シリウスライン    作:ながれもの

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「僕と組んでくれ」

先代からチーム「シリウス」を託された若きトレーナー「星崎 豊」。
もっとも輝く一等星の名を持つそのチームは、早々に解散の憂き目にあっていた。
早急なチームの立て直しの為、星崎はある男に助けを求める。

トレーナーとして最近トレセン学園にやってきた、同じく若きトレーナー「松風 悠真」。
期待の新生であるウマ娘「トウカイテイオー」と契約を結んだ男であった。



プロローグ ~カフェテリアにて~

「頼む、松風。僕と組んでくれ!!」

 

 お昼時を少し過ぎ、利用者も疎らになった頃のカフェテリア。

 一人の青年が、テーブルに勢いよく頭を打ち付けた。

 多少人が少なくなったにせよ、突然大声で懇願する様を目の当たりにすれば誰だって気にはなる。

 周りの目が一瞬にして集まってきた。

 

「ちょ、ちょっとトレーナーさん。おやめなさい、みっともないですわよ」

 

 青年の隣で、紫がかった芦毛の美しいウマ娘が恥ずかしそうに青年をいさめる。

 彼女の名はメジロマックイーン。

 代々優秀なウマ娘を輩出してきた名門メジロ家の令嬢であり、学園内で最も強い輝きを見せると言われるチーム「シリウス」のエースである。

 俺は向かい側に座る二人を見て苦笑する。……北原のおっさん、人選誤ってないか?

 

「とりあえず頭を上げてくれ星崎。周りの子が驚いてるだろ」

「だけど……」

「いいから。眼鏡ずれてるぜ? とりあえず直せよ」

 

 しぶしぶ顔を上げた星崎と俺が呼んだ青年。つい先日まで「シリウス」のサブトレーナーだった男だが、今ではこいつがメイントレーナーである。

 先代の北原のおっさんは、多くの人に惜しまれつつ、トィンクル・シリーズを有終の美を飾り、去っていった怪物オグリキャップと共に引退した。

 その後釜が、おっさんの弟子であるコイツなわけだが、一見するとパッとしない。

 ボサボサの黒髪に眼鏡と、あまり印象に残らない顔には気弱さが漂っており、奴のパートナーであるメジロマックイーンに早速尻に敷かれている。

 「メジロ家のトレーナーなら、もっとシャキッとなさい」と、担当ウマ娘に叱られている有様だ。

 

「アハハハ!!! マックイーンのトレーナーさんって、面白い人だね」

 

 俺の横でカラカラと明るく笑うウマ娘がいた。メジロマックイーンがそれをジロリと睨みつける。

 テーブルの上にずらりと並んだスイーツの大軍を、上機嫌でモリモリと頬張りながら、何故か勝ち誇っている。

 

「ちょっとトレーナーさん! あなたが安易に頭を下げれば、ペースは向こうへもっていかれますわ」

「でも、マックイーン」

「でももヘチマもありません!!」

 

 メジロマックイーンは激昂して立ち上がり、ビシリと俺の隣に座っているウマ娘に人差し指を突き付ける。

 

「それに、私はこの方をチームメンバーに迎えることは断じて認めません!! ええ、認めませんとも!!!」

「僕だって願い下げだもんね!」

 

 トレーナーそっちのけで火花を散らす二人のウマ娘。俺は隣に座る「相棒」の頭をわしゃわしゃとかき乱し、

 

「ほら。あんまり相手を刺激するな。どうどう」

「うあああああああ!! やーめーてーよー!!!」

「いい子だから大人しくしておいてくれ」

「むう!! また子ども扱いして……」

「それが嫌だったら、もうちょっと静かにしてくれ。テイオー」

 

 トウカイテイオー。それが俺の相棒の名だ。

 先日の選抜レースで早速頭角を現した才能あふれるウマ娘で、数多のトレーナー達が是非とも自分達のチームにと群がってきたものだが、なんの因果かなんの実績もない若造の俺と契約を結ぶことになった。

 

「まあ、少し落ち着こうぜ。コーヒー取ってくる」

 

 俺はそういって、一旦席を立った。

 

 

 

 

 

 日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称「トレセン学園」。

 この国だけでなく世界中を魅了する「ウマ娘」達を育成する事を目的とした、日本最大級のウマ娘養成学園である。

 毎年毎年、スターウマ娘を輩出するこの学園には常に多くの夢見るウマ娘達が入学する。だが、夢を見るのは何もウマ娘達だけではない。

 

 ―彼女たちと共に歩む俺たちトレーナーもだ。

 

 俺の名は松風 悠真(まつかぜ ゆうま)。新米トレーナーの一人である。

 

 

 

 

 

「一応事情は聴いてるぜ。先代のおっさんとは知らない仲じゃねえしな。事情が事情なだけに、学園側もすぐさま解散させるって事もないんだろ?」

「それはそうなんだけど」

 

 このカフェテリアはビュッフェ形式であり、学園関係者に良質な食事を提供している。

 俺は熱いホットコーヒーを口につけながら星崎を見て少し引いた。

 奴の俺達二人を見つめる様が尋常じゃないほど真剣だった。

 

「とりあえず、一息入れようぜ。そんな目で睨まれたら、息が詰まっちまう」

「そうですわよ。あなたはもうメジロ家のトレーナー。常に余裕を持ち、優雅に振る舞わなければ」

 

 っと、言っているメジロマックイーン本人がやたらと敵意を向けてくる。

 控えめに見てもあまり優雅で余裕がある振舞には見えなかったが、口には出さないでおいた。なんか怖いし。

 その一方で、

 

「うううう……苦……っくない……」

「ああ、もう! いちいち見栄を切らなくていいんだよ! ほら、砂糖とミルクも持ってきてやっただろ!!?」

「やーだー! 会長は何も入れずに飲むんだもん! だから僕も何も入れずに飲むんだい!!」

 

 テイオーはここでまた駄々をこねる。

 それを見たメジロマックイーンがクスクスと笑う。

 

「テイオーさん。無理をなさらなくても良いのですよ。あなたはまだまだお子様なんですし」

 

 なんでこの子はこんなに煽ってくんの? さっきから?

 メジロマックイーンの上辺はお上品な煽り攻撃に、体制ゼロのテイオーが耐えられるはずもなく、

 

「なんだよお、僕ら同学年じゃん! マックイーンこそ、お昼全然食べてないじゃん! 大丈夫? 大好きなスイーツを我慢して?」

「私はレースを控えておりますの。ベストなコンディションを維持するために、甘いものは控えて……」

「さっきからこっちをチラチラ見てるの、僕知ってるよ。ああー、マックイーンかわいそー。こんなに美味しいのに」

 

 顔を引きつらせるメジロマックイーンの目の前で、パクパクスイーツを頬張るテイオー。

 両者の間で結ばれていた仮初の和平条約が、今まさに瓦解しようとしているのを感じる。

 それはメジロマックイーンの隣で座る星崎も同様なのか、ダラダラと冷や汗をかいている。

 

「コホン……。あなたこそ、そんなに食べて大丈夫ですの? 知りませんわよ? 太っても」

 

 ギリギリの所で平穏を装っているメジロマックイーン。

 だが、俺は彼女の切り替えしを聞いて、猛烈な寒気を感じた。

 やばい! この言葉に返すカウンターブローは絶対やばい!!!

 

 やめろテイオー!! いったん黙れ!!

 

 俺は心の中で叫んだあと、テイオーを制止しようとして、

 

「僕、いくら食べても太らないしー!」

 

 俺達の周りだけ、厳しすぎる冬がやってきた。

 メジロマックイーンが立ち上がり、幽鬼のような表情で俺達を見下ろしている。

 

「……表に出なさい。テイオー」

「ま、マックイーン?」

 

 星崎がダラダラと冷や汗をかきながら立ち上がるが、彼女の体には触れられない。

 ウマ娘って、こんな殺気を放てんのか? と思いたくなるほど、今の彼女には誰も触れることができない。

 テイオーはさすがにやり過ぎたのかと思ったのか、チャームポイントの笑顔を引きつらせている。

 

「お、怒っちゃった? マックイーン?」

「ぜーんぜん、怒ってませんわよ。ですが、どうやら闘争心がお互い抑えきれないようですし。ここは一つどうでしょう? 表で白黒ハッキリつけるというのは?」

「う、うん。レースだね? それだったら、僕はいつでも受けて……?」

「消えるのはあなたか、私か……」

「マックイーン? レースをするのに何で指をポキポキ鳴らしてるの? 凄い首、ゴキゴキなってるよ? ねえ?」

 

 メジロ家は実は優秀な暗殺者を輩出する家系だったのか?

 あまりにもの殺気に、俺もテイオーも動くことができない。蛇に睨まれたカエルって、こんな気分になるのか……。

 ゆらりと、メジロマックイーンの伸びた手がテイオーに迫り……。

 

「いまだ二人とも逃げて!!!」

「星崎!!?」

 

 メジロマックイーンを羽交い絞めにした星崎が叫ぶ。

 

「こうなってしまったら、3時間は元に戻らない!! レース前の減量中のマックイーンは、とてもデリケートなんだ。液体状のニトログリセリンみたいに!!」

「そんな危険物、話し合いの場に持ってくんなよ!!」

 

 俺はすっかり怯えて涙目になっているテイオーの手を引き。

 

「逃げるぞ!」

「う、うん!!」

 

 俺達は迫りくるクリーチャーから追われるようにしてかけていく。

 

「星崎!!」

「僕にかまうな!! 振り向かずに走れ!!」

 

 眼球を赤く発光させ、悶えるメジロマックイーンを抑える星崎。

 彼は満足そうに笑顔を浮かべて頷いた。

 俺は涙をこらえて、テイオーの手を引きカフェテリアを後にした。

 

……星崎の凄惨な断末魔を、背中に感じながら。

 

 

 

 

 それで俺たち、いったい何の話をしていたんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは俺達「新生シリウス」が歩む、ちょっとした日々の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 




アプリ版「ウマ娘」のチーム「シリウス」が好きで書き出しました。

アニメ版のトレーナーは大分ベテランさんで経験豊富だったのに対し、若いトレーナーが二人でチームを盛り上げていく様をやってみたかったのがあります。

この世界ではちょっとマックイーンがやんちゃだったりと、解釈違いが多いかもしれませんが、温かい目で見ていただいたらうれしいです。


今後も、サクサクっとかける程度のお話をポンポンっと書いていこうと思います。

よろしくお願いいたします。
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