ハルは盗んだオートバイを走らせ、廃墟となったノーフォーク海軍基地へ向かっていた。病室のテレビで見た、あの巨大な怪物を倒す為の艤装を探しに行くのである。入院中に自決するのを危惧してか、刀は何処かに隠されていたので手ぶらなのだ。それに、自身が艤装を操れるのは、2日にも続いた実験で明らかになっていた。ここにきて、ハルは初めて、己の中に深海棲艦の血が流れている事に感謝した。
(どんな力なのか知らねーが、せいぜい暴れさせてもらうぜ)
タコメーターは振り切っており、車の合間を縫いながら、ハンプトン・ローズ・ベルトウェイを北上している。基地へ向かうには、この高速道路経由でアドミラル・タウシッグ・ブルーバードを通り抜けるのが最短なのだ。
高速道路をひた走り、「Naval Sta GATE 3A」の標識が見えたので脇道へと入る。その時だった。
海軍基地の方角で、轟音と共に黒煙が湧き上がった。すると、急に静かになった。
「えっ……?」
周囲を走る車が、一斉に四方八方へと曲がり始めた。金切り声をあげながら、彼方此方で衝突が起きる。ある車はガードレールを突き抜け、またある車は玉突き事故を連発しながら街路樹へ潜っていった。鉄と鉄がぶつかり合って火花を散らす。道路は狂気の舞踏会と化していた。タイヤが吹き出した煙のせいで、視界が徐々に悪くなる。
「な――⁉」
とうとう、ハルの制御するオートバイにも車が追突した。咄嗟に身体を投げ出す。車はオートバイを咥えたまま、火花を散らして海軍基地のゲートに刺さって、爆発した。歩道へと無事に逃れたハルは、
「クソッ、此処からは徒歩かよ」
と舌打ちをしながら起き上がった。すると、何時の間にか、正気を失っていた車達は停止していた。その中の1台のドアが開くと、迷彩服姿の青年が転がり出た。それを見て、ハルは驚愕する。
「お、おい。どうしたんだ?」
四つん這いになっている彼は、全身が血塗れになっており、口や耳からは鮮血がドロドロと流れ出ていた。青年は声に気付いて、ハルの方を見て
「助……けて」
と言って手を伸ばすも、直ぐに意識を失って崩れ落ちてしまった。ハルは嫌な予感がして、近くにあった車に駆け寄る。車内を覗くと、青年と同じく吐血して意識を喪失していた。他の車も、みな同様であった。そんな見境のない攻撃を、ハルは骨の髄まで知っていた。
「これは――ドイツKANSENの能力ッ」
だとしても、何故もう戦術的機能を失ったこの基地周辺を攻撃したのか、疑問に感じた。今まで後を付けられている感じも無く、発信機も病室に置いてきたので、ハルを狙ってやったとは考えにくい。
(考えていても仕方がねぇ。兎に角、基地に行って得物をゲットしねぇとな)
車の上によじ登ると、義経も驚く八艘跳びで車から車へと飛び移って行く。ゲートを通り抜けると、歩道で大勢が血だまりに沈んでいた。金属の風味が入り混じった生臭さで、ハルはむせそうになった。彼等から目を逸らしつつ駆け抜けて、横倒しになったトレーラーを飛び越える。
「ッ――⁉」
ハルの足が止まる。前方20メートルくらい先、ソイツと眼が合った。ソイツは、どうして立っていられるのだ、という風な目をしていた。
ドイツKANSENの重巡洋艦、ローンであった。彼女の腰辺りからは、尻尾の様な巨大な艤装がうねうねと伸びていた。根元辺りには、4本の甲殻類的な脚が生えており、先には戦艦のものと見間違う様な主砲と凶悪な顎があった。その姿は、天城が「最も手強かった深海棲艦」だと語った戦艦レ級を連想させた。ハルの額に嫌な汗が滲む。
(深海棲艦化した身体とはいえ、コイツに天城刀も無しに突っ込むのは不利すぎる。何とか撒いて艤装探しを優先するか――)
ふと、ローンの足元に人が倒れているのに気付いた。先程に見かけた人々と同じく血濡れになっているが、服はボロボロに破け、顔は痣だらけだった。ハルはその顔に見覚えがあって、暫し凝視して、目を丸くして叫ぶ。
「浜岡指揮官⁉」
大音量で名を呼ばれて、彼は顔を上げた。だが、恐ろしいものを見る目で此方を見ている。
「し、深……海⁉」
「指揮官、私です!三うr――」
言い終わる前に、ローンが驚いた顔をして
「今、深海棲艦って……」
と言った。そして、歪んだ笑みを見せて、不気味に笑い始めた。
「ふふふ、ふふふはははは!!!ツイてるわぁ。本当にツイてるッ!――」
直後、ギラリと浜岡を睨んで、艤装の顎で浜岡を咥え上げた。
「おいテメェ!指揮官を放せ!」
「ふふ、放すもんですかぁ」
そう言って、尻尾をサソリの如く曲げると、頭上の浜岡に言う。
「オイ、浜岡ァ!残念だったねぇ。せっかく命を危険に晒して自分に刺したのにぃ、台無しになっちゃったねぇ」
そして、ポケットから『錨』を取り出すと、ハルに冷たい眼差しを向ける。生気のないドス黒い眼に捕捉され、ハルは足がすくんだ。本能が逃げろと叫んでいるが、浜岡が人質に取られていて出来ない。
「手を挙げてぇ、こっちにおいでぇ。ちょっとだけアナタの血が欲しいのぉ。お利口さんにお注射できたらぁ、浜岡も開放するし、貴女も見逃してあげる~」
とても甘ったるく優しい声だが、彼女の瞳は純然たる殺意で満たされていた。
「どうしたの~?早く来ないとぉ。私の能力で、アナタの大事な上司がもぉっと被曝しちゃうわよぉ~?」
彼女の言葉で、ハルは合点がいった。原子力――ローンの能力の正体だ。あの時、彼女が電磁パルスを発した事で、車の電子制御が狂いとっ散らかったのだ。ハルのオートバイだけが無症状だったのも、その為である。
霞んだ意識の中、浜岡の眼下に、深海棲艦が両手を上げて近づいて来ていた。顔がハッキリする所まで接近して、やっとハルだと分かった。そして、彼女の変貌ぶりに困惑する。
(この数日間で、彼女に何があったんだ⁉)
髪は白く、角が生え、肌も青白く目は鬼灯色――彼女の禍々しくも神秘的なオーラは、正しく深海棲艦の姫級であった。けれども、自分を拘束しているこのドイツKANSENは、それを上回る漆黒の殺気を放っている。
(俺の事はいい、逃げてくれ!)
叫ぼうにも、器官に吐血が詰まって声が出ない。それどころか、ローンに何度も蹴られたせいで、折れた鋤骨が肺を貫通し、呼吸する事すら精一杯だった。
二人の距離が3メートル内に入った時、ハルの眼の色が変わった。地を蹴り飛ばすのと、深海棲艦化した拳を振り上げるのは、同時だった。
「破ァァアアアアア――!!!」
だが、乾坤一擲の攻撃が、ローンに命中する事はなかった。
「ッ⁉」
艤装の脚が、エレベータの扉が閉じる様に現れる。それを覆う鋼の板が、頑丈な盾となって攻撃を防いだのだ。赤黒いハルの右腕からは、紅の電気がバチバチと弾けていた。盾の背後で、ローンは呪詛を唱えるが如く
「大人しく従ってればいいものを、私の手を煩わせやがってッ――!!」
と絶叫すると、その拳を逸らしてハルのバランスを崩し、鳩尾目掛けて鉄黒のブーツを振り上げた。
『ッドン!』
それは蹴りというより、砲撃。音速を越えた爪先がソニックブームを炸裂させ、華奢なハルの身体を上空彼方へ吹っ飛ばした。艤装は浜岡を投げ捨てると、墜落を始めるハルへ向かって発砲した。復讐に燃える光線が、彼女の右腕を掻き消す。ハルは空を仰いだまま、アスファルトに衝突した。起き上がる隙を与えず、馬乗りになって
「あぁめんどくせェ、死んでなきゃあいいんだろォが!!半殺しにして輸血ポリタンクにしてやらァアア!!!」
機械的な拳を振り上げる。
(マズイ!やられる――)
曇天に、鈍い打撃音が木霊する。鉄拳は、ハルの顔面すれすれに激突していた。しかし、その拳は二度と振り上がる事はなかった。
「ッ――――」
一弾指おくれて、ローンの首から血がドッと噴き出した。首がこくりと垂れて、腕ががくんと曲がり、そのまま崩れ落ちた。
「…………」
ハルの左手には、血液に汚れた『錨』が握られていた。
覆い被さる巨体から、無理矢理に脱出する。その時、胸ポケットからはらりと落ちた物を拾う。その時、
「大丈……夫か?」
と浜岡が身体を引き摺って来た。ハルは目に入った血を拭ってから、彼の方を向いた。
「ええ、片腕なくしちゃったけど、なんとか。指揮官こそ」
「多分……うぐっ。すまない……救急を呼んで……くれないか」
頷いて、ハルは電話をする。多重事故で道路が塞がっている事も、合わせて伝えた。浜岡はハルが拾ったそれに目をやる。ドイツKANSEN達の集合写真だった。
「これがポケットから出て、ヤツの動きが一瞬遅れたんです。これが無かったら、今頃転がってるのは――」
写真を浜岡に見せた。笑顔で並んでいるローン達と彼女達の指揮官を見て、彼は納得する。
「きっと……あの娘は、思い出を忘れる事が……怖かったんだろうね」
「え?」
「……君が刺した『錨を』……使って、あの娘は深海棲艦に……なろうと、してたんだ。深海棲艦に……なったら、記憶と理性はだんだん……なくなる」
その事実に、ハルは青ざめた。浜岡は彼女の表情を見て、察した。
「やはり、君も――」
「急がなきゃ!」
切断された右腕の痛みも忘れて、ハルは跳び上がった。ここで、奇妙な事に気が付いた。
撃破されたはずのローンが、まだ其処に伏していたのだ。他のKANSENなら、撃沈と共に灰になって消えるはずである。
「まさか――⁉」
駆け寄って、ローンの首筋に指を当てる。脈はなく、酷く冷たい。真っ黒な目も、見開いたままだ。死んでいる。
(コイツって、もしかして――)
どちらにせよ、艤装が残っているのは僥倖であった。
合掌して、装備を剥ぎ取ろうと前屈みになる。その瞬間。
『ドクン!』
全身を揺するくらいの動悸がした。直後、背中と右肩に、ハンマーで殴られた様な激痛が走る。
(これは、ローンの攻撃――⁉)
浜岡が何かを叫んでいるが、聞こえない。悶えて痙攣してしまう。
「うがぁぁぁあああああアアアアアアアア――!!!!!」
突然、ハルの背中が縦に真っ二つに割れ、勢い良く触手が跳び出す。それらはローンめがけて突進し、包み込んで、艤装を乱暴に引き千切った。ガリガリガリと音を立てて、艤装は強引に形を変形させられ、ハルはそれに吸い寄せられるように滑って行く。そして――
『艤装適合率100%,状態:良好,エネルギー残量82%……』
漆黒の天使が、ローンを見下ろしていた。ジェット戦闘機の前半分を切り取った様な艤装を纏い、失った右腕は骨肉で形成された極大のカノン砲として再生している。
「フム……」
天使は艤装を動かしてみた。地を這っていた芋虫が蝶になり、誰にも教わらないのに空を飛べるかの如く、馴染んでいた。人間の姿は仮初で、今目の前にある深海棲艦こそが真の姿ではないか、と思わせる程である。彼女の視線が、唖然とする浜岡の方へと向いた。
「指揮官、私ハニューヨークヘ行ッテ、アノ怪物ヲ、止メニ行キマス。短イ間ダッタケレド、アリガトウ。暁ニ、宜シクト伝エテオイテ下サイ」
「どうして……どうして君は、そこまでするんだ」
そう問い掛ける彼に、とても穏やかな眼差しで答える。
「朝起キレバ、無償ノ愛ヲクレル親ガ居テ。学校ニ行ケバ、カケガエノ無イ友ガ居テ――何時カ、恋ヲシテ、家族ヲ持ッテ、最大ノ感謝ヲ以テ親ヲ看取ル。ソシテ、最ノ日ガ訪レテ、皆ニ見守ラレナガラ虹ノ橋ヲ渡ル――私ハ親ニ捨テラレテ、天城師匠ト友達モ、ネオ・レッドアジュアニ奪ワレテ、挙句ノ果テニ深海棲艦ニナッテシマッタ。皆ガ当タリ前ト感ジテイル些細ナ幸セガ、羨マシカッタ。ダカラ……叶ワナイ夢ナラ、セメテソレラヲ守ル存在ニナリタイ。師匠ガ、艦娘ガ命ニ替エテ守護ッテキタモノヲ、私モ守ッテミセル……」
「――」
浜岡の目には、彼女があの戦いで散っていった艦娘達に見えた。痛む脇腹を抑えて立ち上がり、浜岡は敬礼を送る。天使は敬礼を返して、空を見上げる。
「サア、行コウカ――」
鋼鉄の銀翼を展開すると、艤装が甲高い唸りを上げる。瞳が紅に瞬いたかと思うと、弾丸の如く飛翔し、光の尾をひいて、北の空へと翔けて行った。その影が小さくなり、点になって消えるまで、浜岡はずっと敬礼を送り続けていた。
※
その日、ワシントンD.C.は地獄絵図と化していた。其処彼処で悲鳴と発砲音が轟き、ストリートが深紅に染められている。デモ隊の衝突だとか、テロ組織と警察の銃撃戦ではない。群衆が各々で滅茶苦茶に暴れて、殺し合っているのだ。彼等の眼は虚ろで、口からは涎を垂らし、動くもの全てに飛び掛かり破壊している。撃たれて身体が穴だらけになろうとも、ナイフが刺さっていようと、心臓が止まるまで殺戮し続けていた。それどころか、犬や猫、鳥までもが理性を失い、猛っていた。
一方で、ペンシルベニア通り1600番地――ホワイトハウスは異様に閑散としていた。死体が敷き詰められている中を、マインツとガスコーニュが駆け抜けていく。
「ラジオとテレビを乗っ取って、標的以外の生物の頭をぶっ壊す電波を飛ばすとは。お前もそら恐ろしい奴だな」
「戦術的効果が高かった為、遂行した」
前方では、何かが死体を押し分けながらすいすいと滑り、二人の行く道を作っていた。一見するとメジロザメと思われるそれは、全身が鋼鉄で出来ていた。鋼色と真朱のツートンカラーと楔形のノーズは、船体を連想させる。これがマインツの艤装であった。彼女の艤装は自律行動が可能であり、この様にして先導させたり、複数匹でしんがりや露払いを任せたりしていた。
廊下を折れ曲がって暫く進むと、角の部屋の手前に、新たに3匹のサメが待機していた。彼等は番犬の様に出入り口を塞いでいる。
「この奥に、大統領がいるのだな」
二人は真剣な顔で扉を見つめる。
「ガスコーニュ、確認作業だ。これから行う事を言ってみろ」
「了解。執務室に突入後、能力で大統領を洗脳。核攻撃命令を発令。攻撃目標はミュンヘン、ハンブルク、ベルリン及びケルン」
「Richtig! では始めようか。Der Würfel ist geworfen!!」
合図を出すと、サメが扉を突き破った。突入して、大統領を拘束――、
「「ッ⁉」」
二人は驚いて、硬直した。
大統領は、其処にいなかった。その代わり、一人の男が立っていた。
「ごきげんよう。遅かったじゃないか」
ホワイトタイの青年――木原カリオペだ。敵KANSENふたりを前にして、エポレット片手に呑気に缶珈琲を嗜んでいた。
マインツは歯をむき出しにして啖呵を切る。
「貴様!大統領は何処だッ!」
「さあ、どこだろうね?」
そう嘯くカリオペに、彼女は今世紀最大の舌打ちをする。
「ガスコーニュ!洗脳して吐かせろ」
だが、返事がない。
「おい!ガスコー……?」
振り向き見ると、ガスコーニュは巨大な十字架を翳したままガタガタと震えていた。いつも無機質な少女が、恐怖で顔を歪ませている。感情を全く見せないそして、口を開く。
「きか……ない……」
「なんだと?」
「効かない……洗脳が、効かない!!!」
少女の肌がみるみる青白くなる。血の気が引いていると云うには、白過ぎていた。更に、手にしている十字架までも、同じくらいの早さで赤茶色く変色していた。
(これは……錆びているのか⁉)
そう察した時、彼女は此方の方を見て、微笑んだ。
「今までありがとう、マインツ」
次の瞬間、少女の顔にピキッっと亀裂が入り、ガラスが割れるが如く砕け散った。取り残された十字架は、ゆっくりと倒れていくと、天辺が床に触れるのと同時に微塵になった。
マインツは俯いて沈黙し、全身を震わせる。
「………う……うう……」
そして、咆哮する。
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
鬼の形相で突進する。既に作戦の事など眼中になかった。50センチ、10センチ、1センチ――指一本でも触れたら、眼の前の男はガスコーニュよりも滅茶苦茶になる。
「シズメェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!」
しかし、その拳が彼に触れる事は叶わなかった。マインツは侵食され、腐敗し、跡形もなく熔解した。それは、あまりにも一瞬で、あっけなかった。彼女は、己が死んだ事にさえ気づかないだろう。主を失ったサメ達は、悲しげな鳴き声を上げると、糸が切れたようにバラバラになって、その破片も砂となって掻き消えた。
カリオペは飲み終わった缶珈琲を机に置くと、
「…………出て来ても大丈夫ですよ。大統領」
と呼び掛けた。すると、彼の背後の机から、白髪の老人がひょっこりと姿を現した。
「ありがとう、ミスター木原。お陰で助かった。君は合衆国の英雄だ」
そう言って大統領は手を差し出す。しかし、カリオペはそれを拒んだ。
「どうしてこんな事になったか、貴方はご存じですか?」
「え……?」
困惑する彼に、カリオペは顔も合わせずに続ける。
「貴方はドイツが何時か我が国へ侵攻すると考え、施設任務部隊の派遣命令を出し、独海軍指揮官を暗殺させました。そこで、彼女達は父親の様に慕っていた人を失ったのです。そして、復讐の鬼となり、数多の国民を殺戮しました。貴方があんな命令を出していなければ、今頃こんな悲惨な事にはならなかった」
「わ、私はただ、合衆国国民の安全を護る為に――」
「もう結構です。そもそも、人類自らが、人を守る為に生まれて来た存在を、人を殺す為の存在に捻じ曲げた時点で、こうなる定めだったのです」
カリオペは扉へと進むと、大統領の方へ向き直った。
「さて、残りの一人は、我が同僚が何とかするでしょう。私はもう此処にも、国防総省へも戻りません。では」
エポレットを被ると、カリオペのシルエットが揺らいで、やがて紫煙の如く消え去った。
机の上に紺碧の彼岸花が2輪、寄り添う様に横たわっていた。