レミリアの奇妙な冒険   作:龍桂

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エピローグ

 

 

 

「うおっ、なんだあいつら」

 

 スピードワゴンとツェペリがジョースター邸へやって来ると、その門の前には人だかりができていた。どうやら新聞記者らしくしきりに何かを話し合っている。

 

「おそらくあのお嬢さん関係じゃろう」

「ああ、東の方へ旅行に出るんだってな。せっかく株で儲けたのに……飽きっぽいのかね、あの人は」

 

 二人は記者たちに見つからないよう、裏に回って壁を乗り越えた。すると、見知らぬ少女がごみを焼却炉に入れているところに出くわした。少女の髪と瞳の色は銀色で、肌はレミリアに劣らず白い。顔立ち的にスラブ系だろう。

 

「あなた方は誰ですか? 記者の方は外で待っているように言われているはずですが」

「わしはウィル・A・ツェペリ。こちらはスピードワゴン君だ。君は新米のメイドかね?」

 

 すると、少女は眼を見開いた。

 

「すみません、お嬢様からはあなた方が来たらお通しするよう言われています。表の玄関から入ると記者がうるさいでしょうから、こちらへどうぞ」

 

 少女に案内され、二人は勝手口から中へ入った。そしてレミリアのいる部屋にツェペリたちを連れていくと、少女は一礼した。

 

「私はまだ仕事があるので失礼します。何かありましたらおっしゃってください」

「ああ」

 

 部屋に入ると、レミリアは机に向かって書類を作っていた。二人が入ってきたことに気づくとレミリアはペンを置き、大きく伸びをした。

 

「久しぶりね、二人とも。どう? 最近うまくいってる?」

「あんたほどじゃねーけどな。あやかりたいぜ」

「そんなに? でも投資もいろいろ手間がかかって面倒くさいのよね。今は取引を全部打ち切る書類を書いてるところよ」

「豪華客船にでも乗って旅行に出るんだろ? 羨ましいぜ」

 

 そう言うとレミリアは首を振った。

 

「いいえ、妹を探しにいくの」

「妹……そういえば、ジョジョも言ってたな。嬢ちゃんに生き別れた妹がいるって」

「ええ。実は昔から探してたんだけど、最近ようやく見つけた。イスタンブールにいるらしいわ」

 

 イスタンブール。イギリスから遠く離れ、ヨーロッパとアジアの境にある都市である。

 

「そうか。じゃあジョースターさんとは全く逆の方に行くんだな」

「ジョナサンの新婚旅行(ハネムーン)を邪魔する心配がなくてよかったわ」

 

 ディオと組んですさまじい実験を行っていたパチュリー・ノーレッジは、ディオとの戦いの後ジョースター邸へと運び込まれた。彼女を警察に突き出すとなると石仮面について説明する必要が出てくるうえに、そもそも警察で彼女を管理するのは不可能だと思われたからである。

 

「私がいなくなったらアレは何をするかわからないから。あと連れていくのは、美鈴とイザヨイくらいかしら」

「イザヨイ?」

「会わなかった? 銀髪の子よ。私が新しく雇ったのだけれど」

「ああ、あの子か。ずいぶん妙な名前だな」

 

 レミリアはうなずいた。

 

「極東にある国の言葉らしいわ。ファミリーネームは美鈴が思いついたの。名前はこれから決めようとしてて……カエデ、イスズ、サクヤ……悩ましいわ。あの子の子孫に順番につけていくのもアリかしらね」

「ちょっと待て。その子には名前はなかったのか」

「父親の切り裂きジャックからは、『お前』って言われてたらしいわ。でも、『お前』じゃあんまりでしょう?」

「切り裂きジャックの娘ェ?」

 

 スピードワゴンは素っ頓狂な声をあげた。あの殺人鬼に娘がいたのか。

 

「言っとくけど、あの子はいい子よ。いじめたら私が……っていうより美鈴がキレるわ」

「んなことしねーよ……それよりジョースターさんは?」

「ジョナサンはエリナと朝から街に出かけているわ。明後日の旅行に必要なものを揃えるとかで。たぶんそろそろ帰ってくると思うわよ」

 

 

 

 ウインドナイツロットから戻ってからが大変だった。ジョナサンの父はレミリアが生きていたことを知らなかったので、その姿を見てまず驚き、そして泣きながら抱きしめた。レミリアが赤面したのを見たのはあれが初めてだった。

 

 そして次の日の夜、ブラフォードが生前(?)に遺した言葉に従い、二人の黒騎士の鎧をメアリー・スチュアートの眠る寺院へ持っていった。彼とは話してみたいことが多くあったが、本人はゾンビとしての仮初めの生、そしてメアリーのいないこの世にいることを望まなかった。

 

 それからはエリナとの結婚準備や身の回りの雑務をこなす日々が続いた。そんな中、わずか2ヵ月前に起こったあの悪夢のような闘いは、遠い昔の出来事のように感じられるようになっていた。

 

「じゃあ明日の結婚式にお邪魔するぜ、ジョースターさん」

「ありがとう。ツェペリさんも残りの石仮面の捜索を中断してまで来てくれるなんて……」

「なに、気にするな。これから会うことも少なくなるだろうからな」

 

 ツェペリとスピードワゴンが屋敷を出たのは夜の9時だった。ジョナサンが二人を見送って自分の部屋に入ると、ノックの音がした。

 

「ジョナサン、いる?」

 

 レミリアの声。ジョナサンはドアを開けた。

 

「どうしたんだい?」

「貴方の旅行について言っておきたいことがあるの」

 

 レミリアは椅子に座り、話し始めた。

 

「貴方の旅の途中、よからぬことが起きるわ。下手をすると、命が危ない」

「なんだって?」

 

 レミリアの予言は当たるのだ。ここ数か月、彼女が株であげた巨額の利益がそれを裏付けている。ジョナサンは陰鬱な気分になった。

 

「まあ、細かいことは分からないけれど、私がついていくわけにはいかない。私は妹……フランドールを捜すために東へ行きたいの」

「わかってる。君にとっては大切な家族なんだろう。僕はもう十分助けてもらった。今度は君の妹の番さ」

「そう言ってくれると思ってた。……でも、できる限りのアドバイスはしておくわ。とにかく大切な人から離れないこと。そして、怪しい者を見かけたらすぐにその船から脱出すること。間違っても絶対に追っちゃ駄目。そんなことしたら、エリナかあなたのどちらかが確実に死ぬわ」

 

 それくらいかしらね、とレミリアは言った。

 

「ああ、わかった。……ところで君はいつ出発するんだい」

「貴方の結婚式が終わったらすぐ」

「明日じゃないか。というか皆に知らせてないみたいだし……見送りに行くよ」

「結婚式に新郎が新婦を放っておくなんてふざけてるの? いらないわ。それに、道連れは多いもの。寂しくなんかないわ」

 

 ジョナサンはレミリアの旅に随伴する面々を思い浮かべ、ふっと笑った。

 

「確かにね。退屈もしなさそうだ。……妹を見つけたらここに戻ってくるかい?」

「そのまま東に行ってみようと思ってるわ。美鈴が案内してくれるらしいの」

「お父さんが寂しがるし。たまには帰ってきてよ」

「……考えておくわ。寄り道が多くなりそうだから、何十年後になるかはわからないけどね」

 

 マイペースなレミリアらしい。果たしてジョナサンが生きている間にロンドンへ戻ってくるのだろうか? そう思ったが、ジョナサンは何も言わなかった。

 

「じゃあ、私はそろそろ戻るから。貴方も明日の結婚式に寝坊したらまずいでしょう? 早めに寝たほうがいいわ」

「そうだね。おやすみ、レミリア」

「おやすみ、ジョナサン」

 

 そう言うと、レミリアは部屋を出ていった。自室を支配し始めた静寂に少しの寂しさを覚えながら、ジョナサンは明かりを消した。

 

 

 

 

 

 イスタンブールへ向かう船の上。レミリアは甲板の手すりにもたれ、空にいるカモメの数を数えていた。傍にいる美鈴はレミリアに日傘を差してやりながら、ジョナサンとエリナの写った写真を眺めていた。

 

「いやあ、結婚式、二人とも幸せそうで良かったですね」

「そうね」

「お嬢様、どうしたんです? 淡白すぎません?」

「別に。ちょっと心配してるだけ。ところで美鈴、イスズは?」

「ノーレッジを連れてくるそうです。船酔いでグロッキーらしくて。風に当たれば治るんじゃないかって」

「放っておけばいいのに。どうせ慣れるわよ」

「慣れますかねえ。ていうか、何で皆さんに船出が今日って言わなかったんですか? 誰も見送ってくれなかったじゃないですか」

「………ここから離れたくなくなるから、かしらね」

 

 そういうもんですかね、と言いながら美鈴は港の方を未練がましく眺めていたが、少しして目を凝らし始めた。

 

「ん? あれってジョースターさんじゃありませんか? もう一人はよくわかりませんが……」

 

 美鈴が指した方を見ると、確かに人影が2つ見えた。

 

「エリナと二人で来たのかしら」

 

 吸血鬼の視力をもってしても顔を見分けることはできなかったが、あの二人だということは直感的にわかる。レミリアは、二人の未来に見えた影を思い出してうつむいた。

 

「美鈴、私はあの2人の運命を変えられたと思う?」

 

 美鈴は首を傾げた。

 

「さあ。私にわかることは、これまでお嬢様が肩入れしてきた人の運命が悪い方には行ったことがないってことだけですね」

 

 それを聞いたレミリアは、ふっと笑った。

 

「そう……ならよかったわ」

 

 すでにロンドンは水平線の向こうへと消えていた。東へ向かう風が、レミリアの髪をはためかせた。

 

 

 

 

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。


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