ツンデレなあの子が病んだワケ   作:かえる

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プロローグ

 青春真っ只中。

 あ、あの子いいな。なんて可愛い子を目で追ってしまう。それが健全な日本男児。

 転校生の女子と仲良くなりたい。そう考えるやつは必ずいる。

 

 なぜ知ってるかって?

 

 

「好きだ!」

 

 

 僕も一目惚れをしたから。

 

 

「誰よ、あんた」

 

 冷たい彼女の一言。

 

「げふぅ……」

 

 同じ組なのにとノックダウンされる僕。

 

「あちゃー……」

 

 後ろで顔に手を当てた親友。

 

 

 ……少なくとも、僕の記憶はこう。

 この時の僕は10歳。その年頃の男子って、なんとなく異性を気にし出してる。

 

 時には勉強。時には、体育の時間。

 活躍して、女の子にいいところを見せたい。上手くいかない事の方が多かったけれど……。

 

 その為に努力する事は苦にならなかった。全ては、僕たち結崎一家にとっていい方向に働いてくれた。

 話してたかな、僕に妹がいるってこと。妹は僕を自慢の兄だと言ってくれたんだ。

 

 僕は自信に満ち溢れていた。テストで100点満点を取って、妹はピアノのコンクールで入賞。

 共働きの両親はどんなに忙しくても、僕ら兄妹との時間を作ってくれた。僕は恵まれた環境にいたんだ。

 

 

「な、なあ、太一? ……大丈夫か?」

「ああ、うん……平気」

「本当か?」

「嘘。やばい、つらい……」

 

 

 もちろん、自尊心を傷付けられなかったと言えば嘘になる。知らないなんて言われたのは初めてだった。

 

 ところが、厄介な事に僕の恋心はフラれた事でより一層、燃え上がってしまったんだ。

 

 相手が僕の事を知らないのなら、知ってもらえばいい。好きになってもらえばいい。その為に、気持ちを伝え続ければいい。

 

 気色悪い? 小5になりたての子供に、ストーカーなんて考えが頭にあるはずもないだろ?

 

 そんな訳で僕は、嫌いだと言われていないのをいい事に、彼女にアピールを始めた。執拗いくらいにね。

 

 春の豊かな日も夏の暑い日も、秋の静かな日も、冬の寒い日も……。僕はフラれ続けた。

 

 小学校を卒業する頃には、僕らのやり取りは名物のようになっていた。告白して、フラれるまでの流れが。

 

 親友は呆れた顔をするようになっていたけど。

 

 

「やめてよ!」

 

 

 思わぬ形で彼女の本音を聞いてしまったのは、中学に上がって最初の雨の日だった。

 

 

「あたしだって迷惑してるんだから!!」

 

 

 誰が悪いという訳でもなかった。……強いて言うなら僕か。

 

 きっとその日はたまたま、彼女の機嫌が頗る悪い日で。

 他所の小学校から上がってきた彼らが、囃し立てる恰好の的に偶然僕らを選んでしまって。

 運悪く彼女が傘を忘れてきていて、間の悪い僕が折り畳み式の傘を持ち歩いていて、彼らが見ている前で彼女に差し出した……それだけ。

 相合傘なんて、そんなつもりはなかったんだ。

 

 ただ、初めてだった。彼女の口から、具体的な否定の言葉が出てきたのは。

 嫌いとまではいかなくても、迷惑だと、そうはっきり言われたんだ。僕の好意は、迷惑だと。

 

 そこで初めて、僕は失恋をした。いや、きっと最初から始まってすらいなかったのかもしれない。

 

 雨の中を傘もささずに走っていく彼女の背中を見送りながら、僕は身を引く事を決めた。最初から、嫌われていないのであればという理由で続けていたアピールだったのだから。

 

 その後の事はよく思えていない。気付くと僕はずぶ濡れの状態で家にいて、翌日には酷い風邪を引いていた。

 

 それが運命の分かれ目だったんだ。

 

 

「可哀想に……」

「トラックがスリップしてきたって?」

「息子さんだけ留守番してたらしいじゃないか」

 

 

 これもきっと、誰が悪い訳でもなくて。強いて言うならやっぱり僕で。

 

 たまたま、連日の大雨で路面が滑りやすくなっていて。

 そんな日に両親が妹のピアノの発表会に出ていて。

 トラックが滑っていった先に、偶然、両親と妹が乗っている車があって。

 

 

「太一くん、今日からここが君の家だ」

「……はい」

 

 

 ひとり残された僕は、親切な叔父さん夫婦に引き取られ、転校する事になった。

 

 友達に別れは言えなかった。

 

 

 

 

(2)

 

 

 

 ──月──日

 

 一夏がテレビに出てた。なにやってるんだ、あいつ。

 明日時間があったら、電話くらいしてやるか。

 

 

 ──月──日

 

 一夏のやつ、相当参ってるみたいだったな。電話してよかったかもしれない。

 こっちも受験が一段落して時間もある事だし、また電話してやろう。

 

 

 ──月──日

 

 叔父さんが奇妙なビラを持ち帰ってきた。小学校の体育館で、男性を対象にしたISの検査をするという役所からの通知書だった。

 叔父さんはもちろん、僕もその対象だ。面倒な。

 どうやら前例が見つかってしまった為、世界中が躍起になってISの男性操縦者候補を探しているらしい。一夏め……恨んでやる。

 

 

 ──月──日

 

 検査を受けた。結果は……首を見ればわかる。

 これはチョーカーじゃない。今日は厄日だ……。

 

 

 ──月──日

 

 どうにかして首のモノを外せないかと試行錯誤してみた。が、やはり外せない事がわかった。

 そもそも大人たちや専門家を名乗る連中がどうやっても外せなかったモノが、自分が少しいじったところで外せる訳がないのだ。

 首輪のようで気分が悪い。……忌々しい。

 

 

 ──月──日

 

 ISに鷲掴みにされた腹回りが痛む……。

 

 ここ最近、どうにも夢見が悪い。妙な夢をやたらと見る。

 寝ている自分の枕元で、顔の見えない女が延々と理解できない言葉を呟き続けるという夢を。このところ毎日だ。

 なにを言ってるんだ、というかあれは誰だ?

 夢見が悪いというのは訂正する。夢の内容が気になりすぎて、寝ても疲れるんだ。勘弁して欲しい。

 

 

 ──月──日

 

 家に国から役人が来た。理由は結崎太一──つまり自分をIS学園に入学させろという話を叔父さん夫婦にする為だった。

 息子さんは既に専用機を手にしてしまっているのだから、学園に入学しなければならない、そうしなければどうなるかわからない。話というよりは、そんな半ば脅すような形だったが。

 

 学園への入学は、僕から二つ返事で了承しておいた。

 こんな事で、叔父さんたちに迷惑をかける訳にはいかない。

 

 

 ──月──日

 

 どこかの研究所の職員を名乗る男が家に来た。僕の体を調べさせろという話のようだったが、持ってきたカバンや服のポケットが突然発火して、慌てて帰っていった。家でボヤ騒ぎなんて勘弁してくれよ。

 

 

 ──月──日

 

 こないだとはまた別の研究所から、今度は技師が訪ねてきた。どうせだから向こうの施設でISを動かしてみないか、と、そんな話だった。

 得体の知れない力を持っているよりは、確認しておきたい気持ちが強かった僕は、心のどこかで信用できないとしつつも、男の話に乗る事にした。

 

 

 ──月──日

 

 学園で一夏と再会した。同じ一年一組で。お前なんでこんなとこにいるんだって顔をしてた、というか言われた。

 箒もいた。なんなら一夏と同じリアクションだった。お前がなぜいる、だってよ。君ら揃いも揃って、久しぶりに会った幼なじみにそれはないんじゃないの。

 

 一夏は一夏で、初日から大変そうだった。変な女には絡まれるし、喧嘩ふっかけられて安買いして、決闘なんて話になってるし。

 こっちはこっちで、授業を追いかけるのでいっぱいいっぱいだった。こちとら今までISに興味の欠片もなかったってのに。

 

 

 ──月──日

 

 一夏のやつ、やる気だな。オルコットとの決闘──というか試合に向けて、特訓をすると言っていた。

 自分は付き合えないぞと断りを入れたが、どうやら箒がその気になったらしい。放課後、2人仲良く剣道場に向かっているのを見た。

 僕も久しぶりにやってみるかな、剣道……。

 

 

 ──月──日

 

 一夏、頑張ってたな。試合には惜しくも負けてしまった訳だが、僕はちゃんと見てたぞ。他の女子がなんと言うおうと、僕は味方だ、安心したまえ。

 

 

 ──月──日

 

 どういう訳か一夏がクラス代表になっていた。勝者のオルコットが辞退し、一夏に代表の座を譲ったらしい。

 大見得切って勝負に負けたので、一夏がオルコットたち女子にけちょんけちょんに言われるとばかり思っていたのだが……結果オーライ? なのか?

 

 

 ──月──日

 

 改めて思うが、他の専用機──というかIS全般に言える事なのだが、僕の専用機はどうも普通から逸脱しているようだ。授業で並べてみると、違いがはっきり見えた。まあ、だからどうだと言う訳でもないのだが。

 はなから外せないなんて普通じゃないモノを、他と比べるのがおかしいのだ。

 

 そんな事よりも、さっきまで一夏のクラス代表就任パーティーをやっていた事を書こう。一組のパーティーのはずが、他所の組からも生徒がやって来ていたので、いつもより大賑わいだった。

 来月にはクラス対抗戦もある。一夏にはより一層頑張ってもらおう。いっそこの学生生活を、思い切り楽しんでやろうじゃないか。

 

 

 ──月──日

 

 彼女が二組に転校してきた。気まずい。以前のようにベタベタするのをやめて、普通の友達として接するように意識したが、上手くできたか自信がない。

 

 放課後は一夏から一緒に訓練しないかと誘われたが、今日はなにをしても上の空になるからと断った。

 しばらくはこのまま、慣れそうにない。

 

 

 ──月──日

 

 明日からクラス対抗戦。一回戦、一夏の対戦相手は、二組にいる彼女──鈴だ。こうなるとどっちも応援しないとな。

 

 

 ──月──日

 

 試合中、無人機がアリーナに乱入してきた。

 一夏や鈴、オルコットと協力して撃退したが、先生から口外しないようにキツく言われた上、分厚い書類にサインまでさせられた。僕の腕は印刷機じゃない。

 

 けれど今は、不思議と悪くない、晴れやかな気分だ。

 どさくさに紛れて、気持ちが吹っ切れたきがする。

 

 

 ──月──日

 

 新たに転校生がやって来た。2人、それも片方は僕らと同じ境遇の男子。

 男子のシャルルは、部屋の空いてる僕とルームシェアする事になった。一緒に頑張っていこう。

 

 ……あ、日記は読むなよ。

 

 

 ──月──日

 

 シャルルは女の子だった。……僕はなにを書いてるんだ?

 正直混乱してる。さっきあった事を、日記に書いていいのかもわからない。……シャルルの名誉の為にもやめておこう。

 

 

 ──月──日

 

 シャルルはシャルロットだった。これがここ数日あった事の、全ての答えだ。

 全てを話した後、シャルロットから謝罪された。騙していた事、隠していた事を。

 

 そうして僕がなんとか捻り出した答えは、沈黙だ。僕は秘密は秘密のまま、黙っている事にした。墓まで持っていくのは難しいかもしれないが、学園にいる数年くらいなら隠し通せると踏んだ。

 

 どうしてそうしたのかはわからない。ひょっとしたら、実の母親が死んで引き取られたというシャルロットの話を聞いて、ただ自分の境遇に重ねてしまっただけ、同情心からなのかもしれない。

 

 僕は恵まれているのだ。少なくとも、家族から愛情を注がれて生きてきたのだから。

 

 昨日、今日のページは、このまま破り取ってしまうつもりでいる。僕は本気だ。明日からシャルロット──シャルルの秘密を守っていくのだ。

 

 

 ──月──日

 

 一夏ともうひとりの転校生──ボーデヴィッヒ、だったか。あいつらはもう少しどうにかならないものなのか。いい加減空気が不味くてどうにもならない。

 

 特にボーデヴィッヒの方は、周りに人がいるにも関わらず喧嘩をふっかけるわ──今日なんて鈴やオルコットをボコボコに……ああ、今思い出しても腹が立つ!

 

 それが剣道だろうがボクシングだろうが、目の前で好きだった子が一方的に打ちのめされる光景は心情的に気分のいいものじゃない。認めるよ、完全に頭にきてた。

 

 向こうにだって言い分はあるだろうし、それをろくに聞きもせず報復攻撃に出た僕には、千冬さんの言葉を借りるなら、力を持つ者として落ち度がある。

 

 けれど歯止めの効かない僕はあの時、本気で相手をぶちのめしてやる気でいた。倍返しじゃ収まらない、友人のオルコットの分も上乗せしてやるって。

 

 結果は……千冬さんに止められた。シャルルにも、一夏にも。

 

 頭を冷やすように諭されて、僕はシャルルと部屋に戻った。どうしてあんな事をしたのか訊かれて、つい、鈴との事を全て話してしまった。

 

 丁度いい機会だったのかもしれない。自分の秘密を、シャルルに話しておくのは。ひとりの友人として。

 

 ただ、シャルルの話を聞いてる最中の姿が、どうにも頭から離れない。感情を読み取る事ができない、奇妙な目をしていた。

 

 あれはなんだったのだろう。

 

 

 ──月──日

 

 今度の学年別トーナメント戦は、諸々の事情からタッグマッチになるそうだ。

 僕はシャルルと、一夏は鈴と、それぞれがペアを組む事になった。

 オルコットは鈴よりも受けたダメージが深かった為、今度の試合には参加しない──というかできないらしい。悔しそうにしていた。

 

 

 ──月──日

 

 一夏と鈴の本気、覚悟を見せられた。無人機撃退の時もなかなか息の合った連携プレーだったが、今度の試合ではより一層研ぎ澄まされた感じだった。

 

 こればっかりは箒が気の毒に思えたが、試合はボーデヴィッヒの機体が暴走した事で、とんでもない展開になった。

 

 結局一夏が気合いで解決してしまったが、当然試合は無効。前のクラス対抗戦のように中止となった。

 

 試合終了後、珍しく鈴から話しかけてくれたのだが、事情を聞きたいとの事で、先生に連れていかれてしまった。時間があればまた明日にでも聞こうと思う。

 

 

 ──月──日

 

 朝、シャルルがシャルロットになっていた。

 

 さっき、シャルルだったシャルロットに告白された。

 

 異性から好きだなんて言われたのは、生まれて初めてだ。今でも告白された実感がない。

 

 それでも返事だけは、きっちりさせてもらった。まずは友達から、お互いの事をもっと知ってから、と。

 

 正直僕は、シャルロット事をあまりよく知らない。逆にシャルロットも、僕の事をあまり知らないはずだ。

 

 お互いの事を好きになるのは、最終的な結論を出してしまうのは、理解を深めてからでも遅くはないはずだ。

 

 いつかの僕が、そうだったように。

 

 幸いシャルロットも、それもそうだと快く了承してくれた。

 

 今日はもう夜も遅いので、明日から本格的に親交を深めていくつもりだ。

 

 

 ──月──日

 

 シャルロットとの、交際を前提とした友達付き合いが始まった。

 

 

 

 

(3)

 

 

 

「……うそ、でしょ……」




あたしの事、好きって言ったのに!


後悔先に立たず……。
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