シリウスライン    作:ながれもの

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レースで輝くためには適度な休息も必要である。
その日、休日を設けたトウカイテイオーだったが。


別世界から特別な運命を受け継いだのは、……実はウマ娘だけではないのかもしれない。


サイドストーリー1.天才ゲーマー

 とある日。

 

「エキサイ、エキサイ、こーたーえーは……っと、……うーん」

「お? ウィニングライブの練習かテイオー? てか、変わった楽曲だな」

「あ、トレーナー」

 

 新人トレーナーの松風 悠真がターフへやってくる。

 浅黒い肌、180cmの長身、真っ白な髪、人前で外す事のないハンチング帽と、かなり目立つ出で立ちの人物である。

 そして、彼の担当するウマ娘。トウカイテイオー。

 比較的小柄な体躯、茶色の掛かった長い髪をポニーテールにした可愛らしい少女だ。

 今日も今日とて、彼ら二人はレースに勝つためのトレーニングに励んでいく。

 

 本日のメニューはコース上に並べられたミニハードルを飛び越えていく

 ホッピングから始める事になっている。

 そこで軽く心拍数を上げ、その後はダートを走り、パワーの強化を図ろうと予定していたのだが……。

 

「熱心なのはいい事だけどよ。トレーニング前からそんな激しい振り付けやって、へばっても知らねえぞ?」

「えへへ。ごめんねトレーナー。実はこの前、すっごく悔しいことがあって……」

 

 冷却用の氷などが入れられたクーラーボックスの上で、携帯からテンポの速いクールな楽曲が流れている。

 ウマ娘達の訓練には、レースで勝つためのトレーニングの他、ウィニングライブで披露するためのパフォーマンスである歌やダンスのレッスンも加わってくるのだが、その曲には一点妙な所があった。

 男性がボーカルを務めているのだ。

 少し高めでよく響く声が、スピーディで流れるような電子音長の音楽と重なる。

 明らかに、ウィニングライブで使われる物とは別物だ。

 テイオーはその携帯を拾い上げ、音源を停止させる。

 

「悔しい事? ひょっとして、その曲が何か関係してるのか?」

「ぴんぽーん。大正解。さっき流れてた曲は、全国のゲーセンに置かれてる『ウマダンレボリューション』ってダンスゲームに収録されているんだけど、今そこでランキング一位を取る為に猛特訓中なんだ!!」

「なんだ!! ……って、お前。つまりはあれか? レースにもライブにも、全く関係のない練習をしてるってか?」

「むー!! 完全に無関係ってわけじゃないもん!! 姿勢を維持する大幹、バランス感覚、ぜーんぶレースにもライブにも生かされるんだから!」

 

 ウィニングライブで見る物とはまた違った迫力満点のダイナミックな動き。

 確かにトウカイテイオーの言う通り、立派なトレーニングにはなりそうだが、トレーナーとしては知らないところで体を酷使しないようにしてもらいたい。

 少し困ったような顔を浮かべる。

 

「大丈夫。あくまで、レースに影響が出ない範囲でやってるから」

「ま、今は信じておいてやるよ。それで、何があったんだ?」

「うん。聞いてよトレーナー! ボクね、凄い人に会ったんだ!!」

 

 テイオーは拳を握り、力強く話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 それは、先週末の事だった。

 その日は生憎、トレーナーも用事が入り、他の友人達もそれぞれ予定が入っていた為、たまには気分転換にとゲームセンターで趣味のダンスゲームに勤しんでいた。

 

「ねえ、あれ、トウカイテイオーじゃない?」

「本当だ! すっごい軽やかなステップ……あれが噂のテイオーステップ?」

 

 ゲームを始めてから少し時間が経つ頃、『ウマダンレボリューション』の筐体が並ぶブースに人だかりができていた。

 

「キャアアッ! テイオーかっこいい!!!」

「すげーステップだよ!! このゲーム、判定が厳しいのに」

 

 1プレイが終わるたび、集まったギャラリーから歓声が飛ぶ。

 この時、すでにいくつかのレースで次々と勝利をもぎ取っていたトウカイテイオーの知名度は徐々に上がってきており、町を歩くと時折声を掛けられるくらいにまでその名を広めていた。

 まだ若手と言えども華々しくスターの道を駆ける彼女が華麗に踊れば、そこは瞬く間にダンスイベントの会場となる。

 

「いえーい! みんな、ありがとう!!」

 

 ゲーム画面に映し出されたスコアは62万点。店舗内ではぶっちぎりの一位である。

 だが、表示が移り変わり、全国ランキングが表示される。

 そこでの一位は……。

 

「……90万。ほとんどカンストじゃん!!」

 

 トウカイテイオーの出した点数は全国でも二位に食い込む、圧倒的なハイスコアだ。

 その彼女に圧倒的な差をつけての一位だった。

 

「プレイヤー名は……エム?」

 

 ランキングに表示されていたプレイヤー名にはただ一文字『M』とだけ書き加えられていた。

 そのたった一つのアルファベットを見て、トウカイテイオーは思いを巡らす。

 それはとあるゲーマーの存在。

 一年ほど前まで、巷ではありとあらゆるゲーム大会で優勝をかっさらっていった伝説の天才ゲーマー噂話が流れていた。

 アクション、リズム、クイズ、シューティング……ジャンルを問わず、天才的なプレイで人々を魅了した人物。確かその名前が……。

 

「凄いね。君」

「っぴ!!?」

 

 思いを巡らせていた時、突然背後で聞こえた拍手と声に、トウカイテイオーは耳と尻尾をピンと立てて驚愕する。

 

「も、もう! 突然後ろから声をかけるなんて。マナー違反だ……よ?」

 

 そこには一人の青年が経っていた。

 すっきりと清潔に切りそろえられた黒髪に真っ白なロングのパーカー。

 一見、どこにでもいそうな普通の男性なのだが、トウカイテイオーには不思議と彼の存在が非凡なものに見えた。

 

 なんだか、お医者さんみたいな格好だな。

 

 なぜ、そんな不思議な感覚に陥るのか、原因は彼が纏っている服装だろうととりあえず結論付た。

 

「驚かせてしまってごめんね。君があまりにも楽しそうにゲームをしてるから、つい、我慢できなくなってね」

 

 青年はそういうと、トウカイテイオーが使用した筐体の隣にあるものにコインを入れる。

 

「乱入はお断りかい?」

 

 青年はそういうと、トウカイテイオーに向かって不敵に笑って見せる。

 その自信たっぷりな表情に一瞬気圧されてしまった。

 先ほどまでの人の好さそうだった男性の顔が唐突に凛々しくなる。

 

「へへ。ちょうど一人遊びも飽きてきた所だったんだ」

 

 トウカイテイオーは男性の放つ只ならぬ気迫を感じ、一瞬肌寒くなるが、すぐにそれは心に火をつける熱と化した。

 

「いっとくけど、ボク強いよ?」

「ああ。望むところだ」

 

 二人は互いに笑い、ゲームをスタートさせた。

 

 

 

 

 『幻夢コーポレーション』。創立以来、日本のゲーム産業を牽引してきた最大手のゲーム会社である。

 仮想現実空間、人工知能、その他もろもろ、数多くの最先端テクノロジーを取り入れ、近年社長の交代と共に次々と新たなゲームを生み出しており、最近ではウマ娘の訓練などにも取り入れる事ができないかと、トィンクル・シリーズを運営する組織、URA(Uma-musume Racing Association)でも検討されているほどだ。

 

 トウカイテイオーは幼少の頃から幻夢コーポレーションのファンであり、次々と発表される最新鋭のゲームの数々に今でも胸を躍らされている。その中でもお気に入りなのがこの『ウマダンレボリューション』である。

 最近リリースされたばかりのこのゲームは高性能なセンサーと筐体に内蔵されたAIにより、リズムに沿ったステップの正確性のみではなく、動きの切れ、滑らかさ、さらには楽曲にあったダンス時の表情など、ありとあらゆる情報を読み取り、そこからスコアを輩出していく。

 レース後、応援してくれたファンに感謝を送るためのウィニングライブの練習にもなると考えたトウカイテイオーは、時間があればゲームセンターに足を運び、次々とリリースされた楽曲をチェックしては攻略に挑んできた。

 

 

 

 トウカイテイオーには生まれつき、膝と足首の柔軟性に恵まれており、それを生かしたスタイリッシュな走りの加速力は他の追随を許さない。さらにその特性は、ウィニングライブでのパフォーマンスにもいかんなく発揮されていた。

 並大抵のウマ娘にはできない弾けるような表現力と動きの切れに誰もが釘付けになっていた。

 『ウマダンレボリューション』でも、その実力がそのまま反映され、今では全国のプレイヤーを全て置き去りにしてきた。……してきたのだが、

 

「っく!!」

 

 トウカイテイオーは突然現れたこの乱入者に圧されていた。

 外見は少女と言えども、最高で時速70kmで駆け抜ける程のパワーを兼ねそろえたウマ娘の体。

 その彼女に対して、人間である男性は常人離れしたパフォーマンスを見せつける。

 いま二人がプレイしているのは『ウマダンレボリューション』の対戦モード。

 内容は至極単純で、同じ楽曲をプレイし、どちらが高いスコアを輩出するかを競い合う。

 

「選んだ曲が悪かったな。これは俺が一番得意な奴なんだぜ!!」

 

 スピーディーなテクノサウンドに合わせた流れるような体の動き。

 空間を切り裂くようなステップの切れ。

 そして特筆するべきは、サビのパートにあるこの楽曲最大の見せ場であるダイナミックなキック。

 体を回転させ、足を振り上げ、高い位置を蹴りぬける。

 その鮮やかな蹴りで起こった旋風は、背後で呆然と見守るギャラリーにまで届いていた。

 そして……、

 

「俺のスコアは85万点。俺の勝ちだな」

 

 肩で息をしているトウカイテイオーを見て、青年は勝ち誇って見せる。

 

「85万点? ウソだろ? テイオーちゃんの、65万点を大幅に超えてる」

 

 背後で二人の戦いを見守っていた男性が唖然という。

 

「最近あんまりやってなかったからなあ。体が鈍ったかな?」

 

 青年はむうっと顎に手を当ててスコアを睨みつける。

 その言葉に驚愕するギャラリー。

 トウカイテイオーは大きく息を吸い込み、対戦相手をキッと見据える。

 

「もう一回!!」

 

 彼女の鬼気迫る表情に、青年は目を丸くしたが、すぐにニッと笑みを作る。

 

「そう来なくっちゃ。」

 

 追加のコインを筐体へ入れる。ついでにトウカイテイオーの前にある筐体にも。

 

「一回だけじゃ物足りないって思ってたんだよ」

「いい気にならないでね! 次こそは、ボクが勝つ!!」

 

 

 

 

 

 そうして繰り返されるダンスバトル。

 思いも寄らぬ所でハイレベルな戦いが始まり、観客はさらに増えていく。

 この光景を目撃したゲームセンターの店員は後の取材でこう語っている。

 願わくば、もっと大きな舞台で、この戦いを見たかったと。

 

「88万点。大分感覚が戻ってきたな」

 

 いよいよ90万。全国ランキングトップに迫る勢いにまで点数を伸ばしてきた青年に対し、トウカイテイオーは度重なる対戦で疲労が蓄積し、逆にスコアが落ちていた。

 あどけなさの残る顔が険しくなり、その上からとめどない汗が噴き出していく。

 集まった観客の歓声もなりを潜め、誰もが感じていた。

 この戦いの終わりを。

 

「もうここまでだな。これ以上やっても、逆にスコアは下がるばかりだぜ?」

「も、もう一回!!」

 

 トウカイテイオーは人差し指を立てて青年へと迫った。

 どうしても、どうしても負けたくない。

 予想外にも騒ぎが大きくなって、大勢の人が集まってきてしまった、

 そして、ここにいる皆が「テイオーがんばれ」「テイオー負けないで」と声援を送ってくれた。

 このまま引き下がってしまえば、せっかく声援を送ってくれた人々を裏切るように思えてしまって、

 

「わかった……」

 

 青年は諦めたように笑い。そして、キッと厳しい表情を作り、「一つ」と人差し指を一本立てる。

 

「休憩をしてからだ」

 

 そういうと、立てた人差し指をトウカイテイオーの足へ向ける。

 彼女の膝は度重なるゲームによって、疲労が溜まり、震えていた。

 

 

 

 

「どうだい? 少しは楽になったかな?」

「少しどころじゃないよ! 物凄く楽になった!! 魔法みたい!!」

 

 青年はトウカイテイオーをベンチに座らせた。

 そして持っていたカバンから清潔なタオルを取り出し、疲労が溜まった彼女の足の上に優しくかぶせる。

 その後、絶妙な力加減でマッサージとストレッチを施した。

 一通りの施術が終わった後、両の足で立ってみるトウカイテイオー。先ほどまでの震えがウソのように消え去っていた。

 

「とりあえず応急処置を施しただけだからね。ゲームはあと一回だけ。それが終わったら、今日はすぐに帰って、お風呂かシャワーで患部を温めておいてね。湿布もあげるから、今夜はこれを貼って寝るといいよ」

「お兄さん、なんだかお医者さんっぽい格好だなーって思ってたけど、本当にお医者さんだったんだね」

「一応、これは普段着なんだけどね」

 

 青年は苦笑し、立ち上がる。

 

「でも、お医者さんとしては失格だ。ウマ娘にとって大事な足がこんなになるまで、君を付き合わせてしまったね」

「ううん! それはボクが無理にお願いしたからだよ。お兄さんは全然悪くないからね」

「ありがとう……」

「それより、お兄さん面白いね。なんだか、さっきまでとは全然違う人みたいだよ?」

 

 ゲームをプレイしている時は、大胆不敵な表情をしていた青年が一転、施術を加えた時に見せた表情はとても優しく、穏やかな物になっていた。

 ゲーマーの一面と医者の一面。

 まるで一つの体に二つの人格があるようで……、

 

「ついね。ゲームをプレイしてる時、人が変わっちゃうんだ。でも、そういうのって、君にもあるだろ?」

「う、うーん。そうかもしれないけど、お兄さんとはまた別な気が」

「でも、さっきまでの君、今と違って、凄く鬼気迫るものがあったよ。すごくカッコよかった」

「か……!!? あ、ありがと……」

 

 突然の不意打ちに、トウカイテイオーは赤くなる。

 いつもなら自信満々に「そうであろうそうであろう!」と胸を張るのだが、この時は何故かどもってしまう。

 

「そ、そんな事より、勝負の続き! 今度は負けないからね!」

「うん。でも、その前にゲーマーとして助言を一つ。ここをリラックスさせよう」

 

 そういうと、青年はトウカイテイオーの眉間に人差し指を当てる。

 

「『ウマダンレボリューション』の採点は踊っている時の表情がその曲にあっていないと大きくスコアがダウンする。さっきのゲームで出たスコア比率、『表情』の分野が凄く低かったろ?」

「あ、そういえば」

 

 『ウマダンレボリューション』ではゲームが終わった点数評価で、表現力、リズムなどの様々な採点要素がグラフで表示される。最後に表示された結果発表ではその中の『顔の表情』の面でスコアが大きく下がってしまっていた。

 

「君は勝負に固執するあまり、『ゲームを楽しむ事』を忘れちゃったんじゃないかな? 『ウマダンレボリューション』でスコアを出すコツは、選んだ楽曲の雰囲気に、自分の心理を合わせる事なんだ」

「そっか。……ボクはさっきまで、お兄さんに勝ちたいって気持ちと、みんなの期待に応えなきゃって気持ちばっかりで、ゲームを楽しもうって余裕、無くなってた」

「さっき一緒にプレイして分かったよ。君、あの曲相当練習していたね。ダンスの完成度はほぼ完ぺきだ。あと、君の気持ちを曲に合わせる事ができれば」

「僕の……気持ちを」

 

 青年の言葉を胸に抱き、トウカイテイオーは頷く。

 

「うん。ボク、やってみる。だからお兄さん、お願い」

「ああ。最後の勝負と行こうぜ」

 

 医師としての顔からゲーマーの顔へと変化する青年。

 二人のラストバトルが、始まる。

 

 

 

 

 

「いけえええええ!! テイオー!!!」

「かっこいい!! テイオーちゃああああああん!!!」

「おい、今のキック見たか!? すげえ迫力!!」

「なんだ? さっきまでと全然違う!! なんかテイオーが大人びて見えるぞ!!」

 

 トウカイテイオーのダンスに切れが戻る。

 だが、それだけではない。先ほどまで硬かった表情には柔らかな笑みが浮かんでいる。

 クールな曲調に合わせたリラックスした表情にスタイリッシュなムーブは、トウカイテイオーを一段も二段も大人にしていく。

 そして、

 

「ねえ、あの人。かわいいと思ってたけど、めちゃくちゃカッコよくない!!?」

「うんうん! さっきテイオーちゃんをマッサージしてた時の優しい顔。私も癒されたあい!」

 

 青年に対する、女性の観客も増えていた。

 ゲームは最後の山場を迎える。

 一時間前に出会ったばかりの二人のゲーマーであったが、まるで何年もペアを組んだパートナーのように、息がぴったりと合っている。

 その圧倒的にパワフルなパフォーマンスの前に、その場にいる全員が息をのむ。

 そして、最後のポーズが決まった瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームセンター内で、大歓声が上がった。

 

「すげえの見ちゃったよ、俺!」

「ウィニングライブにも負けないくらいのクオリティーだよ!」

「私もうダメ! 泣けてきちゃう……」

 

 途中までトウカイテイオーの様子に心配の目を向けていた観客たちだったが、最後の一戦でこの場にいる人物たち皆の気持ちが一つになった。

 割れんばかりの大歓声とテイオーコール。

 トウカイテイオーはにししっと照れ臭そうに笑い、

 

「休日のつもりだったんだけど、大騒ぎになっちゃったな」

「そうだね。僕も、こんな大歓声を受けるのは久しぶりだったよ」

「久しぶり? どういう事?」

「そんな事よりもさ。ほら、見てごらん。スコア」

「あ! そうだ! ボクらのスコアは……」

 

 青年はなんと全国ランキング一位とタイの90万点。

 対するトウカイテイオーは、

 

「90……1万……91万点!!!?」

「ああ。君の勝ちだ」

 

 トウカイテイオーが叩き出したのは91万点。

 青年を打ちやぶり、さらには全国ランキングで一位になるという快挙を成し遂げた。

 ランキング表に、自分の名前と点数が乗る。

 

「や……」

 

 そして、体が震え、

 

「やったああああああああああああッ!!! あ、あああわっと……」

 

 喜びのあまり、大きく飛び上がる。

 だが、体の疲れが限界に達したのか、トウカイテイオーは着地に失敗し、あわや転倒しそうになる。

 その体を、隣の青年が素早く抱き留める。

 

「大丈夫!?」

「う、うん……ありがと……」

 

 レースで名を上げるトウカイテイオーだが、その実態はまだ幼い少女であり、男性に抱きかかえられる経験など全くない。

 初めての経験に頬は紅潮し、頭に熱が登っていく。

 

「さっきも言ったけど、応急処置を施したに過ぎないから。体には疲労が溜まり切ってるはずだ。今日はもう、帰った方がいいよ」

「うん……そうするね」

 

 青年に立たせてもらった後、顔を見上げる。

 そして、右手を差し出す。

 

「ありがとう。すごく楽しかった」

「僕の方こそ。楽しいゲームだったよ」

 

 結ばれる固い握手。両者の健闘から交わされる熱い友情に、再び歓声が沸き上がった。

 

「ねえ、お兄さん、お名前を教えてよ。ボクはね、トウカイテイオーっていうんだ」

「知ってるよ。僕はスポーツドクターをやってるからね。この街に来たのは最近だけど、君のレースはいつも見てたよ」

「そうなんだ! じゃあ、もしかしたらお世話になるかも?」

「僕はそうはなってほしくないかな?」

 

 ウマ娘がスポーツドクターにかかる時は基本的に大きな怪我をした時だ。

 アスリートとしてはそういう事態は避けたいところ。

 けれども、っと青年は付け加え、

 

「また、勝負をしよう。今度は他のゲームで」

「いいよ! 次も絶対、ボクが勝つからね」

「……最後以外は、僕の全勝だったけどね?」

「ううううう! それを言わないでよー!」

 

 沸き上がる笑い声。

 その時、先ほど、『ウマダンレボリューション』で踊った時と同じ楽曲が流れた。

 それは青年の持つ携帯からの着信音だった。

 

「はい! ……え? 急患!!? わかりました!!」

 

 電話の内容を確認した瞬間、青年は合わせた様子で、

 

「ごめん! 呼び出しを食らっちゃった。行かないと!」

 

 カバンを引っ掴み、ギャラリーに頭を下げて道を開けてもらう。

 周りからは、青年のパフォーマンスに対する称賛の拍手が送られた。

 集まった観客の中に青年の姿が消えていこうとした時、トウカイテイオーはハッとして叫んだ。

 

「ねえ! 待って! 名前! お兄さんの名前は!!!!?」

 

 

 

 

 

 

「その後、せっかく立てたランキング一位の点数がまた抜かれちゃってさ。だから、もう誰にも抜かれないように、今度はカンストを目指して特訓中って、イタイ! イタイよトレーナー!! 頭グリグリしないでええ!!」

 

 一通りの話を聞いた悠真はトウカイテイオーの頭を両方の拳で挟み、ぐりぐりと圧迫する。

 

「お前なああ!! 休日にそんな体を酷使する事するじゃねえよ!!!」

「だってしょうがないじゃん!! 物凄く盛り上がったんだもん!!!」

 

 バタバタと暴れるトウカイテイオー。ひとしきりお仕置きが終わった後、悠真は息を吐き出し。

 

「ったくよ……。とりあえず、そのスポーツドクターの名前を教えろよ」

「教えてどうすんの? あ! もしかして、ボクと仲良くしたことにヤキモチ焼いて、襲撃をかけるつもりなんじゃ!!」

「するかよバカバカしい! あで!!?」

 

 トウカイテイオーに脛を蹴られる悠真。

 なぜこんな理不尽な痛みに苛まれるのか、彼には理解できなかった。

 なぜなら、『少しくらいヤキモチを焼いて欲しい……』その気持ちは蹴りを加えたトウカイテイオー本人も気づいていなかったのだから、

 

「いやな、非ドクターの施術をタダでやってもらって、しかも湿布までもらったんだろ? しかも休みの時に!!? トレーナーの俺がお礼言わなきゃ失礼だろうが!」

「あ、そうだ。ええっと、確かね」

 

 あの日、去り際に聞いた、ドクターでゲーマーの名前。

 

 

 

 

 

 

 ――患者の運命は、俺が変える!

 

 

 

 

 

 

 

宝生(ほうじょう)……。宝生 永夢(ほうじょう えむ)先生だよ」

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとしたサイドストーリーを描くはずが、字数が長くなった……。
あとがき失礼します。

唐突なクロスオーバー要素を突っ込んだにもかかわらず、ここまで読んでくださってありがとうございました。


この作品を書き始めた時からクロスオーバーをやりたいとずっと思っておりまして、少し迷ったのですが『ウマ娘と仮面ライダーが存在する世界』が見たくて執筆に乗り出しました。

今回登場した宝生永夢先生は、『仮面ライダーエグゼイド』という作品の主人公です。
こちらの作品、とても面白いので、ご興味があったら是非視聴してみてください。


唐突に書き始めた作品でしたが、慣れないなりに楽しく書けたと思います。
アプリ版のテイオーのストーリーに沿った作品でしたが、一旦テイオー編はここまでとします。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします!
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