魔王との停戦協定を結んだ次の日。
ソフィアさんは死にそうな顔で歩いていた。
その姿は操り人形を彷彿とさせる。
それはそうだ。
実際、蜘蛛さんの糸によってソフィアさんは操り人形になっている。
なぜこんな事になっているのか、遡ること1日前。
魔王と停戦した後、ソフィアさんとその従者を回収しにいった。
これは蜘蛛さんのお願いで、ダシにされたとはいえ戦争が起こった原因の一つとしてちょっと責任を感じてるらしく、それのお詫びにソフィアさんを保護しようと考えたみたい。
まぁ蜘蛛さんは私と魔王以外だと何故か喋れないらしく、私たちについてくるか否かはほとんど魔王と私が聞いた。
答えはイエス。
ソフィアさんは魔族領に着くまでに考えておくと保留を口にした。
その後にちょっとした自己紹介をして1日が終了。
蜘蛛さんは寝たけど、魔王と私は寝なかった。
魔王から何回か声がかかったけど会話は弾まず。
みんなが起きるまでお互いに無言で虚無を見つめ合った。
みんなが起きてこれから魔族領を目指そうってときに蜘蛛さんが突然ソフィアさんに糸を巻きつける。
困惑するソフィアさんに「歩け」の一言のあと、ソフィアさんを操り人形にした。
蜘蛛さん曰く、道中暇になるだろうから吸血っ子のステータスを育てておきたいとのこと。
ようは暇潰しにソフィアさんを鍛えようってことだね。
「ひゅーひゅー」
ソフィアさんが極限まで体力を使い果たした時の呼吸音を発している。
ソフィアさんは本来なら歩くことが出来ない赤ん坊。
なのに1日中歩かされている。
おかげでステータスが上がり沢山のスキルをゲットしている。
従者のメラゾフィスさんも緩やかにだけどステータスとスキルが上がっていってる。
この調子なら魔族領に着く頃には上位竜ぐらいのステータスになってるかも。
「し…しのまへ…」
「ソフィアさん、どうしたの?」
「たすけて」
「……ごめんね。」
これはソフィアさんのためだから。
そんな言葉が出そうになるけど、今のソフィアさんに言ったら睨まれそうな気がする。
というかもう睨まれてる。
赤ちゃんだから全然怖くない。
食事の時間になると蜘蛛さんは糸を解除する。
ソフィアさんは開放された瞬間、力が抜けたように倒れ気絶する。
白目剥いて泡を吹いてる。
赤ちゃんがしていい顔じゃないね。
そんなソフィアさんを無視して蜘蛛さんは料理する。
毒々しい色をした肉を焼き、それをメラゾフィスさんに振る舞う。
目が覚めたばかりのソフィアさんにも毒々しいステーキを振る舞う。
ソフィアさんはステーキを見つめたまま動かない。
「ねぇしのまえ、これくうの?」
「うん。」
「…なにかいみはあるの。」
「多分、毒耐性とか悪食の称号を取るためかな。悪食の称号でも毒耐性とか貴重な腐蝕耐性とか獲得できるし」
「…どくたいせい?これどくなの?」
「うん。」
「わたししにかけなんだけど、とどめ?」
「いや、そういうわけじゃないよ。それにこの程度ならソフィアさんはダメージ受けないよ。ただ苦く感じるだろうけどね。」
「…………」
ソフィアさんは嫌な顔をしながらステーキを口にする。
あ、顔をしかめた。
すごく嫌そう。
ん?なんか香ばしい香りがする。
見てみると蜘蛛さんが美味しそうな肉を焼いていた。
蜘蛛さんが何見てんだコラって顔をする。
いや実際は表情はまったく動いてないけど雰囲気がそう語っている。
「白様、お嬢様にもまともな食事を出してはいただきませんか?」
メラゾフィスさん…長いからメラさんでいいや。
メラさんが蜘蛛さんにそんな意見を言う。
白っていうのは魔王が蜘蛛さんを呼ぶ際につけたあだ名。
最初は蜘蛛ちゃんとか若葉ちゃんとか姫ちゃんとか、色々な名前で呼ぼうとしてたけど蜘蛛さんは却下。
しょうがないと言った様子で白ちゃんと呼び始めた。
蜘蛛さんも文句を言うのを疲れたのか受け流している。
私も便乗して白さんって呼ぼうとしたけど、蜘蛛さんにはいつも通り呼んでくれと頼まれた。
『メラゾフィス、篠前が言ってたでしょ。これも鍛錬なのよ。』
ソフィアさんがどこか諦めたような雰囲気を出す。
さっきまで念話が使えないほど疲労してたけど、毒ステーキを食べたことにより体力が回復したみたいだ。
メラさんは納得できないと思いながらも毒ステーキを食べて、むせる。
「魔王。」
蜘蛛さんが一言。
魔王はパンを差出し、そこにステーキが乗せられる。
魔王はサンキューと軽い感謝を言うとステーキサンドを口に運んだ。
んー私も何か食べようかな。
のんびり屋の効果で食べる必要は無いけど、美味しいものは食べたほうがいい。
実は迷宮内でスキルのリアル熟練度を上げているとき、私たちを大きく成長させてくれた「共存」について考えていた。
それであることがわかった。
それは今の私たちがHPやSPを共有すると、弱くなるということだ。
私はHPが90749、SPが80000ほど。
蜘蛛さんはHPが71849、SPが67000ほど。
共有するとHPが160000、SPが140000ほど。
そしてシステム内での最大値は99999。
つまり、共有したら7〜5万ほど減ってしまうのだ。
これにより私たちはHP、SPは共有しないほうが良いと判断し、現在経験値と熟練度のみ共有している。
そのため、今の蜘蛛さんは私ののんびり屋の恩恵を受けていないから食事をする必要がある。
まぁ恩恵を受けていても食べてたと思うけどね。
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「あの街で一晩過ごそうか。」
魔王が人の街を指差し、私たちに言う。
食料とかの買い出しをかねて、街に泊まるらしい。
蜘蛛さんは人化し行く気マンマンだ。
そこで魔王からストップがかかる。
「白ちゃんはここらへんで待っててね。」
「ん?魔王さん、どうして?」
蜘蛛さんは人型だし、街に行ってはいけない理由なんてないはず。
「白ちゃんって実はめっちゃ有名なんだよ?なんてったって神の使いですから。」
「でもそう言ってるのって女神教だけじゃないの?」
「甘いねー。甘々だよ。白ちゃんをよく見てみ?超美人でしょ?人を治して、悪者を退治して、おまけにちょー美人。噂が街中だけになると思う?」
「んーでも顔とか分からないんじゃない?」
「と、思うじゃん?実は白ちゃんの噂、似顔絵と共に広まっちゃってるんだよねー。」
「似顔絵?」
「うん、それもハイクオリティーな。その似顔絵を見た人が白ちゃんを見たら間違いなく神の使い様だ!ってなるよ。そうなったら大騒ぎ、買い出しどころじゃなくなるね。」
魔王が蜘蛛さんを見る。
蜘蛛さんはあからさまにテンションが下がっている。
あ、座り込んだ。
……しょうがない。
「蜘蛛さん、私も残るよ。」
蜘蛛さんが顔を上げる。
かなり嬉しそうだ。
「あーとなると…監視役が必要だなー。」
魔王がそう呟き、召喚のスキルを発動させる。
すると魔王の目の前に9体のパペットタラテクトが出現した。
……多くない?
「いやいやこれでも少ないほうだよ。君たちのステータスを思い出してみな?」
6〜8万くらい?
……なるほどね。
パペットタラテクトのステータスは平均10000ぐらいだからほぼ手も足も出ないね。
それでも多ければそれだけ時間は稼げるから9体出したんだろう。
「それじゃあ私たちはフカフカなベッドと豪華な料理を白ちゃんと篠前ちゃんの分まで堪能するから、じっとしててねー!」
魔王がいい笑顔で言う。
なんか凄い嫌味のある言い方。
まぁ蜘蛛さんは魂を食べたし私は槍で突き刺したし、仕方ないか。
むしろよく仲間にしようとしたね。
私だったらどうしてたかな?
あ、蜘蛛さんが威圧感出してる。
魔王もそれに対して威圧。
見えないけど電気がバチバチいってるね。
ソフィアさんは顔色が悪くなってる。
「お二人とも、そこまでにしてください。お嬢様が怯えております。」
「おっとおっとそうだった。ごめんねソフィアちゃん。白ちゃんもそう拗ねんないで、ちゃんとお土産買ってくるからさ。」
そう言い、魔王は街に向かう。
それにソフィアさんとそれを抱きかかえるメラさんはついていく。
後に残ったのは私と体育座りの蜘蛛さん、9体のパペットタラテクトだけ。
結構居るね。
「はぁぁぁぁぁ………。」
蜘蛛さんが長い溜息を吐く。
そして空間収納から魔物の肉を大量に取り出し、魔王からコピーした火魔法で炙る。
どうやら焼肉パーティーをするようだ。
蜘蛛さんが焼き上がった肉を貪り食う。
早く食べるためなのか人化を解除して人の方と蜘蛛の方の両方の口で食べている。
パペットタラテクト達が羨ましそうな顔で見つめる。
蜘蛛さんはその視線に気づいたあと、一部をパペットタラテクト達に差し出す。
最初は戸惑っていたが、ある人形蜘蛛が食べ始めてからは全員が食べ始めた。
私も食べる。
まぁまぁ美味い。
咀嚼音が響く。
その音はどこか悲しさを感じさせた。
むしゃむしゃと肉を食う。
肉しかないけど仕方ない。
焼肉だしタレとか欲しいけどそんなものはない。
パペットタラテクト達も小さく千切ってから喉の奥にいる本体に腕を肘まで入れて届けている。
うーん。
中々にホラー。
だけどその食べる前の仕草が妙に可愛らしかった。
どこか女子力のようなものを感じる。
なぜパペットタラテクトに女子力があるのか。
蜘蛛さんも同じ事を思ったそうで、不思議そうに、それでいて悔しそうにパペットタラテクト達を見つめている。
そして何を思ったのか蜘蛛さんは服を作り始めた。
「どうしたの蜘蛛さん。」
「いや、あの人形蜘蛛達に私が女子力のなんたるかを見せてやろうと思ってね。」
「…そう。」
そして出来たシンプルなデザインのワンピース。
パペットタラテクト達はその六本ある腕で拍手をする。
9体もいるので人数以上の拍手が聞こえる。
そしてパペットタラテクト達も蜘蛛さんの真似をして服を作り始めてた。
私も作るべき?
いや、いいか。
蜘蛛さんは今度はゆっくりと服を作る。
パペットタラテクト達に分かる様に。
駄目なところがあったら指導したりしているので、蜘蛛さんはパペットタラテクト達に服作りを教えているのだろう。
多分暇だからかな。
……私も手伝うか。
そんなこんなで夜遅く。
パペットタラテクト達は服を完成させた。
蜘蛛さんはそれを着るように言う。
あ、凄い。
服を着た瞬間、今まで性別が分からなかったパペットタラテクト達が、一目見ても女の子だと分かるようになった。
服って、凄いんだね。
パペットタラテクト達も嬉しそうだ。
蜘蛛さんはそれを見て、考えるポーズをする。
「うーむ。ここまで来たらもっとやりたいなぁ……。」
その言葉を発した後、パペットタラテクト達にちょいちょいと手招きする。
彼女らは特に警戒することなく近づいていく。
一応つい数日前までは敵対関係だったのに、もう蜘蛛さんは尊敬の眼差しを向けられている。
ソフィアさんにはまったく懐かれないのに、パペットタラテクト達にはすぐに懐かれてるし蜘蛛さんって蜘蛛に懐かれる才能があるんじゃないかな。
蜘蛛さん自身も蜘蛛だし、間違ってるって否定は出来ない。
蜘蛛さんは彼女らに言う。
ちょっと体を改造していい?
それを聞いた彼女らは声は無いけどざわざわし始める。
そこに蜘蛛さんはもっと可愛くするだけと言う。
それを聞いて安心したのか彼女らは蜘蛛さんと一緒に自身の体を改造し始めた。
……私も手伝うか。
「あれー?いつの間にか別嬪さんが増えてるぞー?」
帰ってきた魔王が不思議そうな顔で言う。
魔王の視線の先には人間とほぼ見分けがつかない姿をしたパペットタラテクト達。
じーっと見れば分かるかもしれないけど、ぱっと見では完全に人間の姿をしている。
うん。
気合を入れ過ぎた。
寝る間も惜しんで、思考超加速をフル回転させて、人に限りなく近い姿にした。
触り心地は人間だと思うぐらいにぷにぷに。
目は容姿にあったキラキラで綺麗な目。
中にいる本体次第だけど表情だって動かせる。
声はまだ出せないけど再現出来るか実験中。
うん。
やりすぎた。
皆のタニシへの感情
蜘蛛子 親愛、BFF!!(ズッ友だよ!)
魔王 恐怖、自分を殺せるやべー奴。
ソフィア 怒り、嫉妬、親しみ。
メラ ちょっと苦手、お嬢様とよく会話する人。
人形蜘蛛 尊敬、マジ憧れっす。
タニシの皆への感情
蜘蛛子 親愛、またとない親友
魔王 警戒、親しみ、蜘蛛さんの気配を感じる。
ソフィア 親しみ、Kawaii。
メラ 親しみ、真面目な人。
人形蜘蛛 親しみ、Kawaii。