2XX9年夏、ドイツ、ミュンヘンにて――。
我がアメリカ陸軍第53施設任務大隊は、予定通りに作戦を遂行していた。目標はドイツ海軍の軍事化学者および指揮官の暗殺であった。雨上がりの、良く晴れた日だった。
“ホテルガスタイク。こちらビアホール入り口前。デーニッツが今到着した”
“デーニッツ、会場に向け移動”
「了解」
ビュルガーブロイケラー前には黒塗りの高級車が次々と訪れ、ドイツ軍関係者や政治家が中へと迎えられていた。
“ホテルガスタイク。こちらバルコニー。フェイズ4へ移行。全員着席した模様”
「了解。ホテルガスタイクより各観測班へ。現在地を離脱し、合流地点へ移動せよ」
久々の実践任務であったが、皆首尾よく動いてくれた。トラブルもなく、作戦は粛々と遂行された。窓際に固定した双眼鏡からビアガーデンを捉える。
「こちらホテルガスタイクアクチュアル……始めるぞ。タイムボムはエルザーの下へ。繰り返す。タイムボムは
エルザーの下へ」
“起爆コード確認”
直後、轟音と共に彼方のビアホールが吹き飛んだ。黒煙が高らかに立ち昇る。
「起爆確認。撤収を始めろ。パーフェクトに」
この時、我々のうち誰が予想できただろうか。我らが合衆国の下した行動が、後にあのような形で復讐ってくることを――。
※
「美舩村事件」から4年後、「ネオ・レッドアジュア」という組織が、真珠湾の海軍基地を奇襲により壊滅させたことを発端に、第三次世界大戦が勃発した。彼らは日本政府をも支配下に置き、戦乱の火蓋を切ったのである。彼女らの目的は、「武力による世界統一および世界秩序の更新」であった。また、ドイツ、イタリア、ヴィシーフランスもこれに参入し、「レッドアクシズ」に改名、周辺諸国への侵略活動を行うようになった。これに対抗し、アメリカをはじめ、イギリス、ロシア、中国、自由フランスは「アズールレーン」と呼ばれる同盟を設立した。このようにして、世界は大きく二分されたのである。
第三次世界大戦は、従来の兵器やサイバー攻撃を用いたものとは全く異なっていた。それは、戦場に人間が存在しないという点である。ドローンなどの無人兵器すら、戦場には見当たらない。
各国の主力兵器は、『KANSEN』と呼ばれる人型の軍艦である。これはロボットではなく、生物兵器と称する方がふさわしい。一言で表せば、「艤装を施した女性」であり、人間とほぼ同じく言語を操り、呼吸と捕食によって生命活動を維持している。だが、その力と耐久性は軍艦と等しいかそれ以上であり、彼女達の砲撃で戦車は爆発四散し、銃はおろかロケットランチャーを受けてもかすり傷程度にしかならない。彼女達は「メンタルキューブ」と呼ばれるコアから誕生しており、それには彼女らのあらゆるデータが組み込まれている。
これは、第三次世界大戦における、米独戦争開戦の前日譚である。如何にして、合衆国がドイツとの開戦に至ったのか――それを一人の少女を通して追求していくとしよう。彼女の名前は三浦晴香。米軍所属の女剣士である。