タニシですが、なにか?   作:マリモ二等兵

53 / 57
 
 
 


蜘蛛6 味方が敵になると強くなるの法則

 「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 タニシちゃんが体の芯まで響く声で叫ぶ。

 龍となる余波で浮かび上がった氷塊が落ちていく。

 1つ1つが人よりも大きく、まるで流星群のように降り注ぐ。

 辺りに轟音が鳴り響き地が大きく揺れる。

 流星群の衝撃で鬼くんが作り上げたクレバスが広がり、もはやクレバスとはいえないほど大きな亀裂が入る。

 

 「ちょ!?篠前!?危ないじゃない!」

 

 後ろで吸血っ子が叫ぶ。

 見ればすぐ横に深く狭いクレーターが出来ていた。

 そこから蜘蛛の巣状の亀裂が入り、他の亀裂と入り交じる。

 やばい。

 氷塊が落ちる度に亀裂が入って、私達のいる氷河がバラバラになっていってる。

 すぐ横に亀裂が入り広がっていく。

 あっという間に人1人入れそうな隙間が出来上がった。

 

 あぶね!

 あと少し横にいたら落ちてたわ!

 タニシちゃん、ちょっと周りに気を使ってくれませんかね?

 あ、無理ですか。

 ひょっとして正気がないパターンですか?

 

 「ギュルルルル…!!」

 

 正気がないパターンですねありがとうございます!

 ないわー。

 いやタニシちゃんが生きてて良かったけどさ。

 流石にこれはねー。

 てか今の状況やばくね?

 神龍になったクソデカタニシちゃん。

 崩れゆく氷河。

 広がるクレバス。

 足元に亀裂。

 あ、やべーわ。

 助けてサエル!

 

 私の頼みを聞き受けたサエルがまたまたお姫様抱っこして跳躍、それと同時にさっきまで立っていた場所が裂けた。

 サエルは砕けかけの氷河に一瞬着地、その後すぐに跳躍する。

 それを繰り返しここから離脱する。

 そういえば吸血っ子は?

 確認するために振り返ると吸血っ子とメラを担いだノエルがサエルと同じく跳躍してこの場所から離脱しようとしていた。

 よし、吸血っ子達は大丈夫そうだ。

 鬼くんはどうしてる?

 お姫様抱っこされながら氷河を見渡す。

 雪がさっきより少ないため、遠くまで見える。

 お、いたいた。

 クレバスに落ちてなかったか。

 鬼くんは私達を見ておらず、代わりにタニシちゃんを見て威嚇していた。

 

 「ガアアアアアアアアアアア!!!」

 

 「ギュオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 それにタニシちゃんは怯まず威嚇。

 その長い体をうねらせ鬼くんに突進していった。

 鬼くんは2つの刀を構え、タニシちゃんに向かって炎と雷を放つ。

 しかし効果はまるでなく止まらない突進を鬼くんは受け止めるが、高く遠くふっ飛ばされた。

 

 え?これ鬼くん大丈夫?

 鬼くんが点に見えるぐらい高くふっ飛ばされてるんだけど。

 あの高さから落ちたら死なない?

 憤怒発動してるし大丈夫か?

 

 私が鬼くんの心配をしているとタニシちゃんがその巨体に見合わないスピードで吹っ飛んでいった鬼くんに接近。

 胴体に対して非常に短い腕で、それでも人よりは比べ物にならないくらい大きな腕で鬼くんを叩き下ろした。

 

 鬼くーん!

 あれはやばい。

 死んだかも知れない。

 確認したいけど鬼くんの安否を確認しに行く暇がない!

 いや、待てよ。

 死んだら戦ったものに経験値が入るはず。

 タニシちゃんは神だから経験値が入らないけど、さっきまで一緒に戦っていた人形蜘蛛やメラ、特にまだLV1の吸血っ子には経験値が入るはずだ。

 つまり吸血っ子がレベルアップしてたら鬼くんは死に、していなかったら生きてるということだ。

 我ながら頭が良い。

 

 「ソフィア、レベル」

 

 「は?」

 

 は?じゃねーよ!

 分かりづらいだろうけどさ!

 さっきの鬼くんを見ていれば分かるでしょ!多分。

 

 「レベル、上がった?」

 

 「いえ、上がってないわ。なんなの急に」

 

 こやつさては見てなかったな?

 元クラスメートなんだから少しぐらい気にするべきじゃないかな。

 全くこれだからボッチは……。

 そんなことより、どうやら鬼くんは死んでいないらしい。

 すげーな。

 あんな目にあっても生きてるって、ステータスの力は凄まじいわ。

 つーかあれどうするよ?

 元から龍形態めっちゃ強かったのに、神になって更に強くなってるのは確実。

 それはサイズを見れば分かる。

 どうやらタニシちゃんの龍形態、タニシちゃんの力に比例するらしい。

 そして今のタニシちゃんの龍形態、数km。

 どう考えてもパワーアップしてます本当にありがとうございました!

 ゴッドパワーを得た龍とかギュリギュリかよ!

 ん?待てよ。

 タニシちゃんの対処はギュリギュリがやればいいのでは?

 そうだよ!

 私達が戦う必要はない!

 ヘイ管理者出番だぞ!

 このままだと世界の終わりだぞ、仕事しろよ!

 

 〘助けに来ませんよ〙

 

 耳元でゾワッとする声が聞こえる。

 この声、そして耳元にあるスマートフォンの存在。

 Dか。

 

 〘どうもみんな大好きDです〙

 

 誰か好くかい。

 …で、助けにこない理由は?

 

 〘あなたなら想像できるでしょう?〙

 

 はぁ…。

 どうせ今回も面白そうだからって理由でやってるんでしょ?

 UFOの時もそうだったし。

 

 〘もちろんです〙

 

 ならタニシちゃんはどうするの?

 正直誰も止められそうにないんだけど。

 あれに勝つって同じ神じゃないと無理じゃん。

 ん?まさか……。

 

 〘その通り、あなたが戦うんです〙

 

 いやいやいやいや!!

 無理だから!

 まだ私魔術のまの字も分からない状態だぞ!?

 相手にされるかどうかも怪しいわ!

 それにもしご都合主義が発動して魔術を使えるようになったとしても勝てそうにないんだけど。

 そんなにゴッドパワーはすごいの?

 

 〘ええ。それに黒悠は理性を失っているせいかあまり魔術を使えていません〙

 

 え?そうなの?

 

 〘ですが身体能力強化と浮遊は本能的に使っています〙

 

 ほほう、なるほど。

 つまり魔術さえ習得してしまえば遠くから一方的に撃ちまくれて楽々勝利が出来るかも知れないと。

 ……魔術さえ習得できればな!

 

 〘大丈夫、きっとできますよ〙

 

 邪神にそんなこと言われてもなぁ…。

 

 〘さぁ、そろそろお別れの時間です。後は自分で探してください。それでは、また〙

 

 スマホがさっきまでそこにあったのが嘘のように消える。

 はぁ……。

 ないわー。

 

 スマホが消えた後、吸血っ子達の様子を確認してみると案の定私がDと話していたことを知らない様子だった。

 UFOの時みたいに時間でも止めてるのかと思ったけど、位置は移動してたからそういうわけではない。

 さらっとわけわかんねー魔術を使うところDがどれだけやべー奴なのか分かるわ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ここは魔王が作った糸のテント。

 そこで私達は今後について話し合っていた。

 と言っても話すことはあんまりない。

 私がなんとかして魔術を使えるようになって、タニシちゃんを倒す。

 これしかない。

 魔王達にはギュリギュリが来ないこと、私が魔術を使えるようにならなければいけないことを話した。

 なぜそんなことを知ってるのか聞いてきたけど、そこは黙秘。

 Dについて喋らないほうがいいだろうし。

 で、私が魔術を使えるようにならなきゃいけないんだけど当然そんなパッと魔術が使えるようになるわけがない。

 なんてったって2年間努力しても使えるようになれなかったんだから。

 そんなパッと出来るようになるなら、私はとっくに使えるようになってる。

 でも今はパッと出来るようにならないと、世界がやばい。

 2年間音沙汰なしのものが?

 なにそれクソゲー。

 それでもやらねばならない。

 そういうわけで魔王達がなんとか私に魔術を使えるように色々頑張っている。

 目の前で魔法を発動させるとか、スキルを発動させるとか。

 でもどれもこれも今の所何の成果も得られていない。

 タニシちゃんは現在魔の山脈をウロウロしている。

 氷龍がちょっかいかけてたけど一瞬で叩き落されてた。

 ヤ無茶しやがって……。

 

 「白ちゃん!体の中になんか感じない!?それが魔力だよ!」

 

 魔王が私にそんなことを言う。

 私は体の中に意識を集中させると、心臓が鼓動していることがよく分かった。

 それ以外は全く分からん。

 体の中に感じるものが何一つとして見つからない。

 でも魔力が一切無いというわけではないし、ただ私が見つけられてないだけ。

 見えないものを見なければ。

 見えないものを見るってどうやるんだよ。

 

 「こう……なんか感じない?」

 

 吸血っ子がそう言うが、全く感じない。

 やっぱ言葉じゃ理解不能だ。

 でもどうすれば?

 魔法は…さっき見ても何も分からなかった。

 神になる前は術式とか見えてたけど影も形もなし。

 スキルの発動も同じ、何も感じない。

 やべー万策尽きたかも知れん。

 さっきから同じことばっかやってる。

 いくらやっても結果は変わらないからこのままじゃ無限ループだ。

 でも他に何をやる?

 一般人がすぐに魔術を使えるようになるためにはどうしたらいい?

 うー。

 おー。

 がー!

 全く思いつかん!

 どうすればいいんだ!?

 待て待て待て……。

 落ち着け。

 ここは冷静になろう。

 そうだなー。

 ここは発想の転換をするべきか。

 案外魔術とは関係ないものが魔術への入門に繋がるのかも知れん。

 魔術とは関係がなさそうなもの?

 睡眠は毎日やってるし違うな。

 食事も違う。

 風呂?

 なわけないか。

 運動は…ないかな。

 駄目だ思いつかん。

 毎日やってなくて魔術に関係がないもの。

 サバイバル?

 死の直前まで追い詰められて力に覚醒するみたいな。 

 タニシちゃんも多分そんな感じだろうし。

 でも死にかけたら戦えなくない?

 あれか、力に目覚めた瞬間自分に回復魔法をかけて治せばいいのか。

 いやリスクがありすぎる。

 もし力に目覚めても上手く操れなくて回復しそこねたらそのまま死んでしまう。

 でもダメージを喰らうっていうのはいい案だと思う。

 自分を痛めつけて強くなる。

 これは神になる前によくしていた行為だ。

 よく頭おかしい鍛え方とか言われてたけど、やっぱりこれに行き着くのか。

 

 さて、そうと決まれば…とやりたいところだけど、これには魔王達の協力が必要だ。

 くっ!私に交渉しろというのか!

 しかも内容が私を傷つけろだぞ!

 魔王達からドM疑惑がかけられてしまう!

 そんなことは絶対に避けなければならない。

 どうする?

 どうする?

 理由を言えば納得してもらえるか?

 くっ!私に長文を言えというのか!

 

 「魔王」

 

 「ん?どうした白ちゃん。まさか魔術が使えるようになったの!?」

 

 んなわけあるかい。

 私は自分を指して言う。

 

 「攻撃して」

 

 「は?」

 

 魔王が何いってんだコイツみたいな顔をする。

 吸血っ子達も同じような顔だ。

 しかしその反応は想定済みだ!

 えーっとどう言えばいいんだ?

 私にダメージを与えて、危険な状態にしろってことだよね。

 それで防衛本能みたいなのが反応して何かしら魔術が使えたりしないか…みたいな。

 タニシちゃんだって多分体が危険な状態になってそれで本能的に龍になって自分を守ったっぽいし。

 私にもそれがあると思うから私を危険な状態にしてくれってこと。

 ……よし!こんな感じのことを言えば良いんだな!

 よーし、言うぞ?

 ほーら言うぞ?

 待て待て落ち着け。

 素数を数えて落ち着くんだ。

 1、4、6、ダー!

 素数数えられてねー!

 落ち着け落ち着け…。

 よーしよしよしよし。

 落ち着いてきたぞ。

 よしよし…よーし。

 えーっとえーっと。

 いつ言えばいいんだ?

 そうだ十秒後に言おう。

 1、2、3、4、5、6、7、8、9…

 

 「あ、分かったよ白ちゃん。そういうことね」

 

 ……まぁいっか。

 魔王、君のような勘の良いガキは嫌いじゃないよ。

 魔王全然子供じゃねーわ。

 むしろ一番のお年寄り……これ以上はやめておこう。

 

 「え?アリエルさんどういうこと?」

 

 吸血っ子、君のような勘の悪いガキは嫌いだよ。

 魔王が吸血っ子に説明する。

 それを聞いたあと吸血っ子は狂人を見る目で見てきた。

 

 「確認するけど、ほんとにするの?」

 

 魔王が私に手を向けて言う。

 そうもしなきゃいけない状況ですし。

 めっちゃ嫌だけど、やるしかない。

 

 「それじゃ、まずは雷魔法ね」

 

 魔王の手から弱い電気が放たれる。

 あだ!

 うーん、でも弱い。

 魔王、手加減してるな?

 いや本気でやられたら一瞬で死ぬけどさ、これじゃビリビリペンだ。

 

 「魔王」

 

 魔王が嫌な顔をする。

 魔王は味方に優しいから私を傷つけるのは苦なんだろう。

 今はその優しさはあんまりいらない。

 魔王にそのことが伝わったのか雷の火力が上がった。

 あばばばばばばばばばばば!!

 雷が止まる。

 私は前に倒れる。

 

 きっつ。

 これやべーわ。

 でもなんとなく魔術に近づいた気がする。

 気がするだけかも知れないけど。

 なぜなら魔力とはなんなのか分かった気がするからだ。

 雷を喰らったとき大半がバチバチだったけど、それ以外に、なんというかぐわーみたいな、のぅわーみたいな、変なのを感じた。

 雷がおさまってからは感じなくなったけど、多分それが魔力。

 雷で頭がおかしくなった可能性は無くはないけど、そんなことじゃないと祈ってる。

 魔王、回復魔法プリーズ!

 

 魔王から回復魔法を貰い傷が治る。

 

 「魔王、雷」

 

 うつ伏せのまま、雷をお願いする。

 あ、それと。

 

 「少し火力下げて」

 

 「う、うん、分かった」

 

 いでででで!

 ウグゴッッくッ…感じるぞ!魔力みたいなやつが!

 モワ〜みたいな感じで蠢くエネルギーが!

 体にエネルギーが流れてるのが分かる!

 よーしよしよし!

 

 「ス、ストップ」

 

 雷が止み、体が治っていく。

 そして傷がなくなる。

 それでもまだ体に感じる。

 これか!

 これが私のエネルギーか!

 後はこれを操れば……よし。

 思いのまま動かせるわけではないけど、それなりに自由はきく。

 これでスキルでいう〈魔力感知〉と〈魔力操作〉を手に入れた。

 あとは魔術だ。

 でも魔術の構築ってどうするんだ?

 システム内のやつでいけるか?

 よし、やってみよう。

 思い出すのはお世話になった暗黒魔法の暗黒槍。

 記憶にある通りの術式を構築していく。

 少し荒いが、できた。

 次に魔力の挿入。

 弱すぎず、強すぎない程度に注いでいく。

 

 「え!?ちょ、みんな白ちゃんから離れて!」

 

 魔王の焦った声が聞こえ、吸血っ子達がそれに従い離れていく。

 そして吸血っ子達が離れた時、私がシステム無しで作り上げたセルフ暗黒槍が放たれた。

 その暗黒槍は記憶にあるより少し速く飛んでいき、魔王の糸の壁に着弾し音と共に消滅した。

 糸の被害はいくつか切れた程度。

 あの糸が硬いのか、あの暗黒槍が弱いのか。

 

 再び暗黒槍の術式を構築。

 今度は強く、多くエネルギーを注ぎ込む。

 実質今の私の本気の暗黒槍だ。

 完成された術式から先程より数段速い暗黒槍が放たれる。

 それは糸の壁を軽々と貫通し、その後も減速することなく飛んでいった。

 おう、なかなか良いじゃん。

 前よりパワーアップしてるかもしれん。

 確証が持てないのは前に魔王の糸を攻撃したことなんてなかったからだ。

 そんなことより寒い!

 壁に穴を開けたせいで寒い空気が入ってきちまったよ!

 豪雪は氷龍のせいだったらしく、魔王に脅されて止んだからマシになったけどそれでも寒い。

 高山はなにもされてなくても寒いわ。

 

 「白ちゃん魔術が使えるようになったの?やったじゃん!」

 

 魔王が空いた穴を修復しながら私が魔術体得をしたことを喜ぶ。

 私としては若干複雑。

 2年間も頭を悩ませていた問題が簡単に解決すると、じゃああの2年間は何だったんだよって気持ちになる。

 でもまぁ、過ぎたもんはしょうがないし今は魔術が使える。

 ここは魔術が使えるようになったことを素直に喜んでおこう。

 

 魔術を体得したし、じゃあ早速タニシちゃんに突撃!とやりたいところだけどそうもいかない。

 使える魔術のバリエーションを増やさねば。

 暗黒槍だけじゃどう考えても勝てん。

 暗黒魔法や空間魔法、スキルとかも使えるようになっておきたい。

 例えば空間転移とか回復魔法とか、スキルなら邪眼とか万里眼とか?

 幸いここには魔王がいる。

 私の記憶と魔王の実物で術式を再現しよう。

 そうすればギュリギュリが言ってた通り前よりパワーアップするはずだ。

 タニシちゃんはまだ魔の山脈をウロウロしてる。

 時間はあるし万全な状態で挑もう。

 

 

 

 




 蜘蛛子には書籍同様お酒で目覚めてほしかったがそんな状況ではなかった。
 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。