蜘蛛の巣を張っていた若葉が神の使いだと思われてるって事を教えてくれたわ。
あなたこの街に来てまだ2週間いかないぐらいよね?
言葉の発音も違和感無いし、ちょっと色々知りすぎじゃない?
相変わらず赤ちゃん扱いしてくるし、ムカつく要素しか無いわねこいつ。
今も私のことを抱っこしてるし、ホントムカつくわねこいつ。
「ねぇソフィアさん。」
『なによ。』
「成長したらどうするの?」
『赤ちゃん扱いはやめろって言ってるでしょ。』
「そういう意味で言った訳じゃないよ。」
『…分かってるわよ!』
今の私は吸血鬼。
人と同じ生活が出来るのか分からない。
だから、もしかすると、人と離れなければならない時が来るかもしれない。
その時にどうするか、どこに行くのかを聞いてるのでしょうね。
「おすすめは私たちと一緒に生活することかな?」
『なんであんた達なんかと一緒に居なきゃいけないの?』
「過激だね。」
『当たり前よ。』
「当たり前かー。」
『なによ?なにか悪い?』
「ん?いや、そんなことはないよ。でもね、私たちと一緒だと安全だと思うな。」
『なんでよ?』
「だって私たちに勝てるのって魔王とその他2人しか居ないもん。」
『……魔王っているのね。』
「もちろん。ステータスは平均90000ある化け物だよ。」
『それってどれくらい強いの?』
「んーそうだね。人間の平均が300ぐらいで、鍛えた人が500ぐらい?」
『……化け物ね。』
「そうだよ、化け物だよ。」
『あんた達は?』
「私も蜘蛛さ……若葉さんも平均40000くらい。」
『十分化け物じゃないの!』
「だから私たちと一緒なら安全だよ。」
『………………………………………考えさせて。』
「分かった。返事、待ってるよ。」
そう言い、篠前は転移する。
そういえば転移って空間魔法らしいけどそれって適性者がものすごく少ない魔法だって本で読んだ気がするのだけど、当たり前かのように使ってるわね。
空間魔法に適性、ステータス40000とかいう化け物。
…………一緒に生活する気は無いけど、逃げ道の1つとして頭の片隅に置いておきましょうか。
馬鹿な……書籍も原作小説も読み返しているのに………ソフィアの口調が分からない……。