有栖川日記   作:榊さん家の悠人くん

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「はぁ……」

 

 もうこれで何度目になるのか分からない溜め息が漏れる。

 いくら考えても仕様のないことだと理解はしている。けど、「はい、そうですか」と言って素直に納得できるかと問われれば、それは間違いなく出来ない。現に、納得できていないからこそ溜め息なんて吐いてしまっている。平穏な日々を謳歌したいと、目立たなくても良いから日々を平和に過ごしたいと、そう思って生きてきた。

 

 それなのに、あの日、あの時、あの瞬間。僕の平穏な時間は音を立てて崩壊した。いや、崩壊されたって言ったほうが良いのかも知れない。春は出会いの季節であり、別れの季節でもある。そんなことは僕も知っているし、まだまだ長い人生とは言えないけど、ちょっとは経験してきたつもり。だけど、あの出会いが平穏との別れになるなんて思ってもみなかった。

 復讐じゃないけど、一種の意趣返しみたいなものだけど、日記みたいな形で今までのことを残しておこうかなって思う。

 やっぱり最初は、彼女との出会いの日から始めよう。僕の日常が一変した日。最後の平穏が終わりを告げた、あの時のことを。

 

「まずは、ノートとシャープペンを買ってこようかな」

 

 どうせ書くなら、デジタルじゃなくてアナログがいい。実際に自分の手で書いていって、書き直した跡とか、ちょっとした漢字の書き間違いとかそんな跡が残ってくれた方が、何だか人間味があるような気がする。そうだ、折角だし近くのコンビニとかじゃなくて、大きめの画材屋さんまで足を伸ばしてみよう。自分の足で歩いて行くのはちょっと辛いけど、安物で済ますのは気が引けるから。

 

「そうと決まれば、早速行動しないとね」

 

 入ったことはないけど、確か駅前まで出れば、大穂画材って名前のお店が在ったから、そこなら良い物が見つかるかも知れない。それに、今はまだ他の人に知られるのは避けたい。もしも見られたりしたら、その瞬間に死んでしまうかも知れない。まあ、死ぬなんて大げさかも知れないけど、日記みたいにするのは確定事項なんだから、普通に考えれば見られたくないのは当たり前のことだと思う。うん、僕は間違ってなんかいない。

 

 彼女との出会いの時を思い返しながら、出かける準備を進めていく。少しずつ記憶を引き出し、書き上げていくための材料を思い返す。いつも僕を困らせる彼女がもたらした、この素晴らしいくらいに非日常的で、馬鹿げたくらい波乱に満ち溢れた、冗談みたいに平穏なんて欠片もない、そんな日々を書き残すために……

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