我輩は蜘蛛である。
名前はまだ無い。
同じ名無し仲間のタニシちゃんには蜘蛛さんと呼ばれている。
そんな私だが、現在人々に讃えられている。
こいつらが勝手に崇め始めたというより、私がそうさせたと思われる。
なぜなら私は善行をしたからだ。
私がやってしまった善行その1、盗賊狩り。
街の皆さんに迷惑をかけていた盗賊達を経験値にしていたら、それを冒険者らしき人物に見つかってしまった。
私がやってしまった善行その2、治療。
ある日、私の元に痩せ細った女性が来て、死にかけの子供を前に出し、治してくださいとお願いしてきたのだ。
最初は無視した。
だって面倒だし。
それでもお願いしてくるので、仕方なくやった。
見れば、この子は癌になっていた。
そりゃ異世界の技術じゃ無理だわ。
まぁ私も癌の治療方法なんて分からんのでとりあえず癌になっているところを切り取って治すという力技をした。
それで治るのだから異世界はすげーなって。
盗賊を狩って、人を治療する。
領主の妻が言うにはお使い様。
はっ!あれは神の使いだ!
崇めよ!いあいあ!!
いあいあは言ってないけど私を崇めるムードになってしまった。
最初は面倒臭くてちゃっちゃと治してはい撤収って感じだったんだけど、ある人が私に治してくれたお礼として料理を出してきた。
もちろん美味しくいただきました。
それからはみんな治療してくれた対価に、私に料理を出して来るようになった。
めっちゃ豪華なものもあった。
もちろん美味しくいただきました。
まぁみんな料理を出してくるせいで正直食べきれないぐらいだから、巣の中でタニシちゃんに食べてもらうこともあった。
あと、みんなの前でがっつくのもアレなんで巣に持ち帰って食べてる。
何人か見にくる奴がいたけど、静止の邪眼と念力でふっ飛ばした。
そんな神の使いロールプレイをやっていたら色んな称号をゲットした。
『救う者』『薬剤師』『聖者』『救世主』『救恤の支配者』『守護者』の計6つ。
救恤の支配者があるのは、救世主の効果でぶっ壊れスキル「救恤」を獲得したからだ。
『救恤:神へと至らんとするn%の力。自身を中心に味方と認識するものすべてに「HP超速回復LV1」相当の効果を及ぼす。また、Wのシステムを凌駕し、MA領域への干渉権を得る』
あっはっは。
笑いが止まりませぬ。
しかもこれ、タニシちゃんも得たから実質「HP超速回復LV2」相当の効果なんだよね。
これでタニシちゃんの子供と、まだ生まれてない私のベイビー、あと吸血っ子かな?
それらにスーパー回復を付与していることになる。
勝ったな、風呂入ってくる。
風呂入ってくるで思い出したけど、私蜘蛛になってから風呂に入ってねぇや。
そろそろ入らないと女性としてのあれこれが死ぬ気がする。
タニシちゃんも入ってないらしい。
結構風呂代が高くて今のお金の量じゃ入るのは難しいし、全身にある模様のせいで入ろうにも入れないそうだ。
だから全身に破滅属性を纏って、汚れを消しているらしい。
破滅属性の無駄使いすぎる。
と思いながらやってみたら、あっという間に体がキレイになった。
凄いけど、やっぱ温かいお湯に入ってリラックスしてーわ。
これも日本人のサガってやつなんかね。
今は蜘蛛だけど。
いや人化してるし、やっぱ人か。
あ、そういえばタニシちゃん、冒険者としてやってる内に武器を作ったらしい。
きっかけはある冒険者の人と一緒に依頼をこなしてたら、戦闘スタイルにツッコミが入ったとのこと。
タニシちゃんがどう戦っていたかと言うと、殴ってたらしい。
どんな魔物に対しても真っ先に突っ込んで行ってぶん殴るという方法で倒してたってさ。
…そりゃツッコミが入るわ。
タニシちゃんの見た目は暴力とかけ離れてるのにそんな戦い方をしてれば当然噂は広がる。
それでついたアダ名は「脳筋娘」。
タニシちゃんは流石に嫌だったのか武器を作ってそれで戦ってるんだけど、1度ついたアダ名はそうそう離れない。
なので今も脳筋娘と呼ばれてるらしい。
うん。
どんまい。
ちなみにタニシちゃんが作った武器は槍で、素材は龍形態のタニシちゃんの爪と鱗、神織糸を使ったらしい。
どこで取ったか聞いてみたら人気のないところでやったと言ってたよ。
そんな経緯を持って生まれた槍がこちら。
『終焉之龍槍
攻撃力:37564
耐久力:99999
特性:「弱体化付与」「自動修復」「腐蝕属性」「破滅属性」』
酷い経緯から生まれたにしては高性能すぎない?
攻撃力はこの槍単体のもので、タニシちゃんが持った場合タニシちゃんの攻撃力とこの槍の攻撃力が足される。
やべー。
耐久力はどれほどの攻撃を受ければ壊れるかっていう数値。
これだとカンスト級のダメージを与えないと壊れない。
やべー。
特性にある弱体化付与は、攻撃すればするほど、相手の全ステータスが下がっていくらしい。
多分、タニシちゃんの怠惰が影響したんじゃないかな。
やべー。
これ売っ払ったら大金持ちになれそうだわ。
やらないけど。
タニシちゃんがこの槍を使ったおかげで「槍の才能」なるものを手に入れたし、武器を作れば強力なものが作れることも知れたし、タニシちゃんの槍作りは無駄じゃなかったよ。
私も何か作ろうか考えたけど、自分を素材にするにはちょっと小さかったわ。
そのことをタニシちゃんに言うと。
「蜘蛛さんの武器も作る?」
「え?いいの?…ならこれ使ってさ、デカイ鎌を作ってくれない?」
「ん?蜘蛛さんの前足?」
「これをタニシちゃんの素材と融合とかできない?怠惰が影響されるなら傲慢もされるかなって。」
「いいよ。ちょっと待ってね。」
というわけで作ってもらいました。
それがこちらです。
『終焉の白鎌
攻撃力:26009
耐久力:99999
特殊:「自動成長」「自動修復」「腐蝕属性」「破滅弱属性」「毒属性」』
なんか攻撃力低いのは、鎌を作ったあとに融合させたら低くなったらしい。
私の攻撃力が低いと言いたいのか?
確かに魔法よりだけどさ。
あと傲慢の効果が現れやすいようにタニシちゃん要素を薄くするようにしたらしく、破滅属性は破滅弱属性に、弱体化付与は無くなってしまった。
それでもまぁ、私のマイウェポンができたから別に良いけどね。
私が混ざってるからか知らんけど、結構使いやすいし。
え?なんで使いやすいのを知ってるのかって?
実はヤケに偉そうな脂ギッシュオッサンが俺の国に来いよ、抱いてやるぜ?みたいなことを言ってきやがったので、やっちゃった。
この一件から街がヤケに騒がしくなったけど、私のせいじゃない。
あいつが悪いんだ。
あとタニシちゃんとちょっとした模擬戦をやったんだけど、負けたわ。
あれかね。
冒険者で槍を使ってるからか練度の差が出来たんかな。
そんな時間経ってないのになー。
これが神の使いロールプレイをやってた奴と冒険者やってた奴の差かー。
まぁ良いけどね。
私は人の治療で大変だったからね。
だから負けるのも仕方ないってやつよ。
全然悔しくなんか無いんだからね!
……でも一応、鎌の練習しておくか。
これはね?魔王とか危険な奴が襲ってきた時のためのね、護身術だから。
決して今度やった時に見返してやるなんて思ってないから。
ないったらない。
そういえば魔王で思い出したけど、今魔王はどこに居るんだっけ。
えーっとマーキングの場所はー……うわっエルロー大迷宮から出てるじゃん。
今は真反対の方向にいるけど、何時ここに来るか分からないなー。
そろそろこの街から離れるべきだなー。
吸血っ子はまぁ、大丈夫でしょ。
明るく元気な貴族ライフを楽しみたまえ。
そろそろ戦争が始まるらしいけど。
さて、タニシちゃんの場所は…吸血っ子の家か。
もう言葉は分かるからあそこに行く必要は無いんだけど、タニシちゃんは吸血っ子気に入ってるからなー。
万里眼で見てみると色々話してる。
あ、抱っこされた。
吸血っ子ブチギレとる……。
でも声は上げてないな。
念話で怒鳴ってるのかな?
まぁいいや。
『おーい、タニシちゃーん?』
『ん?何?』
『魔王が外に出たから、そろそろこの街からおさらばするよー。』
『え?あ、ホントだ。しかもここ私が武器を作った場所じゃん。……ソフィアさんはここで大丈夫?』
『大丈夫でしょ。多分、きっと、めいびー。』
『でもそろそろ戦争が起きるみたいなんだけど……。』
『あー…じゃあそれにちょっとした手助けをしてからオサラバしよう。』
『どんな?』
『適当な魔法を撃って、敵軍を殲滅。そうすれば神の使い怖いってなって戦争終わるでしょ。』
『んーそうなるかな?』
『数万人の規模をやればいけるっしょ。経験値も美味しいし。』
『数万………出来るの?』
『暗黒弾とか色々撃ってればいける。』
『じゃあそうしよう。あ、でもオサラバしちゃったら恐怖の対象がいなくなって攻めてきちゃうんじゃない?』
『そんときはそんときで、また来ればいい。』
『分かった、そうする。』
「でもオサラバするって、どこに向かうの?」
後ろから声が聞こえてくる。
うーん……態度に出さなかったけど結構ビックリしたわ。
転移の予兆を察知できても、突然人が現れるのは中々ホラー。
それにしてもどこに向かうのか、ね。
んー…。
「なんかどこか。」
「…すごい抽象的だね。」
うるさい。
私はこの辺の地形を知らないんだ。
知ってるの森か海しかねーわ。
「まぁ、それはぼちぼち決めていくってことで。」
「そうだね。」
さて、一仕事しますかね。
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こんなこと初めてだ。
長い生の中で、魂が食われるなんて。
異常を真面目に対処しなかった、私の愚かさがこうさせたんだ。
初めはただ配下の動きがぎこちなかっただけだった。
でも、所詮あれは手駒、使えればそれでいい。
そう思って、無視した。
次にある眷属がゲーレイシュー族と一緒にいるという情報が来たときは、流石に異常だと思いクイーンタラテクトに刺客を送るように命じた。
その時から、侵食は始まっていたんだ。
気がつけばクイーンは食い荒らされ、その牙が自分に向いている。
1度深淵魔法でシステムに還元したはずのゲーレイシュー族も、何事もなかったかのように生きており、異分子の眷属とクイーンタラテクトを殺した。
クイーンタラテクトが殺されたとき、次はお前だと、そう言われた気がした。
今も奴らは急成長を遂げているだろう。
自分の死が近づいてくるのを感じる。
食らいついている奴の欠片を取り込んでしまったせいで、おかげで性格が変化してきている。
自分が自分じゃなくなってきている。
それを止めるには本体を倒さなければならない。
でも、出来るのか?
相手は深淵魔法をまともに食らっても生きるという不死身。
異分子にまだ深淵魔法を当ててないが、あのゲーレイシュー族と同じように復活する。
そんな嫌な確信があった。
こっちは死にそうなのに、あっちは不死身。
それでもう泣きそうなのに、地龍ガキア達による足止め。
そんな状況だってのに、まぁいいかとか、なったらなったで別に良いでしょとか、楽観的な思考しか湧いてこない。
ひょっとしたら、いや、もう昔の私は死んでいるのかも知れない。
思考が違うのなら、それはもう別人だ。
自分は死んだ、消えた、昔の私なら震えてたかもしれない。
でも今は、なっちまったのならしゃーない、なんて思ってる。
今の私はどっちなのか分からない。
……とりあえず、お残しはいけないし地龍達を食べるとしよう。
「いただきます。」
「いただくな。」
後ろから声が聞こえる。
振り返るとそこには難しい顔をしたギュリエが立っていた。
原作と同じ終わり方………手抜k(