THE LAST PHANTASM -OBITO-   作:大兄貴

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諸事情で一度削除したものを再投稿しました。
(外伝については未定です)

加筆、修正を終えた話には(改)が付いています。
話の流れや伏線に変更はありません。


一話 幻想入り

 とある任務のさなか、オレは友を庇って殉職した。と、思われたが――喉元を掻っ切る死神の鎌をすり抜けたかのように、『偶然』にも命を拾った。今でもはっきりと覚えている。

 

 薄暗い洞窟で目覚めた。視界一杯に広がる岩盤、鼻を突く湿気臭さ。意識が途切れる直前まで、冷たい地面に背を着けていたはずが、不自然に柔らかな感触が体の下にあった。

 確かな死を予感して受け入れていたのだ。初めは黄泉の国とも思ったが、身を裂いた苦痛によって愚考は潰えた。大規模な落盤に巻き込まれ、巨大な岩が半身を煎餅のように圧し潰したはずなのに、心臓の鼓動が奇跡だった。

 

(――うちはの者よ)

 

 死神の囁き声。それが同じ『うちは』の一族であり、木ノ葉隠れの里を興した創設者の一人でもあった、『うちはマダラ』との出遭いだった。この男によって命を拾われていたのだ。

 当時は幼く無知で、無力だった。子供に何ができようか。真っ黒な糸に絡め取られるしかなかった。

 

 無様で痛々しい格好ではあるが、どんな形であれ生き延びたのだ。拾われた命を無駄に散らせる気はなかった。

 生き残ったのであれば、帰らなければならない。自身の故郷であり、居場所である木ノ葉の里に。戦場に残してきた二人のもとへと帰るために。好敵手であり、友人でもある奴を――『はたけカカシ』の馬鹿面を拝みたいがために。『グルグル』と名づけた珍奇な白団子の扶助を受けながら、変わり果てた体を汗水垂らし、必死の思いで動かした。

 この心を燃やすものは何か? 『のはらリン』――彼女にも会いたかった。己の死を悟って一度は別れを告げた、あの子に。

 

 ようやく自力で歩行できるまでに回復し、順調に快方へと向かっていた、ある日のことだ。自身の監視役であり、情報収集のために外出していた『ゼツ』が、なにやら大慌てでアジトに戻ってきた。

 曰く、ここからかなり離れた場所で、霧隠れの忍達によるいざこざが起きている。それだけを聞いたところで、よくある話の一つとして何も思わなかったが――カカシとリンが巻き込まれている、という続けざまの言葉を耳にした瞬間、考える前に体が動いた。

 行く手を塞いだ巨石をぶっ壊さんと殴りかかり、治癒して間もない不出来な腕が潰れようとも駆けつけて、命がけで助け出す。でなければ何が仲間だ? この『うちはオビト』を動かす原動力としては十分すぎた。

 

 外へと飛び出し、とにかく走った。半生状態から回復し切ったわけでもない、脆弱で情けない体を引きずり、汗が滴り落ちても、肉体が悲鳴を上げるのも構わず、二人の姿を一目でも確認するまで、脇目もふらずに走り続けた。

 やがて森を抜けた。到着するなり、疲労に痺れる重い足を止め、呼吸を落ち着かせる。そして顔を上げた。

 

(――…?)

 

 見知った姿があった。生きていた。無事だった。あの子は「居なかった」。

 あまりにも視界が歪んだので、今度こそ自分が死んだと思った。顔を上げたことを後悔さえした。これならいっそ敵の手にかかって死んだ方がよかった。

 何かがあの子を貫いている。不意に右目が熱を帯びた直後、意識が途絶えた。

 

 今夜は月が赤い。この目が赤いからかもしれない。

 髪から何かが滴り落ち、足元に波紋を作る。横たわる体を抱き上げた。

 とても軽い。重さなど感じようがない。温度が微かに残っている。

 ゆっくりと失われる。冷たく変わっていく。

 無心に、頭上へと手を伸ばしていた。こうすれば、空へと消え往く何かを、掴み取れると思った。

 

 酷い臭いの水溜まりに浸っているうちに、あれほど早鐘を打っていた心臓の鼓動が、ふと収まった。

 ぼやけていた視界が明瞭となる。一夜にして心を虚ろに蝕まれた“偽物”の自分は、“偽物”の少女を抱いたまま、ぽつりと呟いていた。

 

(もう一度、君の居た世界を創ろう)

 

 悲惨かどうかすら分からない、取るに足らない、ちっぽけな終わり。それを受け入れられず、ここが他でもない“地獄”だと――存在する価値のない、残す意味もない偽りの世界だと気づいた。

 心の底からくだらない結びを境に、この目に映る世界は変わり、ぽっかりと開いた穴を埋めようと、ひとつの渇望が心に蠢いた。

 誰一人、大切なものを失うことのない、夢の世界を。

 空を見上げるだけでよく解る。月の眼はこんなにも美しく見つめ返している。

 

 マダラの意志に導かれ、同じ名と存在を冠した仮面を手にして、この世界に『トビ』が生れ落ちた。

 赤き血の雨。弥彦率いる暁への接触に始まり、十数年もの長きに亘って闇の中を歩いた。

 虎視眈々と座する段階は過ぎた。今こそ目を開く時だ。

 

(この世界は――…終わらせる)

 

 互いの存亡を賭けた戦いの記憶は、早回しで脳裏を流れていく。十万もの白ゼツ軍団、穢土転生による死人の軍勢、長き眠りより目覚めた死神との邂逅を経て、創造と破壊を司りし六道へと辿り着いた。

 世の真理を解き明かした『六道仙人』。永久に滅びぬ力と意志、生と死の概念を踏み越えて行き来する外なる魂、絶対なる存在――その全てを同じくする超越者として悟りに至った。仙人が創造した世界は、失いたくない大切なものを人々から永遠に奪い去る、残酷さと理不尽に支配されていると。

 実に矮小で、存在価値も意味も内包しない、残すに値するモノが何一つない、あってはならない世界に過ぎなかったのだ。

 

 ならば創ろう。新たな世界を。人の死も因縁もわだかまりもない、皆が幸せに暮らせる“本当”の居場所を。

 終わらせるための力も、始めるための力も。この手にある。

 

 こっちへ来い――“オビト”!

 

 小さな二つの姿が立ち塞がり、捨て去ったはずの心を揺さぶる。すでに目の前まで迫っていた。

 疾うに忘れていたものだ。それを胸に抱いて月を仰いだ。己自身を今一度に戻すためのきっかけ――否、救いの手として、何もかもを失った者に差し伸べられた。

 友との再会を経て、想い人の死に隠された陰謀が明かされた。そしてこの時点で自身も、あのマダラでさえも、しょせんは黒い意志の傀儡として歩かされていたに過ぎなかった。

 後の、全ての元凶であり、忍達の運命を翻弄した者の策略と導きによって、隠然なるチャクラの始祖・大筒木カグヤは復活を果たした。

 

()()()必ず……火影になれ)

 

 幾度となく顔を合わせ、衝突した一人の忍、うずまきナルト。この意識が『骨』と成って還るまで、彼の目は真っ直ぐに此方を見ていた。

 やっと。去り際になってようやく、他でもない『うちはオビト』として、最後に言葉を交わすことができた。

 

 消えゆく中で思った。人生とは一本道ではない。選択肢の連続であると。

 いずれかの選択を違えば、かつて望んだ夢さえ否定してしまう。それは定めゆえに後戻りも許されない。道を踏み外した者とは違う世界を、里の未来を守る火影として、この少年には見守ってほしかった。

 もちろんあの男にも、だが――。

 

――…友として別れができる。オレにとってはそれだけでいい。

 

 奴はそう言って笑ったが、思ったことが一つだけあった。

 忍世界の終焉を望んだ者が口に出すのも、おかしな話ではあるが。偽りではない本当の世界で願わくば、『うちはオビト』として、この身を投げ打ってみたかった。守るべきもののために、大切な誰かのために。

 ある者が里と仲間のために自ら死を選び、ある者が命を賭けて世界を守らんとしたように。昔ならきっと同じことを。

 

 この世に未練はない。叶わずとも後悔はない。微睡に身を委ねても安らぎは消えない。

 そんなことを思ったところで――瞼の裏が真っ赤になった。

 

 

――◇◇◇

 

 

 どこかの山中、深緑に囲まれた獣道。

 絡み合う枝の隙間から差し込む光に照らされて、打ち捨てられたように樹の傍で大の字に横たわる姿を、薄手の羽を背に生やす小さな少女、もとい山に生息地を広げた妖精が一匹、好奇心に満ちた悪戯っぽい目で見下ろしていた。外来人なら幾度となく目にしたところ、どことなく奇妙なやつだったからだ。

 第一に、上半身を晒している。つまり半裸。第二に、若々しい容姿の割に、顔の右半分には捻じれたような、よく分からない老人のようなしわを刻んでいる。第三に、外来人が迷い込みやすい無縁塚や再思の道などの場所ではなく、妖怪の山の真っ只中で気を失っている。

 この世界に入り込んだ経緯も理由も知らない。そんなものは取るに足らない。この人物が『幻想郷』でも味わえない新たな刺激を、何か面白いものを見せてくれると期待して、小さな手の平でパチンパチンと乱暴に頬を叩き続けた。

 そして。

 

「やっと起きた。白髪の半裸人間さん、風邪引く前に食われちゃうぞー?」

 

 どこぞの巫女に言わせたら最悪の目覚め。男は薄目を開き、しばらくはぼんやりと黙り込んでいた。

 小うるさく何度も視界を遮ったり、明かしたりを無駄に繰り返す少女の作業を「体を起こす」という何気ない動作のみで中断させると、自分の膝辺りを眺めた。

 妖精は肩を揺すろうと試みるも、気づかせるにはサイズと存在感が小さすぎている。声を出すのが関の山である。

 

 外界より忘却の彼方へと追いやられし、物の怪達の楽園。

 この地に流れ着いた男の名は――うちはオビト。

 

「……?」

 

――目が覚めると友の姿はない。それどころかどう見ても、どう肌で感じても『あの世』ですらない。むしろ逆と言わざるを得ない。

 ここが紛れもない『現世』であると結論づけるのに時間はかからなかった。

 

「な――…なん、だ? コレは」

 

 自身の置かれた状況を受け入れたのだ。第一声など分かり切っている。

 

「あ、やっぱ外来人。ねね、ここがどこだかさ、教えてあげてもいいよ?」

 

 出来の悪い幼馴染に勉強を教えたがるお節介者のように、妖精は誇らしげに胸を張ってみせる。

 そんな中で無視を決め込まざるを得ず、自身の体の観察に徹するのは、ここがどこなのか――ではなく、ここにいる自分が本当にうちはオビトなのかを、何より先に確かめたかったから。おかげで少女の頬は膨らむことに。

 

(…………)

 

 いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ。この五つはひとまず置いておく。

 問題はどのように、である。試しにと傍に落ちていた石を拾って、尖った部分で二の腕を僅かに切ってみると、見慣れた赤い液体が溢れ出てきた。

 加えて痛みも感じるなら、なるほど、と納得できるだろう。

 

 死者を蘇らせる――初めに思い出すのは『穢土転生』の術。毛髪や血液など、生前の個人情報物質を一定量利用し、生きた他者の肉体を器として、死者の魂を浄土から穢土へと口寄せして蘇生させる禁術だ。

 しかしながら、出血した事実、鼓動する心臓を踏まえれば、穢土転生で蘇ったのではないと判る。生身の体を材料にはするが、形作られる体は塵芥製の紛い物だ。血液も臓器も存在しない。

 あるいは六道の『輪廻天生』の術か――と聞かれて、首を縦に振るには早すぎている。判り切っているのは、生きた体であること、以前と同じように『千手柱間』の体細胞が右半身を形成していること。

 

 ここまで把握できたら確かめるまでもない。が、現状を確実に掴むためにあえて目を見開き、掌から二の腕にかける『チャクラ』の流れを色で識別する。底を尽きかけたチャクラの状態と、両眼分の『写輪眼』の存在を確認した。

 期せずしてオビトは笑う。上忍祝いとして友へ贈った左眼は、死に際に右眼をおまけに付けて贈り返した両眼は、この生きた体に結局は戻った。贈り物とは名ばかりの期限付きの代物になったことは、浄土への旅立ちを決した時から分かっていた結末とはいえ、いざ生身の体を持って直に感じると、何とも妙な気分が芽生えた。

 

 少女がオビトの顔を覗き込む前に瞳術が解除される。複雑な気持ちになったオビトは頭上を、多層の枝で塞がった黒い天蓋を仰いだ。それから思い直したように、先ほどから頭部を好き勝手にポンポン叩きまくる、小さな悪戯好きの妖精に意識を向ける。

 延々と無視するわけにもいかない。この奇妙な少女には色々と聞きたいことがあった。

 

「わたしは妖精。見たら判りそうだけど」

 

 翡翠色のショートボブに明るい金色の瞳、水玉模様の薄いワンピース。幼い表情に勝気な笑いを貼りつけている。

 手の平サイズの少女は小さな胸に手を当て、太陽のような笑顔をオビトの無表情に向けた。

 

「……ヨウセイ?」

「そっ。よろしくね、鈍そうな人間」

「身なりも、名まで珍妙とは……」

「面と向かって失礼なやつね。いきなりだし。その名前がないのよ、わたしには。悪かったねっ!」

 

 ぷんぷんと憤りを見せる生き物は、初対面の相手にも距離を縮めて接する遠慮のなさ、裏表のない直情的な色、未熟な幼さを持っている。敵意や悪意は感じさせず、それらを探るのに瞳術を使うまでもない。

 オビトは細かいことを考えず、状況の把握を念頭に置くことに決めた。

 

「そうだな……聞きたいことがある。どうしてお前は羽など――じゃない、ここは、いったい――?」

「あははっ、混乱しすぎ! 人間って面白いねえ~。まあでも、事情くらい知っとかないと、かわいそうかな」

 

 妖精は楽しげに指を振る。反応を見るに余所者の相手は初めてではないのかと、オビトは情報が不足した現状で考えを巡らせる。

 嘘云々は置いても、口数が多くて話し慣れている(と思われる)分、聞き出すこと自体は意外と容易かもしれない。

 

「教えたげる! ここは『幻想郷』――正確には妖怪の山ってんだけど――アンタのいた世界とは別の世界? って感じ。つまりアンタは結界の外から、こっちに放り込まれたってことね。どんまいっ」

「ゲンソウ……結界?」

「えっとたしか、『博麗大結界』、だっけかな? それがアンタのいた外界と、ここを分けてるってわけよ」

「なにがなんだか分からん……」

「でしょうねー。その様子じゃあ、どうやって境界を越えたのかも、覚えてない感じ?」

 

 現状に困惑しつつもオビトには少女の思考が手に取れた。愉快げに笑う妖精としても、開口一番に「どうやって帰ればいいんだ!」というありがちで情けない返答を期待したところ、『結界』という外来人にしてはズレた着眼点に驚いた様子。

 

「……ここに入り込んで、倒れていた理由を訊いてるなら……たぶんな」

 

 今の今まで眠っていたのは間違いない。眠りは眠りでも永遠の眠りだ。ここが本当に現世のどこかだとして、何者かの手により命を吹き込まれて、生き返ったことになるのか。理由や経緯など教えてほしいくらいだ。

 不吉な前触れを思わせる。浄土に居たはずだった死者の魂を常世に戻してまで、名も顔も正体も知らぬ術者は何を望むのか。この幻想郷とやらで何が起きようとしているのか。どのような謀が張り巡らされているのか、と。

 

(なにが……)

 

 いずれにせよ、ろくな情報も持たぬままに走り回るのは賢明ではない。ひとまずは周辺を探るべきだろう。

 こういった時にこそ、探索や伝令、監視役で右に出る者はいなかった『ゼツ』が傍にいたら便利だが、今はもう昔の話である。

 

――偽りの面を被り、トビやマダラを名乗っていた過去。

 世界の不条理に絶望して、故郷の里を捨て去り、紆余曲折を経て最後の最後に決別した『うちはマダラ』の影響を色濃く残したことで、皮肉にも浅はかで突発的な行動を御せる人間には育っていたが、まさかこんな形で役立つとは思いもしない。うちはオビトとしての自身を戻したところで、マダラとして生きた期間が長すぎたせいか、あの男寄りの思考や感覚がへばりついている。

 右も左も敵味方も分からない迷い人とはいえ、こんな小さな幼子と真面目に話している。今の自分を客観的に見ると違和感を覚えた。トビやマダラとして残留するモノが多いのだ。ほとんど全てを占めていると言われても、はっきりと首を横に振れない。

 

 妖精が口にした博麗大結界なる言葉を思い返す。忍世界と見覚えのない土地、外の世界とやらとを囲むのは、現存する知識から導き出すなら通常、何らかの物理的な障壁と思われる。

 四紫炎陣、四赤陽陣、六赤陽陣、そしてうちは火炎陣。大抵の結界忍術なら知り尽くしているが、博麗という名の結界術など――オビトやマダラとして得た知識にも該当する物はない。名も知らぬ小国や里に暮らす、特別な忍の一族にのみ伝わる門外不出の秘伝忍術である可能性もゼロではない。あるいは本当の意味での『別世界』なら、忍界には存在しない未知なる術とでも言うべきか。

 

「ねえ、聞いてるの? ねー人間?」

「オビトだ」

 

 無情なる分厚い面を脱ぎ捨てた――否、叩き壊された今となっては、以前に偽っていた名を口にする必要はない。取り戻した本当の名を隠す必要もない。

 やり取りはさらっと行われたが、初対面の相手に『オビト』と名乗るのは、思い返すと十数年ぶりとなる。

 

「気づいたらここに……もう一つ訊くが、お前の言う大結界とやら。そいつを踏み越える手段はあるか?」

 

 外来人らしい純粋な疑問をぶつけてみると、妖精は「とんでもない」と言いたげな顔で大げさに笑う。

 

「そんなのスキマ妖怪でもなきゃ無理無理! どんな能力だって無駄無駄! 人間なんかじゃ、いくら奔走したってゼッタイ戻れないよーだ。どうしても帰りたいんなら、あの暴力巫女にでも頼るしかないねえ」

「巫女?」

「幻想郷の端の端っこにでかい神社があるんだ。そこで巫女やってる人間の子供」

「ならそいつか」オビトは立ち上がった。「……ひとまずの目的だ。礼を言う。お前に支払う対価だが、後々――」

「対価?」

 

 今度は妖精が疑問を投げる番だった。きょとんとした表情で。

 もたらされた情報は単純明快、妖精にとって手間暇はない一方、右も左も何も分からぬ余所者には大きな前進だ。ゆえに見返りを渡すほどに貴重な情報と見なせる。

 目覚めたばかりのオビトにとって、映した景色も記憶にある景色も、まだこの『森』以外に存在しないのだ。

 

「え……そんなん言っちゃっていいの? 妖精なのに?」

「有用な情報だ。相手や状況にもよるがな」

 

 突然すぎる返答に少女は度肝を抜かしてしまう。オビトは真面目な表情を変えようとしない。

 相手の強弱を見た目だけで判断するのは愚か。万一のために用心はしていたが、この手の幼子に写輪眼による幻術を行使する手間は省けたようだ。気が乗らない上、他人に真実を吐かせる幻術にチャクラを割く余裕も今はない。余計な消費をせず穏便に済むならそれに越したことはない。見知らぬ土地なら尚更に後先考えて動くべきだ。

 右半身に柱間細胞が植わる以上、チャクラの回復速度も保有量も並の忍を遥かに上回る。それでもゼロに等しいほどチャクラが失われている現状、名無しの妖精でも怪物が相手でも、親切心には感謝しなければならない。忍としても、うちはオビトという一人の人間としても。小難しい考えは不要だ。

 こういった機会が普段はないためか、妖精には思いもよらぬ言葉だったようで、強気だった態度を一変させてあたふたと戸惑っている。

 

「え、え。えっと、じゃあ、わたしのね――」

 

 妖精の少女が何を望んだのかは判らず仕舞いだった。生い茂った草葉を掻き分けて、数人の『天狗』が周辺一帯を包囲したからだ。危険な輝きを帯びる目に怯えたのか、妖精はオビトの肩に隠れる。

 彼女達は厳格で排他的らしい。鋭い目に敵意を宿した犬耳の少女を筆頭に次々と大刀を抜き、間髪容れず一斉に斬りかかった。

 

「話もなしか。仕方ない」

 

 黒かった瞳が突如として赤く染まり、両目に三つの勾玉紋様が浮かび上がった。

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