怠惰関連のオリジナル設定が入ります。
苦手な方は、お覚悟を。
ステータスがとんでもないほどアップし、魔王にも傷をつけられるほどパワーアップした日から数日。
私たちはエルロー大迷宮に引き籠もっていた。
理由は魔王である。
いくら勝てそうといっても、やっぱり怖い。
魔王に突き刺したあの時、魔王の暴食で私の槍を食われてたかもしれない。
槍どころか腕を食われてたかもと思うとゾッとする。
ステータスがかなり近くなってきたけど、戦闘において暴食は強すぎる。
それが魔王の脅威だけど、それ以外にもある。
私たちには経験が少ない。
スキルの組み合わせ、戦術、体術。
体術に関しては「槍神」という槍系スキルの最上位を持ってるから良いとして、スキルや戦術だ。
ゲームとかでも能力をただぶつけるんじゃなくて、このタイミングでとか、この技の後に、先に使うとか、いろいろ考えて使う。
それはこの世界でも例外じゃない。
過去を振り返れば、私は特に考えず、鍛えられたステータスとスキルのゴリ押しで勝ってきた気がする。
敵が格上ならそれ以上に強くなる。
冒険者達に脳筋娘と言われても無理はないか。
それでも言われるのは嫌だけどね。
だから私たちは魔王から隠れると同時にスキルの熟練度を上げることにした。
その熟練度はシステム的なものではなく、私の技術としてのものだ。
こうやって使う、これの後に使う、組み合わせて使う。
そんな感じ。
戦術についても蜘蛛さんと話し合って、私たちのコンビネーションアタックみたいなのを作ってみた。
近くを通った地龍に使ってみたけど、ステータスの差がありすぎてそんなことをしなくても圧倒できたから、どれほど強いものなのか分からない。
そんな私たちの強化合宿のようなもので、新たなことが出来るようになった。
それは怠惰の範囲指定をより狭く、より広く出来るようになった。
それはもう、これぐらいまでしかできないとか無くなった。
つまり範囲はいくらでも狭くできるし、いくらでも広くできるようになった。
その気になれば世界中怠惰の効果範囲内に出来る。
まぁそのかわり効果がすごく薄くなってしまうから、死にかけで何も補充手段がないものにしか効果無いと思う。
私は効果範囲を広くできるようになった事より、狭くできるようになった事の方がいいと思ってる。
だって今まで相手だけじゃなく蜘蛛さんも怠惰の効果を受けちゃうから使わなかったけど、今なら拳だけに集中することが出来るようになった。
これで相手を攻撃した時、著しくHP、MP、SPを下げることができる。
私の一部で作ったからか槍にも纏えるようになっていたので、これからは怠惰を乗せようと思ってる。
そんな風に自身の強化をしていると蜘蛛さんから連絡が。
吸血っ子が襲われている。
というより、街が襲撃にあっている。
私はその連絡を聞いてから万里眼で確認した。
撤退したと思っていたオウツ国の軍が街の中に流れ込んでいた。
完膚なきまでに叩きのめして、彼らにはトラウマを植え付けたからおそらくあれは私たちの虐殺を見ていない別部隊。
でも、正直私たちにとって別部隊が来ていたとかあまり気にならない。
問題は、ソフィアさんのところにエルフが来ていたことだ。
エルフ…私が冒険者をやっていた時によく蜘蛛さんが殺していた種族だ。
どうやらこの世界のエルフは前世で見た清い心を持ったエルフではなく、なかなかどす黒い心を持っているらしい。
蜘蛛さんが万里眼越しに見ていても分かるぐらい邪悪だって言っていた。
そんなエルフがソフィアさんに近づいている。
怪しい。
そんな訳で助けに行くことになった。
魔王に見つかるかもしれないけど、そのときはその時で。
転移、からの薙ぎ払い!
私の槍は横薙ぎでも十分切れるように鋭くなってる。
そのためソフィアさんとその従者、蜘蛛さんが殴り飛ばしたエルフ以外は真っ二つになった。
蜘蛛さんが従者に治療魔法をかける。
傷がなくなった自分の体を見て、その後に蜘蛛さんを見る。
「…て、敵ではない、のか?」
蜘蛛さんが無言でこちらを向く。
「うん、だから安心して。」
蜘蛛さんの代わりに言う。
そういえばソフィアさんは無事なんだろうか。
『…篠前?と…わ、若葉?』
『こんにちはソフィアさん。命の危機だったから救いに来たよ。』
『え?あ、ありがとう。』
困惑してるソフィアさんを抱っこする。
そして従者の人に預ける。
いや返す、か。
『蜘蛛さん。あのエルフは?』
『……手応えあり。顔を潰したかも。』
『でも油断は禁物だよ。』
『わかってるよ。』
蜘蛛さんが鎌を取り出す。
それと同時にエルフがいるであろう場所に暗黒弾を放つ。
私も便乗して破滅榴弾を放つ。
それはもう大量に。
『やったか!?』
『蜘蛛さん、それフラグ。』
私たちが魔法をしこたま撃った場所の煙が晴れていく。
奥の景色が見えてくると同時に、黒い人影が立っているのが見える。
そして完全に煙が晴れたとき、私たちは言葉を失った。
なぜならそのエルフの体はボロボロで、そこら中から鉄が露出していたからだ。
エルフの片眼が赤く光る。
溶鉱炉に入っていきそうな姿だ。
体の中に機械があるとかファンタジーっぽさがない。
少しぎこちない動きをしながら、そのエルフは口を開く。
「…危険、危険だ。貴様らが何者か知らないが今後私の邪魔になる可能性がある。今の内にここで葬り去るとしよう。」
そう言い、そのエルフは右手を切り離す。
そしてそこからこの世界に全く似合わないもの、銃が現れる。
……なにそれ。
「抗魔術結界機動。」
その瞬間、世界が変わった。
いや空気とかそういうのは変わってないんだけど、なにかが変わった。
あれ?
叡智の探知が使えない?
目に異常は無いし、耳も同じく。
それ以外の感覚も変わらず。
でも探知が使えない。
いや、探知だけじゃない、それ以外のスキルも使えなくなってる。
いや、思考超加速は出来てるみたい。
さっきこのエルフは抗魔術結界と言った。
スキルは魔術を簡略化したものだから、それを制限する結界を張ったんだと思う。
それでも思考超加速が機能するのは、この結界はまだ不完全で内側まで効果が無いと予想。
念話は…いけるね。
相手の体内で完結してるからかな。
だとしたら他のスキルも出来そうだ。
試してみよう。
そう思ってるとエルフがゴツい銃を私たちに向ける。
それはちょっと、いやかなりまずいかな。
ゴツい銃から大量の弾丸が発射される。
私は右に、蜘蛛さんは左に避ける。
さぁどっちを狙う?
…私か。
全速力で走る。
どうやらステータスが十分の一ほどに下がっているようでいつもよりスピードが出ない。
特に防御力が著しく下がっているらしく、その防御力は最初の村の村人A。
十分の一に下がろうと私のスピードは6900。
それにより地面との摩擦で足の裏の皮はズリ剥け、筋肉が露出している。
私の通った場所には赤い線が出来上がっており、その線に弾丸が撃ち込まれる。
私は槍を投げ捨てた後、壁に手を付け駆け上る。
人化していようと私はタニシ。
ヤモリのように壁を這うぐらいできる。
弾丸が足のすぐ下を貫く。
次は私の足かと、撃ち込まれるのを覚悟したが次が飛んでくることはなかった。
見れば今度は蜘蛛さんが弾丸の雨に追われている。
チャンスだ。
私は天井を這い、エルフの頭上を取る。
エルフは気配に気がついたのか銃身をこちらに向ける。
ヤバいので全力で天井を駆ける。
が、間に合わず足に弾丸が撃ち込まれる。
弾丸が体に埋め込まれる。
体に異物が入ったような違和感を感じる。
横から来ていた蜘蛛さんがエルフにボディーブロー。
凄まじい音が鳴り、勢いよく吹っ飛んでいき壁に追突。
追突した壁を突き抜けると全身を打ち付けながらゴロゴロと転がっていった。
銃身から無意味に弾丸が発射され続け、止まる。
蜘蛛さんの手には鎌がない。
おそらく弾丸を避けるときに邪魔だったから手放したのだろう。
辺りを見渡せば地面に置かれている鎌があった。
エルフの体がグラリと立ち上がる。
上半身が酷く凹んでおり、回路のようなものが垂れ下がっていた。
ギギギと機械らしい音を立ててこちらを向く。
その目は厄介者を見る目だった。
機械の体だからか、その目は死を恐れていない。
自分の代わりはいくらでも居るみたいな。
そんな思考が読み取れた。
エルフが銃身を向け、その先を光らせる。
蜘蛛さんは咄嗟に回避行動をし、銃身から出てきた光の弾を避ける。
背後で爆発が起きたため、避けてよかったと安堵する。
もう一発放ってきたのでこれも回避。
エルフは遠くから撃つのを止め、走って向かってくる。
銃身を構えたままなことから至近距離で撃つつもりなのだろう。
今回も二手に分かれる。
どっちを狙うか。
それはエルフ次第だ。
そう思ってるとエルフが足を止める。
そして私と蜘蛛さんを交互に見、構える。
どうやら片方に攻撃してるだけじゃ駄目だと思ったらしく、どちらが来ても良いようにしている。
静寂。
私と蜘蛛さんは隙を伺い、エルフはこちらから来るのを待っている。
私と蜘蛛さんはエルフが攻撃してこないと攻撃出来ない、エルフは私たちが攻撃してこないと攻撃出来ない。
どちらも行動出来ない。
エルフが私たちを交互に見据える。
私たちはエルフを見据える。
我慢比べのような状況だ。
緊張が高まる。
双方とも一瞬の隙も逃さんとし、空気が張り詰めていく。
そして。
「やぁやぁ!魔王少女アリエルちゃん華麗に参上!」
上から奇妙なものが降ってきた。
あれは…魔王?
あんなのだっけ?
「アリエル…か?」
「そうだよどうして疑問形なの?」
どうしてと言われても……。
うーん……エルフと魔王、反応からして付き合いがあるんだろうけど、そんな付き合いが長くない私でも疑問形になるくらいにはおかしいよ。
「ふむ、抗魔術結界機動中は鑑定が使えんのが痛いな。これでは偽物か本物か分からん。」
「本物ですー。他人の体使ってる奴に言われたくないですー。」
「これは耳が痛いな。」
呆然としている私たちを置いて魔王とエルフが会話する。
「ポティマスくんや、なんでこんな所にいるんだい?」
「さぁ、なんでだろうな?」
ポティマスと言われたエルフは惚ける。
「さっさと吐け。」
一気に魔王と雰囲気が変わる。
さっきまでのほんわりしたものでは無く、魔王らしい重力のような威圧感を感じる。
「本物か。」
「最初から分かってるでしょ?さぁ吐け。」
「断る。」
そう言い魔王に向かってポティマスが走る。
魔王は腕を振るう。
それだけでポティマスの体はバラバラになった。
「このボディでも敵わんか。」
「いつかお前の本体も同じようにしてやる。」
「やってみろ、小娘。」
その言葉を最後に、ポティマスの頭が踏み潰される。
結構苦戦してたのにそれを容易く壊されるのはちょっと自信無くす。
私より力が弱い蜘蛛さんが殴ったから、私が攻撃していたらどうなっていたか分からないけど少なくともバラバラにはなっていない気がする。
「蜘蛛ちゃん、タニシちゃん。」
魔王に呼ばれてちょっとドキっとする。
蜘蛛さんはそれ以上にドキっとしてる。
「それともこう呼んだほうがいい?若葉姫色ちゃん、篠前ゆりかちゃん。」
「……なんでそれを?」
あれ?蜘蛛さんが喋ってる?
喋られるようになったの?
そんな急に…人の変化は突然なんだね。
魔王を見てるとそう思えてくるよ。
「私の魂にこびりついてた元体担当の魂が私と融合したから、若葉姫色ちゃんの記憶が少し分かるよ。」
それと、と魔王は私を見て付け足す。
「タニシちゃん、君に槍で刺されたときすごいショックだったからね?迷宮内での思い出を知ってるせいでさ、大切な仲間に裏切られた気分になって、正直ちょっと泣きそうになった。」
「え。」
あの時顔を歪めてたのってそういうことだったの。
それは…。
「すいません。」
「いや別に謝罪を求めてるわけじゃないからやらなくて良いよ。」
「分かりました。」
「って!こういうことを言うためにここに来たんじゃないの!」
魔王がゴホンとわざと咳をし、切り替える。
「君たち、私と手を組む気はないかい?」
「手を…組む?」
「そうそう。」
んー別に私は良いけど、蜘蛛さんはどうだろう?
蜘蛛さんを見てみると悩んでるみたい。
でも、これには正直選択肢はない気がする。
断った瞬間殺しに来そう。
…一応、槍を持っておこうかな。
私は念力で槍を引き寄せる。
あ、魔王に取られた。
どうしよう。
「……これで何をするつもりだったのかな?」
「いざって時の護身用です。」
「……そう、わかった。」
魔王が私に向かって槍を投げる。
無事キャッチできた。
蜘蛛さんの鎌も引き寄せる。
蜘蛛さんは悩みながら鎌をキャッチする。
そして鎌を肩に担ぎ、口を開く。
「手を組もう。」
「お?マジ?やった!」
魔王は嬉しそうに声を上げる。
「いやーもし断られたらどうしようかと!実はね、君たちにはすごい追い詰められてたんだー。もう自分は死ぬんじゃないかって本気で思ってたから!」
あっはっはと豪快に笑う魔王。
これはつまり休戦ってことでいいのかな?
魔王は仲間になったの?
いや、魔王の仲間になったの?
どちらでもいいけど、魔王と敵対関係では無さそう。
もし本当にそうなのなら、これからは追われたりしない平穏な生活が得られそう。
蜘蛛さんを見てみると何処か嬉しそうだし、きっとこの先の生活が殺るか殺られるかの命懸けサバイバルじゃなくなることに歓喜してるんだろうね。
この世界に転生して何ヶ月ぐらい?
私たちはやっと平穏な生活を得たのかもしれない。
地味にソフィアは蜘蛛子じっと見お漏らし事件を回避している。