あの日は確か、4月だって言うのに凄く暑かったと思う。4月初めなのに夏日の所があるとか、翌日に入学式を控え、念願の高校デビューなのに汗はかきたくないなとか考えていたのを、何となくだけど覚えてる。
そう、僕は翌日の火曜日から私立星嶺学園に入学する。茨城県つくば市にある学園で、全国でもトップレベルの進学校。卒業生の殆どが有名私立大か国公立大に進学し、海外へ留学する人も少なくない。過去の卒業生をみても、官で大役を担っている人間や、大企業の社長何かもいる。そんな学園に、次席の成績で僕は入学を決めたから、父さんも母さんもさぞ鼻が高かっただろうなって、最近は思ったりもする。
ただ僕自身としては、ここを卒業すれば、将来は安泰だろうなとか思っていたのはここだけの話だけど。
まあ、そんな学園に通えることになって、柄にもなく舞い上がっていたんだと思う。だからこそ無視できなかったんだ、きっとそう。
2012年4月9日 月曜日 晴れ
「母さん。ちょっと出掛けてくるからね」
もうそろそろ、昼食の時間になろうという時、僕は母さんに声をかけ家を出る。明日から毎日通うことになる通学路。もう下見も何度となくしているのに、これで最後だからと言って出掛けていった。
学園までは1Kmの道のりで、健康の為にも徒歩で通って行こうと考えてる。正門の手前に200m位の坂道があるけど、緩やかな坂だし問題は特にない。それに、そこは街路樹として桜の樹が植えられていて、この時期は本当に綺麗な景色が広がるんだ。別にここ以外の桜並木も観てはいるけど、入学式の日に観るここの桜は格別のものになっていることだろう。そう考えるだけで、僕の胸はますます高鳴っていく。
ゆっくりと通学路になるこの道を歩いて行く。研究学園都市として栄えるこの街の、温な田園風景とはまた異なる閑静な住宅街の雰囲気は妙に心地が良い。高揚した気持ちが、静けさの中で徐々に冷やされていく感覚。それでも、冷めきってしまうことはなく、良い塩梅の高揚感が残っている。
歩き始めて10分くらい、次の角を曲がればあの桜並木が見えてくる所まで歩いてきた。落ち着きを取り戻そうとしていた鼓動は、またしても打つ早さを上げていく。僕自身頬が緩んでいるのは判るけど、どうにもならないものは仕様がない。他人が見たら変に思われるだろうけど、今は特に人気もないしその点については心配していない。
「わきゃっ」
その角を曲がろうとした時、軽い衝撃と共に何だか可愛い声が聞こえてきた。
「っと、ごめんなさい」
何はともあれ、まずは謝ることにした。ついで相手の人を確認するため、視線を上げようとした瞬間気づいてしまった。そこには、純白の本来は隠されているべき秘密の布を晒してしまっている女の子が1人いた。黒のハイウエストスカートに胸元と袖口にフリルの付いた白シャツでオーバーニーソを履いている。倒れた拍子にだと思うけど、艶やかな長い黒髪には砂埃が付き、髪形も乱れてしまっている。それでも、元来の可愛さは失われずにいるその女の子を、僕はこの時本当にまるで天使みたいだなって思ってしまった。そう、思ってしまったんだ。
「……変態さんなんですの?」
「……」
「変態さんなんですの?」
「……」
「変態さんですわね」
さあて、この女の子はいったい何を言っているのだろうか。確かに出会い頭にぶつかってしまい、女の子を倒してしまったことは変えようのない事実だ。それでも、それでもだ。僕はしっかりと謝ってもいるし頭だって下げている。それなのに、この仕打ちはないんじゃないだろうか。初対面の女の子に、変態認定されたのは生まれてこの方初めての経験だ。
「わたくしのスカートの中身は、ただで見られるほど安くはありませんのよ?」
「それは、ごめん。でも見たくて見たわけじゃないよ?視線を上げようとしたら、位置的にたまたま見えちゃっただけだからね?」
どうやら、この女の子はパンティを見られたのが恥ずかしかったらしい。たしかに、見ず知らずの人間、それも異性に見られて気分のいい人はそうそういないはずだ。
「ほんとに、ごめんね。立てる?」
「立てませんわね。……変態さんの手を借りてなんて」
「……変態じゃないからね?」
「……」
女の子に右手を差し出しながら、弁解を試みるものの期待通りの結果は得られなかった。それでも女の子は、僕の右手をその小さな手で取り、「っん」というこれまた可愛い声と共に立ち上がった。女の子の服を調えてあげようとしたけど、なんだかジト眼で見られてしまったので、それは断念することにした。
「怪我はない?」
「怪我はありませんわ。肉体的というよりは精神的にくるものはありますけれど」
ああ、なんだろうかこの女の子は。立ち上がってみると身長は140cmほどで10~12歳の小学生くらいに見えるのに、僕の精神をゴリゴリと削っていってくれる。女の子の精神的な熟成は男の子に比べて早いとは言うけれど、この子のは何だかちょっと違う気がする。
「精神的にきているのは、どちらかといえば僕のほうだと思いたいよ」
「取りあえず、わたくしお腹が空きましたわ」
「は?」
「だから、お腹が空いたのですわ。もうお昼ですのよ?昼食にいたしませんと。お詫びついでに、ご馳走してくださいませんか?」
なんてことを言い出すんだろうこの子は。そもそも、今日は平日だし学校はどうしたのだろうか?見た目小学生なだけで、入学式を控えた中学生だったのだろうか。それよりも。
「ねえ、知らない人に付いて行くなって教わらなかったの?」
どういう訳かこの女の子は、初対面のそれも自身で変態認定している男に付いてご飯を食べに行くというのだ。なんだが、いろいろな意味でこの女の子が心配になってきてしまう。
「平気ですわ」
そういうと自然な感じで僕の手を取り、どんどん歩いていってしまった。そうなると、必然的に僕も一緒に行くことになる。なにが楽しいのか、クスクス笑いながら歩く女の子は、僕には顔を見せないまま「付いていくのはわたくしではなく、変態さんのほうですから」なんて言葉を吐き出していた。
4月9日はまだ、続きますが、今回はここまで。
文才がなくて、ごめんなさい
次話を待っていただけると、うれしいです