タニシですが、なにか?   作:マリモ二等兵

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特異オーガ

 なんだか眠たくなってきた頃、ノエルさんがかまくらモドキを作り上げた。

 雪で出来た家と頼んだせいか、四角い家、いわゆる豆腐ハウスが出来上がった。

 某クラフトのように真四角ではないがそれでも豆腐ハウスという表現が正しいぐらいには四角い。

 よくもまぁ雪で作り上げたもんだ。

 

 私はこれまた四角い入口から中に入り、素早くノエルさんがその入口を雪で塞ぐ。

 おお、寒くなくなった。

 というより温かい!

 かまくらは入ったことないけど結構温かいんだね。

 これなら凍死しないね。

 その代わり周りの状況が分からないけど、不自然に四角いから私たちがここにいるって気づいてくれるはず。

 多分。

 とりあえず、魔王さん達に見つかるまでここで大人しくしてよう。

 下手に行動を起こすより、ここで待機しているほうが安全だ。

 

 突然何処かから爆発音が響き渡る。

 爆弾というより力で吹っ飛ばしたみたいな音だ。

 ドカーンじゃなくてドーン。

 なんかものすごい嫌な予感がする。

 これ、あれだよね。

 特異オーガだよね。

 だってこんな音を鳴らす人は仲間に居ないもん。

 魔王さんとか人形蜘蛛、ソフィアさんは出来るだろうけどまた雪崩が起きるかも知れないのに意味もなくやらない。

 さっきから音が止まらないし戦闘中かな。

 まぁ特異オーガじゃなくて氷龍かも知れないけど。

 とにかく、奥の方で何かと何かが戦っているのは確か。

 こんな音を出すほどの戦闘に巻き込まれたら間違いなく死んでしまう。

 かといって、このかまくらモドキから出てしまえば凍死してしまう。

 あれ?ひょっとして私詰んでる?

 いや、そんなはずは…。

 あ、駄目だ。

 私はここから離れたら死んでしまう。

 ノエルさんが外の様子を確かめるためにちょっと穴を開けたら、言葉に出来ないほど寒いのが来た。

 出たら離れる前に死にそう。

 離れないといけないのに離れたら死ぬとか。

 これはもう…神にお祈りするしかないね。

 今の私は神だけど。

 というか神ってどの神にお祈りすればいいの?

 私が知ってる神は蜘蛛さんとギュリギュリさんとDさん、この三柱だけ。

 蜘蛛さんは多分ブルブル震えてる。

 Dさんは邪神だしお祈りしても助けてくれなさそう。

 なんなら今の状況を悪化させそう。

 ギュリギュリさんは…どうだろう。

 助けてくれるかな?

 でもこの中で一番希望があるのはギュリギュリさんだね。

 じゃあギュリギュリさんに祈っておこう。

 

 おーいギュリギュリさーん。

 助けてー。

 

 んー?

 これはお祈りなのかな?

 まぁいいか。

 それで助けては…くれないか。

 ちょっと悲しい。

 というか私の声は届いてないよね。

 Dさんみたいに人の心を読む神じゃなさそうだし。

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 そんな事を考えてると、恐ろしい叫びが聞こえてきた。

 ただ大声を出したのではなく激しい怒りを乗せた声だった。

 それは爆発音が聞こえてきた方角で、しかもそれは近づいてきていた。

 やばい。

 巻き込まれるのは駄目だ。

 このまま豆腐ハウスに引き籠もってても巻き込まれるのは必然。

 音で分かる。

 確実に私たちに近づいてきてる。

 

 「ノエルさん、開けて」

 

 目で大丈夫か聞いてきたので大丈夫だと言っておく。

 ノエルさんが雪をどかし出口を作る。

 その瞬間すさまじい寒さが私を襲う。

 その寒さに耐えながら歩を進めていると、かまくらモドキが爆ぜる。

 もう少し出るのが遅かったらあそこで死んでたね。

 とにかく即死は免れた。

 目の前が突然爆ぜる。

 その衝撃で舞い上がった雪を被ることになり痛みが全身を襲う。

 あと少し前に出たらどうなってたことやら。

 

 「あんの野郎!ぶっ殺してやるわ!」

 

 舞い上がった雪から現れたのは血眼で物騒なことを言うソフィアさんだった。

 おかしいな、こんな人じゃなかったはずなんだけど。

 

 「ソフィアさん」

 

 「え?あ、篠前!どこいってたのよ!」

 

 「ちょっと遭難してた。ソフィアさん、何と戦ってるの?」

 

 「特異オーガって奴よ。ほら、あそこにいる」

 

 ソフィアさんが指差した方を見る。

 そこには半裸の男がこちらに向かって来ている光景があった。

 その男の頭には鬼を彷彿とさせる角があり、手には二本の刀が握られている。

 でも私はそれよりもその鬼らしき人物の顔が気になってしょうがなかった。

 すこし顔立ちは違えど、それは前世のクラスメートの人に似ていた。

 

 「笹島さん?」

 

 笹島さん、前世のクラスメートで彼の友達とゲームの話をしていた人。

 笹島さんについて知ってるのはこれくらい。

 同じクラスなのによく知らない人ばかりだ。

 蜘蛛さんもソフィアさんも笹島さんも。

 知ってるのは今と前世の顔ぐらい。

 ……もうちょっと人に興味を持つべきだったかな。

 

 笹島さんが刀を横に振るう。

 それをソフィアさんが受け止める。

 それだけでドカン!なんて音が鳴り響く。

 剣を受け止めて鳴る音じゃない。

 どうなってるの?

 そんな疑問を感じつつ音と一緒に発生した風によってふっ飛ばされていく。

 受け身をとるようにしたけど痛い。

 

 「ガアアアアアアアアアアア!!!」

 

 笹島さんが人とは思えない声を上げると、一本の刀に炎を纏わせそれを地面に叩きつける。

 すると四方八方に亀裂が入り、でかいクレバスが作られていく。

 私の真下にも作られた。

 そう真下。

 

 本日2度目の浮遊感。

 目にはクレバスの底が見える。

 高さでいえば100mは絶対にあるだろう。

 落ちたら確実に死ぬ。

 状況がよく理解出来ないまま落下する。

 理解出来た頃にはもう手遅れだった。

 なんだか周りがスローになっていく。

 死の直前はスローになるって聞いたことがあるけど本当だったんだね。

 結構綺麗に割れててどこにもぶつけず底を目指して落ちていく。

 なんか走馬灯が見えてきた。

 あれ?

 内容がのんびりしてるか死にかけてるかの2つしかないじゃん。

 私の人生って案外薄いんだね。

 なんて思ってる間にも私は現在落下中。

 見れば私の一番近くにいたノエルさんが助けに来てくれてるけど、笹島さんが雷を出して邪魔されたからワンテンポ遅れてる。

 間に合わないねこれ。

 うーん、助からないかも。

 突然魔王さんがやってきてササッと助けてくれるのなら別だけどそんな気配はない。

 つまり私が叩きつけられるのは必然ってこと。

 そんな状態だってのに心は冷静だ。

 私は死を受け入れてる。

 叩きつけられるのを受け入れてる。

 蜘蛛さんが知ったら怒りそうだ。

 私ってどうしても死を回避出来そうにないと諦めちゃうからね。

 地面までもうすぐ。

 あと数mくらい。

 あ、もう着く。

 

 グシャッ!!  

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 鬼くんやべー。

 叩きつけるだけであんな風に出来るとか……。

 それをいうなら戦ってバコンとかドカンとか爆発みたいな音を出す吸血っ子もやべーけどそれ以上に鬼くんが強すぎる。

 サエルとメラも協力してるけどそれでも鬼くんが勝ってる。

 え?私?

 私が協力してもあの刀でぶった斬られて終わりですが、なにか?

 神になって更に強力になった鎌を振ればひょっとしたら鬼くんにダメージを与えられるかも知れない。

 でも悲しいかな。

 私にそんな筋力ねーです。

 体力もねーです。

 鬼くんに吹き飛ばされた吸血っ子を受け止めた衝撃で吹っ飛んで、それで体力がごっそり減って、奥の方に吸血っ子がまた飛んでいったのをいい機会にそそくさと逃げようとしたけど体力がねーし行き先が分からねーしで結局戻って、体力切れでゼェゼェ言ってたら鬼くんが作ったクレバスに危うく落ちそうになる蜘蛛です。

 そんなのじゃ鎌を振ってる間に真っ二つにされてしまう。

 

 「邪魔よ!!」

 

 吸血っ子が鬼くんに即席で作った大剣を振り下ろす。

 それを鬼くんは受け止め、炎を纏った刀で突く。

 吸血っ子はすぐに大剣を離して回避を試みるが脇腹に突き刺さった。

 

 「あッ!くッ!」

 

 吸血っ子が苦しげな声を上げる。

 炎を纏っているため斬られるだけでなく焼かれるためダメージは大きい。

 まだ吸血っ子は不死体を発動させてないはずなのでこれで死なないはず。

 鬼くんは吸血っ子を刀から抜いてすぐに蹴りを入れる。

 鬼くんの蹴りで吸血っ子は私のほうに飛んでくる。

 ってまた私に飛んでくるのかよ!

 飛んできた吸血っ子を受け止め、案の定私は吹っ飛んでいく。

 しかし一度起きたことは繰り返さない。

 私は吹っ飛ぶ方向とは逆の方向に鎌を刺しアンカーにする。

 我ながら良い作戦…っと思ったけどこれ駄目だわ。

 腕が無理矢理伸ばされるからめっちゃ痛くなる。

 関節外れるわこれ。

 

 「はぁ…はぁ…篠前は…無事かしら?」

 

 む?吸血っ子がタニシちゃんの心配を?

 まさかあの戦いに巻き込まれたのか!?

 え?それ大丈夫?

 見渡してもタニシちゃんの姿はない。

 嫌な予感がよぎる。

 吸血っ子の裾を引っ張る。

 

 「タニシちゃんに何かあったの?」

 

 吸血っ子が目を見開く。

 私が喋ったことに驚いたか。

 いつも単語ぐらいしか話せなくてごめんな!

 そんなことよりタニシちゃんの安否が気になる。

 

 「篠前はあの鬼が作ったクレバスに落ちてったの。一応ノエルが助けにいってたから大丈夫だと思うけど…」

 

 吸血っ子が珍しく心配そうな顔をする。

 マジか…タニシちゃん落ちてったのか。

 ノエルが助けに行ったから無事だと思うけど、それでも心配だ。

 ちょっとそのクレバスを覗いてタニシちゃんの様子を見てみるか。

 

 「どのクレバスに落ちてったの?」

 

 「あそこのよ」

 

 吸血っ子が少し距離があるクレバスを指す。

 あそこか。

 鎌を持ってそのクレバスに向かう。

 できるだけ急いで向かいたいけどブレーキしきれず落ちていくことになりそうなので小走りで行く。

 ほぼ歩きみたいなペースだけど仕方あるまい。

 私の筋力ではこれが限界だ!

 

 「ガアアアアアアアア!!!」

 

 そんな私に鬼くんがロックオン!

 ギリギリ目に見える速度で近づいてくる!

 刀にはそれぞれ炎と雷が纏われている!

 あれをまともに喰らったらそこで神生終了。

 ここは……防御一択だ!

 鎌で攻撃するのも考えたけどぶった斬られる未来が見えた。

 かまくらの時に衝撃を吸収してくれてたし、きっといける。

 私は鎌を使って防御しようと構える。

 構えた時には鬼くんは目と鼻の先にいた。

 ……近くね?

 

 視界の端で炎を纏った刀が一瞬映り、次の瞬間私にとんでもない衝撃が襲い後方にふっ飛ばされた。

 私は受け身をとり、勢いのままゴロゴロ転がっていく。

 ふはは!これぞ我が逃走経路だ!

 あ、待って。

 予想以上に転がる。

 このままでは私もクレバスに落ちてしまう!

 鎌を突き立ててアンカーに!

 腕痛くなるけど落ちるよりはマシだ!

 うごごご…!

 

 鎌を突き立てて数秒。

 やっと勢いがなくなったため私のローリングは止まる。

 そこはクレバスまでスレスレ。

 あと少しで落ちていた。

 ふぅ…危なかった。

 鬼くんは吸血っ子とサエルと戦闘中か。

 この隙にタニシちゃんの落ちたクレバスに!

 見渡してもそれらしいのはない。

 ん?おかしいな。

 あ、いやここがそのクレバスか。

 鬼くんの攻撃を防ぎながら目的地に着く。

 我ながら無駄のない動きだぜ。

 おっとこんなことを思ってる暇はない。

 私はクレバスの底をそっと見る。

 

 そこには人に近い形をしたものを中心とした血溜まりを呆然と見つめるノエルの姿があった。

 

 ……え?

 瞬間、思考が止まる。

 目から入ってくる情報を脳が理解することを拒む。

 そんな筈がない。

 ありえない。

 そんな言葉が頭の中を支配する。

 大雪による寒さなんて感じない。

 手足の痛みも感じない。

 音も聞こえない。

 目だって機能してるか分からない。

 この目で見ているのに見えない。

 見ていられない。

 でも、いくら現実から背いたって変わらない。

 広がっていく血がそのことを主張する。

 

 「あ…あ……あ…」

 

 だんだんと心の奥底から何かが溢れそうになる。

 蓋をしても意味がない。

 無限に湧いてくる何かが、私を支配していく。

 それは胸の奥から喉に向かって侵攻していく。

 やがて声となって外に出そうになったとき、世界が黒に染まった。

 一瞬。

 瞬きをする間だけ。

 気がつけば私は氷河ごと宙に浮いていた。

 

 「……え?」

 

 少し時間を置いて氷河が割れる音が響き渡っているのが分かった。

 私は目の前に広がる光景に驚愕しながら地に向けて落下していく。

 すると膝の裏と背中に感触が。

 しかも6つ。

 その感触の正体を確かめてみるとサエルが私をお姫様抱っこしていた。

 そのままサエルはできる限り衝撃を殺しながら着地。

 普段の私ならサエルの珍しい積極的な態度やお姫様抱っこについてツッコミを入れていたが、今回はその余裕がなかった。

 なぜなのかは空を見れば分かる。

 

 宙に浮く巨大な氷塊。

 数kmはある黒く長い体。

 神々しさを感じるオレンジ色の模様。

 よく目にした5つある眼。

 それは正しく龍の神。

 私の親友で、双子神のような存在。

 

 龍となった黒悠がそこにいた。

 目に理性無き光を灯して。

 

 

 




 
 神の龍ってデカそうなので。

 
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