タニシですが、なにか?   作:マリモ二等兵

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宝の持ち腐れ

 目を開ける。

 一面真っ白だ。

 よく見れば糸で出来ている。

 目の前に何かいる。

 あ、蜘蛛さんだ。

 いや白織さん?

 どう呼ぼうかな。

 

 「…タニシちゃん?」

 

 「あ、蜘蛛…さん。おはよう」

 

 「おはよう。で、ここはどこよ?」

 

 「さぁ…」

 

 糸で囲まれてるし繭かな。

 なんとかしてここから出られないものか。

 糸と糸の間に指を入れ、力任せにこじ開けようとするがびくともしない。

 蜘蛛さんと協力してみても駄目だった。

 どうしよう。

 そう悩んでいると、向こうから指が出てくる。

 そして繭が開くと魔王さんが出てきた。

 あ、いや、魔王さんが開けたのか。

 

 「目を覚ましたか」

 

 ひょっこりとギュリギュリさんが出てくる。

 あれ、今の私たち服着てなくない?

 

 「ギュリエ!今は駄目!あっち向いてて!」

 

 魔王さんがギュリギュリさんの肩をガシッと掴み、回れ右させる。

 

 「私は女性の体を見ても何も感じんが?」

 

 「そっちがよくてもこっちが駄目なの!だからサリエル様にも振り向いて貰えないんだよ!」

 

 ギュリギュリさんの背中から哀愁が漂ってきた。

 なんかごめんね。

 

 「とりあえず服着て」

 

 魔王さんの言う通り、空納から服を取り出して着ようとするが服の出し方がわからない。

 と、いうより空納をどうやって発動させるかがわからない。

 仕方ないから神織糸で服を作ろうとしたけど、糸の出し方がわからない。

 あれ?

 おかしいな。

 感覚が思い出せない。

 どうやってたっけ?

 あれ、スキルが使えない。

 万里眼…使えない。

 闘神法…使えない。

 魔神法…使えない。

 暗黒魔法…使えない。

 風魔法…使えない。

 駄目だ。

 何もかもが使えなくなってる。

 一体どうなってるの?

 

 「スキルが使えないか?」

 

 ギュリギュリさんが呆然としている蜘蛛さんと私にそう言ってくる。

 そしてなぜ使えないのか、その理由を私たちに教えてくれた。

 まとめるとこんな感じ。

 

 神になる前はシステムに補助してもらいながら自身の内にあるエネルギーを使っていたが、神になったせいでその補助対象から外れたためいつもの感覚でやっても出来ない。

 

 ようはあれだね。

 補助ありの倒立が出来ても、補助なしの倒立は出来ないみたいな感じかな。

 それでも、自身の内にあるエネルギーの使い方を知れば前以上のパワーが期待できるとのこと。

 でも今まで補助を受けて俺つえーをやっていた人が、そう簡単に補助なしで出来る様になるはずもなく…。

 結果的に、私たちはただエネルギーが膨大なだけの一般人ということになる。

 それでもいつか出来る様になるって信じてる。

 私の予想では一年もあれば使えるようになるんじゃないかと。

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

 あの時から2年。

 そう、2年。

 私たちはまだ自分のことを神だと思いこんでいる一般人のままだ。

 エネルギーは全く使えるようになってない。

 なんか、もう無理なんじゃないかって思えてきた。

 それでも毎日瞑想してるけど今のところ力は使えるようになっていない。

 でも、集中力が上がった気がする。

 これは多分力じゃなくて瞑想の影響だろうけど。

 

 それとエネルギーには関係ない話だけど、私たちは神になった時に名前を得たのに蜘蛛さん、タニシちゃん呼びは如何なものか。

 という話になり、人前では私は蜘蛛さんを白織さん、白織さんは私を悠ちゃんと呼ぶことになった。

 黒悠が本当の名前だけど、黒悠ちゃんじゃ語呂が悪いんでそうなった。

 本当はいつもその名前で呼ぼうかと思ってたけど蜘蛛さんが拒否、というわけで人前でだけ白織さん呼びすることになった。

 人前で蜘蛛さんとかタニシちゃんとか、そんな風に呼び合うのは怪しいというか奇妙というか。

 人前ということ言葉から分かるように、今の私たちは人の街に入ることになっている。

 今までは神の使いの似顔絵が広まっていたから街に入れなかった。

 でも、今いる場所は広まっていない場所。

 弱体化した私たちを守りながら人里を離れるのは正直危ない。

 そういうことで私たちは街に入ることになっている。

 

 現在私たちは馬車に乗って移動している。

 空納が使えなくなったため、荷物を空間に入れておくというものが出来なくなったからだ。

 人形蜘蛛や魔王さんのステータスなら運んでいけるけど、ものすごく大きいバックが必要になる。

 そんなものを背負えば当然目立つ。

 しかも蜘蛛さんは一般人より体力が低いときた。

 ちょっと歩けばあっという間にダウンしてしまう。

 蜘蛛さんの貧弱さ、荷物、それらの理由から魔王さんが馬車を買った。

 一番大きい奴らしいが、私、蜘蛛さん、ソフィアさん、メラさん、魔王さん、人形蜘蛛9人、そして荷物。

 これだけ乗るとギリギリ。

 そのため、もう一台同じ馬車を買っている。

 片方には魔王さんが御者、ファエルさん、アエルさん、ソリエルさん、ニエルさん、ノエルさん、蜘蛛さん。

 もう1つにはメラさんが御者、ソフィアさん、サエルさん、オリエルさん、リエルさん、フィエルさん、私。

 メラさんはまだしも魔王さんは見た目少女、そんな人が馬車の御者をやっていれば目立つ。

 でも仕方ない。

 こうしなきゃ主に蜘蛛さんがやばい。

 

 「白ちゃん、宿屋まであともうちょっとの辛抱だよー」

 

 魔王さんが後ろにいるであろう蜘蛛さんに声をかける。

 私は別の馬車に乗っているためここからじゃ見えないけど、きっとダウンしてる。

 そういう私も結構やばい。

 主に腰が痛い。

 馬車は腰が痛くなるって聞いてたけどこれは予想以上。

 正直馬車を舐めてた。

 

 街に着く。

 そして宿屋に直行。

 オリエルさんとサエルさんを護衛に置いて、魔王さん達は外に出る。

 多分買い出しとか色々するんだろうね。

 蜘蛛さんはフカフカなベットにダイブ、それと同時に動かなくなった。

 死んだわけではない。

 でも死体並に動こうとしない。

 よく見れば寝ている。

 ベットにダイブしてからほんの数秒。

 それで蜘蛛さんは寝てしまった。

 一体どれほど疲れていたのだろう。

 私も疲れてるとはいえ、流石に数秒で寝るほど疲れてはいない。

 まぁ蜘蛛さんはアルビノで日の光に当たるのは危ないから、そういうストレスみたいなのがあるのだろう。

 あと目が人とはかけ離れてるから目をつぶって隠さなきゃいけないし。

 あとフードを深く被って隠すようにしてるからか、蜘蛛さんは病弱で盲目な令嬢なんて噂がたってる。

 確かに客観的に見たらそんな感じだね。

 蜘蛛さんは内心で否定してるだろうけど。

 

 蜘蛛さんを見てそんなことを思いながら、護衛のオリエルさんと暇潰しにしりとりをする。

 

 「タラテクト」

 

 「とみ」

 

 「ミシシッピアカミミガメ」

 

 「めらぞふぃす」

 

 「スリランカ」

 

 「かみなりまほう」

 

 「牛」

 

 「しにがみ」

 

 「水魔法」

 

 「うみ」

 

 「ミルク」

 

 「くさ」

 

 「猿」

 

 「るいせん……ちがう、るびー」

 

 「……ビール」

 

 「る………るーる」

 

 「ルルイエ」

 

 「えるろーだいめいきゅう」

 

 「宇治拾遺物語」

 

 「りんぐ」

 

 「グローブ」

 

 「ぶさいく」

 

 「……クルミ」

 

 「みるくてぃー」

 

 「うーん。い、で良い?」

 

 オリエルさんはうなずく。

 

 「椅子」

 

 「すず」

 

 「ズーム機能」

 

 「うるさい」

 

 「……それはありかな?」

 

 オリエルさんがうなずく。

 

 「そっか。石」

 

 「しんし」

 

 「醤油」

 

 「ゆめ」

 

 「麺…あ」

 

 「あ」

 

 オリエルさんが指を指してやっちまったなって顔をする。

 あと少ししたり顔。

 わざわざ表情を動かすってことはそれぐらい嬉しいのかな。

 さて、それなり時間は稼げたりは…しないか。

 確認してみたけど全然進んでない。

 うーん。

 暇だなぁ。

 

 「オリエルさん、もう一回やる?」

 

 オリエルさんがうなずく。

 さぁ始めようとしたところに後ろから服を引っ張られる。

 振り返ると私たちの護衛であるサエルさんが私も混ぜてと上目遣いで頼んできた。

 サエルさんは自己主張が薄いから、こう積極的に参加してくるのは珍しい。

 もちろん喜んで参加させた。

 予想以上に盛り上がったね。

 しりとりだけど。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 「……なにやってるの」

 

 目を覚ました蜘蛛さんにしりとりで盛り上がってたらそんなことを言われてしまった。

 蜘蛛さんは人形蜘蛛の前なら言葉を喋ることが出来る。

 多分、人形蜘蛛はあまり喋らないからかな?

 まぁそれでも中身のヒャッハーな感じじゃなくて見た目通りのクールビューティーな感じで話すけどね。

 蜘蛛さんは殆ど無表情だからクールビューティーに見えるんだよね。

 中身ヒャッハーだけど。

 

 「蜘蛛さん、おはよう」

 

 「今おはようの時間?」

 

 「こんにちはの時間」

 

 蜘蛛さんはフードを被り、ドアへ向かう。

 

 「蜘蛛さん、どこか行くの?」

 

 「ご飯を食べにいく」

 

 「あ、じゃあ私も連れてって」

 

 「ん」

 

 蜘蛛さんが短く返事をし、私の服を出す。

 あの袖が長く黒い服だ。

 今の私は龍化の人形態だ。

 全身の模様がオレンジ色に光ってるから分かる。

 神になる前に龍化を解除してなかったからかな?

 それとも半龍半貝が影響したのかな?

 まぁどちらでもいいか。

 とにかく、模様がオレンジに輝いている。

 これのおかげで隠すのが大変。

 龍化の影響なのか力が若干前世より高いけど、まぁ若干だからそこまで意味はない。

 私が弱いのに変わりないのだ。

 

 「それじゃ、いくよ」

 

 「うん」

 

 蜘蛛さんがドアを開け、それに私とオリエルさんとサエルさんがついていく。

 歩を進め、階段を降りていくと食堂のような場所に出た。

 というか食堂だ。

 席には冒険者らしき人物が2人、お酒を飲んで談笑していた。

 その2人の男が私たちを見るなり怪訝な顔をする。

 出来れば彼らの近くを通りたくはないけど、彼らが座っている場所の関係上それは無理だった。

 仕方なく私たちは近くを通る。

 

 「おおっと!」

 

 お酒を飲んで酔っ払っている男の一人がわざとらしくよろけ、蜘蛛さんのフードを取ってしまった。

 蜘蛛さんは目を見られるわけにはいかないので目を閉じる。

 

 「お!別嬪さんだね!」

 

 そう言いながら男が蜘蛛さんの肩に腕を回す。

 

 「ちょっとやめてください」

 

 「ああ?」

 

 私が蜘蛛さんに絡んでいる男達に止めるよう言う。

 男達はそれに反応し私を見ると汚い笑みを浮かべた。

 

 「お!君も綺麗な顔してるねー!」

 

 「そういうのいいですから」

 

 「冷たいなーもうー!」

 

 男が手を広げ、私に近づかせてくる。

 その軌道は私の上半身。

 つまり胸に向かっていた。

 私は咄嗟にその手をはねのけ、事態をまだ理解できてない蜘蛛さんを引っ張る。

 ちょっと女性が出しちゃいけないような声を出してたけど、この男達から離れさせるためには仕方ない。

 コラテラルダメージだよ。

 

 「触らないでください」

 

 「あ?」

 

 うっ、早くこの状況から脱したいのに悪化してしまった。

 大人しく触られるべきだった?

 そんなわけないか。

 セクハラ駄目ゼッタイ。

 

 「こら!何やってるんだい!」

 

 機嫌が悪くなった酔っぱらいを冷たい目で見ていたら、食堂の奥から叫び声が響き渡った。

 声の主を確認してみると、冒険者の男達より広い横幅を持ったゴツいおばちゃんが食堂の奥から出てきていた。

 

 「他のお客に迷惑をかけるようなら出ていってもらうよ!」

 

 「え、あの、すいません」

 

 「あたしに謝ってどうするんだい!謝るんならそっちの子に謝りな!」

 

 「はいぃ!すいませんでしたぁ!」

 

 すっかり酔いが覚めた男達は私たちに頭を下げたあと、すぐに食堂を出ていってしまった。

 おばちゃん強いね。

 なんというか、おばちゃん特有の力があるよね。

 

 「ごめんねお嬢さん達。冒険者は全員ああいう奴じゃないんだけど」

 

 「いえ、助けてくれてありがとうございます」

 

 おばちゃんは悪くないから謝らなくていいのに。

 この人は良い人だね。

 

 「さ!お嬢さん達は料理を食べに来たんだろう?迷惑をかけちゃったしお安くするよ!」

 

 本当良い人。

 聖人かな?

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 「う、うぐ…ぐ」

 

 どこからか籠もった声が聞こえる。

 その声の正体は蜘蛛さん。

 目の前に料理があるのに、食べられないことが悔しいらしい。

 なぜ食べられないのか。

 答えは簡単、お腹いっぱいだから。

 神になる前は飽食があったから自分の見た目以上に食べられたけど、今はそんなスキルはない。

 だから蜘蛛さんは見た目通りの量しか食べられない。

 私はなんとなくそんな気がしていたので前世基準の量を頼んでる。

 蜘蛛さんにもお腹いっぱいになる可能性を話すべきだったけど、それを話そうとした時には注文を終えていた。

 心の中で思ったのならその時既に行動は終わっている。

 そんな言葉が頭に思い浮かんだ。

 

 「お嬢さん、無理しなくていいんだよ」

 

 「うぐ!?む、ぐぐ……」

 

 「く……白織さん、この人の言う通り無理しなくていいんだよ?」

 

 「むご…ぐ……」

 

 蜘蛛さんが俯き、見えなくなった顔からポタポタと水が落ちる。

 え?蜘蛛さん泣いてる?

 身を低くして覗いてみると、目から大量の涙を流していた。

 そういえば蜘蛛さん、お残しはしない主義だったね。

 特に危険な状態ではないのに目の前にある料理が食べられないことがたまらなく悔しいのだろう。

 正直私は理解できないけど、蜘蛛さんには蜘蛛さんなりの価値観があるんだろうね。

 結局、蜘蛛さんが残した料理はサエルさんとオリエルさんが食べた。

 

 

 

 




 
 
 
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